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能力説明タイム②



 次は従人の能力についてだな、と絆愛は考える。



「従人の能力は、追従だ」


「どういう能力なのか、想像もつかぬな」


追従『本当にね!』


追従『めちゃくちゃ反応に困るよこの能力!』


追従『意味わかんないし!』


群 『俺は俺で意味がわからんがな』



 チャットの会話に苦笑しながら己は言う。



「この能力は、従人本人の影から従人の知っている動物を出せる、というものらしい。まあ、影から出す為か色は黒一色に固定されるようだが」


「うわ!本当に出たよ!」


「実行が早くありませんか従人」



 説明を最後まで聞く前に従人はもう影から動物を出しており、憶水は危険はないのかという心配からか眉を立てた。

 従人はどうやら黒いオオカミを出したらしく、オオカミは従人に対し尻尾を振っている。



「可愛い!凄い!可愛いよ!?」


「そうだな。従順なオオカミもそれに目を輝かせる従人も、どちらも私からすると夜空に輝く月と星々のようにキラキラ輝き美しく、尚且つ可愛らしさを伴っているように見えるぞ」


「絆愛、今は口説きタイムじゃないからね」


「おっと」



 ……つい反射で。


 優信の注意に一旦手で口を押さえて、目を伏せる事で感覚リセット。

 よし、と思って目を開けると口説きたいブナ王が居たのでもっかいリセット。

 世の中というのは魅力的な存在に満ちていて困ってしまう。



「んん、説明の続きだが、その動物は命令に忠実な存在だ。元が影だから匂いや気配が少なく、足音も無い為追跡や尾行に特化している」


「餌って何食べるのかな?」


「あー、従人?とても素敵に瞳をキラキラさせてまるで宝石のようで美しいと見惚れそうになるが、そしてそのきらめきに応えられない事が非常に残念で仕方がないのだが、それは元が影だから飲食しないぞ。抜け毛も無い」


「生き物じゃないって事?」


「生きてはいるが生命活動的には……悪いな、私は説明が苦手だ。まあそういう世話は不要な生き物であり、戻そうと思えば影に戻る動物だと思っていれば良いだろう」


「オッケー!わかった!」



 かなりの長身を小さくさせてしゃがみ込んでいる従人の姿は愛らしく見えて、何だかほわんとした気分になった。

 リアルオオカミのサイズなのか黒オオカミのサイズは結構あるように思うのに、従人が大きくてそうは見えないのも癒しの理由だろう。

 サイズ的な意味と従順っぷりの結果、普通に犬っぽく見える。



「でも、追跡とかが得意というのは良い事ですね。仮に盗賊などが出ても本拠地を探す事が容易そうで」


「ああ、成る程。確かにそういう使い方もあるね。もう完全にアニマルセラピー要員かクラスメイト用だと思っちゃった」



 不崩の言葉に、従人はそう言って笑った。





 従人は黒いオオカミを撫でながら思う。


 ……今までの皆を書いてたノート、更新中のやつしかカバンに無いからね。


 従人はすぐに人を好きになる。

 好意的な絆愛とは違い、優しくされたり友達になったりするとすぐに好きになる、というタイプだ。

 そして少しでも好きになったら、相手の事を知りたくなってしまう。それはもう、何でも。可能な限り調べようとしてしまう。

 例えばプロフィール。例えば身長や体重の変動。例えば持ち物。例えば体温。例えば髪の伸び具合。

 己はそれらを、全てノートに記録していた。


 ……うん、最近はゴミ漁りしてないからセーフ!


 前はしていたが、



「いや、そこまでしなくても欲しいのがあったり知りたいのあったら捨てずに報告するよ?」



 とクラスの皆が言ってくれた為、その必要が無くなった。

 生活で出るゴミから色々な情報が手に入るので度々漁りたくはなるが、最近は体が大きくなり過ぎて職質の心配がある為出来ないのだ。

 警察も二メートルはある巨体がゴミを漁っていたら無視は出来まい。


 ……本当、皆は優しくて良いなあ。


 高校に入るまで、この癖は悪癖としてめちゃくちゃ嫌がられた。

 それはもう嫌がられたし、最終的に友達と言える子は誰一人として居なかったし、何なら教師にすら距離を置かれていたレベル。


 ……やっぱり中学時代の先生が一人の僕を心配してくれたのが嬉しくて、調べられるだけ調べちゃって、息子さんの通学ルートは死角が多いからちょっと変えた方が良くないですか?って言っちゃったのが駄目だったのかな。


