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森への挨拶と一方その頃



 絆愛達はカランコエと共に、つい昨日来たばかりの森へ来ていた。

 見渡す限り木に満ち溢れた森の中で、カランコエは手慣れたように軍手を装備する。



「ここは普通の森で、木材調達目的ってんなら」



 カランコエは軍手に包まれた手で遠くの方を指差した。



「あっち。北の方に木々が多くなり過ぎてる森があるから正直そっちのが良いんだろうが、片道で三日は掛かるんすよ」


「普通に嫌だね!」


「だろ」



 従人の言葉にカランコエが頷く。



「あとそこは精霊が過剰になり過ぎてて人間が動くにゃ適さねぇっす。しばらく人間が森ん中で生活してるとか、ある程度人間が一定で行き来するとかならもうちょいこういう普通の森っぽくなるんすけど、あっちはそういうのもねーっすからね」


「つまりは距離があるのも理由ではありますが、木が多いからと木材として切り出したりしたら森が激怒して全力で攻撃に掛かる可能性があると、そういう事でしょうか」


「水の勇者様大正解」



 ピ、とカランコエが憶水を指差した。

 正解は良いが指を差されたのが不快らしく、憶水がとても微妙な顔をしている。



「精霊ってのはつまり森。精霊が怒ればそこに居る魔物達も攻撃的になるんす」



 腰に手をやり、カランコエは腰に装備していた瓢箪を手に取った。



「つってもまあ周辺の状態を整えるなり捧げものをするなり森の中で多くなり過ぎてる木々を間引きするって交渉するなりで、わりとどうにかなったりはするんすけど」


「でも今は周辺を整える余裕も無いし、捧げものも無いし、間引くにしてもそれで森の精霊が魔物を止めてくれたりはしないから出来ない、って感じかな?」


「うーわ、心の勇者様マジで心読んで来るんすね。その通りっす」


「いえーい」



 Vサインを掲げて笑顔になった心声が可愛らしかったので、つい頭を撫でてしまった。

 一番身長が低いというのもあって同級生だというのについつい子供扱いしてしまう。


 ……まあでも優信や憶水や従人や天恵も撫でてるしな。


 そういう愛らしさがあるのだろう。



「実際、森は結局森っすからね。魔物が居るのも当然であり、寧ろ人間が居る方が自然じゃない。住み付いてる場合ならともかく」



 カランコエはきゅぽんという音を立てて瓢箪の蓋を開けた。



「……ちっと木材調達の為に伐採させてもらうんで、間引いても良い木を教えてくれねっすか?酒あげますんで」



 言いつつ、カランコエは瓢箪を傾け、酒なのだろう中の液体をとぷとぷと地面に流す。

 それが染み渡ると同時、森が薄ぼんやりと光った気がした。



「うわ、何だコレ」


「お、流石見の勇者様は目視出来てるみたいっすね」



 振り向くと、宝が未知のものを見るように少しばかり眉間にシワを寄せながら周囲を見ていた。





 宝は驚いた。

 庭師が酒を地面に注いだ瞬間、恐らくは精霊なのだろう、どこにでも居る淡い何かが強く光った。

 まるで応答するような、大声で反応したかのような光。


 ……精霊っつってもなあ……。


 いわゆる妖精みたいな感じには見えず、薄ぼんやりと光っている何か、という感じ。

 耳かきとかについているあのポンポンをほぼ透明にしたような光、と言えば良いだろうか。

 適当に漂っているようにしか見えないが、今ので反応した辺り、恐らく意思のようなものはあるのだろう。


 ……酒んとこめっちゃ光ってるし。


 飲んでるのかなあ、とちょっと思う。

 しかし酒のところに行かない光も多くて、



「……庭師のカランコエ、だったか。少し精霊について質問なんだが」


「俺あんま詳しくはねっすけど、なんすか」


「酒を飲めている精霊と飲めていない精霊が居ないか?」


「いや俺は精霊見えてねーんで、精霊側がさっきみたくモーション掛けてくんねーとさっぱりっすよ。もしくは精霊に力借りて魔力に変換すりゃともかく、精霊をそのまま目視は出来ねーっす」



