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能力説明タイム⑤



「次、私ですね?」


「ああ」



 絆愛は背にぴとりとくっついてきた情陶に、そう頷いた。

 ぴったりとくっついていて、背に情陶の頬の感触がして、腰辺りに指の一本一本で確認するような動きの手があるのがわかるが、情陶は普段からこんな感じなので気にもならない。

 情陶は人の背後に回って密着するのが好きなのだ。


 ……まあ、クラスの皆以外にしているのを目撃した事は無いから、クラス限定なのかもしれないが。


 クラス限定の態度、というのは多い。

 己は基本的に誰に対してもオープンラブなのでその感覚は正直よくわからないが、人間の個体差とはそういうものだろうから問題無し。



「情陶の能力は、情報。情陶、優信が出してくれたこのチャットみたいなホログラムをイメージ出来るか?出来れば教科書とか漫画とか、そういうのを映し出すイメージで」


「文字系、私すぐに眠くなっちゃうんですが……」



 うーん、と情陶は唸った。





 情陶は文字があまり得意ではない。

 ある程度の判断は出来るしテストだって可能だし、別にそこらに溢れている看板を見て眠くなるという事は無い。

 が、それはそれとして文字の羅列を読んで意味を理解しようとすると途端に眠気が来てしまう。


 ……だから、お泊まりの勉強会で皆が口頭で教えてくれたりするの、助かるんですよねー……。


 そう考えつつ、どうしようかと情陶は考える。

 絆愛は何かを表示して色々把握させたいようだが、正直読んだ漫画の内容などはあまり覚えて居ないのだ。

 アニメや映画、ドラマなどであればまだ良いが、本になると途端に厳しい。


 ……んん、でもわざわざそう言うって事は意味があるんだと思いますし……。


 とりあえず皆で回し読みした少年漫画でも思い浮かべよう、と情陶は念じた。





 絆愛の背から顔を出している情陶が目を伏せてすぐ、パ、と目の前にホログラムが表示された。



「そうそう、出来てる」


「あ、良かったです」



 目を開けた情陶は、表示されているホログラムを見て安堵したようにこちらのの背に頭をぐりぐりと押し付ける。

 甘えでもあるのだろうその態度は、甘えても良い相手だと認識されているという事であり、嬉しいものだ。



「この通り、情陶の能力は記憶にある情報を取り出せるというもの。何なら……そうだな、例えばこの作品のあらすじを簡潔にしたい、と思えば情報能力が自動で動き、情報を精査し、簡潔なあらすじで上手に綴ってくれるはずだ」


「……それ、思ったより高性能ですよね……?」


「ああ、だから情報の精査の時や様々な懸念事項を纏める際に役立つと思う。自動でやってくれるそうだから、情陶は念じれば良い」


「能力がもう自立してません? それ」


「電子レンジは高性能だが、人間がスイッチを入れない限り起動はしないだろう?」


「あー、成る程」



 納得したように情陶は頷いた。

 説明下手な己ではあるが、今回は上手い例えが出来たようで喜ばしい。



愛 『ちなみにだが、これ、情陶が覚えてない情報も引き出せるんだ』


情報『えっ?』


時 『覚えてないのに引き出せるの?』


愛 『なんでも、忘れているだけであってその知識が入っていないわけではない、らしい』


愛 『だから一度見聞きすればその情報はしっかりと仕入れられている為、情陶本人が一瞬見た通りすがりの車の内装すらも引き出そうとすれば引き出せる、との事だ』


病 『つまり、本を読む気なくパラパラと全ページ捲ってその文字列をぼんやりと背景のように認識するだけでも、充分に中身が入るって事なのか?』


愛 『らしい』


愛 『情陶が覚えていなくとも、その情報についてをイメージしながらホログラムを出せば表示される。しかもその情報群の中から色々と精査する事も可能らしいから、相当に有用だぞ』


