次の次の次の作戦!
ライトは貧民街の一角で立ち止まる。
彼の視線の先には、かなりボロボロなテントがあり、その家主がちょうど帰宅してきたところである。
その家主の名前はクラッドだ。
彼は肩に高そうな猫を乗せており、仕事をクビになった割に、羽振りがよさそうなのである。噂によると薬草を捌いて儲けているとのことだ。
「…クラッドさんから薬草を奪えれば…チェルシーのお母さんを助けられるかもしれない」
ライトはグッと拳を握りしめると、目を瞑る。
「…お父さん、お母さん…ごめんなさい…僕…犯罪に手を染めます…」
ライトは覚悟を決めると、クラッドの住むテントへ小さなナイフを構えながら飛び込んでいく。
テントの入り口を勢いよく開くと、目の前には着替えている途中のクラッドがいた。
「おわ!?」
驚いた顔をしているスキに、僕はテントの中を見渡す。
薬草らしきものは見当たらないため、当の本人に尋ねることにする。
「や、や、薬草!!よ、よこ、寄越せ!!」
「な、なんだ!?」
パンツ一丁で\(×o×)/をしているクラッドさんへ、僕はナイフを向けながら叫ぶ。
「命が惜しければばば!!や、薬草!薬草だ!!」
「薬草なんてないぞ!もう売り払った!」
「な、なんだと!?」
僕はクラッドさんの言葉を受けて、部屋を見渡すが、部屋の中には簡単な家具と猫と奴が脱いだ服ぐらいしか見当たらない。なぜか猫が目を手で覆っているのが気になったけど。
「…なぁ、落ち着けって」
「お、落ち着いてなんていられるか!!」
クラッドさんが少しずつ僕に歩み寄ってくる。
近寄るなと僕はナイフを振るうと…
「お前みたいなガキが、こんな真似しちゃダメだ」
「…っ!」
その振るった腕が簡単に掴まれてしまう。
「ぐ…くそ」
子供の力では大人には敵わない。
タレントがないらしいクラッドさんが相手でも、僕は敵わないようだ。
「大人しくしろ!」
「放してくれ!!」
「お前…お父さんかお母さんは?」
「もう死んだ!!お前ら大人が殺したんだ!!」
「…そうか」
「放せ!!放してくれ!」
「そういうわけにもいかない。せめて事情ぐらいは聞かせてくれ」
「事情なんか聞いてどうする!?」
「お前を助けたい」
「あんたに何ができるんだよ!!」
「…子供をただ見捨てるなんて真似、俺が落ちぶれているとはいえ、流石にさせないでほしい。これは俺からのお願いだ。お前を助けさせてくれ」
「っ!」
僕は返す言葉がなくなり、掴まれている腕も振りほどこうとするのをやめる。
この人を侮っていたことを少し反省していた。その辺の連中よりも、よっぽどいい人だった。
「…ごめんなさい」
「気にするな」
僕は、スッと謝罪が口から出てくる。
それを聞いたクラッドさんはニコリと笑うと、僕の腕を放す。
「で、どうしたんだ?」
「…僕の友達のお母さんが死にそうなんです…病気で…」
「そうか…友達の大切な人を助けるために、よく行動できたな」
クラッドさんはそう言いながら僕の頭に優しく手を乗せる。
「…っ」
「だが、手段を間違えちゃダメだ。どれだけ目的が正しくても、手段を間違えれば取り返しのつかないことになる。目的も手段も、どちらも大事だ。順序はあるけど優先順位などない」
「それでも…僕は…」
「お前がやるべき手段は、素直に大人へ助けを求めることだった」
「え?」
「…薬草はないけど、金ならあるから、買ってくるよ」
「待ってください!そんなわけにはいきません!」
「遠慮するな…ま、出世払いだと思ってくれ」
「出世払い?」
「ああ、ちゃんと大人になった時、返してくれればいいさ」
「…うぅ…うぅ…」
僕は涙が溢れて止まらない。
立っていられないほどの激情が体を突き抜けていき、その場で崩れ落ちるようにしゃがみ込む。
「うぅ…ごめんなさい!ごめんなさい!必ず返します!!必ず!」
「…そう背負うなって…はははは…それじゃ、行ってくるから、少しここで待ってろ」
クラッドさんはそう言いながらテントを出ていくと、白銀の猫がその後を追う。
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「…お前、本気で言っているのか?」
俺はスターへ詰め寄る。
彼女は、ライトを冒険者にさせれば、冒険者から感謝され、紹介料までもらえて一石二鳥だと言うのだ。
「ええ、開花していないタレントも、私は見られるのよ。彼は簡単なライセンスさえ取得できれば、剣術適性と魔法適性が共に開花するわ。いきなりセカンドステージの『魔法剣士』のクラスに就けるわね」
「…そういうことじゃない!」
いや、そういうことじゃないと流せる話じゃない。こいつの鑑定スキル(仮)は相変わらずとんでもねぇな!開花する前のタレントまで分かるってヤベェぞ。それに、ライトは羨ましくなるような才能を持ってんだなぁ…
待て待て!
要点はそこじゃない。
「子供を出汁にするみたいで、方法が気に入らない!」
「クラッド…まずは、本人の意思を尊重するべきね。私も無理強いするつもりはないわよ」
「…」
「そうでしょ?本人が冒険者になりたいのか、やりたくないのか、それが重要でしょ」
「そりゃ、そうだけど」
「本人が冒険者になりたいのなら、そのサポートをすること自体、問題はないわよね?」
「ああ、まぁ、そうだな」
「で、本人がやりたくないのなら、この話は白紙よ」
「ああ、当然だ」
「で、仮に、ライト君が冒険者になりたいとすれば、そのサポートを大人としてやってあげて、冒険者ギルドに優秀な人材を紹介して、冒険者ギルドから紹介料を貰う。ここに彼を出汁にするような要素はあるかしら?」
「…き、気持ちの問題だ!」
「じゃ、無料で冒険者に優秀な人材を紹介するの?」
「…それは嫌だ。あいつら嫌い」
「でしょ?」
「わかった!まずは薬草を買って、あの子の友達のお母さんを治して、それで、あいつと今後の話をする!」
「ええ、それで、本人が冒険者をやりないなら、いいわね?」
「ああ、お前の言う通りだ。本人にやる気があるならば、ちゃんとサポートして、冒険者ギルドへ紹介して、それで冒険者ギルドから紹介料をしっかりと貰う!これで誰も損しないな!」
「それじゃ、さっさと薬草を買って帰りましょう」
「おう!」