 ただ、と庭師が言う。



「精霊っつーのは沢山居るように見えて基本的に一っす。諸々を共有してっから、誰々が飲んで誰々が飲んでない、はねーんすよ。勿論グループ別になってるらしいんで、共有してねーのも居るらしいっすけど……」



 よくわからん。



「成る程」



 しかし、地狐は理解出来たらしく、頷いた。



「つまりは水ね。タライに入った水、コップに入った水、バケツに入った水があるとして、それらは別物。同じでは無くて違う水。けれど浴槽にそれらを入れてしまえば、一つの水になるわ」


「確かに、同じ水になりますね」



 不崩がふむふむと首肯する。



「それと同じで、この森という浴槽内に居る精霊は皆感覚を共有している……と、そういう事なんじゃないかしら」


「……お前、こっち生まれの良いトコ育ちなんじゃねーのか」


「僕は地球産日本育ちよ。でもそう言われるって事はこの理解で合っているって事よね。なら良かったわ」



 地狐が満足げに笑むと、はぁー……、と庭師が感心したような息を吐いた。





 カランコエとしては、少し驚いていた。

 自分でもそこまで理解するのに結構時間が掛かって、最終的に感覚頼りで何となく理解するに至ったというのに、地面の勇者はあっさり理解した上にわかりやすい説明までやってのけた。


 ……こっち生まれで学べる立場に居たヤツかって思ったけど、異世界の人間だからこそあっさり理解出来たのかもしれねぇな。


 日常的になり過ぎて、そういうもんだという感覚になっていて、明確にそういった説明を必要とする状態にならないのがこの世界。

 そう思うと、それに慣れていない人間が理解しようとした時、わかりやすい説明を脳内で組み立てるのかもしれない。


 ……ま、俺としちゃ助かったから良いか。


 説明は不得意だ。



「まあとにかくそういう事で、こうして地面に酒を捧げればそれで森全体に捧げたって事になるんすよ。んで用件をしっかり伝えりゃ、ほら」



 指差せば、勇者達がそちらを見た。

 自分が差した指の向こうには、淡く発光している木が存在している。



「間引いても良い木を、ああやって教えてくれてんです。いきなり切ろうとすると怒るんで、要るんすよね、こういう手順が」


「精霊が過剰な森じゃなくとも怒るのね」


「そうっすよ、耳の勇者様。森を怒らせて良い事なんて無いんすから、礼儀さえ通せばちゃんと相手してくれる交渉相手として認識する方が色々楽っす」



 ……ま、あんまやるヤツいねーけどな。


 実際、精霊が過剰なところならともかく、普通の森などでは精霊が怒ってもそう大した事にはならない。

 なってせいぜい森に入った三割が怪我をするとか、そういう程度。


 ……だから不注意扱いで終わるけど、結局は礼儀なんだっつの。


 自分の家は代々庭師で、つまり自然の存在を相手にする為、そういうのとの関わりが深い。

 だからこういった事を知っているのだ。


 ……実際、こういう礼儀通した方が相手も応えてくれて、間引いても良い木を教えてくれたりと助かるし。


 適当に切ると森にとって大事な木を切ってしまう場合もあり、それをやると周辺の木々が枯れる事もあるのでとても危険。

 その周辺の流れを整えてくれている重要な木は、伐採した場合損しか無い。



「ただまあさっき言ったように、魔物は森に当然居る存在。だから魔物が森の中をどう動くかは、ただのいつも通りの動きでしかねーんす。魔物が人間仕留めようとしても、まあ、それが生物として当然の動きなんで精霊は止めたりしないっすね」



 だから本来は冒険者という護衛を用意した上で伐採となるのだが、その冒険者達は現在酒飲みばかりなので駄目だ。

 戦える冒険者も居るだろうが、もう少しちゃんと更生したとわかるまでは頼りにくい。


 ……今更だけどサラセニアのジジイは大丈夫か?