 己としては善意だったのだが。

 しかし今のクラスの皆は、己が調べ上げようとしても嫌がらない。

 聞いたら答えてくれるし、堂々と調べさせてくれるし、何なら協力だってしてくれる。

 高校に入るまではこの癖のせいで転校する事も多かったのだが、今は公認なので問題無しだ。


 ……でも、今までのノートが無くなっちゃったのは痛いけど。


 更新中のノートはともかく、それまでのページいっぱいに書き切った皆の情報は全て部屋の本棚の中に詰められている。

 行方不明云々で家宅捜査が入ったら容疑者に上げられる気がするが、まあ自分はクラスの皆と一緒だから別に良いか、とも思う。

 大事なのは愛するクラスの皆と今を生きる事だろう。


 ……だからこの追従の能力で皆を、と思ったけど……うーん、しばらくは一緒に行動するわけだし、どっちかというとカラスとかを出して外に放して、様子を色々調べる方が良いのかもしれないね。


 黒いオオカミをモフりながらそう考えていると、チャットが動いた。



愛 『ちなみに従人は気付いているだろうが、その追従アニマルが見ている光景や音を本体が拾ったりも出来るらしいぞ』


愛 『端末という事だな』


愛 『正に情報収集用』



 ……えっ。



追従『待って僕それ知らないよ!?』


愛 『あれ』


通信『恐らくだけど、僕みたいに意図的に発動させる必要がある、とかじゃないかな』



 優信に言われたので試しに発動してみようと従人は思った。

 感覚を繋げるイメージをすれば良いのだろうか。


 ……あ。


 イメージをした瞬間、鏡のようで、けれど鏡とは違う自分が見えた。

 音の聞こえ方も、匂いの感じ方も違う。


 ……これ、本当に色々調べるのに向いてるよ!?


 クラスメイト達の洗濯洗剤も柔軟剤も香水もメイク道具もシャンプーもコンディショナーもリンスもボディソープも石鹸も入浴剤も食べる物により作られる細胞から発されるだろう体臭も全部全部全部把握している従人ではあるが、流石はオオカミ。

 とっても匂いが細分化されていて、細かく何の匂いかがわかる。


 ……ノートが捗っちゃうね!


 この匂いについては後でしっかり書かなくては、と思う。

 オオカミの鼻なのでブナ王や騎士イチョウやその他の匂いもわかるが、そちらは特に興味が無いのでどうでも良い。

 基本的に優しくされたり好意的に接されると弱い己ではあるが、クラスメイトという、己の欲求を満たしてくれる人達が居るお陰か、前程チョロくは無くなったのだ。

 というよりもまだ好きになる理由が無いだけ、というものかもしれないが。


 ……と、一応報告しとこっと。



追従『これ凄いね!』


追従『感覚繋げるイメージしたらガッツリ感覚が繋がったよ!』


追従『嗅覚もオオカミレベルで区別出来たから、本当に調査に向いてるって感じだね』


地面『なら、後は数をどれだけ出せるか、サイズ差によって消費TPに差はあるか、猫ならスフィンクスからペルシャなど様々な種類を出せるか、あとは虫や爬虫類、あるいは想像上の存在に近い恐竜などは可能か、を調べるのが良いかしら』


