打ち上げ、と
異世界に来て三か月程が経過し、無事孤児院が完成した。
ようやく出来た孤児院内、広いリビングにそれぞれ好きなように座り料理を広げ、打ち上げで盛り上がっている。
……ふふ、良い事だ。
絆愛はそう思い、森で採取した果実で作られたジュースを飲む。
打ち上げに参加しているのは自分達クラスの皆と、孤児院出身であるストケシアと、建て直しをした十一人。
「この肉中々美味いっつか、煮物だよなコレ」
「え、マジか? 獣生煮物どこにある?」
「ソコの肉。味が煮豚」
「どれどれ……おお! マジで煮物の味じゃねえか!」
テーブルは大きめのが一つと人数に対して足りない為、床に皿をそのまま置いた状態でそれぞれ食べており、犬穴達も他同様に大皿から取り皿に取って食べていた。
肉が好きな獣生は当然ながら、煮物を好む犬穴もまた嬉しそうに表情をほころばせている。
「地狐も食ってみろ! これ煮豚の味がする!」
「既に食べてるわよ犬穴」
町にあった東洋の小物を扱う店で購入した箸で肉を摘まんで食べつつ、地狐が首を傾げる。
「それにしてもコレ、ちゃんと醤油やみりんの味もしてるのね」
己は誰かの手料理であればそれで嬉しいのであまり細かい味はわからないが、地狐は和食好きだ。
そして城での生活中は洋風な料理が多かった為、味付けが気になったのだろう。
……食べ物は基本的に味付けが重要になるからな。
この料理を作っているのは天恵であり、天恵は和食作りを得意とするタイプ。
しかし調味料が無ければ和食が得意でも作れはしない。
「砂糖は物流どうにかなったお陰で結構一般にも購入可能になってたようだけど……醤油やみりんも手に入ったの?」
「少量だから流石に醤油やみりんは数が少ないよ?」
でも、と口舌が好物である焼いた肉を頬張った。
アレは魔物の肉なので味はあんまりだが、天恵が濃い目のタレを作って味付けしている為、肉が固い程度になっている。
「ある程度こっちが安定して来てるからね。勿論色々やる事は多いから皆大忙しだけど他国と交渉出来るくらいには安定した。なら後はこっちの生産量を……っていうのは収穫的にまだしばらく必要だからアレだけど、でも通販の勇者が広めておいてくれたみたいで、作ってるところは作ってる」
「だからそういうところとの交渉の際に用意してもらったのよ」
そう続けたのは幽良だ。
「勿論他の国も不安定だから生産量が減ってて、金になるとしても今無理に生産量を増やす事は出来ない。その分のタイムラグがアレだけど、今ある分で他国に渡しても問題無い量だけ個人的に買わせてもらったの」
「流石にお米は、っていうか心声達の思うお米は極東産だからか用意出来なかったけどねん」
「そこは本当に残念だった……!」
パンケーキを頬張る心声の言葉に、幽良は心底悔しそうにしながらパンを噛み千切っていた。
幽良の好物は塩握りという何ともシンプルなものだが、それが食べられないとなると確かに残念だ。日本であれば当然のように食べられるものだからこそ尚更だろう。
一応こちらにも米はあるようだが、白米向きではないものばかりだし。
……心声はちゃっかり好物を食べている辺り強いな。
心声の好物はパンケーキだ。
今日は孤児院キッチンの使い勝手を知る為という理由もあって天恵が料理を作っているが、天恵は基本的に和食がメイン。
けれどそこにしっかりとリクエストして、更に森で採取したハチミツをたっぷり掛けている辺り容赦がない。
……容赦がないというよりも、好物をきちんと美味しいと思えるように食べている、と言えるのだろうが。
折角ならば全力で美味しいと思える食べ方が良いのも事実だ。
作る側も食べる側も、何なら食べられる側とてそうだろう。
己ならばもし食われる際、可能な限り美味しいと思って食べてもらえたらとても嬉しいわけだし。
……沢山ある果実を物流復活で来るようになった砂糖でジャムにして保存していたから、パンケーキにたっぷりのジャムも載せられるし。
嬉しそうにパンケーキを頬張る心声の姿を見ると、胸がほわりと温かくなる。
見た目の幼さも相まって子供のようだ。
「…………」
「ん? 再無? ……あ、ほっぺについてた?ありがとねん!」
「…………」
心声の頬についてたジャムを濡れた布巾で拭った再無は、無言のまま笑みを浮かべて野菜炒めを食べ始める。
