第17話 久しぶりのステータス確認
翌日。寝心地の良いベッドから起き上がった私は、天井から紐で吊るされている電球に触れて明かりを点けた。
体温で反応しているのか私やゴリ将たち生物が触ると明かりを点けたり消したりできる便利な照明器具だ。
ちなみに小部屋程度ならこれで問題ないが、コアパソコンや食券販売機を置いている中部屋は蛍光灯を設置している。
イヌと朝の挨拶を済ませると新しいジャージに着替えだす。
すると私が何も言わずとも亜空間の渦が手元に出現した。
戦闘やチュートリアルダンジョンの探索時だけでなく、こういう何気ない所でも手助けしてくれるのでありがたい。
「もうイヌがいない生活は考えられないな」
亜空間の渦からジャージを入れ替えながら、口からそんな言葉がしみじみと漏れた。
人面犬に殺されていた頃が嘘のようだ。
思えばこいつを手に入れてから私の生活がガラリと上向きに変わったのか。
「なんですか。上半身裸で告白ですか。それならもう一度お願いします……録画しますので」
挨拶してから黙っていたイヌが私の発言に食いつく。
私の着替え姿に興奮していたところだったようでいつもより変態度が高い。
「そういう意味じゃないよ。というか録画って出来るのか?」
出来そうで怖いな。
こいつが実は出来るんですと言っても不思議じゃない。
「嫌ですねえ。そこはインテリジェンスな冗談に決まってるじゃないですか。たかが首輪にそんな機能があるはずないじゃないですか」
「まあ、そうだよな」
「ええ。ただ自分の記憶領域に念入りに保存しとくだけですので」
「なるほど。そうなのか」
ここは理解を示した風に納得する振りをしとこう。
「ところでマスター。今日はどのようなご予定でしょうか?」
「ゴリ将たちにもこれから伝えるけど、基本的にマイルームで過ごす予定だよ。昨日までチュートリアルダンジョンに籠りっぱなしだったからね」
「なるほど。休日というものですね。確かマスターが見てた掲示板で他のダンジョンマスターの方々も休みの日を入れているとありましたね」
イヌの言う通りだ。
チュートリアルダンジョンの探索は1階層を行って戻るだけでも長い行程となっている。
その為、相応の準備時間が必要だし十分な心と体の休息が大事だ。
前の私みたいに死んで元通りになった体で攻略を進めるのはごく少数の者たちの話だ。
今の私の場合、偽装スキルという欲しいボス討伐報酬を手に入れたから2階層を急いで攻略する必要が無くなったという理由もある。
「ただ休むだけじゃないけどな。デッキや手札のカードを見直したり、コアパソコンで掲示板巡りして新しい情報を集めをするつもりだ。それにイヌが言ってた催眠おじさんの心を基にしたスキルとステータスの確認もしたい」
あとは昨日金色の宝箱から手に入れた従魔召喚チケット(異性限定版)を早く使いたい。
他にも増えた猿山脈の歩兵たちに対して部屋や食料や必要な物の確認をゴリ将たちと相談して決めていかなければいけない。
ユニットたちにもちゃんとした生活を提供しなくてはならないからな。
植え付けられた記憶でユニットの離反や反抗は無いとされているが心ない木偶人形ではないのだ。
行き過ぎた扱いは彼らの不満となって心に燻ぶるだろう。
ゴリ将たちユニットには私の手足となって働いてもらわなければならない。
自分の手足を蔑ろにする奴はいない。
だからこそ彼らとの絆を大切にするのだ。
「そういえば今日はまだカードを引いてませんでしたね」
イヌにそう言われたのでデッキからカードを引くことにした。
新たに手札に加わったのカードは2枚。
前日の運命のサイコロの効果通りにドロー枚数が増えたことに顔がにやける。
「……白マナカードが2枚か」
今日はあまり引きが良くなかったな。
あと1枚白マナカードを引ければ信仰篤きユニコーンを召喚できるのだが。
「そう都合よくはいかないな」
「こういう日もありますよ」
