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決まってた了承に幸いもクソもねーだろっての



「よーし待て待て待てーい」



 ミズアオイが引き攣った顔で待ったを掛けたのを、オトギリソウは見ていた。



「決定してんのか? 完全に断言してたが決定してんのかそれは?」


「そうですね、最初は意見を聞くつもりだったのですが一種の刑という扱いでも良いか、と。刑のつもりであるなら囚人側の意見などほぼ関係ありませんので」


「それはわからなくもねえけどよぉ……」


「同意はしかねますねえ」



 キョウチクトウは眉を下げた苦笑でミズアオイの意見に賛同する。



「まず第一に、刑になどしては真っ当に兵士になりたい方が嫌がるのでは? 刑になるような職だという印象になると今居る兵士からのヘイトが溜まり、尚且つ募集出来る人材も減る事になるかと思われますが」


「俺は別に、今の状態で回す方がキツイから人員が増えるのは助かるだけだ」


「アナタには聞いてませんし兵士が言って良いんですかソレ」



 あの兵士本当に緩すぎないか。



「当然そこは考えていますよ」



 それらの会話を完全にスルーし、執事は言う。



「元囚人である兵士には危険な仕事を多めにしていただきます。悪人蔓延る地への潜入、摘発などですね。真っ当な人間がこれを行うと慣れない故に悪に染まる、あるいはその慣れない姿から潜入だとバレますので」


「あー、それは確かに僕達本職だし、特に僕とか高値で買い取ってくれる人とか捜してそういうトコ出入りするもんね……ザクロもだけど」


「……私はただ…………そういうところになら一つになってくれる人が居るんじゃないかって……そう思って行くだけで……」



 ザクロは被害者顔でそう言うが、その言葉に己を含めたザクロをよく知るメンバーの殆どが半目になった。



「お前そう言ってチョロいの引っかけてはソイツの人生ズタボロにするだろ毎回毎回」


「タンジー酷い……! 私は一つになりたいだけで、そう思っているだけなのに、どうしても一つになれないからこの人じゃ駄目なんだって思って泣きながら別れてるんだよ……!?」


「そもそもお前の場合、一つになれればそれで良いというのが根底にあるからな…………」



 スイートピーは嫌気が積もり積もった深い深い溜め息を吐く。



「結果、まだ多少夢見がちな人間が引っかかるわけだが」


「心中しようとは何度かしたけど、でも結局一つにはなれないから、やりかけた事はあっても実際に死んだ事は無いし……!」


「お前が心中で入水自殺しようとした結果失敗してお前だけ生きてて、相手の女が息してなかったのを見た時の俺達の動揺がわかるか」


「俺は依存しがちな寂しがり屋なもんだから一回手元に置いたら相手が何と主張しようともう駄目だし、だからこそ裏切り者はどうしても仕留める以外の選択肢が無いが……俺達は襲撃や人攫いこそすれど、人殺しの集団ってわけじゃねえしなあ」


「アレはマジでオトギリソウが居なかったらヤバかったな……」



 ミズアオイの言葉に己もまた遠い目になる。

 魔法で救命活動とか初めてやった。

 つまり結果的に死人が出ていないだけであって、ザクロの一つになりたい願望は場合によっては死人が数人出ていた可能性が高いというもの。



「……あのですね、本当にこんな社会不適合者を兵士にするおつもりで? 当方も社会に馴染めるとは到底思えませんが、ザクロなどその際たるものだと思いますよ?」


「一度兵士になれば、とりあえず最低限の動きが出来るよう騎士であるイチョウに放り投げますので、私の方は問題ありません」


「無責任って言うんじゃないのか、ソレ」



 己の呟きは無視された。

 嫌味ったらしいのか中々にイイ性格をしているのかよくわからん。



「ではまあ、利用価値についても納得がいきましたので第一の理由は良いと致しましょう。実際ポトスなどは詳しいので、聞けばある程度の巣窟は発覚するでしょうし」



 ですが、とキョウチクトウは首を傾げる。



「第二に、当方達がきちんとあなた方に付き従う理由がありません。当方達は捕まった時点で色々と諦めも入っておりますので、このまま穀潰しになり処刑へ至ってもわりと覚悟は決まっております」


