ゼル
「あん?お前、才能なしじゃねぇか?」
こいつはゼル
俺の元同僚であり、今は冒険者をやっている。
緑色の髪をツンツンに生やし、細身ながらも筋肉はしっかりと付いており、背中にある自分の背丈と同じ斧をブンブンと振り回すのが特技だ。
もともと、接客なんてガラじゃない奴だ。
戦闘系のライセンスをパっと取得して、こうして冒険者としての生活をスタートさせている。
そして、成果は出ているようであり、今ではC級の冒険者として活躍している。そこまでのランクになれれば、冒険者で食っていくことはできるだろう。
「おう、元気にしてるか?」
「ああ、ぼちぼちだぜ」
俺はゼルの前に座る。
ここは酒場であり、フリーの冒険者はここで依頼を直に受けることが多い。
つまり、俺がこいつの目の前に座ったということは…
「あん?お前が俺に依頼か?」
「ああ、護衛を頼みたい」
「かっかっか!お前が!?俺に!?かっかっか!」
「何だよ?依頼者を差別する気か?」
「いんや…で、具体的に何をすんだ?」
「子供2人と俺がアルファギルドでインターンを受けた。依頼内容は未定だが、3日ぐらいで終わるものを選びたい」
「…なるほどな。で、そのガキは見込みでもあんのか?」
俺にタレントがないことを知っているのか、ゼルはライトとチェルシーに見込みがあるかしか聞かないようだ。
「ああ」
「どんなタレントだ?」
「まだ開花してない」
「あん?まるで開花するタレントが分かっているみたいな言い方だなぁ?」
「ま、企業秘密だが、2人とも才能はある」
「へぇ…」
「で、どうする?」
「断る!」
そう来ると思ったから、俺はドンっと机の上に金の入った袋を置く。
10万ゴールドは入っているのだが、紹介料で大きく元が取れることを考えれば、これぐらいは先行投資だ。
「これでも?」
「ぜひ!やらせてください!クラッド様!」
ゼルは目を¥マークに変えながら、机をドンっと叩き、前のめりに立ち上がる。
金は剣より強しってか。
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「なんでぇ…もっと金になる依頼を受けりゃいいのに」
ゼルは俺が受けてきた依頼にいちゃもんを付けてくる。
ま、当然だ。
他の冒険者から因縁をつけられないように、あえて人気のない依頼を選んできた。誰も受けずに残ったままの依頼は、ベグマギルドが空いている冒険者を指名して受けさせることがあるから、残飯処理する奴らを煙たがるやつは流石にいないだろう。
そんな依頼をわざわざ受けてきたのだから、ゼルからすれば不思議がるのは当然だな。
普通は、金がほしくて依頼を受けるのだから。
「どんな依頼なんですか?」
ライトが俺に尋ねてくると、俺は説明しながら、依頼書を彼へ見せる。
「ベグマから北に12時間ほど行ったところの山間にある農村、そこがコボルトの被害を受けていて、農作物がかなりやられているらしい」
「報酬はなんと…採れたての野菜だとよ…かっかっか!!」
貧しい農村ではお金ではなく物が報酬であることも多い。
正直、今回は報酬目当てではないため、野菜でも何でも良かった。相手もコボルトと丁度いいしな。ゴブリンの方がコボルトよりも戦闘力は低いのだが、奴らは知能がある分、コボルトの方が危険性は低いと判断した。
「コボルト…」
「大丈夫…ですか?」
ライトとチェルシーが不安そうな表情を浮かべる。彼らは報酬よりも、依頼内容で頭がいっぱいな様子だ。しかし、その不安そうな2人の様子を侮辱と捉えたのかゼルが怒号をまき散らす。
「馬鹿にしてんのか!?ああん!?」
「ひぃ!」
「おい、やめろ、ゼル」
「…俺にゃ、コボルトを根絶やしにするぐらい、朝飯前だぜ…お前らの面倒を見ていたとしてもな」