イヌに慰めてもらい着替えを終えると、中部屋のゴリ将たちの所へ行くことにした。
中部屋に入室するとゴリ将たちが私の方を振り向いた。
その光景を見て思わず顔をしかめてしまう。
12畳の中部屋には猿とゴリラが身を寄せ合って毛づくろいしていたからだ。
これまで配下召喚された12体の猿山脈の歩兵たち。そしてひと際図体の大きいゴリ将。
12畳程度の中部屋だとさぞ手狭だったろう。
「これは新しく広い部屋をショップで購入する必要があるな」
昨日は疲れていて言うだけ言って個室に向かって寝てしまったがこれはいけない。
不満をためさせないと考えたばかりなのだ。
早急に対処しなければならない。
「おお、主殿。お早いお目覚めですな。早速、探索に行きますかな?」
「おはよう、ゴリ将。今日は探索は休みにするからゴリ将たちも自由にしていてくれ。それで……今更かもだけど部屋って狭かったよね?」
一応、本猿たちに確認のため聞いてみる。
「それは……そうですな。今後増えていく配下たちのことも考えると、この部屋の倍以上あっても足りなくなるでしょうな」
申し訳なさそうに意見の述べるゴリ将。
「そうだよな。食券を買って皆の食事を済ませたら、お前たちの新しい部屋を創るから少しの間待っていてくれ」
「それは助かりますな」
この中部屋を拡張も出来るが、今後の事を考えると猿山脈の彼ら専用の部屋を新しく追加した方がいいだろう。
「先に何か要望とかあれば言ってくれ。出来るだけ取り入れて部屋を購入するつもりだ」
DPの心配はないはずだ。
探索中に倒したモンスターとストーンゴーレムの討伐で得たDPがあれば大丈夫だと思う。
「それでしたらとにかく広い部屋をお願いしたいです。生活する場と訓練場を兼用で使いたいので家具などの物は少なくて構いませんので」
「訓練場もかい?」
「そうですな。吾輩たちは戦いを本分とする生体兵器ゆえ。常に戦闘訓練できる場が欲しいのです」
どうやら休みの日でも体を動かしていたいようだ。
「チュートリアルダンジョンのモンスター相手じゃ駄目なのか?」
私の疑問にイヌが反応する。
「マスター。それではモンスターをわざわざ探し出さなければいけません。1階層の奥ならモンスターが多くいますが浅い所と比較してですし場所が遠すぎます。そして罠の解除手段のない彼らだけですと危険過ぎます」
そう言われればそうだな。
罠の事を考えたら堕犬娘となった私が付き合う必要が出てくる。
それでは休みにならない。
「罠に関しては、彼らに罠感知と罠解除のスキルチケットを与えてスキルを取得させる案がありますが、実際にユニットがスキルチケットからスキルを取得できるか分かりません」
「ユニットにスキルチケットを使わせるのか……」
それが可能ならユニットの可能性が増えるな。
DPに余裕があれば試してみよう。
というかイヌが頭よさそうな会話をするなんて珍しい気がする。
いや、こいつは私が関わらないとこんな感じなのか。
「よし。スキルに関してはDPの残り次第だけどあとで確かめよう。それで話を戻すけど、本当に訓練場みたいなだだっ広いだけの部屋でもいいかな?」
「それでお願いいたします」
「ウキ――!」
ゴリ将と歩兵たちの了承を得た。
その後、私たちは食券販売機で好きな食べ物を買って食べるのだった。
ちなみにゴリ将たちは雑食だった。今では教えた箸の使い方をマスターして器用にうどんをすすって食べてるほどだ。
「ごちそうさまでした」
私はA定食という毎回メニュー内容が異なる定食を食べ終えた。
他にB定食というのもある。
あっさり系のA定食とがっつり系のB定食となっていて飽きないラインナップとなっている。
腹が満たされた私はコアパソコンの前に移動すると電源を点けた。
画面が点灯してホーム画面が映る。
そこには――188番目の1階層攻略おめでとう――という言葉が画面中央に書かれていた。