穴 『地狐、お前本当容赦ねぇよな』


地面『情報はあって損しないもの』


地面『それに、オオカミは一緒に動物園に行った時に見たでしょう?』


地面『でも恐竜は、化石は見た事があっても見た目的には想像上の存在でしかないわ』


地面『想像上の動物も可能なら相当に強さもあるわよ』


見 『この世界普通に魔物が居るみたいだし、魔物について学んだら魔物も出せるかどうかを調べる、というのもありだろうな』


追従『僕抜きでめちゃくちゃ話が進んでないかい?』



 でも正直言ってそういう案をポンポン出してくれるのはとても助かる。

 それだけこちらの事を気にしてくれているという事でもあるので、嬉しい事だと従人は思った。





 次は、と絆愛は続ける。



「次は飛天の能力だが、飛翔能力だ」


「どういう感じの能力?飛ぶの?飛べちゃう感じ?」


「ああ」



 飛天の言葉に頷きを返した。



「背中……が一番イメージしやすいだろうな。背中に翼を生やすイメージをしてくれ」


「あいよー。むむむむむ……」



 笑顔で頷いた後、飛天はこめかみに両の人差し指を添えながら唸る。



「えーと……こう!」


「よし」



 飛天がぐっと体に力を込めた瞬間、飛天の背中からバッサァと白い翼が生えた。



「…………わーお」



 驚きと混乱が見える表情の飛天は背を見ながら、天使のようなその翼をバッサバッサと動かしている。



「絆愛、これって飛べるヤツ?」


「そのはずだぞ」


「やってみよ」



 バサリバサリと飛天が翼を動かせば、まだ不安定だが一瞬飛んだ。

 飛んでは着地を繰り返し、羽ばたいてホバリング状態になる必要があるとわかったのか、飛天はバサッバサッと翼を動かして羽根を散らす。



「あー、よしよしおっけおっけ、こういう感じね。うん、出来る出来る。でもこれ訓練しないと安定しないし、浮くの普通に怖いね」


「そこは慣れだろうな。だが安心しろ、飛天。お前はいつでも可愛らしいが、そこに加えて天使のような翼という美しさも加わっているのだから」


「安心要素まったくわかんないけど絆愛が通常運転って部分に安心するかな」



 よくわからないところに安心されたが、飛天の安心に繋がったなら良いか、と絆愛は思った。



「ああ、それとその翼だが、一応頭とか腰とかからも生やせるようだぞ。まあ背中が一番安定すると思うが」


「それはわかる」


「っつーか思ったんだけどよ」


「ん?何?獣生。もしかして羨ましい!?お空飛べちゃうの羨ましい!?抱っこしてあげよっか!?」


「確かに俺とお前は身長同じだけど異性の上に結構筋肉あっから普通に俺のが重いぞ。じゃなくて、能力だからなのか服とか問題無く貫通してんのな、って」


「あー、確かにそうね。今思うと服の中で翼が大変な事になる危険性あったかー。ま、そん時は多分私が持ってるソーイングセットのハサミでどうにかしたと思うけど……うん、そういうのが無くて良かったわね」


「うわ、今思うとマジでそれ危険だったね。天恵のお世話になるトコじゃん。というかちょっと足がつかない感覚に酔って来たんだけどどうしよう」


「飛天、私は翼があるとしても別に地に足をつけていても問題無いんじゃないかと思うんだが、どうだ?」


「そういやそっか!絆愛頭良い!」



 バサバサという音を立てて飛んでいた飛天は、ホバリングを止めてある程度床に近付いてから一度羽ばたき、足に掛かるだろう負荷を軽減してから着地した。


 ……既に結構使いこなせてるんじゃないか?


 まあ能力を授けられた時に扱い方は何となくわかるようになっている、とかがあるのかもしれない。



愛 『ちなみに補足情報だが、飛天が触れれば触れた対象に翼を生やす事も出来るそうだぞ』


飛翔『えっ、凄い!』


飛翔『というかそれ出来たら大きい棚とか簡単に移動させれるよね?』


飛翔『もうこれはお引越し屋さんになるしかないな……』


飛翔『ご飯沢山食べる為にも稼がなきゃ』


天 『稼ぐ以前にどのくらいの重さまでセーフなのか、とか考える必要があるんじゃない?』


木刀『あとこっちの食糧事情もどうなってるのか調べなきゃいけないかもね』


木刀『荒れてるって事はあんまり期待出来ないと思う』


木刀『まあ、その辺りはこっちの現状について教わる時に聞けるかな』


愛 『盛り上がってるところ申し訳ないが、まだ続きがあるんだ』


肉体『ふむ、どういう続きだ?』


愛 『うん、えっとだな、この飛翔による翼なんだが、飛天がボスだ』


飛翔『ごめんわかんない』


愛 『優信や従人の能力に近いというか、コントロール権が飛天にある、という』


飛翔『誰か通訳居ないかな?』


時 『あ、これ多分あれだね』


時 『翼部分がプレイヤーキャラで、飛天がプレイヤー』


時 『だから、例えば幽良に翼を生やしたとして、幽良が右に行こうとすると』


耳 『私が右に行こうとすると』


時 『飛天がその時左に行かせようとしてたらその翼は左に移動する』


耳 『その場合、私に操作権が無いって事ね』


飛翔『成る程』


愛 『そう、そういう事だ』



 ……いやあ、良いな助け合い!