情報『もうそれ、高性能なAIとかそういう系統じゃないですかね……?』


天 『良い事じゃない』



「まあ、確かに……」



 背に触れている情陶の頭が動いたので、頷いているらしい。



因果『なあ、自動で情報を精査ってどういう事なのか、俺ちょっとよくわかってねーんだが……』


飛翔『同じく!』


木刀『あー……時々ゲームの攻略サイト、見るよね? 分岐があったりとか攻略チャートがあったりもするよね?』


飛翔『するね』


木刀『で、木みたいな分岐もあるだろう? スタートから伸びて行って、この選択肢を選ぶとこのルートでこっちの選択肢だとこのルートで、みたいな』


腐 『ああ、あるある』


木刀『そういった攻略情報は色々と実際にプレイした上で精査されてきちんとした情報として公開されるわけだけど、情陶の能力は、それらを自動でやってくれるって事』


木刀『普通なら僕達がプレイして情報をあるだけ集めてどれが正解かを物凄く調べる必要がある』


木刀『でも、それを能力が自動で色々シミュレートしたりで精査してくれるって事だろうね』


木刀『合ってる?』


愛 『なあ、やっぱり神から話聞いてたりとかしないか?』


木刀『脇腹思いっきり掴んであばら骨の下辺りにぐいぐい親指食い込ませて呻かせたけど、そのくらいかな』


愛 『いや何をしてるんだ!?』



 神を口説いた時、何故か感涙された事を思い出した。

 他のメンバーが中々に酷い対応だったらしい事は、まあ、クラスメイトとしてお察しだったので理解したが、まさかそこまでやっていたとは。

 胸倉掴んだりしたのは知っていたが、思った以上に物理ダメージを入れている。


 ……それは口説いた瞬間に泣きもするよな……。


 だからこそ己に全員分の能力の詳細を教えたのだろうし、ついでに色々と神側の事情を教えてくれたのだろうな、とも思う。

 かなりシークレットだろうと思う情報もくれたし。


 ……本当、私に口説き癖があって良かった。


 これで自分までもがクラスメイトの不在に動揺して攻撃的になっていたら、完全に詰んでいたところだ。

 皆と同じくらいクラスメイトが好きなのは事実だが、他の全ても好きな自分で本当に良かった。


 ……うん、全てを愛せる自分万歳。


 己は皆を愛しているのと同様に、自分自身もわりとその対象だ。

 自分を含めた全てを愛しているのが己である。

 まあ普通に考えて自分を愛していないヤツが他の全てを愛せるはずもないので、至極当然でしかないのだが。

 ちょっと他を優先し過ぎるきらいがあるだけで。



通信『ああ、でも無意識下でも記憶……というか記録されるなら、こちらの世界の情報は出来るだけ把握した方が良いよね』


通信『困った時にヘルプを見る、みたいな事が出来るって事だろう?』


水 『ああ……確かにそれは助かります』


水 『私も結構文字系は記憶出来る方ですが、説明となると口頭になって手間取りますからね。内容を噛み砕く必要もありますし』


水 『そう思うと、情報として図や結論が表示されるのはありがたいです』


情報『これ、私が特に積極的に情報収集するって事ですよねー……』


群 『まあ、パラパラ読みでどうにかなるだけまだマシだろう』


群 『物覚えが悪すぎる俺が言うのも何だが』


情報『うー、まあ、確かに私自身で覚えなくても良いのは助かりますけどー……』


再生『そういえば』



 再無の書き込みに、ん? と己は僅かに首を傾げる。



再生『僕もアニメを再生したり出来るけど、これは情陶も出来るのかな?』


愛 『ああ、それは無理だ』


愛 『アニメのワンシーンを静画で、ならイケるらしいが』


情報『私のはあくまで情報だから漫画などの紙面系で、再生の場合は映像などの動画系、という事ですね?』


愛 『そういう事だな。あと情報の場合は聞いた事を文字として表示するが、再生の場合は音として表示するそうだ』


地面『あら、それは助かるわ』


地面『ボイスレコーダーや幽良の耳だけじゃなく、再無による再生もあれば無敵じゃない』


地面『再生なら映像付きだし』


情報『私は? 私なんかちょっと忘れられてません?』


地面『あなたはそういうやり取りをしている際、相手が失言するのを待つ係よ。情報として残っていれば証拠になるわ』


