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次の次の作戦!



「はぁ…」



 俺はため息を吐きながら、ベグマギルドの庁舎から出てくる。

 そして、ふり返り、3日間お世話になった庁舎の建物を見上げる。


 冒険都市ベグマはテントや土が盛り上がっただけの建物が多い中、この建物だけは石材で建てられており、透明な窓ガラスまで備わっている。しかし、逆に、そのしっかりとした造りであることが冒険都市ベグマの景観を損ねる建物と言われる原因であり、ベグマの住民からは非難の的になることもある建物だ。


 冒険都市ベグマは、その名の通り冒険者の街として成り立っており、上位の冒険者も大勢いる。彼らが住まいとしている家は、テントや土を盛り上げただけの建物であることが多く、金持ちのくせにそんな家に住んでいるのは、しっかりとした建物が流浪の象徴たる冒険者のイメージに相応しくないからだそうだ。そういった背景もあり、ベグマギルドの庁舎がしっかりとした建物であることを不満に思う連中は多いのだろう。



 ま、そんな余談は置いておいて、俺は無事に釈放された。


 初犯であり、法改正された直後で知らなかったということも認められ、注意だけで済んだ。抵抗せずに、素直に連行されたことが幸いしたようだ。前科にもならないようなのでホッとしているところである。



 が…



「これからどうするか…」



 俺は灰色の空を見上げながら呟く。

 何の因果か、冒険者でなければ採取活動は不可になってしまった。正確には、ベグマギルドからの認可が必要となり、俺はその対象から当たり前のように漏れていた。



「…無事に帰って来れたわね」



 俺の肩の上に乗るなり、不吉な物言いをする白銀の猫



「ああ、ただいま」

「ええ、おかえり」



 俺は肩にスターを乗せたまま帰路に着く。

 通りには景気が良さそうな冒険者達で溢れており、おそらくベグマの塔から戻ったところなのであろう。収集品がどれぐらいの値打ちになるのか楽しみにしているような会話がちらほらと聞こえてくる。



「…」

「羨ましそうな目で周りを見ない」


「っ」

「クラッド、これからよ、これから」

「え?」



 俺は内心で絶望していた。

 必死でしがみついていた職も失い。タレントもなく、ライセンスの取得もできない。そんな中、突如として希望が舞い降りてきたのだが、それもベグマの理不尽な法改正によって打ち砕かれてしまった。



「…これからって言っても…な」



 タレントやライセンスがなくても、スターのアドバイスがあれば採取でお金を稼ぐことはできそうだった。しかし、それすらも法改正によって禁じられてしまったため、今ではライセンスを買うお金どころか、数ヶ月後の生活すら怪しい状況だ。


 タレントやライセンスのない人間を雇うギルドなどない。

 フリーで活動を続けるという方法もあるが、採取以外となるとタレントやライセンスが必要となる。そもそも、採取ですら、成果を出すにはタレントやライセンスが必要だったのだ。




「…ま、確かに、これからだな」

「ええ、そうよ」




 と、そんなネガティブなことばかり考えていたところでどうにもならない。

 気持ちぐらいは前向きにいよう。そうしようと俺はスターの言葉に頷いてみせた。





「ね、クラッド…」

「ん?どうした?」



 急にスターがあらたまってくる。

 俺は何かと緊張しながら聞き返すと…



「次の作戦なのだけれど…」


 スターにしては珍しく、どこか自信がなさそうな態度で俺に持ち出してくる。あまり良い方法ではないことが窺えるのだが、俺からすれば、ここまで切羽詰まった状態で、他にも手段があるのことに驚きだ。



「何かあるなら、変に気を使わないで話してくれ」



 俺がそう告げても、スターはどこか不安そうな表情を崩さない。本人もあまり気が乗らない方法なのだろう。




「ええ、そうね。クラッドが勤めていたヘパスギルドからお金をもらう方法があるわ」

「ん?退職金ならもう貰ったぞ」


「そうね…言い換えれば、闇の退職金とでも言うべきかしら」

「や、闇の退職金?」



 スターの言葉のチョイスに俺は嫌な予感を禁じ得ない。

 しかし、ここまでスターとやってきたんだ。やるかやらないかは別にして、話ぐらいはしっかり聞かないといけない。



「…話を続けてくれ」

「その前に、クラッド…ヘパスギルドに恩義みたいなものはあるかしら?」



「一切ない!」




 俺にタレントがないことを良いことに、低賃金で馬車馬のように使い、挙句の果てには捨てられるようにクビを切られた。窃盗犯だと証拠もなく疑われたこともあったし、同僚から嫌がらせされたこともある。いや、思い出すのはやめておこう。




「…い、言い切るのね」



 スターは俺が即答したことに驚いていたようだ。

 俺にはそれが不思議なのだが…



「そりゃ、そうだろ。人間扱いされていなかったからな」


「クラッドの性格を考えると、あまり良い方法ではないと思ったのだけど、その様子なら良いかもしれないわね」



 どうやら、俺が前のヘパスギルドに世話になったと思っていると考えていたようだ。それが話のネックだった様子であり、スターが話し難そうにしていたようだ。


 悪い思い出ばかりかと言えば、友人と呼べる人間との出会いもあったし、すべてが嫌な思い出だったわけじゃない。だが、その友人はとっくに冒険者へ転職しており、あのギルドに思い入れはまったくなかった。




「で、どんな方法なんだよ?闇の退職金ってのはさ?」




「…未払残業代をヘパスギルドに請求するわ」





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