 正直言って自分の説明能力がからっきしなのは絆愛自身がよく知っている。

 一応頑張りはするが、無理はものは無理だ。

 なのでこうしてカバーしてくれるクラスメイトが居るのはありがたい。



穴 『お、そんなら魔物とかに翼生やして高い位置まで飛ばして能力解除でアイキャンフライさせれるっつー事か?』


通信『それ、私は飛べる、って感じの意味になるから微妙に違わないかな?』


穴 『んじゃスカイダイビング』


見 『紐無しバンジーな気がするが』


再生『それ、投身自殺って名前があると思うよ』


情報『魔物は自殺する気無いと思うので、投身他殺が正解では?』


腐 『成る程、つまり犯人は飛天』


飛翔『弁護士!弁護士を呼んで!私は確かにやったけど相手は魔物なのでセーフ!セーフだよ!』


病 『いや、そもそもまだやってないだろ』


金 『まだ、という事は裁判予約ですね』


飛翔『ねえこれ駄目な外堀埋まってないかな!?』



 楽しそうだなあ、と己は笑った。

 異世界であろうとも、大好きなクラスメイトが一緒というだけでここまでいつも通りで居られるとは。


 ……個人面談のような形でそれぞれが神と話した時は相当に酷い拒絶をしたらしいからな……。


 やはり単独では無く、クラスメイト全員セットだったのが良かったのだろう。

 ここで誰か欠けていたら呼ばれた皆は大暴れだろうし、置いて行かれた誰かは最悪置いて行かれた悲しみによって死ぬ。

 これは両親もそうなので遺伝だと思われるが、己はとびきり寂しがりなのでもし置いて行かれたら本当にヤバい。


 ……本当に、セット召喚で良かった。


 己が基本的に誰に対しても好意的、かつ距離が近いのは、恐らくそういう寂しがりから来ているものだと思う。

 確証は無いから、予想でしかないが。



「次は獣生だが、獣生はこう……説明が実に面倒でな」


「俺もそれは察してる。何だよ因果って」


「原因と結果」


「意味についての情報あんがとな、憶水。でも俺が聞きてーのはそこじゃねーんだわ」


「でしょうね」



 頷いた憶水に、獣生は何とも言い難い表情になった。





 ……わかってて言ったのかとか言いてぇけど、わざわざ言う程の事でもねーんだよなー……。


 クラスメイト相手には特に気遣いとか無く会話しているが、こういうわざわざ言う程の事でも無いタイミングの時に微妙な顔になってしまうの、どうにかならないだろうか。

 言う程渋くは無いがやはり渋さがあるグレープフルーツを齧った時のような顔で、獣生はそう思った。





 何だか味わい深い顔をしているが続けて良いかな?と絆愛は獣生を見ながら思った。



「ええと、能力は因果、なんだよな。ただこの因果なんだが……」



 正直隠しておくネタも無いから言う事になるのだが、獣生もまたブナ王達には心を許してないみたいだし、言っても良いものか判断が難しい。



愛 『すまん、隠すとかそれ以前のヤツだから普通に言うぞ』



 うん、チャットで先に謝ったから良し。



「これは悪人などの因果応報を早める、または強めるという効果がある……んだが、正直言ってこれはオマケだ」


「オマケ」


「ああ。国の民を思うブナ王からすれば悪人の因果応報が早まるというのは良く思えるだろうが、これはあくまでオマケなんだ」



 きょとりと目を丸くしたブナ王にそう言い、続ける。



「この能力の本領は、正に因果を操作する部分にある」


「いや、だからそういう概念的な事言われてもわかんねーんだけど」


「あー……例えばボールを落としたとしたら、重力もあるし普通に落ちるだろう?」


「落ちるな、そりゃ」


「そう、それが因果だ。で、獣生がその因果を操作すればボールは空中で止まる事も出来るし、空中でカーブして手の中に戻ってくる事も出来る」



 獣生が左手で顔の上半分を覆い、右手をピンと立てて前に出した。

 待った、という意味だと判断したのでとりあえず黙って待つ。

 しばらく気持ち顔を伏せながら微妙なうめき声を上げていた獣生は両手を下げ、まだ理解し切れていないとわかる眉間のシワを装備したまま口を開いた。



「…………つまり、あり得ないを起こす能力、って理解で合ってるか?」