穴 『地狐、お前誰と戦うつもりだ?』


地面『いつだって誰かと戦う準備をしておけば、いざという時に役立つのよ』


穴 『いざって時は殴れば良いって考えてる俺よりも、いつでも戦う前提の思考してるお前の方が実は尖ってるとこあるよな……』



 その感はちょっとある気がする、と苦笑を零す。

 頼もしいのは事実だし、自分はそういった攻撃系が一切無いという自覚もあるので、守られる身としてはありがたい部分だが。



「次、心声の能力だが、心声の能力は心……つまり、心の声を聞く事が出来る」


「うん、さっきからめちゃくちゃ聞こえてる」



心 『聞こえるからこそ後で共有しないと、その為にもちゃんと覚えてないと、ってなって喋る余裕も無いって感じ!』



 その元気さに、はは、と絆愛は笑った。





 心の声が聞こえるという言葉に、ブナ王は少しヒヤリとしたものを感じて目を見開いていた。


 ……それは、つまり……。


 こちらの心の声も聞こえているという事。

 帰す方法を知らないという事も、かつての勇者にどれだけ酷い仕打ちをしたかも、そしてこのまま魔王の呪いが蔓延ればどうなるかも、伝わってしまっている。


 ……いや。


 ふぅ、とブナ王は息を吐いた。


 ……これは、いずれ伝えるべき事であり、隠し通せるはずもないもの。


 ならば遅かれ早かれ知られるだろうから、問題らしい問題はあるまい。

 早めに知らせた方が良いのも事実であり、伝えなかったのは一重にこちらの覚悟がいまいち決まっていなかっただけなのだから。

 寧ろこちらがいざ伝えたとしても、それが真実かがわからなければ、どうしようもない。

 そう思えば、心の声を読み取られているからこそ真実だと伝わるのは、一種の利点とも言えよう。





 心声はブナ王の心の声が聞こえていた。

 というか他の人達の心の声も、何ならクラスの皆の心の声も聞こえているのだが、能力にフィルターだか安全装置だかがついているのか、どれが心の声で実際の声か、そして誰が言っているのかがごっちゃになったりはしていない。

 その為、誰が何を思っているのかがしっかりとわかる。


 ……絆愛は無条件かつソッコで好印象抱いてたけど、聞こえる心の声からすると、ブナ王ってマジで味方枠って感じがするんだよねェ。


 他の人達もそうだ。

 どうもアウトっぽい人達は旨味が無いからと既に彼らを見限っているようだが、それが幸いした、と言える。そのくらい、皆が皆こちらに対して真摯な態度で接していた。


 ……結構色々シリアスな世界感なのか、わりとシリアスかつ真面目に考えてるみたいだしィ。


 クラスの皆は、まあ気心知れてる相手だから別に心の声を聞かれるくらいは、という感じ。

 けれどブナ王達はそうじゃないし、色々と大変な機密だってあるだろう。

 なのにあっさりと考えを改めて、心を読まれる事で発生する利点の方に意識を向けた。


 ……うん、色々な問題を改善してこうっていう意思がある、って感じかなァ。


 これで思考がマイナスに向かうようならいまいち明るい未来が見えないので微妙な気分になるが、全体的に反省がありつつも意識的にポジティブを目指してるように思える。

 反省をしつつも前向きに、というのは民を率いる王としては良い事だろう。

 多分。


 ……心声も絆愛……程とは流石に言わないけど、他の皆に比べればわりと他の人とも接するタイプだしねん。


 だから好意的に見れる、というのはあるかもしれない。

 クラスメイトを大事にしようとしてない相手は己からすればアウト判定なので壁を持って接するが、クラスメイトに優しい相手ならオッケーだ。

 こっちも仲良くしたくなる。

 他の皆は基本的にクラスメイト以外に興味が無い為ちょいちょい排他的な部分があるし、心声もそれが無いとは言えないが、まあ、聞こえる心の声から判断する限り、彼らは味方と判断して良いはずだ。


 ……にしても、絆愛が本気で好意的過ぎるっていうか、他人を嫌いになるって感情知らないんじゃないかなってレベルだよねェ、これ……。


 素であの口説き文句を言っているのはわかっていたが、今回で確信した結果、他の人を口説いているだけでもこっちがちょっと恥ずかしくなるくらい内心が好意に満ちていて、これは慣れるまでちょっと掛かりそうだ。