それ以上の文章はなく、ただこの一文だけが管理者から送られている。
20秒ほどで消えてしまったその一文を読んで、200位以内までギリギリだったのだと知る。
他に何かあるのかと待ってみるも何も起きなかった。
どうやらお知らせの意味以外に特に意味は無かったようだ。
マウスを操作してステータス画面を開く。
レアリティ:UR
カード名:催眠おじさんイチロー
マナコスト:黒×5
カード種類:ダンジョンマスター・・・(所持DP:1万8550ポイント)(加護:夢幻盤上の遊び人)
戦闘力:攻撃力2/生命力3/素早さ2
スキル
・洗脳催眠(手札を2枚捨てる事で、敵1体のコントロールを1時間得る。黒マナをX払うとコントロール時間がX時間増える)
・後催眠暗示(洗脳催眠中に命令した行動を1つだけ対象に暗示として残せる。洗脳催眠解除後に弱点部位に触れることで暗示した命令行動を自覚なく遂行させる)
・自己催眠(マナをX払う事で、1分間全ステータスをX×2アップする)
・魂の汚辱(洗脳催眠して得た対象をX体捨てる事で、好きな色のマナをX×2得る)
・サモンマルチバースカード
・精神耐性Lv10
・体液毒化Lv3
・錬金術Lv1
・偽装Lv1
名前:堕犬娘イチロー
年齢:15歳
種族:狛犬人
加護:なし
生命力:75/75
魔力:0/0
攻撃力:45
防御力:20
素早さ:61
器用さ:22
スキル
・格闘術Lv2
・金剛体Lv1
・身体強化Lv3
・軽業Lv2
・マップLv1
やはり前回見た時よりもステータスが変わっているな。
それにDP稼ぎも結構な成果が出ている。
往復14日もチュートリアルダンジョンの探索をしたのだから当然か。
「催眠おじさんイチローの後催眠暗示スキルが前にイヌが言っていたやつか?」
「そうですよ。暗示を1つかけておいて洗脳催眠スキルの解除後も合図次第で相手の行動を限定できます。洗脳催眠スキルの後、相手次第で後催眠暗示スキルか魂の凌辱スキルのどちらかを使用すればいいでしょう」
本当にスキルを創ったのか。
基となった催眠おじさんの心があったとはいえ、こんなことができるイヌに危機感を覚える――こともなく軽く聞き流した。
こいつのことは気にするだけ損だ。
私はこれまでのイヌとの付き合いでそう学んだのだ。
それはそうと他のスキルについてだ。
体液毒化スキルはLv3に上がっていたようだ。
いつ上がったのか分からなかったな。
Lv3でどんな毒が扱えるかモンスター相手に調べとこう。
自殺で使用したら分かりづらいからな。
錬金術スキルに関してだが、このスキルは堕犬娘の写真の稼ぎで取得したスキルだ。
取得してから使う暇もなく1階層の攻略に集中してたからどんなものかは掲示板の情報頼りだ。
取得前に見た情報だとなかなか有用なスキルだったからショップで購入した覚えがある。
あとは催眠おじさんイチローの戦闘力は変わらないままか。
サモンマルチバースカードのスキルを使用し、カード一覧からゴリ将の戦闘力の確認をするとこちらも数値上の変化は見られなかった。
あれだけ戦闘経験を積んだのにだ。
TCGのユニットはRPGみたいに経験を積んで数値上は強くならないと思っといた方がよさそうだ。
サモンマルチバースカードの他のカード効果か、まだ試してないがスキルチケットのスキルの力で個々の戦力を増強するしかないだろう。
「堕犬娘の方は全体的に成長していると見て分かりますね。ただもっと成長しているものだと思っていました」
「探索の後半はほとんどゴリ将たちに任せっきりだったからな。そこは仕方ない。催眠おじさんも堕犬娘もユニットが増えれば戦う機会が減るだろう。私のスキル構成を考え直した方がいいかもしれないな」
もちろん戦えるだけの力を身に着けさせた上での話だ。
製造系の催眠おじさんイチロー。
戦闘支援系の堕犬娘イチロー。
パッと思いつた感じだが、こんなスキル構成に寄せていこうかな。