 開幕喧嘩を売られていたらヤバそうだ。

 この場合危険なのはジジイでは無く、ジジイに喧嘩売った結果迎撃されるだろう冒険者である。

 心配も当然そっち宛てだ。





 その頃サザンカは、冒険者達と一緒にギルド内で傷薬の調合を行っていた。



「…………なあ」



 薬草を刻んだりごりごりと薬研で潰したりしていた冒険者達の中、ユーカリが口を開く。



「そもそも誰なんだよそこのジジイ」



 口調が荒くて気性の激しいユーカリではあるが、これで結構律儀な性格をしている。

 その為言われた通りに工程をこなしつつ、そう問うて来た。



「……サラセニアだよ」


「何でサザンカが答えてるんですか?!」


「カキツバタ声がデケェよ。うるっせぇ」



 隣に居るカキツバタの大声が耳に響いたのか、クロッカスが嫌そうに前腕部でカキツバタ側の耳を押さえながらそう言った。

 手で押さえないのは、薬草に触れまくって薬草臭くなっているからだろうか。


 ……薬草臭く、っていうか薬草の汁が大分沁みちゃってるからねぇ。


 手袋があれば良いが、切ったり何だりをする作業を思うとそういうのは邪魔にしかならないので、やっぱり素手になってしまうものだ。



「まあ、良いから調合しなカキツバタ。サラセニアの指示に従っときゃとりあえず大丈夫だから。大分年食ってるけど無駄に現役だし」


「了解です!」


「おい、何か酷い事を言われているような気がするんだが」


「あー、気のせい気のせい」


「なら良いか。小生は小生の仕事をしよう。仕事をしに来てるわけだしな」



 ……いやもうマジで現役だよなあ……。


 凄い年寄りだし見た目も年寄りなのに中身が結構若々しいとか凄いと思う。

 サラセニアの場合ちょっと若すぎるのでまったくもって憧れないが。



「……さっきから思ってたけど、どういう関係なんさ」



 煙管を咥えて煙を吐きながら、出来上がった傷薬を煮てより効果の強い物にしているアルストロメリアがそう言った。



「別に、どういう関係って事は無いよ。初対面。俺が城の専属御者である彼を知ってるだけ」


「小生も有名になったもんだな」


「ああ、うん、有名っていうか悪名っていうか……」



 本当そばに居るだけでハラハラする。



「……とにかく、コイツとは敵対したくない」


「戦えるようには見えないんですけどね」


「確かに見た目よぼついた老人だからタチアオイがそう思うのも無理は無いけど、コイツを見た目通りのジジイだと思っちゃいけないよ。無駄に怪力だし」


「失礼なヤツだな。小生はいざという時の力が強いだけだ。あと御者やる以上はある程度の筋力要るんだよ」



 ……いざという時の、ねえ……。



「…………まあ、アレだよね。手加減の仕方を知らない素人程怖いモンは無いってヤツ」


「あー、ヒペリカムん時みたいなアレか」


「あったあった、ここに来るまでどうやって生きて来たか聞いたら適当な袋に石詰めてぶん回してたって言うんだもんな」


「確かにそれなら遠心力メインで、力は要らないだろうけど……ねえ」


「私らならまだ手加減がわかるけど、明らかにその加減がわかってないヒペリカムの場合、最悪死人が出るからねぇ……」


「い、いいい今はしてませんよ!ここに来るまでどうしたら良いかわからなくて、とにかくどうにか身を守ろうとした結果です!」


「ま、その素人だからこそのヤバさが気に入ったから、俺がギルドに連れて来たわけだけどな」



 オダマキ、レンギョウ、ペンタス、ホオズキ、ヒペリカム、シャクナゲがそう話す。

 確かに初期のヒペリカムは右も左もわからなくて泣きそうで、ただの迷子でしかなくて、なのに世の中が大変だという事だけはわかってるもんだから無駄に本気の迎撃しようとしていてマジでヤバかった。

