やーらかーしたー
獣生は荒事担当である口舌、犬穴、体刀、時平と共に町の外を歩いていた。
憶水や地狐や衛琉は農家の方の手伝いに行っているので、魔物を仕留めた場合は己が能力を使用する事になるのだろう、と空を見上げて思う。
……ま、良いけどよ。
色々と試すチャンスだと思っておこう。
「んで? タンポポ。お前次はどっち行きたい?」
「そうですね~……」
本日同行してくれているのは、火炎瓶やらを放り投げるシャクナゲと明らか非戦闘員というか自分達よりも年下に見えるタンポポの二人だった。
「つか」
犬穴が怪訝そうに眉を顰めながら言う。
「何でソコの、タンポポだったか? に先導させてんだよ」
「穴の勇者様にも最初に説明しただろうがよ」
シャクナゲの返答に犬穴は首を傾げた。
「……言ってたか?」
「僕に聞かないでよ、犬穴」
「口舌がこのメンバーの中が一番物覚え良いだろ。そもそも俺は記憶力関係とか頭使う系は全部地狐任せだったから理解力高くねーんだし」
「胸張って言う事じゃないと思うなー」
苦笑しながらの時平の言葉はごもっともだったが、犬穴としてはそれがデフォルトなのか特に気にもしていない。
「露出過多女性冒険者よ、再び説明を頼めるか」
「俺は構わねえけど名前覚える気ねーな肉体の勇者様」
「複数人の名前を覚えるなど毎日会うにしても半年は必須だろう」
「人名と相性が悪いって事だけはわかったぜ」
タバコの煙を吐いて、シャクナゲは言う。
「タンポポのヤツは無駄に運が良いから、タンポポが生きたい方向目指してりゃ大体上手く行くんだ。今だって薬草の群生地でガッツリ採取出来たわけだしな」
「私からすると何となくでしかありませんがね」
「あと言っとくとコイツ、見た目十代前半のガキだけどこれで五十代のオッサンな」
「五十代目前の四十代! です! よ!」
シャクナゲの言葉にタンポポが過剰反応したが、その表情は依然としてシンプルだ。
顔には縦線二つで両目という感じだし、口はかまぼこひっくり返したみたいな笑みの形。
人体的に構造どうなってんのかなあと思うが、まあ異世界なのでそういうもんだろう。
……カエルの舌が伸びたりヤモリが家の壁這っててもそういうもんだって知ってると違和感とか抱かねえもんなー……。
多分そういう事だと思う。
というか、
「……普通に否定してなくね?」
「獣生に同意」
「五十代は否定してるけど四十代を主張するって事は、本当に見た目とは違う実年齢だ、って事だと思うけど……」
「言いたい事は私にもわかるぞ口舌」
「見た目詐欺すっごいね」
時平の言葉に思わずスクラムを組んでいた自分達は頷いた。
美魔女とかそういう次元でもない合法ショタだ。
異世界ってのはそういうのがあるもんなんだなあ、という感じ。
「……そこ、さっきから普通に聞こえてますが」
「ああ、特に小声で話してはいないからな。気分だ」
「気分ですか」
「ちなみにだが」
シャクナゲは近くの、前にクロッカスから火薬の材料になると教わった植物を採取しながらタバコが落ちない程度に口を開く。
「タンポポは勇者の子孫でもあるぞ」
「ああ、あの沢山居るっていう?」
「「「えっ」」」
犬穴と時平と共に声を揃えて驚くと、口舌と体刀が半目で見て来た。
「……勇者は定期的に召喚されてたりするしこっちに永住コースが確定してるから、こっちでお相手見つけて子供作ってたりするって説明、されたよね」
「されたっけか」
「覚えてないから寝てたかも」
「地狐が覚えてりゃ良いや俺戦闘系だしって思って聞き流してた」
「口舌、これは夜にでもチャットで改めて勉強をし直した方が良いのではないか?」
「体刀に賛成。連絡入れとくね」
苦笑しながら口舌がスマホを取り出した。
「って、アレ? それ使えるのか? 優信居ないと通信能力無いから繋がらないただの箱だと思ってたんだけど」
「ただの箱って……獣生が休日は家でゲームじゃなくて野山駆けまわって蛇の抜け殻持ち帰る子だったのは知ってるけど、電波無くてもスマホは結構有用だよ?」