「決まってねえよ私は」


「タンジーの言葉は無視してください」


「おいこら無視すんなキョウチクトウ!」



 タンジーが噛みつくようにそう叫ぶが、まあタンジーはいつだって噛みつくような事しか言わないので無視で良い。

 比較的静かに語る時が本音で、それ以外は身を守る為のトゲある防御みたいなものだ。



「そんな当方達を、どう従わせるのでしょう?」



 キョウチクトウは人差し指を唇の前へ持って来て口の端を吊り上げ、ギィ、という音が聞こえそうな程に歪んだ笑みを浮かべていた。

 小首を傾げて嗤うその表情は、恐らく素なのだろう。

 脅かす為でも何でもない、キョウチクトウの素。

 基本的にはまともに見えて、ふとした瞬間狂気を感じるのがキョウチクトウだ。



「この牢屋にはシステムがありまして」



 執事は尚も表情を変えずに口を開く。



「この牢屋から出るには、誓約書へのサインが必要となります。二度と再犯しない、という誓約書です。それに逆らえば一度目は手足の内どれか一つが焼け焦げて消滅し、二度目は頭部が完全燃焼して死亡となります」


「それ効果エグくね?」


「誓約書自体は適当な紙で良いのですが、そういった仕様についてはこの牢屋を用意した昔々のかつての勇者様ですので。勿論その誓約書へサインさせる際、相手が文字を読めないからとこちら側が有利な事を書き、虚偽の内容を口頭で伝達してサインを書かせた場合、こちら側に罰が下ります」


「正直そのやり取りに毎回こっちの肝も冷える」


「だろうな」



 うん、と流石のマリーゴールドも真顔で兵士の言葉に頷いていた。



「ですので再犯については防止可能です。そちらの方は魔法が使えるようですが、それでどうにかなるような魔法でもありません」


「だろうな」



 こちらとしてもそう言わざるを得ない。

 この牢屋レベルの魔法が使える存在が作ったシステムとなれば、手出しするだけ己の首を絞める事になるだろう。

 しかも使用可能な魔法のレベルからするとその実力差は巨人対小人級だろう。

 勿論こちらが小人側だ。

 己だってそのくらいの実力差はわかる。


 ……人間どころか小人レベルしか使えないからな……。


 しかし初級レベルでも充分過ぎる程に魔法使いと認識される。

 そのレベルで今の時代、魔法というものの力が薄れているのだ。

 勇者達がこのまま色々改善していき、魔王の呪いを完全に解除し、精霊達の力を全盛期並みに借りれるようになればともかく。



「それと、今言った誓約書の方は従うべきルールですが、生き物である以上、やはり上の存在に従う、という本能があります。イチョウは変なところで幸が薄い男ではありますが、あれで敵と部下には相当に容赦が無いので、逆らおうとする気は根こそぎ潰される事でしょう。頑張ってください」


「この人酷い……淡々と怖い事を言ってくるよ…………」



 ザクロがしくしくと泣き始めた。



「きっと私達と同じように独りぼっちで、誰かと一つになる事が出来なくて、人の気持ちを理解出来ないんだ……だから私達は誰かと一つになって、孤独から離れるべきなのに…………」


「お前が発言すると最初まともな発言だと思ったのに全部台無しになるから困るんだよな…………」



 半目のミズアオイの言葉に頷いておく。

 淡々と怖い事を言ってくる、という点には同意だったが、その後のザクロの主観入りまくりな偏見が付け足されるともう完全にザクロの偏見でしかない。

 会話にはあまり混ぜない方が良いタイプだ。



「孤独かどうかはともかくとして、如何しますか? 私としては兵士になるのを選んでしごきにしごかれて真面目に働いてくださると助かります。人手が足りないのもそうですが、働かない者に食べさせる食事などありませんので」