「正にそれ」


「うっわ、マジかよ……マジかよ!」



 獣生はうわー、とぼやきながら頭を抱える。



心 『何か能力のせいか心の声聞こえちゃってるお陰で理解も出来てる心声なんだけど、これって世界も手に出来ちゃう系なのかな?』


追従『やり方次第ではそうなりそうだよね』


追従『攻撃全部相手に跳ね返すくらい出来そうだし』


因果『もうそれ俺が魔王じゃねえか!』


地面『あ、ちょっと良いかしら』



 地狐がリアルで挙手した。



「聞きたいんだけど、これって今蔓延ってる魔王の呪いもどうにか出来たりするの?」


「一応神に聞いたが普通に無理らしいぞ」


「そう、残念ね」


「地狐、そこで引くんじゃねえよ。何で無理かまで聞いてくれよそこは」


「自分で聞きなさいよ、獣生」


「うむ」



 ブナ王が頷く。



「儂もそれについて、詳しく聞かせてもらおう。何故不可能なのか、を」


「今までの勇者を知っているなら、出来る事に限りがあるのを知っているだろう?」


「ああ……何度か使う内に、出来る事が増えるようになると記録にはに残っているが」


「つまりはそういう事だ。今の獣生では世界レベルの因果操作というのは不可能となる。というか世界レベルとなると、本当に相当使いこなせるようにならないと不可能だろうからな。そっちを待つより、地道に色々改善していく方が普通に早いと思うぞ」


「成る程……やはりそう単純にはいかぬか」


見 『異世界から誘拐した挙句他人に色々丸投げしといて単純にはいかぬかって何だ?喧嘩を売ってるのか?んん?』


穴 『あ?何?喧嘩?殴るか?』


地面『宝も犬穴もステイ』


地面『あっちからすれば話が早く終わるのは良い事だし、こっちも勇者業なんていうのからさっさと足を洗えて良いじゃない』


地面『まあ獣生のレベルが足りないんだけど』


因果『うっせえな悪かったよ!』


因果『でもこのレベル設定とか俺まったくもって悪く無くね!?』


因果『寧ろ能力ガチャめちゃくちゃ勝ち組だと思うんだけどどうだ!?』


木刀『それは確かに』


木刀『僕なんて能力が木刀だから明らかに能力ガチャで低レア出したよね』


木刀『リセマラ確実な能力だと思う』


通信『少年漫画だと木刀とかでも相当な火力だった気がするけど、まあ絆愛の説明待ちかな』



 盛り上がってるなあ、とチャットを見ながら己は思った。

 テンションが高いのは良い事だ。



「次は衛琉だが」



 ……衛琉も獣生同様、全部普通に説明して問題無さそうだからなー……。



愛 『すまん、こっちも普通に説明する』



 先に謝ったのでこれでオッケー。



「衛琉の能力は腐、つまり腐らせたり、腐っている部分を取り除いたりが出来る」


「納豆作ったり、腐葉土作ったりって事か?」


「そうだな。何なら腐食させる事で建物の解体も出来るぞ。腐った食べ物の腐敗を取り除いたり、体の壊死して腐った部分の腐りを取り除いたりも可能だ」



 そこで己は、あ、とチャットのキーボードを叩く。



愛 『さっき普通に説明すると言ったが補足情報』


愛 『これ、生き物を腐らせたりも出来る』


腐 『精神的に?』


水 『人間性が腐るという事でしょうか』


見 『この世界の人間、魔王の呪いのせいでかなり人間性腐ってると思うぞ』


見 『あ、取り除けるならそれが良いか』


愛 『いや、流石にそこまで出来るかは私も知らないからノーコメント』


金 『腐女子とかそういう系統の腐らせる、ですか?』


腐 『え、それ普通に俺とかターゲットにされね?ヤバくね?男女関係無くクラスの皆と仲良いから絶好の餌になる気しかしねーんだけど』


腐 『既に何度かネタにされてんのうっかり目撃しちまった事あるし』


愛 『期待しているところ悪いが、ボディ的な腐敗の方だからな?』


愛 『まあ、流石にゾンビ化は無理だそうだが』


腐 『腐女子方面もゾンビ方面も一切期待してねーよ!?』


「ふむ……怪我人も多数出ているから、体の腐った部分が治るというのはありがたい。何より今は土地も酷く痩せ細っているのでな。腐葉土や、可能であれば堆肥が確保出来るとなると畑が豊作になり、民も潤う」