「俺に対する偏見が酷い」
「外れてた?」
「大当たり」
「なら偏見でも無いですよね」
タンポポのコメントがクリティカルヒットした。
いやでも否定したい少年心があるんだ。幾ら事実だとしても。
……というか蛇の抜け殻持ち帰ったの何で知ってんだよ。
持ち帰ったら蛇の抜け殻は財布に入れておくと金運のお守りになるから、と祖父母が喜んでいたし、今も二人はそれを財布に入れている。
つまり祖父母と話した時に聞いたか普通に己がぽろっと話したかのどちらかだろう。
話した記憶が無いので家に遊びに来た時に聞いたんだと思われる。
……口舌は口が上手いからな。
己の両親の事でちょっと問題があったので、祖父母は多少過保護気味だ。
過保護というか仲良くなる相手を警戒する癖がある、というか。
……まあ親父がクソだったせいでお袋死んだし、そんなもんか。
赤子時代に母親が死んで保護されたのでDV親父についての記憶はサッパリだが、祖父母としてはトラウマのようなのでさもありなん。
流石に父親の話題を出さないようにしている祖父母に問いかけるような真似をする気も無いので父親に関してはマジでサッパリ。
まあ特に気にする程の興味も無いから良いのだが。
「んで、何でスマホ?」
「優信宛てなら連絡も届くんだよ。他の誰か宛ては無理だけどね。だから優信に夜の勉強会に伝えて……あ、オッケーだって。TPの為に毎晩チャットしてるお陰かその辺大分融通利くようになって図、っっていうか絵? を添えたりも出来るってさ」
「絵チャかな?」
時平のコメントはわからんがチャット内で絵が描けるなら図としても有用だろう。
描けるかどうかは全力で別だがな。
「ところで勇者の子孫っていうのは」
「遠縁ですけどね」
口舌の問いにタンポポは返す。
「代が近いと目の中に文字があったり髪色が明らかにマーブルだったりするんですが、時々私のようにすごーい遠い血縁の勇者の能力が隔世遺伝する場合があるんです」
「遺伝しないパターンもあんのか?」
「殆どの国の王族が勇者の血を混ぜ込んでますが、ブナ王とか特にそれらしい特徴も出てないでしょう?」
「あー」
納得した犬穴が頷きを返した。
「尚この世界において毛染めはまず染まらない為不可能であり、勇者本人かその血筋じゃないと違う色が入ったりはしないんですが……ほら」
タンポポが首の後ろの髪をかき上げると、金髪の中に一房だけ緑色が入っていた。
「こういう感じに、一部の色が違う場合が多いです。まあそういうのすらも無く、身体的に地味に何か他より特化してる、という程度の人も居ますが、隔世遺伝が強いと能力も強かったりしますね」
「まあ先祖が何の能力持ってるかに依存するし、タンポポの場合はコイツこそ遺伝してるが親兄弟は遺伝してなかったりとバラつきあるぜ」
「遺伝ですからね」
成る程、わかりやすい。
「あ、ちなみにユーカリ……診療所の手伝いをしている喧嘩っ早い方の彼も勇者の子孫ですよ。私は若さという能力で見ての通りの成長すらしない不老ですが、彼の能力は恐らく耐性ですね。免疫かもしれませんけど」
「そういえば病気関係に強いとか言っていたな。だから診療所の手伝いをさせているわけだし」
「実際彼は病気になりませんから。遺伝で」
体刀の言葉にタンポポがそう返す。
すると、ふむ、と口舌が顎に手をやった。
「断言するって事は、過去に余裕だったのを目撃したとかかな?」
「あーいえいえ違いますよ。ユーカリがここに流れて来た理由がその断言理由でもあるんです。彼、元々は小さな村出身だったんですけどそこで流行り病が全力で感染しちゃって。しかも本当、人が死ぬようなヤツ」
表情一切変えずに言う事だろうか。
笑顔固定で枝をぶんぶん振り回して先行する十代前半少年という見た目なので、実年齢や話している内容のギャップが酷い。