再無の好物はクラムチャウダーなのだが、海沿いにある町との物流が復活したならばともかく、今現在そことこの町は山に阻まれてしまっているらしい。
元々は迂回すればどうにかなったが、セリ曰くその迂回コースに賊が出る為物流が停止状態になったそうだ。
……トンネルがあれば良いが、今までの状態ではそれをやろうとする余裕も無かっただろうからな。
余裕というか単純に賊を警戒しつつトンネル掘りは無理、という事だろうが。
賊を何とかしてトンネルの支えとなる材料が揃ったら犬穴に頼んでトンネル掘りをした方が良いかもしれない。
そうすれば新鮮な海の幸にもありつけるのだし。
「それにしても様々な料理を大量に作れるのでありますね、天の勇者様は」
「元々料理は好きだったんだけど、ソコの飛天がうちに来てお腹空いたって言うからね」
キッチン近くに座っている天恵は、ストケシアの言葉に眉を下げた笑みでそう返した。
先程まで慌ただしく料理を運ぶ手伝いをしていたストケシアだが、ある程度落ち着いたからかようやく座る事が出来たらしい。
「だって天恵の料理美味しいし、生きてたらお腹空くからね!」
そう言って笑うのはパクパクと料理を消費している飛天だ。
「でも天恵、しっかり私の分の料理は大盛りにしてくれてるよね」
「じゃないとすぐに食べ切っちゃうでしょアンタは。というかその竜田揚げは私の好物なんだからちゃんと残しときなさいよ」
「はーい」
「あとストケシア、だっけ。アンタももうちょい食べなさい。配膳はしばらく良いから」
「や、あの、食べてるでありますよ?」
「あっちの大工組の消費スピードに比べたら結構遅いけど」
「力仕事してた組と一緒にされても困るであります! 流石にそこと同じ量は普通に無理でありますよ!?」
「あらそう? …………よく食べるのが多いから平均的な量がわからなくなってたのかしら……」
そんな会話の一方で、大工組はギルドから持ち込んだ酒を開けてこっちはこっちで打ち上げタイム。
「あー! オダマキそれは私の肉だっての!」
「ハア!? コレがルピナスの肉だなんてどこに書いてあったよ!? ああ!? いつ書いたって!?」
「お前らガキ臭い喧嘩すんなよー」
「「嫁に出て行かれた男は黙ってろ!」」
「それ言う!? それ言う!?」
「アネモネー、そういう煽りに応じてると頭に血が上ってる間に取り皿の肉奪われちゃうよー」
「だけどさタイム……って本当に無い!」
「あ、すまん美味そうだったんで食った」
「腹立ったから食った。すまん」
「謝るなら食うなよルピナスもオダマキも! つか大皿にあんじゃん! 何で俺の取んの!?」
「隣の芝生は青いって言葉、知ってるか?」
「美味そうに見えたら食うのは道理、だろ?」
「人の取り皿にある料理奪っておいてキメ顔だねぇ」
「もぉおおお……」
ルピナスとオダマキがガツガツ食べて、アネモネが被害に遭って、タイムはさり気なく己の取り皿をガードしつつ食べたいものを食べていた。
皆が笑顔で良い事だ。
アネモネだけはがっくりと肩を落としているが、その表情は仕方がないと言わんばかりの苦笑なので、そのじゃれ合いが嫌というわけではないのだろう。
「……やかましいな、あっちは」
「棟梁、元々アイツらあんなモンだから気にしない方が良いさね。寧ろトゲだらけで酒に溺れて殴り合いしてた頃を思えば、笑って食いモン取り合ってじゃれ合えるだけ上等さ」
「お前はお前で静かすぎる気がするがな」
「そうかい?」
「まだ若いんならもうちっとはしゃいだらどうだ」
「ハ、これでもちゃぁんとはしゃいでるさ」
「そうですよ棟梁! アルストロメリアは基本的にもうちょいテンション低めでだるーい雰囲気ですけど、仕事してる時は今日とかは楽しそうな笑顔なのでしっかりはしゃいでるように思います!」
「カキツバタはどういう通訳してるんさ」
「アルストロメリアの通訳ですね! アルストロメリア、あんまり自分の事語らないので!」
「アタシはそうお喋りな女じゃないだけさね。わかったら飯食ってな」
「はい!」
「…………仲がいいな」
「一直線過ぎるカキツバタの向かう方向を軽く誘導してるだけで、仲が良いかは微妙だけどねぇ」
照り焼きバーガーを頬張るカキツバタを横目に、ツマミ系をメインに消費しているツガとアルストロメリアは静かにそう笑い合っていた。
二人の年齢差は結構あるようだが、それでも仲良く話せるというのは良い事だ。