 聞いてるこちらが恥ずかしくなるくらい、絆愛の言葉も心も好意に満ち溢れ切っている。





 絆愛はチャットのキーボードを叩いた。



愛 『ちなみに心という能力だが、心の声を聞ける範囲はレベルに応じて広くなっていくらしい』


愛 『掃潔や獣生みたいに発動するタイプじゃなくて、宝や幽良のように常時発動型タイプだな』


心 『常時発動って言っても、宝はステータスとか意識すれば見れるんだよねん?』


愛 『ああ』



 良いところに気が付いたな、と絆愛は思う。

 というか今まで忘れていたが、そういえばまだ言うべき事はあったのだ。



「………………」



 心の声が聞こえているのだろう心声が慈しみのある目で見つめて来るが、こちらは心の声が聞こえないのでどういう意図の視線なのかちょっとわからない。


 ……うん、でも神からちゃんと説明受けたの自分オンリーなのにド忘れは無いな、すまん。



愛 『心声の場合、ターゲットを決めれば無意識部分や深層心理、あと本人も思い浮かべていない記憶なんかを把握出来るらしい』


愛 『心の声がメインではあるようだが、それに付随する記憶などもイメージとして伝わっていたりしないか?』


愛 『それの上位版だ』


心 『あー、それはちょっとあるかもォ』


心 『何か図が出て来る時があるなあとは思ってたけど、そういう事かァ。成る程ねん』


耳 『ちょ、私は!? 今んとこ私聴覚が優れただけよ!?』


腐 『あとどこからともなく耳を取り出せるっつー謎能力な』


耳 『く、くそ……応用すれば発酵食品系が作れるだろう衛琉が相手じゃ言い返せない……!』



 仲が良いなあ。



愛 『幽良の場合だがな、集中すれば相手の一挙一動を聞き分けられるそうだぞ。それこそ心音から空気の流れまで』


耳 『それ、宝でも出来そうよね』


見 『えっ』


愛 『大正解』


見 『えっ』


愛 『ただ、音を沢山聞けるというのが重要なんだ。ここで優信が居るとそれが活かせる』


通信『僕?』


愛 『通信とは、要するに繋げる能力だろう?連絡したり、情報を送ったりという、そういうもの』


通信『まあ、そうだね。でもそれが?』


愛 『だから例えば幽良と情陶の間を優信が取り持てば、幽良が聞いたものを情陶に直で送れると、そういう事だ』


愛 『そうなれば情陶の情報に幽良の聞く全てが蓄積される』


全員『うわチート……』



 明らかファンタジーな世界に突然放り込まれるというハンデがあるので、そのくらいは許されたいところだ。

 まあ創造神直々にプレゼントしてくれた能力という事は世界に認められている為、反則であるチートとは違う気がするが。



愛 『ただしこの場合、幽良がリアルタイムで聞いている必要がある』


地面『ああ、電話みたいなもの、だからよね?』


地面『幽良の方から聞こえる音を情陶が録音してるようなものであって、幽良がその前に聞いたのは伝わって来ないわ』


愛 『その通り』



 流石地狐。



愛 『そして過去に聞いたものを伝えたい場合は、間に心声を入れればいける』


心 『心声?』


愛 『ああ。幽良が聞いたものを思い出し、心声がそれを読み取り、読み取ったそれを優信が情陶に繋げ、情陶がそれを受け取る事で情報として保管される、という事だ』


追従『バケツリレーかい?』


見 『あー、大体そんな感じするする』


情報『とにかく大体の情報は私に繋げて記録させとけ、って事ですよね、それ』


地面『情報は大事よ』


金 『基本的に情報で戦って勝ち抜いて来た地狐が言うと説得力に満ち溢れてますね……』



 まったくだ。



「次は体刀だが、体刀の能力は肉体」


「つまり、私は肉体強化が出来ると?」


「まあそれも出来るが、正確には自分の肉体のみを好きなように変質させる事が可能、らしい。他人は無理だそうだ」


「?」



 わからんという目で見られてしまった。



「例えば手だけを大きくする、例えば筋力を物凄く強くする、例えば頑丈さを変質させる、例えば体重を異様に軽くする事で二次元のような跳躍が出来る……とか、そういった事だな」



 伝えると、説明不備なのかむーんという表情をされた。



「……つまり、私の場合は私の体を変化させるオンリーだと、そういう事か?」


「それだ」


「ふむ」



 腕を組んでいた体刀は右手を少し前に出し、少し考えるようにそれを見て、バキリという音と共にその手を鋭い爪が備わった黒い肌の大きな手へと変質させた。

 その状態で何度か手をグーパーした体刀は、こちらへと視線を向ける。



「こうか」


「…………そうだ、し、完璧に合っているが、実行が早いな?」


「様子を見る限り危険は無いだろうと思ってな」



 しかし、と体刀は変化させていた手を元通りに戻し、再び何度かグーパーして感覚を確かめた。



「これならば戦闘が可能そうか。再無の再生能力無しで回復させる事が出来るかは不明だが、使用回数的に問題が無ければ傷を変質させて無傷に出来る可能性もある……と考えると、先陣を切るなり多少リスクが高い仕事をこなすのが良さそうだ」


