第18話 今後の方針と買い物
ステータス確認はもういいだろう。
次はゴリ将たちの部屋を選んでいくことにする。
ステータス画面を閉じてショップを開く。
広い部屋で探すと幾つか検索にヒットした。
DP50万ポイントもするシミュレーションルームやDP30万ポイントもする室内演習場といった広さだけではなく、最初から設備や機能が充実した屋内施設があった。
プールやトレーニングルームなどもあり、ショップのラインナップの幅広さを改めて実感した。
「訓練場もあったけどDP6万ポイントもするのかあ……」
高いな。
案山子や岩石など的となる物体を好きに出したり消したりできる機能付きの訓練場らしい。室内の破損個所を自動修復する機能まであった。
これら機能を取り除くことも出来たがそれでもDP2万5000ポイントもした。
「マスター。ここは購入済みの中部屋の石造りの部屋を拡張するのはどうでしょうか?」
私と一緒にショップを見ていたイヌが提案してきた。
「なるほど。既存の部屋の広さを拡張するのか。そうすれば新しく部屋を購入する分のDPが浮くな」
そういえばショップを初めて開いた時に部屋の拡張ができるとあったな。
こいつがまだいない時のことだ。
そんな情報を何時知ったのか聞いてみる。
「そんな不思議な話じゃありませんよ。マスターと初めて閨を共にした時にかけた呪詛心蝕のスキルで心の内の記憶を読み取っていただけですよ」
「……呪詛心蝕スキルかあ」
初めて閨を共にした時――というと首輪を付けて初めて寝た時のことだよな。
翌朝に呪詛心蝕スキルを試したとか言っていたっけ。そんなことも出来たのか。
しかし言い方が紛らわしい奴だ。
「マスターの事なら全て把握済みです……ふふっ」
「お前が今更何をしようが気にしないけど他言無用で頼むぞ」
私の心を読み取ったということは、心の内で私がイヌたちをどう思っているか知っているということだ。
知ったうえで態度が変わらないイヌは、私が言うのもなんだがヤバい奴だと再認識した。
こいつが敵対的でなくて本当に良かった。
さて、イヌの提案はなかなか良い案だ。
元々ある中部屋を拡張するだけなので、新しく部屋を購入するよりも安く済むはず。
イヌの提案を受け入れて中部屋の空間拡張がどれくらい可能か確かめる。
前回、部屋を追加した時はオススメの広さで決めてたから詳しくは調べていなかったからな。
ショップの購入済み項目に載っていた中部屋をクリックすると空間拡張ボタンが表示された。
結果、DP1万ポイントで体育館ほどの広さまで空間拡張ができた。
体育館と例えたが天井の高さは今の倍程度にしてできるだけDPの消費を抑えた。
一瞬で中部屋の壁と床と天井が広がった。
背後で毛づくろいを再開していたゴリ将たちが驚いた顔をしていた。
拡張する前に一言言っとけばよかったな。
「主殿。これはいったい……」
「ゴリ将たちの要望通り広い部屋を用意したんだ。これだけ広ければ大丈夫だろ」
「確かにこれだけ広ければ問題ないでしょうな。吾輩たちの為に貴重なDPをお使いくださり感謝します」
「ついでに水も大量にいるだろうから買っとくぞ」
今ある水瓶だけだと足りないからな。
先の朝食で水が足りないと思ったのだ。
マウスを操作して飲料可能な湧き池を購入する。
半日に1回の頻度で池の水が新しく入れ替わる摩訶不思議な湧き池だ。
6000DPもするがこれで水不足にも困らないだろう。
湧き池は中部屋――改め猿の間と呼び方を変えたこの広い部屋に配置した。
チュートリアルダンジョンに続く金属扉がある小部屋の出入り口近くの配置である。
湧き池は半径5mの円形の形をしていて私の腰の深さまである池だ。池の底と側面は石が敷き詰められていて、どうやって水が湧いているかは謎の仕様だった。
湧き池は誰でも使える様にみんなに伝えて、ゴリ将たちには訓練する時は湧き池から離れた場所でするように言い含めた。
そして元々あった水瓶は私の部屋で使う事にして、食券販売機はチュートリアルダンジョンに続く小部屋に移動したのだった。
人手ならぬ猿手が多くいるので指示するだけで良かった。
「風呂も欲しかったけどDPがこれでカツカツだ。もう2550DPしかない。またDPが貯まるまで石鹸と濡れタオルで体を拭く生活だな」
早く肩まで熱い湯に浸かりたいものだ。
ちなみに石鹸やタオルなどの生活雑貨は前回のショップ使用時に購入済みの物だ。
「うーむ。明日から2階層の探索をしつつDP稼ぎをしなければいけませんな」
ゴリ将が頭をかいて困り顔になる。
「それだけど2階層の探索に全員で行くのは過剰戦力だ。だから明日から3班に分けてチュートリアルダンジョンに向かおうと思う」