年齢差が一定以上あると会話が通じない場合もあるのだし。
「イキシア何食べてるのぉ?」
「肉詰め野菜」
「じゃあ僕も次それぇ」
「私が食べたのが最後だぞ」
「えぇ~~……追加作ってもらおうかなぁ」
「何でそこまでするんだ」
「僕がイキシアを大好きだからぁ、同じもの食べて出来るだけ同じになれたら嬉しいなぁ~ってねぇ」
「わからん」
「そぅお?」
「結局同じにはなれないだろ」
「そうだけどぉ、同じものを食べてその味を感じてぇ、相手を想う事で同じような感覚を味わえるっていうのはあるよぉ。文字通りねぇ」
「あー、わかる。俺もアゲラタムによく俺が食うヤツ食わせてた。好き嫌いもあるだろうけど、やっぱ好きなヤツと同じモン食ってるって思うと嬉しいもんな!」
「そーそー」
「……サイネリア、そう言いながらさっきから俺の皿に除けてるのあるよな」
「き、キノコが、苦手で……ってアゲラタムもそれ知ってんだろ!? 俺のキノコ嫌い!」
「知ってるけどいい加減食えるようになれよ。このキノコハンバーグ結構美味いぞ」
「アゲラタムからのあーんがあっても無理……」
「そんな事をした覚えはねぇし無理なのかよ」
「……イキシア、今のアゲラタムの言葉ってさぁ、イケるなら自然にあーんが出来るって思ってたのに残念だなぁ、みたいな」
「止めろニリンソウつつくな。私は馬に蹴られる趣味は無いんだ」
「はぁい」
イキシアは肉巻きを食べ、ニリンソウはへらりと笑いながら同じ物を食べていた。
アゲラタムとサイネリアはちょいちょい取り皿に確保した上で交換しているようだが、大皿から取る時により分ければ良いのに、とは少し思う。
……が、それでも交換するというのが楽しいんだろうな。
よく昼食で食べ物交換をしていたので気持ちはわかる。
……まあ私の場合は両親は午前中寝ている事もあってお弁当を用意してもらう事は出来なかったし、私自身自分の為にお弁当を作る意味が見出せなかったから、基本的に近所の惣菜店などで買っていたが。
今思うと誰かと交換する前提で作れば良かったかなあとは少し思う。
しかし高校に入ってからは天恵が時々お弁当を作ってくれたり、クラスメイトと食堂に行ったりも楽しかったのでそれはそれで良いだろう。
作ろうが作るまいがエンジョイ出来ていたわけだし。
「絆愛、食べてるか?」
「掃潔。ああ、問題無く食べているとも」
「そう言うわりに普段よりも進みが遅いようですが」
憶水の言葉に確かに、と己は頷く。
「いや、こんなにも沢山の人が居て共に食事をしていて、尚且つ彼らの様子を見ていたら、つい。笑ったり言い合ったりしている姿に見惚れて、箸を動かすのを忘れてしまう」
「いつもの絆愛ですね」
「いつもの絆愛だったな」
「ああ、いつもの私だ」
不崩と群光の言葉に笑みを浮かべながら返すと、二人も笑って食事に戻る。
「それにしてもうどんが無いのが残念ですね。私、うどん結構好きなんですけど」
「言われてみるとそうだな。憶水、俺は正直まったく覚えて居ないがうどんは作るのが難しいものか?」
「いえ、基本的には小麦粉があればどうにかなるはずですよ」
しょんぼりする不崩の言葉に群光が問うと、パンに肉と野菜を挟んで即席サンドイッチを作っていた憶水が答える。
「それなら憶水が食ってるパンとか俺が食ってるハンバーガーとか、パンの部分これ小麦粉だろ?天恵なら作れるんじゃね?」
「じゃあ軽くチャットで聞こうか」
衛琉が言うと同時、野菜スープを飲んでいた優信がチャットを表示させた。
通信『天恵、ちょっと良いかい?』
天 『構わないけど何かしら?』
通信『今回天恵は僕達の好みの料理を、可能な限り作ってくれただろう?』
天 『流石に掃潔の好きな蕎麦とか従人の好きな生クリームケーキとか時平の好きな寿司は無理だったわよ』
群 『俺の好きなオムライスは』
天 『お米の感じが微妙に違う出来で良いなら作れたけど』
群 『…………遠慮しておこう』
再生『そう思うと誰かの手料理であれば良い絆愛と優信は燃費が良いね』
通信『絆愛はその通りだけど僕の好物は温かい料理だよ? 再無。温もりがあるって良いよね』
情報『もしかしなくとも優信、昔は冷凍食品派でした?』
通信『いや? そもそも冷凍食品はレンジ使うから温かいし』