 ブナ王の言葉に、衛琉は眉間にシワを寄せてチャットのキーボードを叩いた。



腐 『堆肥って何か物凄く嫌な予感がすんだけど何だっけ』


腐 『俺の記憶が全力で思い出すのを拒絶してんだけど』


水 『要するに肥料の事です』


腐 『それはわかる。原材料の方』


天 『それもう既にわかってないかしら?』


水 『わかっている気もしますが一応言わせてもらうと、生ごみとかもみがらとかを発酵させた物ですね。ただし家畜の糞で作る堆肥が一番多いです』


腐 『なあこれ遠距離でも使用可能?触ってないと駄目だったら俺絶対嫌なんだけど家畜の糞に素手でお触りとか』


地面『念の為の補足情報だけれど、堆肥には人間の糞尿も可能よ』


飛翔『あ、歴史系のテレビで見たかも。昔は農家がお金出してそれらを回収してた時もあったんだっけ?』


通信『良い物を食べてる貴族などの糞尿を購入、回収していたようだよ。当時は』


群 『良い物を食べている分、栄養が豊富だと考えたんだろうな……』


通信『まあ人間の糞尿から作られた肥料に寄生虫が居て、そこから野菜に入り込んでまた人間に寄生虫が、とかあったらしいから非推奨だろうけどね』


腐 『なあ、何か普通に俺が堆肥作る前提になってね?』


時 『ご飯大事だから仕方ない仕方ない』


飛翔『そう!私が飢えない為にも頑張って家畜の糞尿にタッチして発酵させてね!』


腐 『なあ!他人事だと思って酷い事言ってるよな!?言ってるよな!?なあ!?』


愛 『えーと、念の為に一応言っておくが、近距離かつちゃんと対象を腐らせるイメージが出来ていれば触らなくても良いからな?』


愛 『じゃないと建物解体とか普通に巻き込まれて危険だろう』


腐 『ここまで盛り上がる前に言ってくれないかなあ絆愛!』


腐 『でも良かった!助かった!流石に糞尿タッチは無理!セーフ!』



 安堵した衛琉は力が抜けたようにへなへなと座り込んでしまったので、体刀と獣生によって後ろの方へと回収された。

 体を鍛えている衛琉だからこそ、筋力のある二人が引きずったのだろう。



「次は宝の能力、見る能力だが……宝自身、結構わかってるんじゃないか?」


「先程からやたらと外の光景が見えるとか、そういうアレか?」


「ああ」



 宝の言葉に、己は頷きを返す。



「通常でその視力状態に加え、意図すれば遠視や透視などが可能だから索敵に良いと思う。それに魔力なども見ようと思えば目視出来るはずだから、慣れればどういう意図の魔力かもわかるだろうな」


「使いようによっては便利だが、もしこの能力で魔王を倒せと言われていたら普通に無理じゃないか……?」



 それは確かにと納得して頷くと、クラスメイト達も同意見だったのか同じタイミングで頷いていた。



愛 『まあ実はこの見る能力、ゲームのステータス的なのも目視可能らしいんだがな』


愛 『TPの増減やらも目視出来ると思うぞ』


見 『待ていきなり物凄い情報が開示されなかったか今!?』


再生『健康診断に使えそうだね』


病 『確かに良いな』


病 『俺は確実に患者を相手にするだろうから、自己申告よりもそっちの方が信用出来る』


病 『一緒に診療所でもやるか』


見 『ああ、うん、組み分けして拠点をそれぞれ構えるらしいから、実際そうなりそうだよな』


見 『後で皆のステータスを見れるだけ見て、書き出したり……したらアウトか?』


地面『自分達で共有するならともかく、信じて良いかまだ不明な相手が居る中で書き残すのはあまり良いとは言えないわね』


見 『ならその時は口頭かこのチャットか、だな』



 ……こうしてクラスメイト全員居る事を思うと、宝の能力はありがたいな。


 己は神から色々聞いたが、ステータスなどの可変的な部分に関しては流石に無理だと言われた。

 実際リアルタイムで実況でもしてもらわない限り難しいだろう。


 ……人数が多いからこそ分担出来るというのは良い事だ。


 そして出来る事が多いというのは必然的に助けられる誰かの数が多くなる。

 そうすれば、素敵な人の笑顔が見られる事も多くなるだろう。

 己は基本的に人好きなので、身近な人達が皆楽しそうな笑顔だと嬉しくなるのだ。



「さて、次は憶水か」



 チャットでのやり取りを見るのが楽し過ぎて中々先に進まない。



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