 どこが急所かもわからないから、とにかく叩けるだけ叩こうとするのだ。


 ……どのくらい戦えるかを知ろうとした時、そのヤバさがわかったからすぐに止めたんだっけ。


 必死になった素人は生きるか死ぬかしかないから本当危険。

 幸いなのは誰かが居たら即座に仕留めなくてはという緊張状態にあったヒペリカムから発される警戒オーラによってか、賊や魔物がヒペリカムに遭遇しなかった事だろう。

 最低限のエンカウントでオーバーキルにしたようだが、そのお陰で相手の方が距離を取った為、無事にこの町までたどり着いたわけなのだから。


 ……いやもう本当、ヒペリカムが死ぬ可能性も高いけど、確実に相手を手負いにさせるだろうな感がヤバいよね……。


 キレたりはしないが、限界値を超えさせた時の動きがヤバいタイプと言える。

 混乱させると死なば諸共系に走るヤツは危険でしかない。



「小生、別にそう暴れたりなんてする気はないんだが」



 思わずどの口が言ってやがるという目を向けてしまった。



「サラセニア、そうは言うけど、お前三年前に城に賊入った時、遭遇したんだってな。んで、そん時どうしたって?」


「怖かったから近くのテーブル掴んでぶん回したら吹っ飛んで、起き上がったら怖いからそのまま何度か振り下ろしたんだよ。そしたらピクピクした動きになって、立ち上がれない感じになったからよし!って思った」



 で、とサラセニアは続ける。



「これで安全確保!とは思ったが見つかったら絶対に怒られるだろ?毎回やり過ぎって言われるが、怖いんだから仕方ないだろうにな」


「いや、他人事みたいに言ってっけどやってんのはこのジジイじゃ」


「シッ、黙っとけユーカリ」


「こういうタイプにツッコミ入れても良い事はねーよ」



 うっかりツッコミを入れかけたユーカリの口をオダマキとレンギョウが塞いでいた。

 双方薬草を刻んでいた為手が薬草塗れであり、それに口元を覆われた結果鼻に入ってくる薬草の青臭さにユーカリが物凄く嫌そうな顔をしているが、大人しくなったのでまあ良しとしよう。



「だから庭に埋めた」


「ちょいちょいちょいちょい。ちょいジジイ待ちな。今何て言ったんさね」


「いやほら、怒られるのは怖いからな。だからとりあえず庭に埋めて隠そうとしたんだが、その前に見つかって叱られた」



 アルストロメリアが物凄く反応に困った顔でふらりとクロッカスの背に顔を埋めた。

 ジジイの口から出るその責任感ゼロな言動に、まだ年若いというのに責任感強めな姉御肌であるアルストロメリアは耐えられなかったのだろう。

 クロッカスもそれにコメントせず、無言で薬研を動かし続けている。


 ……というかアルストロメリア、傷薬の効果を高める為に灰汁取りしてたんじゃなかったっけ。


 傷薬は刻んですり潰して水を混ぜてまたすり潰してを繰り返せば完成する。

 しかしその完成した傷薬を一定の温度で煮込むと灰汁が出るので、その灰汁を取り除けばより効果の高い傷薬になるのだ。

 その作業中、しかも火を扱う作業中だったのに大丈夫なのだろうかと思ったが、ホオズキがカバーしていたのでセーフ。


 ……ホオズキ、料理結構得意だしね。


 だからなのか二つの鍋を余裕で担当出来ていた。



「というか埋めて隠蔽っていうのは、お皿を割った子供みたいですね!」


「あー、やってる子見た事ある」


「カキツバタさんもペンタスさんもあっさりスルーしてますけど、人間とお皿が同じ扱いされてませんか……?」


「というか行動が完全に死体隠蔽のそれだと思うんですけど」



 本当その通り、とギルド内に居る冒険者の殆どがタチアオイの言葉に頷いた。


 ……ヒペリカムが言ったのも、本当それ、って感じだけど。



「要するにコイツはそういうヤバさがあるって事。怖いとか、叱られるってわかってる辺り良い悪いも把握してんだけど、人間を気絶させたのを皿割ったのと同じレベルにしか考えてないからヤバいんだよ」