通信『まあなんて言うか、両親が存命だった頃は美味しい料理を食べてたけど、その後は自分で作るテンションでも無いからってシリアル系ばっかりでね』
腐 『うわあ』
因果『いっその事牛乳を温めてからシリアルに掛ければホットになったんじゃないか?』
その手があったか、とばかりに優信は頷いていた。
天 『ところで用って何だったの?』
金 『あ、私の好物であるうどんは無いんですねーっていうアレです』
天 『ああ、うん、作ろうと思えば作れたけど他にも色々作って大変だったから踏んだりする時間が惜しくて無しにしたの。ごめん』
金 『あー、成る程ー……』
見 『ドンマイ』
木刀『そうそう、体刀みたいにリンゴが好物とかお手軽な好みじゃない場合は仕方ないよね。情陶もスフレ我慢状態だし』
肉体『何なら今度うどんを作る時、報告してくれ。踏んだりするくらいなら手伝える』
天 『うん、その時は頼むわね。というか飛天がかなりのスピードで食べるからちょっと作り足そうかと思ってるんだけど、売れ行き良いのはどの辺かしら』
愛 『見ていた感じからすると味の濃い部類だな』
追従『あと皆の好物はそれぞれガツガツ食べてる感じかな』
天 『りょーかい』
パソコンの画面のように閉じるの位置を押してチャットを消した天恵は立ち上がり、近くにある空の皿を持って再びキッチンの方へと向かった。
「あ、情陶ちょっと手伝ってくれる? レシピ表示してくれると助かるんだけど」
「はーい、ちょっと待っててくださいね」
「というか眠気とか大丈夫? 既に夜になってるから眠くない?」
「大丈夫ですよ、天恵。お昼寝したのでまだ眠気はそこまで酷くないです!」
「つまり多少は眠いのね」
眉を下げて笑う天恵にへらりとした笑みを返しつつ、同じく近くの空になった皿を持って情陶もキッチンへと入って行った。
「あ、私も手伝うでありますよ!?」
「あー良いわよ別に。適当にどうにかするから」
「そうは言われてもじっとしているのは……え、ええと、お皿を集めたり洗ったりくらいはさせて欲しいであります!」
「そう? じゃあ頼もうかしら」
「任せるでありますよ!」
グッと拳を握ったストケシアは弾けるような眩しい笑顔と共に素早い動きで空の皿を回収し始めた。
流石は大体の仕事をオールマイティーにこなしていたメイド。
「っていうか皆結構食べるね? 俺もうお腹いっぱい」
「それは良いが時平、何故私の膝に来た?」
「え、宝の足長くて良い感じの枕に見えたから?」
「どういう意味だ……」
「まあ良いんじゃないかな? そのくらいはねん。心声もパンケーキ食べ終わって満足だし」
「僕の家だったらそういう時はゲームしたりしてたけど……ゲームが無いから残念だ」
「俺としては宝の膝の上も充分に良い感じだけど、ゲームかあ……」
優信の言葉に時平が宝の膝の上でうーんと首を傾げる。
「こっちの常識調べるのに忙しくてそういうの全然考えて無かったや」
「僕は考えてたよ?」
芋をすり潰して焼いたステーキをもごもご食べていた口舌は言う。
「通信が居ればスマホゲームが出来るからね!」
「良い笑顔だけど時間の流れが違うせいでログインボーナスが貰えないって嘆いてなかったかしら」
「そうなんだよ! ログインしても向こうじゃ一秒も経過してないからログボ貰えない! 悲しい! ログインが途切れるよりは良いけど永遠にログイン更新が無いのも辛いよ!」
「そういえばこっちで普通にプレイ出来るけど向こうからするとどう見えるのかな? 一瞬でフレンドのレベルが信じられない爆上げ状態?」
「中々の着眼点だな、従人」
ふむ、と己も少し考えてみる。
「その場合、課金などをすると通帳からとんでもない桁のお金が同じ日の同じ時間に何度も課金されるという怪奇現象になるんじゃないだろうか」
「ちまちま小分けで買ったとしても明らかに時間の流れがおかしいと判断されそうだな」
「群光に同意です。普通に買うにしても買うかどうかにYesかNoかを問われる画面が出たりしますから、そう考えるとこちらの数十年であちらの一秒となるとほぼ同時刻に複数課金とか明らかに改造系扱いされません?」
「不崩酷い! っていうか、え!? 僕結構今まで健全プレイヤーしてたのにチート疑惑出るの!? 課金で!?」
「別に課金しなくてもプレイは出来るんじゃねぇの?」
「……犬穴」
口舌はとても穏やかな笑みを浮かべて犬穴の肩に手を置いた。
