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5話

       五


 ヴァルサは以後も優勢だったが、前半は一対一のまま終わった。

 水分補給を済ませて、神白たちはゴドイ監督の話を聞いた。興奮した風なゴドイは同点シーンのカウンター攻撃を称賛し、後半も同じメンバーで行くと告げた。

 ジムナスティコのキックオフで後半が始まった。ゆっくりとボールは回され、トップ下の10番に渡る。ヴァルサ6番が距離を開けて相対する。

 神白のすぐ前には、アリウムとビジャルがいた。ビジャルがマークを引き剥がすべく、細かなステップを見せる。アリウムは機敏な動作で従いていく。

 ビジャルが唐突に引いていく。わずかに遅れてアリウムも追随する。

 10番はビジャルにパスした。ビジャルは足の裏で止めた。アリウム、後ろからがつがつとビジャルに当たって揺さぶる。

 しばらくキープし、ビジャルは4番に落とした。4番はダイレクトでキック。アリウムが上がってできた空間を速いボールが切り裂く。

 7番が反応した。インサイド(足の内側)で止めて、勢いそのままにドリブルで駆け上がる。

 ヴァルサ6番が寄せていく。しかし7番は、遠めの位置から撃った。高弾道のシュートが神白の守るゴールへと飛来する。

(ドライブシュート!)見切った神白は、バックステップで退く。やや前掛かりになっていたが、充分にカバーできる位置だった。

 シュートが近づいた。神白、真上に跳躍。包み込むようにボールを捉えると、すたりと着地した。

(そのぐらいは想定内だよ)冷静な心理状態の神白は、コート中を見回した。ヴァルサの前線は皆マークされ、速攻は無理そうな様子だった。

 神白は左の3番にスローした。3番はトラップし、顔を上げた。依然として、敵陣に綻びは見受けられない。

 3番は神白に戻した。神白はちらりと右を見た。蹴り真似を入れてから、足裏で転がし方向転換。やや手薄な中央のアリウムにパスを出す。

 アリウム、足の外側でボール迎えに行った。いつも通りのヴァルサの様子見のパス交換だった。しかし不測の事態が生じる。

 アリウムはトラップした。しかし、(……っ。敵に晒し過ぎだ!)神白は焦った。アリウムのふれたボールは、やや後ろに逸れていた。プレーにムラのあるアリウムの、明白なコントロールミスだった。

 刹那、ビジャルが加速。足指の付け根でボールを蹴り出し、ドリブルを始める。

 だがアリウムの対処も早い。ぐんっとスピードを上げて、身体をぶつけつつビジャルを追い掛ける。

 二人がペナルティーエリアまで来た。ビジャルはシュートモーションに入った。アリウムはすかさず右足を伸ばし、シュートの進路を遮る。

 撃っても入らないと判断したのか、ビジャルはスイングを止めた。すぐさまボールを後ろに引く。

 ビジャルは直立姿勢になった。一瞬の硬直の後に、こつん。踵で真後ろに出した。

 背後の10番が助走を取った。「レオン!」神白が叫ぶと、10番の斜め後ろからレオンが滑り込んだ。

(シュートは消した!)神白は確信する。

 だが10番は撃たなかった。ミートの瞬間に振りを止めてパスを送る。

 ボールが守備ラインの裏にふわりと飛んだ。バックスピンのかかったパスを、ビジャルが追う。

 アリウムはビジャルに並走。決して振り切られてはいなかった。

 ノーバウンドでビジャルは肩に当てた。真上に浮いたボールを、今度はオットセイのように頭で突く。

(来る!)スーパーシュートの予感に、神白は全身に力を込めた。

 ヘディングされたボールは、ややゴールから離れる方向に上がった。ビジャルはくるりと身体を反転。ゴールに背を向けると、円を描いて後ろに倒れ込んでいく。

 直前まで頭のあった位置へと右足を振った。綺麗に捉えられたボールは、超速でゴールへと飛んでくる。

 オーバーヘッドキック。トッププロの試合においてもめったに見られない、趙高等技術だった。

 神白は跳躍。パーにした左手になんとか当てた。直後に背後で、カンッ! ゴールの縁に当たった音がした。

 受け身を取った神白は、全力で立ち上がった。キャッチすべく駆け出すが、すぐに勢いを止める。

 ボールはコート外に出ていた。クロスバーの後ろの部分に当たったようだった。

(コントロールの難しい肩で頭上に上げて。頭でさらに上げつつ敵から離れた位置にボールをやって。そこからオーバーヘッドで枠に飛ばす? ……サーカスかよ。神業にも程があるだろ)

 神白は戦慄していた。どうにか今回はセーブできたが、もう一度同じプレーをされたらシャットアウトできる自信はなかった。


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