「いや」



 体刀の言葉に、ブナ王が待ったをかける。



「我々としては確かに魔物との戦いやリスクの高い事をしてもらえるのはありがたいが、それでは貴殿が危険に晒されるという事になる。儂らはかつての勇者をそういった危険に晒したからこそ、無理をさせる気は」


「無理をする気は毛頭無い」



 心配そうに眉を下げているブナ王の言葉に、体刀はピシャリとそう告げた。



「私はただクラスメイトである彼ら彼女らの安全を確保したいだけなのでな。貴様らに必要以上の借りを作る気も無い。そして私達が先陣を切る事を当然にする気もありはしないが、やらねば何故お前達がやらないのかと言う人間が居ないとも限らん」


「む…………」



 本来やる必要が無い異世界の人間相手に、やる必要があるこの世界側の人間がそう言うのだろうかと絆愛はちょっと思ったが、ブナ王がとても難しい顔をしたので多分あり得るのだろう。

 難しいというか、否定したいけれど否定出来ないジレンマに苛まれているしょっぱい顔、という感じ。



「だから文句を言われん程度にやれる事はやるつもりで、それだけだ。働かざる者食うべからず」



追従『それってつまり働くよりも強奪を選んだ賊系は仕留めるって事かな?』


肉体『働きには働きが、強奪には強奪が帰って来るものだろう』


穴 『過激な考えしてんなあ』


天 『犬穴、アンタが言うの? それ』



 犬穴はクラス内の過激寄りタイプなので、天恵のツッコミはもっともだった。



愛 『あ、ちなみにだがな体刀、この能力で全身を余さず変化させる、というのは止めた方が良いぞ』


肉体『危険があるのか?』


愛 『危険というか、一部を変えるだけなら問題は無いらしい』


愛 『一部であれば、残っている普段通りの部分が元の形状を記憶しているからこそちゃんと元の形に戻れるんだそうだ』


愛 『ただし全身を変質させると元の形状の記憶が乱れる為、最悪元の姿に戻っても微妙な違和感が発生する』


肉体『わからん』


地面『僕はわかったから解説するわね』


地面『要するに細胞レベルで変化させてるから、元に戻る時に少しでも違うと違和感が残るって事』


地面『体刀の遺伝子配列がちょっと変わったりとかもあり得るわ』


愛 『そうそう』



 体刀は眉間にシワを寄せながら、少し無言で考える。



肉体『戻る時に男の体になってしまい、しかもそれが本当の姿として新しく上書きされるとか、そういう事か?』


地面『そうそう、上書きとかそれ系ね』


水 『セーブデータが肉体にあるからこそ、肉体全てを変質させるとバグでデータが全てリセットされて始めから、となるのでしょう』


水 『パソコンで色々書いてたのに保存が飛んで白紙になるようなアレです』


再生『記憶頼りに可能な限り再現しないと駄目なやつだ……』


情報『そして要所要所は覚えて居てもその他部分を覚えて居ない為、細かい言い回しや表現法がまったくの別物になるやつですね』


腐 『人体でそれやったらヤバくね?』


愛 『ヤバいぞ』


愛 『一応個人の体についての情報は常に最新のを従人が把握してくれているから良いが、いざそれに合わせようとすると難しいはずだ』


愛 『情陶と通信に頼んで、情報をダイレクトに伝えて貰いつつ従人のノートを頼りにしながら必死に調整するしか無いだろうな』


追従『まさか身体情報を事細かに書き記してるストーカー行動が役立つ日が来るなんてね……』


肉体『とりあえず私は私に戻れないのが怖いからそれを役立たせないようにするぞ?』


肉体『流石に自分を見失うのは嫌だ』


追従『まあ確かに』


病 『髪や目が変化して能力が与えられている辺り、既に元の自分は見失っている気がするがな』


心 『それは言っちゃ駄目だと思うよん、掃潔』



 心声の書き込みは事実そうであるという事を否定していないような気がするが、実際事実なので仕方がない。



「さて、時平だが」


「能力である時って、時間を早めたり遅くしたりとか、そういう系なのかな?」


「残念ながら違う。早回しスロー再生云々で言うなら、停止だな」


「時止め系かー」



 うわー、と時平は目を伏せた笑みを浮かべながら額に手を当てて天井を仰いだ。





 時平は自分の能力を聞いて、思った。


