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隣の席はお姫様

 ついに入学式の日となった。起床してすぐ身支度を整え宿屋を出る。

 観光客のように周囲の建物を眺め、首都セント・リメリアの雰囲気を堪能しながら学園の入り口へ赴く。


 王都の景色を一言で表すなら、ベージュ色の壁と赤い屋根といったところだろうか。その法則にそぐわない建物も一部存在するが、おおよそはそのような具合だ。

 最も、王国ではこのような建築様式が主である。オレが育った街が少し例外なだけだ。


 セント・リメリア。この国の言葉であるべリア語で「リメリアの中心」という意味だ。街の名前にわざわざ中心セントと入っているのは、本来の首都を帝国に落とされ、それでも自分たちの国が正当派であると主張した名残りのようなものらしい。


 そうこうしているうちに学園の門の前に到着する。ここ王立魔法学園はリメリア王国屈指の名門校だ。

 学園の門をくぐり、敷地へと踏み入れる。入ってすぐの場所で行列ができていた。どうやら検問のようだ。

 本当に学生かどうか、危険物を持ち込んでいないかどうかを確認している。

 手荷物と入学許可証を見せ、検問を突破する。


 入学式が行われる講堂を目指し歩く。

 敷地内は建物が立ち並ぶ王都の中とは思えないほど緑が溢れ、その中に歴史的な建造物を模した建物が点在している。

 あまりに広大なため迷ってしまいそうだが、学生の群についていき、目的地を目指す。

 道中で周りの学生の会話に耳を傾ける。


「なあ、知ってるか? 王女様がこの学校に入学されたらしいぞ」

「本当か!? だったら俺達王女様の同級生じゃないか」


 先ほどの検問はこのためだろう。王立と名乗っているのだから王族が居ても不思議ではないが、同じ学年になるのは珍しいことかもしれない。


「王女様って結構な美人らしいよ」

「一目でいいから見てみたいな」


 件の王女様のお姿は絵や彫刻でしか見たことがない。大半の国民がそうだろう。そのような噂はオレも耳にしたことはある。

 だが、あくまでも噂だ。そういう噂を流しておけば、女王になるにしろ、どこかの国に嫁がせるにしろ、王国にとってプラスに働く。それを期待してのデマということも考えられる。写真や動画がないこの国の民衆を騙すのはそう難しくない。

 この国の虚構を一つ白日の下へ晒してやろう。






   * * *






「王国と帝国が分裂したおよそ300年前、帝国の脅威から王国と臣民を守るため、この王立魔法学園は設立されました」


 入学式恒例の偉そうなおっさんによる有難いお話が講堂に響いている。

 学校の理念なんか知ったことではない。オレは自分の信じる道を進むために、為すべきことを為す。何処であろうとオレが信じるのはそれだけだ。


「近年、東方から襲来する魔物は凶暴化しており、王国内での魔物による被害も年々多くなっています。

 海を隔てた南方では数年前、タルド王国がクーデターにより滅亡しました。

 帝国はここ10数年、目立った動きはありません。しかしこれは嵐の前触れ。奴らは必ずや王国を攻めて来るでしょう。そのための力を蓄えているのです。

 危機は目前に迫っています。皆さんにはその危機を乗り越える力を養って欲しい……いや、養わなくてはなりません。そのためにここで学ぶのです」


 一生徒にそんな重大な事を求めるなと言ってやりたいが、このおっさんの言うことも一理ある。帝国と魔物、この2つの脅威に挟まれた状況を打開できなければ、今度こそ王国は滅ぶだろう。

