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イリディーマブルヒューマン  作者: 成田 春希
3/9

疑惑

良くも悪くも浩二の芸能界復帰が決まり早速ドラマの主演が決まった。


「交錯」  主人公 銀行員の田中役

表の顔は爽やかで誰からも慕われて愛妻家としても有名なベテラン銀行員だが、裏の顔は不倫を繰り返し、時に妻にモラハラ 束縛を繰り返す二面性を持った難しい役。


「ただいまー! いきなり主演が決まったぜ!」

―人気俳優  浩二 復帰後すぐに主演決定―

どの番組のエンタメ特集でも、夫 浩二の会見が映し出されていた。


多くの視聴者が復帰を喜び、多くのメディアが彼を取り上げだ。


私は歓喜の中に絡まった焦燥に苛まれた。



歌を歌って モノマネをして 演技をして ドッキリにかけられて....

そんな彼を見るたびにいたたまれない気持ちに陥る私がいた。



いつの日か帰宅する時間は深夜を過ぎることが多くなって、その度にウィスキーの匂いがする息を吐きながらよく分からない寝言じみた事を喋っている。

ベッドまで寄り添うと、浩二はすぐに眠りについた。


「アイチャ  アイチャーーん どこー?」

あいちゃんという女性を夢の中で探してるのだろうか?


赤い首元 ゆっくりとシャツをめくると、くっきりキスマークがはっきりと瞳に映し出された。


これは幻だ!  そう自分に言い聞かせてもキスマークは消えることはない。

何も見なかったかのように、スーツの襟をゆっくりと上げる。


パタン

ポケットから一枚の名刺が 桜の花びらのようにゆっくりと落ちる。


―Gold post 森田 愛 ―


浮気をしているかもしれない。 疑念を抱くまでしばらく時間がかかった。


ピンクのドレスに 月型のイヤリング

  見た目も二十代前半といったところで、売り上げナンバーワンを争っている情報もある。


「アイちゃーん  絶対にナンバーワンにしてあげるから待ってて。」


気持ちよさそうに寝言を言う度に自尊心が傷つけられていく。


入念に名刺を拭き取りそっとポケットにしまい込んだ。


灯り一つない宵闇を眺めていると自然に涙が流れ落ち花柄で新品のサンダルを履いた足元を濡らす。  



「おはよう あれ なんか元気ないね?

悩みがあったらいつでも相談してよ。」


「あっ  ううん なんでもない。」


「そっか。」


悩みの種は自分自身だというのに気づかないなんて

マヌケな男


まぁいいわ今はそっとしておいてあげる。

―この後の楽しみ― の為にね。



康介が生まれてから半年が過ぎ 離乳食も食べ始める時期になるとともに一人寂しく厨房に立つことが増た。


康介は絵に書いたような優等生で離乳食を残すことは無く、すぐに言うことも聞いてくれるまさにアンドロイドのようにマニュアル通りに動いてくれるから、苦労することはない。

だけど あまりにも好奇心を示さないのは不気味だった。

やっと発音できるようになったと思えば、黙々と食べ続け ミルクも哺乳瓶をガッチリと掴み 飲み終えるとすぐに私の元へ戻してくれる。

理想が気がかりを生む そんな感じの毎日だった。


「休業前と休業後で何か大きな変化はありましたか?」


「本当に休養中の間に家事を色々こなしていったんですが、今まで何もしてないで妻に任せっきりだったものですから 大変で大変で

でもおかげで家事もできるようになったし、妻の苦労を知ることができたので 妻には感謝してもしきれません。」


人気トークバラエティで爽やかで意気揚々と語っている中山浩二は私にとっては偽善という名の仮面を被った道化師に過ぎなかった。


「何が感謝しきれないよ。 笑わせるなよ。」


爪にカラフルなネイルを施しながら ゆっくりとテレビを見る。

これが私の数少ない休憩時間の一つ

なのに アイツの姿を見るなんて本当についてない。


「わぁー 本当に奥さんうらやましいですね。」


駆け出しの若手アイドルグループ MIX Vegetableの情熱のトマト担当というよくわからない子が大袈裟とも言えるリアクションをとる横で、浩二はニヤニヤしながら謙遜している。


―いるいる わざとらしいリアクションをして可愛さアピールして必死に爪痕を残そうとする奴。

そういう女 ほんとに苦手なのよね―


いつしか矛先は若手アイドルに代わり、浩二の事は眼中に無かった。



この日も雑誌取材と打ち合わせが重なり、深夜帰り

懲りない男はまたもへべれけになって帰ってくる。


ワインとチーズが混ざったような匂いの息とブランド物の香水が混ざったような香りは深夜には耐え難い苦痛の他ない。


100万は超えたであろうブランド物の腕時計は時間を確認するには逸脱したもので、数字 針ともに目を細めないと見えないくらいのサイズだったが、ベルトは牛革 周りにはダイヤモンドの装飾が施されていて自慢をするにはもってこいの時計だった。


―見てこれ 新しく買ったんだよね!

ブランド? よく聞いてくれたね、日本に最近出店したばかりのアメリカ企業 「Better」


高かったんだぁー 百万以上はしたんだ。―


酒が入った浩二なら言いかねないセリフで、脳内で劇場を作ってみる。


幸せそうな寝言を喋る浩二を冷ややかな目で見つめながら、ゆっくりと部屋を去った。

あのキスマークを見た日から彼のことを信用できなくなっていた。


仕事帰り テンションMAXでホールケーキを買った日も

浩二を施設に預け、ふたりきりで夜景が見られる高級レストランで乾杯した日も

何もない日常でさえも


私は彼を本気で愛することはなかった。


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