「唯一無事なのがユーカリだったらしいんですよね。近くに町も村も無いからこのままだと医者にかかる事も出来ず、ここに立ち寄る旅人や今まで支えてくれた周辺の土地や生き物に申し訳が無いって事で、村の人が全員でユーカリに自分達を殺して村を焼くように頼んで、ユーカリもまだ十五くらいだったらしいんですがそれを承知して、産まれたばかりの子供から村長まで一人残さず仕留めたそうです」
「…………随分とハードだね」
「ハハハ、まああり得ない話じゃありませんし、村人全員が賛成してたから、反抗されつつも仕留めなきゃいけない……ってのとはまた違いますしね。死を受け入れる人間と死を受け入れない人間、どちらを仕留める方が辛いかは知りませんが」
どちらをというかどちらも辛いというかそもそも無い方が良いヤツだと思う。
「その後死体や家が感染源にならないよう村を燃やし、ユーカリ自身は無事でもユーカリに付着しているだろう病の元が完全に落ちるまでは他人との接触禁止。他人に感染する可能性は否めませんからね。なので二年程、村からそれなりに距離のある川の辺りで生活していたそうですよ」
「ハード過ぎないかなソレ」
「耐性強くて病気にならないから大丈夫でしょう」
タンポポの返しに、時平は物凄い微妙な顔になった。
あれは恐らく、メンタル的な意味なんだけど、という顔。
「あれで怪我への耐久力は普通ですが、破傷風とか心配無用ですし。熱は感じるし痛みも感じて怪我もするけど、熱した鉄で殴られても火傷はしない、っていう感じです」
「…………状態異常無効スキル持ち、って理解をしておくかな。とりあえず診療所組にはねぎらうように言っておくよ。宝なら目視で勇者の子孫かどうかは知ってそうだけど、そこまでの事情は知らないだろうしね」
口舌に賛成として頷けば、体刀達も頷いていた。
「……タンポポ」
「何でしょう」
シャクナゲが残り少ないタバコを吸いつつ言う。
「アイツの事情を俺らが言うのは違うんじゃねーか」
「ハハハ、そう思いながらも言い切るまで止めなかった時点で同罪ですよ同罪」
「アー面倒臭ェー……面倒だからってスルーせずに止めときゃ良かった」
まともなコメントかと思ったらマジで面倒そうな顔で舌打ちしてたので上がりかけた株は結局上下無しに終わった。
「しかし、あ~~……そこの露出過多」
「事実だが俺の名前はシャクナゲだよ」
「興味ねーんだって他人の名前とか。殴れるか殴って良いか殴っちゃ駄目か、そんぐらいしか他人の判別法ねーし俺」
「俺が言う事じゃねえが人間性がヤベェな」
ギザギザの歯から、べぇ、と舌を覗かせる犬穴に、シャクナゲは頭を掻きながら半目でそう言った。
あっさりそんなやり取りが出来ている辺り似たテンションだったりするんだろうか。
「ともかくシャクナゲ、さっきまでの話は俺らが聞くもんじゃなかったって事で忘れるとして、今は一体全体どこに向かってんだ?」
「俺が知るわけねえだろ穴の勇者様。今日は適当に歩いて採取出来るだけ採取って予定なんだからよ。だからこその運頼みなタンポポだ」
「ああうんそれなんですが、すみません皆さん」
表情を変えずにタンポポが振り向く。
「話に夢中になってたからか運の導きなのか知りませんが、魔物居ました」
見るとクマやウサギのぬいぐるみが木の蔓に生っていた。
・
時平としては困惑の一言に尽きた。
「……ぬいぐるみ、だよねアレ」
「わかりやすくぬいぐるみだな」
体刀が同意した。
「明らかに布製だけど腹の辺りとか見ると中身豆っぽくねえか?お手玉みたいなタイプ」
「獣生はそこよりもあのぬいぐるみ達が持ってる包丁に目を向けた方が良いんじゃないかなって僕は思うよ?」
口舌のツッコミはもっともだった。
そう、その魔物は見た目ぬいぐるみだというのに、ビジュアルには似つかわしくない包丁を持っていたのだ。
完全にホラーゲームの絵面でしかない。
「つか何だあの魔物」
「昔々にとある勇者が作ったとされる魔物ですよ」
半目の犬穴の言葉に、見た目詐欺が答える。
「アレは隠れ種という魔物で」
「どういうネーミングセンスだ」
