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イリディーマブルヒューマン  作者: 成田 春希
2/9

2 始まり

「元気な男の子が生まれましたよ。」


その瞬間 中山 浩二は歓声を上げた。

病院内に響き渡り、静かにしてくださいと注意されたくらいの大声だった。


妻の美咲も安堵した表情で男の子を抱きかかえる。


羽毛布団を触ったかのような柔らかい肌ざわり


「私の元へ生まれてきてくれてありがとう。」

そう囁くと 男の子は別室のベッドに預けられた。


「名前決めた?」

「あぁ 考えてきたよ。」


中山達也 中山康介 中山誠

色々リストアップしていき、姓名判断で特に良い結果が出た三つが最終候補として残った。


「テレビで忙しいのに その合間を練って考えてくれてありがとう。」


達也はこの日のためにしばらくの間育休という名の長期休暇を取った。


名バイプレイヤー 司会者 時には体を張る仕事をして引っ張りだこ

テレビにとっても スタッフにとってもかなりの痛手だったらしい。


「中山 浩二 (32) 長期休業を発表

イクメンとしての顔も手に入れるか?」


雑誌新聞の見出しにも大々的に取り上げられていた。


「そんな 大袈裟に書かなくても 

すぐに戻ってくるのに。」

と苦い表情でぼやく。


「でも ゆっくり過ごせるのは久し振りじゃない。

私は嬉しいなぁ。


あっでも 暫くは入院しちゃうから どっちみち一人か。」


「あぁ。」



それから達也は一人で本を読み漁ったり、レシピ本を開いて全くやらなかった料理にチャレンジしたり

名前を考えたりと暇つぶしをした。


「ようやく 一緒に過ごせるな。」

美咲のぬるさが残った手を握る。


「うん そうだね。」


美咲はゆっくりと目を閉じ 眠りについた。




出産7日目には一時外出が許され 市役所で出生届を提出した。

名前は中山 達也  

姓名判断ではスクスクと元気に育ち 人にやさしくなれるでしょうと書かれていた。


「達也ちゃんー 達也ちゃんー」

もち肌を触りながら名前を呼ぶと 微かに笑顔が見える。


浩二 「名前喜んでくれてるみたいだ。」


達也はすぐに眠りについた。


病院にいる一ヶ月の間 準備を整える。

LEDのリビング 

強振にも耐えられるウッド製のベッド

まとめ買いをしたオムツ


赤ちゃんグッズを揃え 部屋も花柄に模様替えをしてベッドの近くにはソファー


美咲 「いよいよ明日 達也が来るね。」

浩二 「うん、今日は二人きりの贅沢を使用。」


フランス産本格ブドウ使用と宣伝された一本2万円のワインにショートケーキの大きさほどあるカマンベールチーズ

熟成された生ハムをおつまみにワインを一杯 また一杯とあおる。


一夜限りのイルミネーションを手作りし プラネタリウムまで作ってくれた。


美咲 「わぁキレイねぇ!」

理科の教科書に掲載された星のような光景


10万円の大枚をはたいて 購入したことが後から分かった。



朝は早かった 七時に連絡が入り お気に入りの愛車を走らせる。


「今日から 一緒に過ごすことになりますが、まだ生後一ヶ月なので強い光や音などに敏感に反応します。

なのであまり明るい所などに行かせず ゆったりとした場所にゆっくりさせてあげてください。


こちら母子手帳です、三ヶ月後に提出ですので。

忘れずに書くようにお願いします。

では達也くんは こちらです。」


達也は少し大きくなっていた。

すくすくと育ち 大人しく夜泣きもしない偉い子だと看護師さんは褒めていた。


毛布に包み ゆっくりと持ち上げる。

それでも達也は泣かなかった。 むしろ懐いてくれた。


看護師に見送られ、チャイルドシートつけて、木陰を走った。

人通りも車量も少ない脇道 時間はかかるけれど、これも達也の為だと浩二は張り切っていた。


「スピード上げないでね。」

「大丈夫だって 達也が可愛そうだから。」


なんて言っていつも調子に乗って暴走するのが悪い癖でもあった。

その癖は今回は出なかったのが幸運だった。


「暑いね 暑いね」

エアコンを最大限にまで効かせた部屋は半袖の美咲には肌寒く感じた。


達也のオムツを変えて ベッドに横にさせるとすぐに眠りについた。


生まれたてのもち肌と変わらないプルプル感はあっという間に疲れを癒やす神秘感に溢れていた。


「達也の為に料理を始めたんだぁ」

なんて意気揚々と言ってるけど ついこの前までは卵すらキレイに割れてなかった。


消毒した哺乳瓶に70℃近いお湯を注いで、肌で熱さを確認する。

ここまでは完璧


しかし大さじと小さじを間違えて余分に粉を入れた。 中々 溶けないなぁと哺乳瓶を振り回す浩二に少々呆れながら 答えを教える。


「あっいけない。」

何でもできる清純派俳優と謳われてる男もどこか抜けている所がある。


少々お湯を足し、粉っぽさを消しながらも味を薄くしていくうちに達也がぐずり始めた。


すかさずあやす美咲を尻目に浩二はまた頬に哺乳瓶を当てていらない温度チェックに入る。


「ほーら ミルクでちゅよ。」


「辞めてよ恥ずかしい 赤ちゃん言葉なんて。

優しく言うだけで十分だもんねー。」


小さい手で哺乳瓶を掴もうとしながらゴクゴクとミルクを飲み、あっという間に飲み終えると、再びよだれを垂らしながら眠りについた。


綱渡りをするように慎重に達也をベッドまで運ぶ。


浩二 「これが毎回続くって 大変だよなぁ

でも笑顔見れれば疲れも吹き飛ぶわけだな。」


呑気に喋るけど 大体は最初だけ育児をして後は妻に任せっきりにする夫が多いというデータを何度も目にしている。

あまつさえ 芸能界で活躍してるから尚更忙しいのは目に見えている。


「中山 達也 年内中に芸能界復帰

イクメンパパとして新境地へ。」

見出しに書かれていた新聞を見て ファンは湧き上がってたけど 私にとっては悪いニュース。

 

確実に一緒に育児できるタイムリミットは3ヶ月もない。 

だからこそ 呑気に言う浩二にムッとする。



並木路の紅葉シーズンが佳境を迎え、観光客が紅葉狩りをしているニュースで全日持ち越しになっていくに連れて浩二との育児が終わりに近づく。


ミルクもオムツも入浴も寝かしつけも全て自分ひとりでやらなけらばならない。


浩二 「さぁ今日は 美咲の大好物のエビフライを作ったぞ!」


いくら好きだからとはいえ、揚げ物を作るなんてとは思ったが、ヘルシーオイル使用で全く油がきつくないし、エビのプリプリ食感も相まってどんどんと箸が進む。


浩二 「レシピ本を見て作ったんだ!」


最近の浩二の料理スキルの高さには驚かされるばかりだった。

週に一回は書店に行って 料理本を買っては、メモ帳に書き記す熱心さ


しかし芸能界復帰までは一ヶ月を切っていた。





康介が夜泣きをすることは滅多になかった。

その反面懐くことも少なかった。


素直に寝て 素直に食べて 素直に入浴する。

模範だけどマニュアルのような赤ちゃんだった。


いないいないばぁで笑った回数は数える程度でガラガラにも反応しない。

唯一の不安要素だった。



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