 ……殿堂入りのチート能力来ちゃったー……。


 気分的にはうっわとドン引きしてる感じ。

 ノーリスクならチート過ぎるし、ハイリスクなら割に合わない。



通信『時を止める系か。それはヤバいね』


腐 『天変地異と時止めが居る辺り最強布陣が過ぎるよなこれ』


飛翔『もう世界救うしかないよ』


金 『実際世界を救う為に召喚されちゃってますからねー』


見 『今更ながら皆その事実をかなり受け入れているが、ゲームとかの作品じゃ無くてリアルって考えると、正直きつく無いか?』


見 『牧場見学で屠殺を見届けたりはしたが、これから自分達でやるとなると厳しさはそれどころじゃないだろう』


因果『屠殺っつか、害獣退治だろ俺らがやるのは』


愛 『ああ、その事に対してだが、神曰く最初は心声を連れて行って魔物の心の声を聞いてもらえば情けは無くなるだろうとの事だ』


心 『え、心声? 殺される側の心の声とか最高にキツイと思うんだけどォ、情けが無くなるって事は想像とは違う感じだったりする?』


愛 『心配や懸念などから狼狽える心声も可愛らしいが、流石にそこまでは知らんぞ』



 心声が再無の腹に顔を埋めて唸りを上げた。


 ……なるよねー。


 絆愛はちょいちょい不意打ちで口説きを入れて来る為厄介だ。

 こういう真面目なシーンでは大分口説きを抑えてくれるから油断するのだが、時々その口説きが漏れ出る為、油断しているところにクリティカルヒットを出してくる。


 ……今は心が読めるようになってる心声がダウンするって事は、本当にさり気なく本心から零れ落ちたんだろうなぁ……。


 こう言おうと決めているのが聞こえていれば警戒や覚悟も出来ていただろうが、無意識下でぽろっと思った事を口にする場合は無理だ。警戒が間に合わなくて被弾する。

 そして被弾したという事は本当に考えが零れ出たという事で、ヤバい。


 ……本心からだからこそ、絆愛の口説きってダイレクトにクるもんね。


 その為復活に時間が掛かるのがいつもの流れだ。



「で、絆愛、俺の時止めってどういう感じなの?」


「時を止められる」


「うん、流石にそれはわかる」



 それが時止め。



「何というか……止まっている時の中では他の全員も止まっているから、自由に動けるのは時平だけらしい」


「使い方によっては大変な事になるヤツだよね……」



 盗人が手に入れちゃいけない能力ナンバーワン。



愛 『ただし他の人を動かしたりは可能だから、いざという時の避難をさせる事は出来るぞ』


時 『それ俺が全員をどうにか引きずる必要あるよね』


愛 『連発も可能』


時 『それ、ぐ、それは嬉しいし移動させる時の大変さを想像すると助かるけど……!』


愛 『しかも一回発動する際、時平の体感で最大三十分まで止められる』


時 『ねえ、この能力連発したら最終的に俺だけ異様に老けたりしない?』


通信『確かに昔読んだ漫画でそういうのあったよ』


愛 『いや、時が止まっている事に変わりはないからか、そういった事は無いらしい』


愛 『停止の中でも動けるだけだからな』


愛 『わかるか?』


時 『わかると思う?』



 どういう事かさっぱりだ。



水 『要するに、停止の影響は時平も受けていると、そういう事でしょう』


水 『停止していながらも動ける為、肉体はその分の経過が無い』


穴 『つまり老けねぇって事か?』


水 『簡潔に言うのであれば』


地面『あと検証しない事にはわからないけれど、時を止めている最中時平の肉体にも停止の効果があるというなら、その間の疲労は無いかもしれないわ』


地面『ただし時止め中に行った攻撃は時が動くと同時に相手にダメージを与えるでしょうから、停止中の疲労が一気に来る可能性もあるのよね』


時 『えーと?』


木刀『老化しないなら時止め効果が時平にも発揮されてるから、疲労が無い。ただし蓄積はされるから一気にどっと疲れが来るかも、って事』


時 『すぐには時間を動かさずに少し休憩挟んだ方が良いって事かな?』


愛 『それそれ』



 ……これ、絆愛の説明が上手いとか下手だとか関係無く、普通に説明が難しい事じゃないかな。