 自分の命が大事というのは生き物として当然の考え方だが、感覚が子供っぽいのだ。

 善悪以前の問題とも言える。


 ……怖いからで迎撃したり、やらかした自覚があるから隠蔽しようとしたり、感覚が子供なんだよねぇ……。


 ただやらかしが子供レベルじゃないからヤバい。



「だから俺はコイツと敵対したくないし、お前達にも敵対して欲しくない。連帯責任とか絶対嫌だからね。傷薬の提供とかを思えば喧嘩する理由無いし、本当大人しくしてて」


「まあ、自分らはつい先日動きまくったりしてたのもあるんで、今はわざわざ喧嘩売るようなテンションでもありませんが……」



 ボソッとした喋り方で、クロッカスがそう言った。


 ……相変わらず俺には微妙に敬語入ってるなぁ。


 他には荒い口調なのだが、これはボスとして認識されているという事なんだろうか。

 己は特にギルドのボスになった覚えは皆無なのだが。


 ……重鎮な自覚はあるけど、ボスって性格でも無いしねぇ。



「酷い言われようだな、小生」


「妥当でしょ」


「小生はただ馬の世話をして、時々馬車を走らせる程度の男なんだが。荒事と無関係な小生が怯えられるというのは何か違くないか?」


「荒事と無関係だから怖いんだよ」


「よくわからん。まあ小生御者だしな。冒険者の言っている事がわからなくともまあ良いか」



 ……そーうやって流す辺りも怖いんだけどねえ!?


 注意とかあらかじめ穏便にって言ってもさらっとスルーされそうな感がある。

 よくまあ城の人はコレを寄越そうと思ったものだ。


 ……まあ、ボコられたとはいえならず者だらけなギルドに若い子とか真面目な子が来ちゃったら、舐められるなり反発を生むなりするだろうから、ヤバいジジイを送るっていうのは間違っちゃいないかもだけど……。



「あ、そこもうちょい刻んでおけよ」


「え、俺?ちゃんと刻んでっけど」


「別にそれでも傷薬は出来るし使うのは小生じゃないから良いんだが……ん、何だ、それなら別に良いか。じゃあそれで良いぞ」


「いや何か怖くなったからもうちょい刻むわ」


「俺もやっとこ」



 オダマキはサラセニアの言葉に冷や汗を垂らしながら刻み直し始め、レンギョウもそれに影響されてか顔を少し引き攣らせながら薬草を刻み直す。


 ……実際ちゃんと教えてくれてるし、細かく注意するより雑な指示って感じだし、他人に対して雑過ぎるせいで皆が自主的にやり直してくれる辺りめちゃくちゃ合ってる選択には思える、けど……けど!