私がいる班は主力を入れてチュートリアルダンジョンの攻略に集中する。
残りの班はDP稼ぎを目的として動いてもらう。
1階層の奥でのモンスターの戦闘は猿山脈の歩兵たちでも問題なかった。
だから歩兵たちのみで編成した2班を1階層でDP稼ぎさせるのだ。
今いる12体の歩兵。
いや、もう1日経ったから13体の歩兵だったな。彼らを半分ほどに分ければ1班約6体となる。
そこにこれから増える歩兵を荷物持ちとして振り分ければ、複数のモンスターや連戦が続いても交代しながら戦うことで十分対処可能だと考えたのだ。
更に配下が増えたらそれだけ班を増やしてしまえばいい。
理想としては1階層をDP稼ぎの場にしてしまえるだけの大勢の人員ならぬ猿員を投入するつもりだ。
今後、攻略済みとなる階層も同様の方法で狩場にしてしまえるといいだろう。
このことを皆に伝えるとゴリ将が納得したと頷いた。
「それなら問題ないでしょうな」
「次は食事前に話した通り、罠感知スキルと罠解除スキルチケットを2枚ずつ購入して歩イチたちにスキルを取得してもらいたい」
以前ショップを流し読みしていた時にこれらのスキルチケットがDP500ポイントで売られていた。
試しに罠感知スキルチケットを1枚だけ購入して歩イチに渡した。
「ウキ?」
歩イチはチケットを頭上に掲げて首をすくめてこちらを見上げてきた。
スキルチケットの貴重性を理解しているようだ。
「気にせず使ってみてくれ。ユニットがスキルチケットを使えるかどうか、これで分かればどう転んでも無駄にはならないからな」
「ウキ!」
歩イチが掲げていた罠感知スキルチケットを破った。
「どうだ? 何か様子が変わったか?」
「ウキキ! ウキー!」
「ふむふむ。すまん。何を言ってるか分からない」
歩イチは私の言葉が分かるのだが、私は猿の鳴き声にしか聞こえないのだ。
肩をしょげて歩イチは落ち込んだ様子となる。
少しもどかしいな。
「歩イチは問題なく罠感知スキルを取得したそうですぞ」
ゴリ将が私たちの間に入って通訳をしてくれた。
助かったあ。
「ウッキー!」
「どうやら周囲の罠の有無や危険度を第六感的な感覚で知覚するようですな。いやはや便利なものですなあ」
短い鳴き声にそんな意味が込められていたのか。
だがこれでユニットがスキルチケットを使用可能だと分かった。
早速、歩イチにもう1体別の歩兵を選らばせて、彼らに2種類のスキルを取得してもらった。
この2体には班長として班を率いるよう命じた。そして班員となる歩兵たちに班長に従い互いに助け合うようにさせた。
「あとは1階層の道順についてだが、私のマップスキルで得た1階層の道順を紙に書き写して地図にして明日渡す」
紙は自撮り写真の時に残った分を使う。書き写しに使うペンは生活雑貨の一部で購入済みだ。
「食料は食券を使ってもらい不足の場合は現場調達をしてもらう」
つまりモンスターを食べるという事だ。
食券で出てくる調理した食べ物より美味しくないそうだがそこは我慢してもらおう。
「それではマスター。水はどうするのですか?」
「水はなあ……ちょっと迷ってるんだ。スキル付与された水筒を各自持たせたいけど、数本ならまだしもこれから増える配下達の分まで考えると今は得策じゃないんだ」
10分ほどチュートリアルダンジョン内の水問題を皆と話し合い、スキル付与された水筒を全員分用意するのは先送りとなった。
採用案として、湧き池の水を汲み入れた樽を荷物持ちの歩兵たちに運ばせ、数本のスキル付与された水筒を持たせることにした。
樽は台車に乗せて運ばせる。
複数の樽と班の数だけの台車はショップで購入する。
こうすれば全員分のスキル付与された水筒を購入するよりも安上がりだ。
とはいえもう樽と台車を買う余裕がない。
所持DP550ポイントしかないのだ。今日の食券を買ったら明日の食事にも困る有り様である。
明日は日帰りで3班に分かれてチュートリアルダンジョンでDP稼ぎをしよう。
近場だと稼ぎは良くないが、班ごとに分かれて成果が出るかどうかの試みだ。
本格的な2階層の探索は明後日以降となる。
「よし。話し合うべきことはこれで話し終わったな。それじゃあ今から従魔召喚チケット(異性限定版)を使って新しい仲間を呼び出すぞ」
やるべき事はやり終えたので、解散する前にみんなの前で従魔とやらを召喚することにした。
目の前に現れたイヌの亜空間に繋がる黒い渦から従魔召喚チケット(異性限定版)を取り出す。
どんなモンスターが従魔として召喚されるのだろうか。
サモンマルチバースカードのユニークスキルと関わりのない相手だ。
皆が注目する中、私は従魔召喚チケット(異性限定版)を千切るのだった。