 神が直に伝えてくれたらもっと早く済んだのだろうが、神の話を聞かずに攻撃したのはこっちなので、文句を言われる事はあっても文句は言えない。


 ……皆が居ない事にキレて、つい髪の毛を相手の首に巻き付けちゃったから、本当文句を言われても文句言えない……。


 己の髪はとても長い。

 お団子にした上でサイドテールに出来るくらい長い。

 その為誰かの首に巻き付けてロープ代わりにするくらいは出来るのだ。


 ……いや、今までした事無いし初めてしたけど。


 そのくらい皆と突然引き離されたのが地雷だった為仕方がない。

 普通ならここは反省するところだろうが、あっちにも相当の非があるので妥当だろう、多分。

 こっちだってクラスの皆と一緒に説明を受ける事が出来れば、今こうしてブナ王達を相手にしながらも普通に会話する余裕があったわけだし。



愛 『あ、ちなみにこの時止め能力なんだがな、時を止めている最中に声を出すと切れるぞ』


時 『…………声を出さなかったら?』


愛 『最大三十分』


愛 『ただし一応TPの問題もあるから、現状そこまで長く止めたらすぐにTP切れを起こすと思うが』


時 『成る程』



 ふむ、と時平は考える。

 ちょっと試してみよう、と。



「じゃあちょっと、時止め試してみるね!」


「あ、やり方は」



 絆愛が言う前に、全てがピタリと制止した。


 ……あ、これやっぱりイメージで発動するんだ。


 アニメとかで時を止める系の能力はメジャーの為、そういう感じでイメージしたが、時が止まっているという事はこれで正解という事だろう。

 というか本当に全部が止まっていて、音も無くて空気の動きも無いというのは、逆に耳が痛い。


 ……耳に痛い程の静寂って、多分これだよね……。


 無音過ぎて無理に音を探し出そうとしているのか、耳鳴りが起きているような錯覚がある。

 しかし本当に止まっていてどうしたものか。


 ……とりあえず時を止めてたっていう証拠に、ちょっと移動してみようかな。


 とりあえず絆愛の背後、ぶつからない程度の位置へと移動した。

 他の皆からすれば瞬間移動にしか見えないだろう事を思うと、驚きからの反射で動いた結果肘がナイスショットを叩き出しかねない危険性があるからだ。

 慌てて振り向いても肘がヒットしない位置かどうかを確認し、良し、と一呼吸。



「こんな感じ?」


「うわっ!?」



 驚いた様子の絆愛が目を見開いて慌てて振り向く。

 距離を取っていなかったら確実に肘が胸骨ヒットしていただろうその動きに、時平はやっぱり安全確保しておいて良かった、と密かに安堵した。





 心声は心の声が聞こえるので、時平が時間を解除した瞬間、相手が慌てた事で怪我をする危険性を考えた上で微妙な位置を陣取った事を理解したが、特に口に出して報告するような事でも無いので言わないでおく事にした。





「まさか報告前に実行するとは……」



 無意識下で発動方法がわかっているんだろうか、と絆愛は思った。

 まさか突然背後に瞬間移動するとは思わなかったし、突然の気配と声にはめちゃくちゃビビってしまった。


 ……まあ、時平からしたら時を止めて移動しただけであって、瞬間移動では無いのだろうが。



「が、出来たなら良い事だ。問題は無かったか?」


「うん、大丈夫。勿論色々検証は要るだろうけど、これがあると生鮮食品をすぐに冷凍したりとか、そういうのに使えそうだよね」


「ああ、新鮮な魚は大事だからな」



 こちらには魔法などがあるっぽいが、様子を窺う限りの荒れ果て振りでは期待出来ないので、そこは重要。

 正直普通の魚は居るのか、生食大丈夫なのかとかそういう心配はあるものの、つい食べ物の事を考えてしまうのは日本人なので仕方あるまい。



「と、いう事で……大体説明は出来たな」


「いやいやいや」


「?」



 優信が苦笑して手を横に振っているので、はて、と首を傾げる。


 ……優信は最初に説明したから、これで終わったよな?


 そう思っていると、優信に指を差された。



「絆愛の愛の能力について、まだ僕達は聞いていないよ」


「あ」



 そういえばそうだった。



説明が終わらない。

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