 そんな重苦しい入学祝いを受けた後もしばらく式は続いた。


 式が終わると、新たなクラスの名簿が前方に掲示された。その名簿によれば、オレはCクラスのようだ。

 クラス確認を終え、教室へ向かう。

 教室に入ると、半分くらいの学生が既に着席していた。

 自分の席らしい場所を見つけ、着席する。オレの周りはまだ誰も来ていないようだ。

 しばらく窓の外の景色を眺めながら過ごす。


「隣に座ってもよろしいですか?」


 突如、後方から話しかけられる。


「ああ、どうぞ」


「失礼します」


 声の主は金色の髪をした可憐な少女だった。

 それにしても随分と美人だ。目を見て話すのを躊躇ってしまう。


「こんにちは。わたしはリースと申します」


 リース……聞き覚えのある名だ。だが思い出せない。


「あなたは?」

「オレはローランド。ローランド・アクギットだ。よろしく頼む」

「よろしくお願いします。ローランド」


 ニコっと微笑み、2つに結ばれた金色の髪が揺れる。


「それにしても、きれいな瞳をしていますね」

「そうか?」


 オレの左目は赤、右目は緑になっている。この目を貶す奴は数えきれないが、褒める奴は覚えがない。


「はい。まるでルビーとエメラルドみたいです」


 オッドアイはあまり好まれない傾向にある。しかしリースは褒めてくれた。社交辞令だとは思うが悪い気はしないな。


「なら、リースの瞳はサファイアだな」

「フフッ、ありがとうございます」


 リースはさっきとは違う意味深な笑みを浮かべた。


「リース姫、お久しぶりです」


 オレとリースの会話を遮るように、1人の生徒がリースに話しかける。


「あらエリック、あなたも同じクラスなのですね」


 どうやらリースとは知り合いのようだ。


「こちらはどこの家の方かな?」


 変わった言葉使いをする奴だ。だがきっとオレの名前を聞いているだけだ。普通に答えればいいだろう。


「オレはローランド・アクギットだ」

「アクギット? 聞いたことのない名前だ」


 それは当たり前だ。


「俺はエリック・バートリー。バートリー家の次男さ」


 家族構成は聞いてない。だがバートリー、その名前は貴族事情に疎いオレでも知っている。それほどの名家だ。だからあんな変な喋り方をするのか。


「貴様はこのお方がどのような人物か知っているのかい?」


 さっきこいつはリースのことを姫と呼んでいた。ということは……


「冴えない貴様に教えてやろう。このお方こそリメリア王国の第一王女、リース・リメリア・レオーネ・ベリアール様でおられる」

「ええ!?」


 王家レオーネという言葉で憶測が確信に変わった。彼女が件の王女に違いない。思ったよりも随分と早く相見えることになった。

 入学式前の前言を撤回しよう。リース姫は噂通りの、いや、噂以上の美少女だと認めざるを得ない。


「平民である貴様に忠告しておこう。その方は気安く接していい相手ではない。その席を俺に譲るんだ」

「エリック、今の言葉は看過できません」


 穏やかな声とは裏腹に、冷たい表情を見せるリース。


「あなたはこの国の次期国王となられるお方。このような怪しき者とは関わるべきではありません」

「クラスメイトは皆、学校生活を共に送る仲間です。そのような言動は慎んで下さい」

「……リース様は分かってない。今、どんな状況におられるのか」

「分かっていないのはあなたのほうです。家柄を振りかざしてに威張り散らすのではなく、皆の手本となるように振る舞い、弱い者を守るためにその力を使うべきです」

「……」


 リースの正論に、エリックは沈黙するしかないようだ。

 その沈黙を破るようにチャイムが鳴り響く。

 それと同時に1人の男が教室へと入って来る。


「いいかお前ら、席につけー」


 その男は気だるそうな声と表情で教室の前方に立つ。


「えー、今日からお前らの担任になることになったカイルだ。よろしく頼む」


 見た目はそこそこ若く見える。おそらく20代だろう。頬の傷が只者ではないことを物語っている。元冒険者、あるいは退役軍人といったところだろうか?


「お前らにも自己紹介をして貰おうと思う。この学園に入って来れたなら皆、何か光るものを持っているはずだ」


 カイル先生は一瞬ニヤリと笑う。


「お前らのお手並み拝見と行こう」


 カイル先生は召喚術で大きな紙を取り出し、黒板に張り付ける。


「これから1対1での模擬試合をしてもらう。相手は今張り出した紙に書かれている」


 教室がざわつく。いきなり戦わされるとは誰も想定していなかっただろう。オレも今は遠慮したいところだ。


「30分後、学園内の闘技場に集合してくれ」


 そう言って先生は教室を出ていく。この教師、アンニュイな振る舞いに反してバトルジャンキーな面があるようだ。

 困ったな。今のオレは魔法が使えない。そのことがバレたらいきなり退学なんてこともあり得る。

 四の五の言っても仕方ない。とりあえず対戦表を凝視し、相手を確認する。


「嘘だろ!?」


 相手はさっき啖呵を切ってきたあのエリックとかいう貴族だ。よりにもよってあいつが対戦相手とは。

 さらに悪いことに、1番最初の対戦となっている。


「ローランド、戦闘は得意ですか?」

「いや、全く。リースは?」

「わたしもです。魔法は得意なのですが、戦いは苦手です」

「なあ、リース。あのエリックとかいう奴について何か知っているか?」


 リースなら知っている情報があるはずだ。


「エリックが戦っているところを直接見たことはないのですが、バートリー家は雷属性を得意としている家系。彼もその例外ではないでしょう」


「雷か……」


 魔法が使えない今のオレにとってはどんな属性が来ようがあまり変わらないが、できれば来て欲しくない属性だった。


「これくらいのことしか分からなくてごめんなさい」

「いや、十分だ。ありがとう」


 魔法を使わずに勝つ。そんな魔法みたいなことが出来なければ、勝つことは不可能だ。

 さて、どうしたものか。

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