「私じゃなくて作って名付けた勇者に言ってください穴の勇者様。そしてあの魔物ですが、人間に殺意を持って襲い掛かってくるものの中身をぶちまけさせれば死にます。蔦に関しては命綱のように思えますが人間が一定まで近付くとそれが千切れて落ちた隠れ種が自力で動いて襲ってきますので蔦は駄目です」
「ちなみに隠れ種の中身は見てわかるだろうが作物なんかの種に満ちてる。色んな作物の、な」
ふぅ、と煙を吐きながら露出過多がそう補足する。
「持っている包丁は地中の鉄分を吸収して構築したものだから、確保すると加工に使えて良いですよ。作物の種も手に入りますし」
「というか何故あのような見た目なのだ」
タンポポの言葉に体刀が嫌そうに顔を顰めた。
「出来れば見た目ファンシーにしようとして失敗した結果か何かか?」
「あー、昔読んだ本か何かに載ってた気がすんな……」
タバコの吸い口を軽く噛み、ああ、と露出過多が思い出したように言う。
「その勇者は種を含んだ植物魔物を作ろうとして、デザインが発想出来なくて、面倒だからその時パッと思い出した一人かくれんぼとかいうのを採用したらしい。米だか小豆だかをぬいぐるみに詰めるゴースト寄せのヤバい魔法か何かだったか?」
「本気でヤバいヤツだった!」
「幽良がガチで嫌がるタイプ!」
「アレの腹裂いて出た種を畑に撒いて良いのか!? 本当に大丈夫なのか!? 畑にアレ出現したりしねえ!?」
「大丈夫ですよ」
口舌と犬穴と獣生の叫びに、見た目詐欺が表情を変えないまま笑みを保つ。
「何でも作物の存続がピンチな時にだけ発生するようになっているらしく、しかも出現するのは人の負の感情を吸って、というもの」
「ほぼ魔王じゃないかなソレ」
「どちらかというと毒を濾過して薬にするようなもんですよ、時の勇者様。アレは繁殖とかしませんし、実も一定数から増える事はありませんから、じりじり近付いて対処出来る数を相手して作物の種ゲットして帰ってこの辺近付く時は気を付けるよう周囲に言っておくとか、そんな感じです」
よくわからんがそれがこっちの世界のしきたりなら従うべきだろう。
本当によくわからんが。
「それじゃあ、あの隠れ種? とかいうのは……」
こういう時、己が動くのがベストだろう。
「俺が一旦近付いて時止めて仕留めて回収する?」
「いや、普通に戦おう。色々試したいし」
「具体的には?」
問えば、口舌はにっこりとした可愛らしい笑みを浮かべた。
「僕の出す木刀って大体僕の横の位置とか背後の位置に出現するんだけど、相手の腹の中から出現させたりとか出来るかなーって」
「発想が地獄だね?」
「そもそも地獄の所業であろうソレは」
「裂けるよな、確実に」
「裂けるっつかエイリアンが腹食い破る的な感じで内側から腹捌いて出て来るか、いっそ喉裂いて口を物理で割らせるようにして出て来るかしそう」
犬穴の想定が一番キツイ気がするが実際そういうイメージだ。
思わず全員半目にもなる。
「……でも、命の取り合いしてるなら可能な限りの手を把握するのは大事だよね」
ゲームの世界ならばともかく、ここは現実。
ならば可能な限り手を打てるようになるべきだろう。
死んだらどうしようもないのだから。
……一応死んでもどうにか出来るアイテムはあったみたいだけど、もう在庫切れ起こしてるみたいだし、ね。
「そうだな、私も少々試してみるか」
うむ、と体刀が頷く。
「使う度に変化可能なレベルというか、ここまで変化しても元に戻れるという感覚がレベルアップしていて、多少の無茶も可能になっていてな……」
「つまり?」
「つまり一発腕を数本増やしてみようかと」
「お! 良いなソレ! 腕が多いってのは強そうだしカッケーし!」
犬穴のツボがわからんが、多分腕が増えたらその分強いという小学生男士的な考えなんだろうなとは思う。
それで良いのかとも思わなくはないが、尻尾を振る幻覚が見える程に良い笑顔だからまあ良いか。
・
絆愛はケイトウが開けてくれた服屋の中で、ジャスミンに似合う服をケイトウと共に選んでいた。