「ログボも無くてストーリーも現状公開されてる分はクリアしてる上に日替わりクエストは変わらない。期間限定キャラがガチャに登場する事もない」
「あ、ああ、向こうで時間経過ねーもんな」
「となるともうせめて今やってる期間限定ガチャや通常ガチャを回してキャラゲットするしかないけどそのガチャを回す為の石をゲットするにはクリアしてないストーリーかログボが必須で、それが出来ない場合は!?」
「……課金?」
「そうなるよね」
「んー」
飛天は軟骨をコリコリ食べながら首を傾げる。
「でもその場合銀行の貯金とかから出るよね? 家族と同じトコで管理してた場合下手な課金出来ないし、そうじゃなくてもすぐ尽きない?」
うぐ、と口舌が言葉に詰まった。
「…………ソレはちょっとある、ね」
「僕の場合は貯金も仕事で忙しい分結構貯まってるし家族とか色々気にしなくて良いから、必要そうな電子書籍をぽんぽん購入可能だけどねぇ」
タレ付きの肉を食べながら、優信がそう呟く。
「程々にって事だよな、つまり」
「獣生正論……」
「普通に重い」
獣生の正論に口舌はぐったりと犬穴にもたれかかり文句を言われていた。
「結局心声達はスマホ出してゲームをやれば良いのかな?」
「充電使わない系のゲームもあるからそっちをやったらどうだ? あやとりとか」
「心声あんまりあやとり知らないからねん」
「同じく俺も」
「まあ、あまりそういった遊びも今はしないからな……適当にしりとりをするくらいか?」
「掃潔それナイス! じゃあしりとりしようしりとり!」
「あ、私は少し外に出て来る」
ノリノリな心声にそう告げると、きょとんとした顔で見上げられる。
「珍しいねん……って、成る程」
心を読んだのか心声が苦笑を漏らした。
「色んな人の様子を見て嬉しい気持ちになったから一旦一人になってゆっくり反芻したいとか、絆愛らしい」
「褒め言葉だな」
立ち上がりついでに心声の頭を撫で、外に出る。
リビングから廊下に出ただけでどちらが玄関だったかわからなくなりかけたが、玄関が近いお陰でどうにかなった。
早めに部屋の場所などにも慣れなくては。
……今日からここが私達の家なのだからな。
掃潔達は診療所の生活スペースが家となる。
獣生や体刀、時平などの荒事を得意とするメンバーはギルドとは別に用意された冒険者用の家に部屋を確保していた。
要するに社宅のようなものだ。
……ギルド内もある程度よくあるファンタジーのような、サザンカ曰く昔のギルドらしい状態にまで戻ったが……。
仕事ついでにルピナス達がカウンターやらを作ったりしていたらしい。
きちんと休日を用意したはずが休日まで仕事をしていたとは。
……まあ、良い事だが。
外に出て、夜空を見上げて息を吐く。
……綺麗な星空だ。
まあギルドのアレコレが戻っても元々冒険者が生活する用の場では無い為、社宅を、となったわけだ。
幸いにも空き家が結構多かったので、近くにある大きな家をあちこち買い取ってリフォームしてどうにかなった。
ちなみに優信や従人などの情報収集組はそれなりに大きい一軒家を買い取ったらしい。
比較的綺麗だし人数多くても生活可能だし、とそこを拠点にするそうだ。
実際見に行ったら結構綺麗だったので良いと思う。
……そこで生活する事になるメンバーの一人である幽良が何も言わないという事は、幽霊が居たりするわけでも無いだろうしな。
訳アリ物件でないなら良い事だ。
しかしその他のお手伝い組というか雑用組のような飛天や衛琉達は、あちこちの助っ人になりに行くだろうからと適当にこことか診療所とかを移動する事にしていた。
こちらとしてもその方が直に話す回数が増える分良いとは思うが、大変なんじゃないだろうか。
……そうは言っても基本的には孤児院であるここに集合したりしようと決めているし、今更か。
数人増える程度なら大丈夫なようにしているのはどこの拠点も同じなわけだし。
「ん」
思わず口説きそうになる程の皆への愛おしさも多少落ち着いて来たのでそろそろ戻ろうかと思った瞬間、枝を踏む音が聞こえた。
「、ぁ」
振り返ると、その子は怯えたように身を強張らせた。
中学生くらいに見える、身長の低い心声よりは多少背が高い女の子だ。
「……キミは」
その子はボロボロの服から見える腕や足、そして顔の左側を隠すように巻かれた布の隙間から見える肌に、酷い火傷を負っていた。