「第三だ」



 マリーゴールドが手を挙げた。



「被害者は俺達が出るのを望まないだろう。二度と関わりたくないと、そう思っているんじゃないのか」


「その被害者達に話を聞いたらこちらが拍子抜けする程あっさりしていたのでこういった処置を取ろうと判断しました」


「は?」


「被害者の六名にどういった処遇が良いかを聞いたところ、まあ良い感じで、と言われまして」


「雑だな…………」


「愛の勇者様に至ってはとても素敵な人達だったから適材適所で割り振ればかなり助けてくれると思う、と仰られました。話した感じ人も良かった、と」


「まあ俺みたいな役立たずの凡人すらも好意的に見るくらいだからな、あの勇者様は」



 それは何となくわかるが、あの愛の勇者は本当に大丈夫なんだろうか。

 母親の腹の中にでも警戒心を置き忘れて生まれたんじゃないかとこちらが心配してしまう。

 心配する立場でもないのに心配してしまう辺り、本当にヤバい。



「それでどうしたものかと思っていたところ、いっその事首輪でもつけて使えるだけ使って働いてもらうっていう労働奉仕させたら良いんじゃないか、と心の勇者様が仰られたので、まあそれが手っ取り早いし色々片付くか、と判断しました」


「アンタ絶対に最後放り投げたな?」


「元が廃材だろうが中古だろうが新品だろうが高級品だろうが、重要なのは使えるかどうかです。使えないガラクタで無ければ原材料が何であろうと問題はありません。違いますか」


「それには同意するが廃材本人前にして言うな。俺以外は最高の素質持った隠れプレミア品だぞ」



 双方言い方が絶妙に嬉しくないのはどうにかならないんだろうか。



「それで、既に売られてしまった方のほうはルートもわかりませんので意見を聞く以前の問題ですが、あなた方が協力するというのであればそちらもある程度保護、また悪人の捕縛が可能となります。要するにご協力ください強制ですが、という事です」


「強制か」


「刑ですので。意見を聞くつもりはありますが、それが通るわけではないのを留意していただけるとこちらとしても助かります」



 執事のその言葉に、マリーゴールドは唸りながら天井を仰いだ。

 うあー、と言葉にならない唸り声を上げるマリーゴールドは数回身を揺らし、一気に脱力して溜め息を吐く。



「あけっぴろげが過ぎるが逆にわかりやすいし、ここで腐り続けたり真意がわからねえヤツの腹を探るよりはデリカシー皆無でハッキリ物を言い過ぎる上司の方がマシか…………」


「了承を頂けて幸いです」


「決まってた了承に幸いもクソもねーだろっての」



 そう返しつつも、マリーゴールドは仕方がないという笑みを浮かべ、差し出された執事の手を強く叩いた。

 執事の方も薄く笑みを浮かべていた辺り、了承の意であるハイタッチ、なのだろう。





 セリは安堵の息を吐いていた。

 包み隠すという選択肢を早々に放棄して語って良かった、と思う。

 己の場合は愛の勇者のように、思ったままを言った際のダイレクトな感情を伝える事など出来やしない為、そこまで言って良いのかレベルで本音を暴露した方が早いと思ったのは正解だった。


 ……私としても、ここをクリアすればあとはイチョウに丸投げすれば良い話です。


 あの男は微妙に要らんとこ頑固だったり幸が薄かったり空回りが多かったり損な役回りになる事が多いものの、アレでかなり優秀なのだ。

 勿論、戦闘面に限った話ではあるが。


 ……アレで、国の中でも三本指には入る実力者だったそうですからね。


 それも通販の勇者が居た頃、己が生まれる前、魔王の意思の下で魔物達が能動的に人間と敵対していた時代の話だ。

 あの時代は現代から見て、相当な強さが無いと魔物と戦う事は出来なかったらしい。

 つまりかなりの実力者が多数存在した中での三本指だ。

 現在は年を取ったし、全盛期程の鍛え方ではないというブランクこそあれど、あの脳筋を思えばそうそう衰えてはいまい。

 他の二本指は既に亡くなっている事を思えば、トップレベルと言えるかもしれない戦闘特化人物。


 ……そして、部下と判断すればわりと容赦がありませんから。


 是非ともビシバシやって、仕事と鍛錬以外を考える暇など無いレベルにしてやって欲しいところだ。

 怠惰と楽は違い、怠惰を選んだ者は己の存在意義を無くして自分の必要性を見失う。

 なればこそ、生きる意味を与えた方が良いだろう。

 最初の踏み出しはイチョウがやるだろうから、本当の自分自身の生きる意味は後からゆっくり探せば良いだけだ。



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