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6話

       六


 ビジャルがパスを受ける。場所はペナルティーエリアの左角。その前ではアリウムが油断なく半身の構えを取っている。

 右に持ち出した。シュートの流れに入る。アリウムが足を出す。ボールはそれを躱して、神白の守るゴールへと飛んで来る。

 神白は跳んだ。左手だけで触れると、わずかに軌道が変わった。すぐに金属音がして、地に落ちていく神白の視界に跳ね返ったボールが入ってくる。

 ヴァルサ4番が止めた。ゴールに背を向けた姿勢だった。後ろからは敵7番が迫る。

「クリアだ!」神白の大声を受けて、4番はすぐに右方に出して蹴った。ボールは二度バウンドして、タッチラインを割った。

 後半も残り二十五分ほどになった。オーバーヘッドキック以降、ビジャルは好プレーを連発していた。ジムナスティコの他のメンバーも大エースの好調に奮起し、ヴァルサは守備に奔走させられっぱなしだった。

 神白は焦燥を深めつつも、集中を持続させ守備を統率していた。めったにないスタメンの試合を敗北で終えたくはなかった。

 敵のスローインは4番が行う様子だった。ラインから五歩ほど離れた位置にいる。すぐにボールを頭上に掲げたまま走り込み、ステップを刻む。

 4番が放った。ボールはぐんっと伸びて、そこそこの勢いでゴールの手前まで来た。ジムナスティコの得点源の一つである、ロングスローだった。

 相手10番がボールに接近。マーカーの6番も追うが、妨害される前に頭で触れた。

 フリック(掠らせて後方へ送る技)によりボールは勢いを増し、軌道は斜め後ろに変わった。

「キーパー!」自分が行くと強く宣言し、神白は片足ジャンプした。

(取れる!)確信した神白は両手を掲げた。ボールは掌に収まった。だが、事件は起こった。

 敵の7番も跳躍していた。神白に競り勝ち、ヘディングシュートを決める意図だ。7番は横からぶつかってきた。不意を突かれた神白は、ぐらりと体勢を崩した。

 ゴンッ! 聞こえてはならない鈍い音が、自分の頭から聞こえた。

(ぐっ!)ハンマーで殴られたような激痛に、神白は呻いた。7番との衝突で弾かれて、神白は頭をゴールポストにぶつけたのだった。

「イツキ!」レオンの切羽詰まった声が聞こえた。すぐに複数人が駆け寄る足音がする。だが神白は動けない。頭痛は激しく、思考がまとまらない感じさせした。

(──痛い。頭が割れそうだ。でも立たないと。控えのキーパーは、いない)

 神白は何とか手を動かして、地面に突いた。身体を支えてしゃがみ姿勢になる。

「神白君! 大丈夫?」エレナの恐れるような声が耳に届いた。神白はゆらりと立ち上がった。五、六人のチームメイトが、不安げな面持ちで見つめてきていた。

「大丈夫だよ。ちょっと打っただけだ。あと二十分ぐらいなら持つさ」神白は努めて明るく言葉を発した。にこっと、わざとらしく笑みすら浮かべてみせる。

 神白の台詞を聞いても、チームメイトは心配そうな顔を崩さなかった。

「イツキ! 行けるのか? 無理はするな」ベンチのゴドイから、実直な声音の問いかけが来た。隣ではチーム・ドクターが立ち上がっている。

「問題ないです!」神白は声を張り上げた。するとヴァルサのメンバーは、ゆっくりと各々のポジションに戻り始めた。ほとんどの者が訝しげな表情ではあったが。

(金属に頭をぶつけたんだ。正直、今すぐ医者に診てもらいたいさ。けど、俺がいなくなったらこの試合は負ける。今まで支えてくれたみんなのためにも、ここで退くって選択肢はない!)

 絶え間ない痛みに苦しみながらも、神白は決意を固めていた。


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