「今着せたのも似合ってっけどこっちも似合うんじゃね?」
「そうだな。そして色々着せてわかったがジャスミンは可愛らしいものの綺麗系でもある方が似合う」
「わかる。フリルも似合うけどフリルびらびらなヤツよりかはあくまで引き立てる為のフリルが似合って、正直フリルよりもレースの袖とかの方が似合うタイプだ」
「わかる」
「元気ですね二人共」
そもそも服で盛り上がらないからかそれともクラスの皆以外の服に興味が無いのか、不崩は途中退席して買って来た屋台のジュースを飲みながらそう言った。
不崩は立ちっぱなしだとただでさえ少ない体力が削られるから、と椅子に座りっぱなしである。
「ねえ、愛の勇者様?」
買いが決定したワンピースに袖を通しているジャスミンは、スカートを広げるようにくるりとターンしてからこちらを向いた。
肩出しだがワンピースについている細い肩紐がキャミソールのようにワンピースを固定してくれている為、安心感もある。
「私これ気に入ったから、これと働く用の汚れても良い服があればそれで」
「例え着なくとも、数が多いとその服を着る機会が減るとしても、可愛らしい子が飾り立てられる姿を見るのはとても楽しい気分になるものだ。勿論ジャスミンがもう疲れたなら今日はここで終わっても構わないが……出来るなら、私はもう少しジャスミンに色々な服を着てもらって、色んなジャスミンを見てみたい」
「…………」
微笑みながらそう言ったところ、目元を片手で多い、空いている方の手の平を向けられた。
「……愛の勇者様、そういうところがあるわよね」
「わかるわかる」
腕を組み、うんうんとケイトウが頷く。
「刺されそうで心配だし下手すりゃ俺も刺しそうで怖い」
「私はそこまでではないけど」
「あれ? 歳の差で微妙にその辺の感覚に変化あったりすんの?」
「私としては包丁だろうと私に向けられたものなら嬉しいぞ?」
「絆愛のその発言はクラスの皆のメンタルによろしくないので駄目ですよー」
見学席の不崩から却下が入ってしまった。
本音なのに。
「ん」
そう思った瞬間、チャットが目の前に表示された。
・
犬穴は目の前の状況を見ながら、どうしたものかと笑みを浮かべる。
諦めの笑みだ。
やらかしちまったなあどうしようかなあと思っていたところ口舌が連絡したのかチャットが表示されたので、ちょいと相談しようと思う。
穴 『なあちょっと良いか?』
地面『何かやらかしたのかしら』
穴 『あーまあ広義的にはそんな感じ?』
通信『意見聞きたいからちょっとチャットお願いって言われてチャット出したけど一体どういう何が起きてるの? 危険なヤツ?』
穴 『いや危険はねーんだけどよ』
穴 『多分』
穴 『危険じゃねーと思う』
思いたい。
愛 『犬穴達は今日は外に出てるんだろ? 魔物に遭遇でもしたのか?』
肉体『まあ魔物に遭遇したがそう強くも無いから問題は無い』
時 『っていうか皆は今時間大丈夫な感じ?』
情報『私は群光と一緒に、まず私が見た本の内容を複数表示して群光が出した群の兵にそれぞれ写本して貰ってるところなので大丈夫ですよ』
水 『文字関係なら協力出来るので誤字脱字が無いか確認してますが、製紙についてはいつだかの勇者がやってくれてるから良いものの活版印刷技術が途絶えてるのでそこどうにかしたいところです』
心 『活版印刷もいつだかの勇者が広めてくれたみたいだけど、時代の移り変わりだったり戦争だったりで途絶えちゃったみたいだねん』
木刀『あー、確かにこっちの本読んでると昔のなのに活版印刷されてて最近のなのに手書きだったり、とかあるもんね』
天 『今シーツとかも洗って干して絶賛休憩タイムだからってちょっと確認するの遅れたけど、結局これ本題何?』
天恵の言葉に、あ、と本題を思い出す。
露出過多と見た目詐欺に首を傾げられたがスルー。
自己申告しなければ報告じゃなくて駄弁り状態になっていた事には気付かれまい。多分。
