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2人の意志



「彼女のお母さんの様子は?」



 俺はテントから出てきたライトへそう尋ねると、彼は目に大粒の涙を浮かべ、そして俺に頭を深々と下げる。



「ありがとうございました!」

「そうか、良かったな」


「はい!クラッドさんには何とお礼を言っていいのか…うぅ」


 ライトは涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった顔を両手で何度も拭う。

 そんな彼の様子が落ち着くまで俺はゆっくりと待つことにした。


 やがて…


「すいません…もう大丈夫です」

「そうか」


「はい…あ、良かったら中へどうぞ」

「あ、ああ」



 外では何だからと俺はテントの中へと招かれる。

 中には、ピンク色のかわいらしい女の子がおり、俺のことに気付くと深々と頭を下げる。


 そして、彼女の奥には、すやすやと寝ている女性がいた。

 やせ細ってはいるが、肌艶は良く、無事に回復してきているようだ。



「ありがとうございます!」



 チェルシーという名の女の子は、俺にそう言いながらニコリと笑う。

 そんな彼女の笑顔を頷いて応えていると、スターが何やら耳元で囁いてくる。



「…あのチェルシーという女の子も、すごいタレントを開花させるわ」

「え?」

「総合魔法検定が取得できれば、火属性適性、風属性適性が開花するわね。彼女もセカンドステージにいきなり就けるわ」

「…わかった。一緒に聞いてみるよ」





「…ライト、それにチェルシー、単刀直入に聞くが、いいか?」

「は、はい?」

「な、なんでしょう?」



 俺がそう切り出すと、俺のあらたまった様子に2人は緊張した面持ちを見せた。

 いろいろと交渉しようと考えていたが、何だか子供を言いくるめるみたいで良くない気がするから、ここはストレートに聞いてみようと思う。



「お前ら、冒険者になってみる気はないか?」

「え?ぼ、僕達がですか?」

「それは…突然ですね」



 ライトはそわそわしており、チェルシーは怪訝な顔をしていた。

 どうやら、チェルシーからの印象は悪くしてしまったみたいだ。



「ああ、俺が見たところ…お前らに見込みはありそうなんだ」


「…クラッドさん、生憎ですが、僕に戦闘系のタレントはありませんよ?」

「はい、私もです」


「話がいきなりすぎたな…そうだな…冒険者をやることが嫌ではないよな?」



「ええ、それは…」


 ライトは素直に頷くが、チェルシーは黙ったままだった。



「チェルシー?」

「…どうして、そんなことを聞くんですか?」

「それは僕達に見込みがありそうだから」

「ライトは黙ってて」


「…」


「クラッドさん、お母さんを助けてくれたことには感謝します…でも、正直に話します。クラッドさんがどうしてお母さんを助けてくれたのか…私には分からなくて、それが不安です」


「あ、う…うん…そうだよな」



 俺はポリポリと頭を掻く。

 そりゃ、俺もチェルシーと同じ立場だったら不安になるよな。



「まず、お前らを助けたいと思ったのは、ただの意地だ。これでも大人だからな、子供を見捨てられない」


「…」


「だから、俺の自己満足だ。恩に着る必要もない」

「…」



 俺がそう話すと、ライトは再び涙目になっている。

 しかし、対照的に、チェルシーの怪訝な顔はますます深まっていく。



「余計に怪しませたかな?」

「…私たちに冒険者を勧める理由は何ですか?」


「冒険者になれれば、生活に苦労しなくて済むだろ?」

「…そこまでクラッドさんが私達の面倒を見ようとする理由は何ですか?正直…そこが分からないので、不安があります」


「…才能のあるヤツを冒険者ギルドへ紹介すると、紹介料が貰えるからだ」



 俺は素直に話すことにした。

 その方が信頼してもらえそうだ。そんな気がする。



「…私達に戦闘系のタレントはありません」

「今はなくても、すぐに開花する」


「どうして言い切れるんですか?」

「企業秘密ってやつだ。すまないな」



 俺がニカっと笑いながらそう告げると、チェルシーは少し考え込むようにして黙り込む。

 話せないことは話せないと告げることが不義理ではないからな。


 それに、考え込んでくれたということは、少しは信頼してくれたのだろうか…



 

「…チェルシー、僕はクラッドさんを信じてみるよ!」

「ライト、あんたは…」



 そんなチェルシーに、ライトは純真無垢な様子でそう告げる。

 気づけば、俺、ライトからかなり懐かれてしまったようだ。



「それに、クラッドさんが得するなら、僕、何でもやりたい!」

「…」



 泣かせること言いやがって…

 大丈夫だ!お前の成功はウチのとんでもない猫が保証しているからな!




「…チェルシー、無理強いはしないぞ」



 俺がそう言うと、チェルシーはゆっくりと言葉を紡ぎ始める。



「もし、冒険者としての才覚がやっぱりなかったとなっても、怒ったり、恨んだり、そういうことはしませんか?」

「もちろんだ。俺が2人に求めるのは、冒険者を志す意思があるかどうか、それを正直に話してほしい。それだけだ」


「…私はお母さんを安心させて暮らしたい…だから、もし、私に冒険者としての才能が本当にあるのなら、ぜひやってみたいです」


「よし!決まりだな!」





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