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昔話 その1



「お前ら!!良いか!?今月のノルマはこれだ!!」



 統括マネージャーのトラッジは大量の剣や盾をズラリと床に並べる。

 しかし、それらの数々の量よりも、俺達の目を引いたのは…



「おいおい…精霊の鎧もあんのか」

「上位の冒険者を引っかけないと、売れねぇぞ」

「おい…アテ…あるか?」


「俺はもうねぇよ」

「俺もだ」

「こりゃ、小一時間は詰められるな」

「ま、頑張ろうぜ」



 トラッジが並べた品を前に、武具ギルドの面々はコソコソと不安を漏らす。


 数も数だが、高級品の精霊の鎧が本日のノルマとして課せられており、それを捌くことは至難のワザである。精霊の鎧はかなり高く、性能は良いのだが、上位の冒険者でもなければ買うことはできない品物だ。その金額は、王国や帝国の首都の一等地に家を建てられるぐらいの価格だ。


 とはいえ、一店舗で販売するのではなく、グループで販売できれば良いため、皆が皆、どこか他人事であった。誰かがどこかで販売してくれるだろうと。そして、仮に売れなくとも、連帯責任となるため、特定の誰かが怒られるということもない。




 だからこそ、俺はチャンスだと思った。



「よし…売ってやるぞ」



 俺はグッと拳に気合を込めて握る。

 そんな俺を見て、ゼルが俺の腹を肘で突く。



「おうおう!やけに張り切ってんじゃねぇか!?おう?」

「ああ、今期の売上で上位に食い込めば、俺、正式なギルドメンバーになれるからな」



 俺はインターンという扱いで武具ギルドに雇ってもらうことができた。タレントなしだから、いきなり正式なギルドメンバーとして迎えてもらうことは困難だ。だからこそ、今が定職に就けるチャンスなのである。




「すげぇ気合いだな!俺も負けてられねぇぜ」



 ゼルは素直に感心したような表情を俺に見せた。

 俺みたいな奴を相手に、こんな表情をしてくれるのはゼルぐらいなものだ。



「ああ…頑張ろうな」

「おう!」









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「クラッドさんとゼルさん、元同僚だったんですね」

「ああ…」



 俺はライトとチェルシーに尋ねられて、ゼルとの昔話をしていた。

 肝心のゼルは、スヤスヤと寝息を立てており、出発の時間にならないと起きないだろう。



「ゼルさん、その、仕事ぶりは…どんな感じだったんですか?」

「ん?」


 チェルシーは怪訝そうに尋ねてくる。

 何となく、その表情の理由は察する。



「…こいつは、こんな感じだけどな、男気のあるやつなんだよ。粗暴だけどな、親身さみたいのはあったから、意外と客からの評判は良かった。裏表もない奴だから、信頼もあったかな」

「そうなんですね…」


「ああ、ダメな商品をクソとかゴミとか言って、上司に怒られて、その上司とよくケンカしてたけどな。客相手には良かったんだろう。こいつが素直に良いって言う商品は、確かにモノは良かったからな。客からすれば信頼できるヤツだったと思う」



 俺は笑いながら言うと、ライトとチェルシーがどこか感心したように寝ているゼルを見ていた。



「…こいつには何度も助けられた。こいつがいなかったら、俺は、途中で挫けていたかもしれない」


「クラッドさんが?」

「ああ…」







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「あの!!少しお時間をいただけませんか!?」



 俺はイオタギルドの裏口からノックする。

 表は依頼者などお客さんが出入りするため、俺達のようなギルドは裏口から訪れるのが常識であった。



「はい…どうされました?」


 扉の奥から女性の声が響く。



「お忙しいところ申し訳ありません!御ギルドに武具の紹介でやってまいりました!」

「間に合ってます」


「そう仰らず!まずは3分!見るだけでも!」

「…」


「あのー!?」

「…」



 扉の奥に何度も呼びかけるが返事はない。

 これはダメなパターンだ。




「ダメか」



 俺はその場を離れて、別の冒険者ギルドへ行こうと大通りに差し掛かる。すると、ちょうど目の前には同じ武具ギルドの連中が通っていくのが見えた。どうやら昼休憩にしているようだ。


 そういえば、俺も少し腹が減ったな。朝から動きっぱなしだし、英気を養った方が良いだろう。



 そう思って、俺も昼飯にしようと通りに出て、通り沿いにある屋台を物色しようと歩いていると



「ん?」



 俺は屋台の一つで肉を食べている同じギルドの連中に気付く。


 さっき通りかかった連中だ。

 親交を深めるため、昼食を共にするのも良いかもしれない。


 そう思って近づくと…




「なぁ…クラッドのヤツ、本気で正式なギルドメンバーになれると思ってんのかな?」


「あはははは!!そうじゃね?」

「ああ、めっちゃ必死だしな…」


「あいつ、タレントねぇんだろ?」

「マジでないらしいぞ!俺も最初に聞いた時はビビったぜ!」

「しかも、ライセンスも桁違いのポイントが必要らしいぜ」


「うわ!かわいそ」



「思ってねぇだろ!笑ってんじゃん」

「くははは…だってよ、あいつ、ウザくね?必死すぎんだろ」

「こっちはいい迷惑だっつーの!」


「な!あいつのせいで、トラッジがノルマ上げてくんだぜ…勘弁してくれよって話だよな」



「いくら頑張っても、トラッジがあいつを正式なギルドメンバーにするつもりないのによ」


「それな…いい加減に気付けって話だよな」





「…」



 俺はそのまま大通りを進んでいくことにした。

 笑われても、嫌われても、それでも、俺はやるしかない。


 そうしなければ生きていけない。

 どう思われても、やることは変わらない。




「…よし!売るぞ!」






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