ゼルはニカっと笑いながら自分の胸をドンっと拳で叩く。
そして
「だから、大船に乗ったつもりでいやがれ!」
「は、はい…」
「ライト、チェルシー、こいつはこれでもC級だから、不安がらなくても大丈夫」
「おう、それじゃ、すぐに出発しようぜ!」
ゼルに続いてライトとチェルシーがミンクフィールドを進み始める。
そんな彼らの背中を見ながら、俺にスターが話しかけてくる。
「ね…本当に大丈夫かしら?」
「ああ、ゼルはこんな感じだけど、口だけは固い」
「そう…」
「どうした?」
「ねぇ、あなたの周りって、こんな怪物ばかりなのかしら?」
「…もしかして、ゼルもとんでもないタレントが開花するのか?」
「ええ、このままいけば、斧術適性LV5、狂戦士LV5、無慈悲が最終的に開花するわね」
「3つも!?凄すぎて、逆に凄さが掴めない…」
「聖女ミシェルと同じぐらいと言えばわかりやすいかしら?」
「どれも聖女っぽいタレントじゃないけどな…」
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ミンクフィールドに終わりが見えてきた頃、これから山道を進むため、開けた場所で休憩をすることになった。まだ日は出ているのだが、山から吹く風が肌寒いため、こうして4人で焚き木を囲っている。
「でも、何で戦闘系のタレントがないと、ライセンスやしっかりとしたクラスがあっても雇ってくれないギルドがあるんですか?」
「ああ、そりゃ、大体の冒険者ギルドってのはよぉ、裏に御三家がいるからだよ」
「御三家?」
「おう、アルメリア家以外の2つの家は、ブログ教かデバク教の信者だ。つまり、宗教絡みだよ」
まだ子供なライトとチェルシーは、ゼルの説明にキョトンと首を傾げていた。
そして、チェルシーが焚き木に薪をくべているゼルへ問いかける。
「…ブログ教やデバク教の信者だと、戦闘系のタレントのない冒険者は認めてくれないんですか?」
「ああ、連中の主張だとよ、タレントってのはよ、神が人間に授けたもんだ。そういうもんだ。だからな、神が人間にこれやってくれ!って授けたもんを無視して、違うことやろうとするのが気に入らねぇってことだよ」
「…そういうことなんですね」
「だから、クラッドさんは私達にインターンが通ったことに驚いていたんですね」
「…それがおかしいんだがな」
「え?」
「そもそもよぉ、アルファギルドのバックがアルメリア家だと知っていたから、あそこにインターンを申し込んだんだろ?驚くってのが腑に落ちねぇ」
「いや、適当に選んだ。あそこに申し込んだのは最大手だからだよ」
「…ふーん」
ゼルは疑い深い眼差しで俺を見つめてくる。
俺は苦笑いで誤魔化しておく。
「それじゃ、剣術適性がある人は剣士、値引交渉力がある人は商人をやってほしいって、神様が思っているってことですか?」
ライトは興味津々な様子でゼルに尋ねてくる。
すっかり、ゼルにも懐いてくれたようで良かった。こいつの品行方正に問題はあるが、根っこは悪いやつじゃないから、すぐにライトも懐くとは思っていた。
「ん?ああ、ブログ教やデバク教の連中の話じゃそうだな」
「なるほど…それで、戦闘系のタレントがない人が冒険者になるのを拒むんですね…」
「おう、で、ブログ教の話が正しければ、神はクラッドに何もしてほしくないからよぉ、こいつに大人しくしててくれやって、タレントを授けなかったってことになるな!かっかっか!!」
前言撤回だ。
根っこまでくそ野郎だ。
「すごいです!クラッドさん!!神が何もしてほしくないほどの力を、実は持っている人だってことですね!」
ライトがキラキラとした目で俺を見つめてくる。
どう解釈すれば、同じ言葉でもそう捉えられるのか…
俺への尊敬度がやばいことになってるだろ。




