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不穏なる冒険者


 

 スターの鑑定スキル(仮)を巧みに使って、俺とスターは占いを始めていた。


 まだまだ開花していないタレントを持っている人に、それらしいアドバイスをすることで、成功する人がちらほらと出てきた。その噂が広がったのか、その日暮らしには困らないぐらいお客さんが来てくれる。




 はずだったのだが…



 


「…ふぅ、急にお客さんが来なくなったな」



 へスパギルドへ未払残業代を請求してから数週間後のある日、繁盛し始めていた占いだったが、今日はテントの前に誰も姿を見せていない。


 路地裏の隅っこに建てたテントの前で、俺は意味のない水晶を見つめながら、そうぼやいていると




「…冒険者に目をつけられたわね」

「ん?冒険者?」



「ええ、ほら」



 スターは顎をクイっとする。

 その指し示した方向へ視線を向けると、建物の陰から俺の方を睨んでいる冒険者が数人いた。



「…あいつらは?」


 まったく面識のない連中だ。

 しかし、俺のことをギロリと睨んでいることから、向こうは俺に因縁がありそうだ。



「デルタギルドの連中ね。冒険者ギルドよ」



 スターは彼らの服装から察したのか、はたまた鑑定スキル(仮)で判断したのか断定的なことを言う。

 しかし、デルタギルドと聞いて、俺には恨まれる心当たりに見当がつき始める。



「デルタ?ああ…ヘスパギルドにも鉱石なんかを卸してくれてたな。てか、そもそも、ヘスパギルドの親ギルドだったような気もする」


「デルタギルドはかなりの大手ね。物流ギルドなのだけど…段々と事情が見えてきたわね」

「…トラッジの手先か?」


「子ギルドの代わりに親ギルドが出てきた…とは考え難いわね。ああして営業妨害するぐらいなら、素直に話し合いの場を設けた方がはるかに建設的でしょうし、別件だと思うわ」

「別件か…占いのことかな?」


「占いでデルタギルドの恨みを買うなんてこと、あるかしら?」

「うーん…ガルダクルの件を考えると、法改正のような真似をしてきそうだぞ?」


「いいえ、それは難しいわ。そもそも、占いに直接関係のあるタレントやライセンスがこの世に存在しないからこそ、占いで稼げていたのよ」



 この世界はタレントやライセンスに厳しい。極論、剣術適性や検定のない人間が、剣を持って戦うこと自体を違法にすべきだという意見が一定の支持を得てしまうぐらいだ。


 タレントやライセンスは神が人間に与えた役割を果たすための力であればこそ、己が望まれていない役割を担うべきではないという教義が背景にある。


 だが、その行いに適したライセンスやタレントが存在しないのであれば、その考え方からは外れるようになる。法に触れなければ文句は言われない。




「そういえば、そうだったな…うーん…」



「…もしかすると、高薬草の件かもしれないわね」

「値段が下落したから俺に怒っているってことか?」

「ええ」


 デルタギルドは裏と表があると言われているギルドだ。

 表はベグマの物流を担う重要なギルドなのだが、裏ではあこぎなことをやっており、高薬草の価格操作のようなこともその一環だったのかもしれない。証拠はないから言い掛かりに近いけれど、直感ではそう思う。




「…なるほどな。やられたのはこっちだと言ってやりたいが、あいつらと喧嘩したところで俺にメリットはないな」


「冷静ね」

「そりゃ、歳が歳だしな、勝手に落ち着きなんてものは出てくるさ」



 俺は、自分を睨んでくるデルタギルドの連中に、軽く頭を下げる。

 すると、連中は少し驚いた顔をして、次に怪訝な顔を見せると、スッとどこかへ去っていく。


 俺が悪いと思っていると勘違いしてくれると嬉しいな。事情が事情なだけに、直に謝罪を述べるのは逆効果だろうが、敵対する意思がないことは示しておかないと面倒なことになりそうだ。そもそも、高薬草やガルダクルの件かどうかも怪しい。




「…冒険者に睨まれない方法を考えないといけないわね」

「そうだな…できれば、冒険者が喜んでくれるような方法だと、ちゃちゃが入らなくなるし、わだかまりもなくなりそうなんだが」


「そうね…」





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 冒険都市ベグマの貧民街

 ボロボロのテントが並ぶスラムの一角には、少年と少女がいた。



「…チェルシー」



 茶髪の少年は、幼馴染であるピンク色の髪を腰まで伸ばした女の子の肩に手を置く。


 その女の子の前には、藁の上に寝ている女性がいた。まるでミイラみたいにやせ細っており、顔色は紫色に変色している。



 これは流行病であり、適切な治療を受けなければ死に至る病である。とはいえ、薬草や治療魔法で簡単に治る病でもあった。


 しかし、薬草も買えず、治療魔法も使えない、使ってもらえない人間には、死を待つしかない病気であった。



「…っ」

「お母さん!」



 苦悶の表情を浮かべる伏せっている女性

 その女性の手をやさしく握りしめるのはチェルシーと呼ばれた女の子だ。


 彼女は、自身の母の顔をやさしく見つめながら、可愛らしい口を微かに開く。




「ライト…お母さんは…もう…」


 チェルシーと呼ばれた女の子は、目に大粒の涙を浮かべて、そうライトへ告げる。

 女の子の悲痛な叫びを受けて、ライトはグッと拳を握りしめる。


 薬草すら買えない無力な自分を呪うように、彼は拳から血が出るほど、それほど強く拳を握りしめていた。




「…僕にお金があれば…力があれば…」


 ライトはそう悔しそうに呟くと、急にハッとした表情を見せる。



 そして…



「ライト!?」

「チェルシー!待ってて!必ず僕がなんとかするから!!」



 そう言ってライトと呼ばれた少年は覚悟を決めた様子でテントを飛び出し、貧民街を駆け抜けていく。




「確か…クラッドさんの家は…あの辺りだったよね」




 行く先で、自分の人生を大きく変えてくれる人物が待っているとは、この時の彼は想像もしなかっただろう。



 そして、後に『魔導剣神』と呼ばれる英雄の少年時代が、こうして幕を開ける。




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