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6話

       六


 ロナルディーノにパスが出る。足の外側で滑らかに止める。

 ディフェンスと対峙した。ロナルディーノ、サンバのようなステップで翻弄する。試合中にも拘わらず、心底楽しげな笑顔だった。

 敵の重心が偏った。すかさず左前へボールを浮かすと、疾風のごとく駆け出す。

 カバーの5番が立ちはだかった。ロナルディーノ、左にステップ。即座に右に切り返してドリブル再開。

 わずかに進んでシュートを撃った。横回転のボールがヴァレンスアのゴールを襲う。

 キーパーは慌てて跳躍。しかし触れられず、ボールはクロスバーを掠めてネットを揺らした。

 ロナルディーノは観客席へ爆走し、両手をめちゃくちゃにばたつかせつつ跳んだ。寄ってきたチームメイトにばしばしと手で手荒い祝福を受けると、いっそう顔をほころばせる。

 観客席は爆発していた。ヴァルサファンの喜びのジャンプで、地震すら起きそうだった。諦め顔のヴァレンスアファンは、あまりにも圧倒的な敵エースへスタンディングオベーションをしている。

 後半四十六分、ヴァルサ、ダメ押しの二点目だった。

 ボールがセンターに戻った。相方からボールを受けた武智はドリブルするが、すぐさま笛が鳴る。

 試合終了。ヴァルサは二対〇でヴァレンスアに勝利した。

「スコア以上の完勝、だね。攻撃は眩いばかりにスペクタクル。レギュラーに怪我人がいても、ヴァルサはやっぱりヴァルサだった」

 感服顔のエレナが、感慨が込もった調子で呟いた。

「守備の面でもほぼ完璧だったな。キーパーとディフェンス陣の連携は淀みなく武智にも大した仕事はさせなかった」

 神白は平静に所感を述べていった。コートの中では、両チームの選手が話し込んだりハグをしたりで健闘を讃え合っている。

(何度見ても清々しいよな)エレナと天馬が盛んに意見を交わせる中、神白は小さく感動していた。

 その後も神白たちは感じたところを口にしていった。やがてヴァルサの選手が、固まって客席へと寄ってきた。どの顔も達成感と充実感に満ちている。

 唐突に、トランペットの音が鳴り始めた。

「おっ、ついに始まったっすね! オレの魂の歌、すなわちソウル・ソングが!」顔全体が喜色の天馬が、がたんと立ち上がり叫んだ。

 トランペットの前奏の後に、複数の男女が雄々しく歌い始めた。ヴァルサの応援歌である。

 ファンや選手の団結と、独裁政権時代に弾圧されたカタルーニャ人の誇りとを乗せた歌が、勇壮な調子でスタジアム中に響き渡る。

 神白の周囲の観客のほとんどが、立ち上がって斉唱し、手を打ち鳴らしていた。三つ隣の初老の男性などは、大声で歌いながらぼろぼろと涙を零していた。

(Mes que un club(「クラブ以上のクラブ」の意)、か。重いな。でも俺はここでみんなに認められて、誰もが羨むような最高のキャリアを送るんだ)

 神白はヴァルサの選手たちを注視しつつ、強い決意を再確認していた。サビのチームの相性の連呼が、スタジアムを揺らがさんばかりの勢いで轟いていた。


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