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冒険者が仲間になった!



 チンピラ冒険者達とのバトルの結果、体刀が相手の六人全員を完全に気絶させたのを絆愛は見届けた。

 終わったから、と野次馬が退散していくのを見送りつつ、絆愛は皆に合流する。


「何というか、凄かったな」

「うん、凄かった」


 飛天が苦笑しながら同意した。


「……ん、何だ。絆愛、いつの間に戻って来た?」


 こちらを向いた体刀は絆愛が居る事に今ようやく気付いたらしい。


「体刀が大声で叫んだ辺りから戻って来ていたぞ。事情はぼんやりと聞いたが、そんなにも矯正したいと思ったのか?」

「いや、よくわからん。単純に八つ当たりして来たのが不愉快だったから八つ当たりしただけかもしれんな」

「凄い矛盾が含まれてる気がするわねー」

「気のせいじゃねーと思うぜ、天恵」


 犬穴の言葉に頷けば、皆も同意に頷いていた。


「そういえば途中、何かを割った気がするのだが」

「ああ、それは僕の出したチャットだよ」

「む」

「必要かなと思ったら割られて、もう一回出したら間髪入れずに割られたね」

「……あれ、チャットだったのか」


 体刀は驚いたように目を見開く。


「割れるのだな、あれ」

「うん、僕も初めて知った」

「硬い下敷きってイメージだったから、割れる事もあるっていうのを知れたのは大きかったけれど……」


 チラリ、と地狐は道に倒れている彼らに視線を向けた。


「しっかしまあ、どうすんだよコイツら」


 気絶しているチンピラ冒険者達を見て、獣生が頭を掻く。


「完全にノしちまってんじゃねーか」

「気絶どころか骨にヒビが入っていたりもしているぞ」

「そこは再無に頼む」


 宝の言葉に、体刀はスパッとそう言い切った。


「…………?」

「貴様なら出来るだろう」


 僕?と言いたげな再無の肩に手を置き、体刀は笑う。


「能力を確認する為の良い実験台だとでも思え」

「心声、流石にそれは酷い言いようじゃないかなって思うよ?」

「構わん。そのくらいの方がコヤツらも気が楽だろう」

「あー……まあ確かにそういう面倒臭さはあるかもねん。心の声聞いてた限り」


 サバサバした体刀の態度に苦笑しつつ、心声はそう答えた。


「…………」

「ん、どうかしたかい?」


 再無は従人を手招きして少しばかり屈んでもらい、耳打ちをする。

 ふんふんと聞いていた従人がこちらを向いた。


「ここで能力を使って治すのも何だから移動したいって。治したらそのまま放置する可能性もあるから出来ればある程度の安全が保障された場所だと良いね」

「そこの老騎士、丁度良い心当たりはないか」

「……群の勇者、私はイチョウだ」

「俺は人の名前に興味が無くて覚えられない憶水と違い、本気で忘れる人間だ。俺の記憶力に期待をするな。クラス関係以外で覚えて居る事など殆ど無いぞ」


 群光にハッキリとそう断言された騎士イチョウは何とも言えない表情になった。





 イチョウとしては存在を忘れられているのでは?という空気の中で突然の声掛けだったが、それにしたって名前を忘れるのが早過ぎやしないか、とも思う。

 まあ、この勇者達は他人への興味が皆無のようなので、そういうものなのかもしれないが。


 ……しかし、丁度良い場所か……。


 気絶しているサザンカ達は冒険者なので、冒険者ギルドを根城にしているのだろう。

 今の冒険者とは大体根無し草であり、ギルドを宿扱いしているのでそんな感じ。

 けれど酔っ払いの荒くれ者が多い場所に気絶している彼らを連れて行くわけにもいかないし、そもそも勇者達を連れて行くわけにもいかない。


 ……確実にまた似たような喧嘩が売られるからな。


 不要な争いは避けたいところだ。


 ……サザンカは昔から冒険者をしている分、重鎮扱いでもあるからコイツが起きていれば多少は他の冒険者達も大人しくなるだろうが……。


 そのサザンカもがっつり気絶しているので期待出来ない。

 可能なら誰かが入って来たりしない、尚且つ治療に専念出来る空間が良いのだろうが、難しい問題である。


 ……あ、いや、あったな。


「一応ここを少し行ったところに、診療所がある」

「ああ、あるんだ。じゃあこの人達背負って連れてく?」

「なら僕が二人担ぐよ」


 続きを言う前に木刀の勇者が反応し、追従の勇者が若いのと真っ直ぐなのを肩に担ぎ上げた。





「どういうつもりだこの野郎!」


 ……まあ、そうなるよな。


 診療所に到着するや否やそう叫んだのは、掃潔だった。

 絆愛としてもその反応は無理も無い、特に掃潔の場合はそうなるだろうという感じである。

 尚チンピラ壱は群光が脇に抱え、チンピラ弐と参は従人が俵のように肩に担ぎ、エキゾチックチンピラは己が姫抱きし、ボインチンピラは地狐がおぶり、老人チンピラは騎士イチョウがファイヤーマンズキャリーで移動させている。