 正直誰か何かやらかしてヤバい事態になるのではという緊張で胃が痛いのだが、作っているのは外傷用の傷薬であって胃痛に効く胃薬では無い為、どうしたものか。

 己は手を動かしながら遠い目でそう思った。





 まあサラセニアのヤバさについては地味に知られてたりするから大丈夫だろう多分、とカランコエは雑に己を納得させた。

 心が読める心の勇者が微妙な顔で見てくるが、敵対さえしなければ良いジジイなのでそんなモンだ。

 万が一があっても自業自得と言えるだろう。

 あと純粋に人材が足りてないから消去法でそうなったわけだし。


 ……マジで城の人材足りてねーんだよなー……。


 冒険者の中に良さそうな人材が居ないだろうか。

 居てくれたら是非城に勤めて欲しい。

 正直仕事が出来て、尚且つ腹黒い事を考えないヤツであれば老若男女問わないのだが。


 ……腹が黒いのは却下だな、うん。


 ブナ王とか騎士が、こう、里親を探す予定の仔猫と一晩一緒に居たら情が湧いてそのまま飼ってしまう感じの、そういうタイプなので、腹黒いのとは相性が悪い。

 それがわかっているからこそ、執事が淡々とした態度なのだろうが。


「んじゃ、ああいった微妙に光ってる木を伐採してくわけだが」


 己は背負っていた斧を手に持ち、勇者達を見る。



「俺は斧でやるけどよ、勇者様方はどうすんすか?」


「寧ろ伐採目的でありながら最初に斧を用意するよう言われなかった事についてを言いたいかな、僕は」



 通信の勇者に圧のある笑顔で言われたので、斧を持っていない方の手で群の勇者を指差した。



「報告曰く、斧を持った群の兵っての出せるらしいんで、わざわざ重たい斧を持たせて移動するよかそっちに頼った方が良いんじゃねえかなって思ったんすよ」



 ……そもそも斧ばっかそう幾つもあるわけじゃねえし。



「成る程」



 そう思いつつも本心からの言葉を告げれば、群の勇者が頷き、斧を持った人型の存在がぞろりと出た。

 流石は群なだけあって、複数居る。



「…………群光、いい加減この群の兵に服を着せる気とか無いんですかねー」


「そういえばそんな事を言っていたな」


「まだ慣れてないからって思ったけど、単純にいつも通り忘れてただけだったのね……」



 情報の勇者の言葉に群の勇者がそう返せば、地面の勇者が片手で頭を抱えながらそう言った。



「いや、俺はクラス関係ならそう忘れんぞ。発言もな」


「思い出せるってだけで忘れはするよねん」



 心の勇者の言葉に群の勇者は顔を逸らしている。



「……だが、正直、服を着せるとなると確実にTPを消費する。そこで無駄遣いをするのは、まだTPが少ない現状としてはな……」


「ま、とりあえず群光にとってのこれからの課題、っつー事で良いんじゃね。今重要なのは伐採なんだしよ」


「獣生に同意だ」



 見の勇者が手を挙げた。



「伐採した木については従人の能力に頼るとして、それぞれ出来る事をやっていこう」


「私もですが、宝も何も出来ない組ですからね」


「……言うな、不崩」



 金の勇者の言葉に見の勇者は顔を逸らした。

 仲がよろしいこって。



「はい、とりあえず注目」



 地面の勇者が手を叩き、注目を集める。



「僕の能力なら、石を刃の代わりにして土を回転させる事でチェーンソー代わりに出来ると思うわ。多分これは憶水も出来るし、やり方次第では口舌や犬穴、衛琉にも体刀にも可能のはずよ」


「俺の能力穴だぞ」


「木の根っこ付近で空間に穴を開ければ分断されて伐採終了になるわ。口舌による木刀の場合は力づくでいけば良いし、体刀に至っては爪を鋭くするなり腕を斧にするなり、やりようは幾らでもあると思うのよね」


「俺は?能力は腐敗オア防腐の二択なんだけど」


「衛琉の場合は犬穴と同じようなやり方をすればいけるはず。全体じゃなく、一部だけを腐らせるの。勿論他の部分を腐らせないように。腐らせる事で木を倒したら、腐っている部分を切り落とせばどうにかなるわ」


「良いだろうか」



 愛の勇者が手を挙げた。





 体刀は絆愛が口を開くのを見た。



「正直現状、防腐処理がどのくらい持つかわかっていないが、衛琉に動いてもらうなら是非伐採した木材の防腐処理をしてもらいたい。孤児院の建て直し、そして恐らく他にも木材を必要とする場所があるだろう」