穴 『それが今ちょっと魔物が居て、試そうと思ってたヤツ試したんだよ』
耳 『何試そうとしてたわけ?』
穴 『落とし穴作ってその真上の空間に穴の出口をセットする事により重力で延々と落ちるヤツ』
再生『工作気分で凄い処刑方法編み出してない?』
時 『あ、やっぱりこれ処刑って思う?』
地面『重力に従って落ちれば落ちる程自重の分だけ重力が加わって衝撃が強まるわ」
飛翔『どゆこと?』
病 『宇宙から来た隕石は小さいものでも数メートル単位のクレーターを余裕で作るだろ。犬穴はその際の長距離落下を落とし穴で再現したんだ』
金 『って事はこれ早めに落とし穴解除しないと、解除して地面に直撃した瞬間隕石が落ちたレベルの威力が発生するって事じゃないですか?』
そう、問題はそれなのだ。
穴 『今それで超困ってる』
通信『まさかとは思うけど』
因果『多分そのまさかの通り、既に結構な勢いついててクレーター出来るんじゃないかな疑惑が発生してるから困ってんだよ』
群 『馬鹿じゃないのか』
穴 『出来るならちょっとやってみてえじゃん無限落とし穴!』
腐 『出来た結果拷問か処刑の方法になってっけどな』
本当にどうしたら良いのだろう。
近付いて蔦から落ちて攻撃してきた隠れ種は、今穴に落ちている一体を残して全部仕留め済みだ。
ただちょっと実験も兼ねていたせいで今残っている最後の隠れ種は何か物凄く駄目な音を響かせている。
具体的には空気を切る音がとっても鋭くて、本能的にコレヤベェんじゃねえかなと思わせて来る感じ。
穴 『どうしたら良いんだろうなあ、コレ』
木刀『今みたく落ちないままだと音速の壁にぶつかって散る以前に、自重によって内部に掛かる重力の圧で破裂じゃない?』
見 『昼寝している横でピコンピコン音がすると思ったらどういう話題だ。周囲に迷惑が掛かるような実験をするな』
穴 『しゃーねーだろ宝! ここまで重力がヤベェって思わなかったんだよ!』
通信『あ、というか宝、通知音うるさかったら左上の方にあるオプションで通知音のオンオフとか音量調整とかしてね』
通信『チャットの使用頻度多めだったりスマホで検索したりが良かったのか能力のレベルが上がったみたいで、その調整出来るようになったから』
心 『ちなみに隣に居る心声から言わせてもらうと名前部分の変更はまだ無理だよん』
追従『あー、うん、でも既にこっちに来て三か月は経過してるから、流石にこの表記にも慣れたかな』
腐 『大体わかるしなー』
穴 『んで結局俺はどうすりゃ良いと思う?』
地面『自分で考えなさい、と言いたいところだけど犬穴から考える力を奪って戦闘特化させたのは僕だから、放置するわけにもいかないわね』
答えが出ないだけで考える力は奪われてないと思う。
まあ自分が一番自分自身を理解出来ない存在でもあると思うので、実はそうなのかもしれないが。
その辺考えだすと哲学だよなあ。
水 『あの、単純に獣生の因果の能力でどうにかする、というのは駄目なのでしょうか。凄まじい速度と重力が掛かっているから無事とか、そういう因果に改変可能だと思いますが』
因果『成る程その手があった』
時 『俺の時止めじゃ移動させるのが精一杯でその勢いを殺したりは出来ないし、いっそ落ちる方向を上にして穴の位置から退けて重力を反対向ける事で重力を分散、とかは考えてたけど結局突然の重力変化それも反発するような変化だからとんでもない勢いで破裂しそうだって思ってたから、良いねソレ!』
肉体『む、時平そんな考えをしていたのか』
穴 『俺らがどうしたら良いかってガチで悩んでる横で頭の良い事考えやがって』
木刀『まあとりあえず獣生に頼むのが良いかな。駄目だったらまた知識面で協力してね。一応クリア出来ても報告はするから』
チャットから顔を上げて顔を見合わせれば、獣生が頷いて前に出た。
尚この後の展開を端的に言うと、獣生のマジチート能力によりどうにかなったので、報告後は隠れ種を仕留めた際に散らばった分の作物の種を回収する作業となった。