 ……昨日壊したギルドの扉の修理とかだろうな……。


 修理というかそれはもう綺麗に吹っ飛んだので、新しいのを用意して設置する方向かもしれない。

 ウエスタンなドアだったのであっても無くても通気性的にはあまり問題無い気もするが、それはそれだろう。



「建物に用いる木材である以上、腐ってしまうのは困る。永続では無いにしろ、可能なら防腐処理を頼みたい。可能な限り長持ちして欲しいからな」


「……それもそうね」



 ふむ、と地狐が頷き、衛琉を見た。



「じゃあ衛琉は防腐処理という事で頼むわ」


「了解」


「ねえねえ地狐、ちょっと良い?」



 飛天がぎゅう、と地狐の腕に抱き着く。



「私達とかはどうすれば良いのかな?戦力外?ここで待機って感じ?」


「そうね……チェーンソーのような動きをさせたらTP消費激しそうだし、憶水や僕は魔物が来た時の迎撃要員の方が良いかしら。幽良と宝と心声は索敵要員ね。優信はチャットを用意しておいて。索敵組が何かに気付いたら即座にチャットで通達」


「了解」



 言うが早いか、目の前にチャットが来た。

 先日うっかり二回も割ってしまった画面である。


 ……割らないように気をつけなければ。


 まあ竹刀を振り回しでもしなければ多分大丈夫だろう、多分。



「あと、効率の為に組み分けをしておきましょうか」



 地狐が言う。



「斧を持った群の兵はそれぞれの組に入れるとして、迎撃要員は別々にした方が良いわね」


「ねえちょっと地狐?私は?空飛べるよ?飛べるだけだけど!」


「そうね……」



 地狐は思案するように顎に手を当てた。





 地狐は飛天の能力を考える。



「そういえば物に翼を生やして移動させる事が出来るのよね。なら伐採し終えた木々を一カ所に移動、頼めるかしら」



 その方が楽だ。





 ……あれ、その情報って隠してたような?


 まあ良いか別に庭師も敵って感じじゃ無いみたいだし、と飛天は思った。



「了解!」



 能力を秘匿するよりも役割がある方が嬉しいものだ。





 カランコエは召喚時に居たはずなのにその情報初耳だよな、と思った。


 ……勇者内で隠してた能力なんじゃねえのか?


 でも本人達はそれを開示した事を気にしていないようだし、口止めされたなら従うようブナ王に言われているので従うつもりだったがその様子も無いし、実際伐採した木々を一カ所に集めておいてくれるというのはありがたい。

 なのでカランコエは色々スルーしておく事にした。

 口止めが無いなら普通に報告する気ではあるが。





 心声はあちこちの心の声を聞いた結果、まあ本人達が気にしてなくて庭師がツッコミを入れたりしないならそのまま放置で良いか、とスルーをキメた。





 絆愛は地狐が従人へ視線を向けたのを見た。



「それで、従人」


「うんうん、何かな?」



 腕を広げてウェルカームな感じの従人に苦笑して、地狐は腕を絡めてきている飛天ごと従人の腕の中に飛び込んだ。

 身長に比例して体のサイズが大きい従人なだけあって、女の子二人くらいは余裕のようだ。


 ……良い事だ。


 大好きと大好きと大好きが一緒に居るというのは最高に嬉しい気分になれる。

 ハンバーグオムカレーみたいな感じ。

 まあ自分は誰かの手料理であれば何でも好きなので、具体的に好きな料理は無いのだが。



「従人は馬なり熊なりを出してくれるかしら。木材を運んでもらうわ」


「任せておくれ!」



 にっこにこな笑顔を浮かべた従人に、ふふ、と地狐が笑みを零した。



「まあ伐採した時点では木材というか丸太状態だけど、町に送ってそれらの専門家に処理をしてもらった方が良いでしょうしね。相手にとってもお仕事になるし」


「あ、じゃあその報酬は私が用意しますね!砂金で良いでしょうか!」


「良いと思うよ」



 能力の出番が来たかとわくわくしている不崩に、口舌が頷く。



「あと人手が足りないようなら、それらの仕事に興味がある、または出来る冒険者に協力してもらうよう依頼する、というのも良いかもしれない。結構な人数が居るから、仕事を用意出来るならした方が良いだろうしね」


「確かに人手が多ければ、最初は多少説明で時間を取られるだろうが、最終的に完成するまでの時間が短縮されるな」


「うん、良いかも」



 口舌の言葉に掃潔と時平が賛成した。



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