 気絶させた体刀が背負っていないのは、単純に高身長組と騎士イチョウが持ち上げる事になったからだ。


 ……女子の中では地狐が一番背が高いし、私が二番目に高いから、まあ妥当か。


 個人的には素敵な女性をこの腕に抱く事が出来てとってもハッピー。

 セクシー系でちょっと露出多めで、それ故に素肌にあちこち傷が出来ているのが痛々しいが、そこは再無に期待しよう。


 ……嫁入り前かどうかはしらんが、女性に傷があろうとその美しさが損なわれる事が無いとはいえ、傷が無いなら無いのが良いからな。


 傷というのは本人が気にしがちになる部分でもあるので、再無の能力に是非期待したいところだ。

 悲しむ顔も落ち込む顔も全て等しく愛おしいが、出来るならば素敵な笑顔が見たいと思うものなのだから。


「でも確かに、これはどういう事なのかな?」


 時平がそう首を傾げるのも当然だろう。

 到着した診療所は、荒れ果ててはいないものの人が住まなくなってしばらく経過しているとわかる様相をしていた。


「……ここは経営していた老人が亡くなり、その後放置されている場所だ。ここなら入っても問題は無い。室内はそのままだから多少荒れているし埃やらも積もっているが、ベッドのシーツを退ければ充分に使えるだろう」

「使える使えないじゃなくこんな不衛生な場所に入るのが無理だと言っているんだ!」

「掃潔、どうどう」


 優信がそう声を掛けると、掃潔は険しい顔で息を荒くしながら優信に抱き着いた。

 そしてその頭に顔を埋め、何度かの深呼吸。


「……掃潔?落ち着いた?」

「無理だ」


 安心毛布であるかのように優信を抱き締めながら、掃潔は思わずといったようにガタガタと震えながら言う。


「あんな汚れた空間は無理だ。見るだけでぞわぞわする。存在している事自体が耐えられない不潔さなのが入る前にわかる。何故こんなものが現存しているんだ」

「確かに潔癖症には厳しいですよね」


 そう苦笑する不崩は潔癖症では無くとも体が弱い為、こういう場所は無理な気がするのだが、その辺他人事で良いんだろうか。


 ……しかし実際、怪我人を埃塗れの場所に放置するというのはな。


 というかどのくらい放置されていたのかは不明だが、かなりお化け屋敷染みた様相の診療所だ。

 怪我人がおらずとも入るのを躊躇う。


「でも掃潔、このままってわけにもいかないんだからさっさと入った方が良いんじゃない?」


 腰に手を当て、幽良がそう言った。


「途中でそのチンピラ共が起きても今は怪我だらけだから暴れる事も出来ないでしょうけれど、問題は担いでる側よ。地狐達が疲れちゃうじゃない」


 その言葉に、優信の頭に顔を埋めていた掃潔がチラリと幽良の方を見る。


「お前は嫌じゃないのか。こういうところを率先して嫌がるタイプだろうお前」

「私は幽霊が居るようなところが嫌なだけよ。だから幽霊が出るスポットとかは絶対行かないけど、ここは別に居ないみたいだから平気」

「それでも嫌だ」

「あたた」


 力を強めたらしく、優信が笑みのまま少しだけ眉を顰めた。


「あー……まあ掃潔の気持ちもわからなくはねーし、俺だってあんま入りたくはねーけど……仕方なくね?」

「衛琉お前俺の敵に回るつもりか!?」

「いやそんなつもりはねーけど……ああもうほら涙目になんなよ悪かったって。ほらポケットティッシュ」

「ふぁ……ねむ」


 ぐしぐしと目を擦った情陶は、隣に立っていた憶水にもたれ掛かる。


「…………眠いです」

「そのようですね」

「んじゃ、早めにカタをつけるとしましょうか」


 情陶の言葉に憶水が苦笑しながらその頭を撫でれば、仕方がないという笑みを浮かべた天恵がよく響くように手を叩いた。


「はい、こっちちゅうもーく」


 その言葉に視線が集まる。

 優信に片腕で抱き着いたまま、空いている方の手でポケットティッシュを受け取って涙を拭っていた掃潔も天恵を見た。


「とりあえず入りたくない側の拒絶としては、廃墟感満載な不潔感が駄目なのよね?」

「ああ、無理だ。生理的に無理」

「基本的に心因性の潔癖症で、私達と一緒の時はわりと平気な掃潔がそう言うなんてよっぽど……って言いたいところだけど、まあこの廃墟っぷりは普通に入りたくないわよね。うん」


 ……確かに、掃潔は潔癖症ではあるが軽度なんだよな。


 軽度というか、心因性のものなのでクラスの誰かと一緒に居て心に余裕がある時は平気、というタイプ。

 なので一緒にお風呂だの雑魚寝だのが平気なのだ。


 ……皆で一緒だから、見慣れない王城の一室でクッションやら布やらを敷き詰めた上にシーツ、という空間でも平気だったんだろうが……。


 普通の人間でもちょっと引くような廃墟を前にしては無理も無い、と絆愛は思った。

 こちらの世界に掃潔の潔癖症を悪化させる原因である掃潔の両親は居ないが、そういう問題でも無いのだろう。


「かといって今から掃除をするわけにもいかないわ。既に日が暮れてるからさっさと帰りたいし、情陶とかもうおねむなわけだし」

「だが、無理なものは無理だぞ。過呼吸になって蕁麻疹が出かねない」

「それはわかってるわ。こういう時の獣生じゃない」

「…………ん、えっ?俺?」


 山育ちでアウトドア系だからか特に廃墟に対して無反応だった獣生は完全に傍観者枠としてぼーっとしていたが、突然話を振られた事に驚いてかきょとんとした表情で己を差した。


「俺が何かすんのか?天恵」

「因果でしょ?獣生の能力。で、汚れているっていうのは人の手が入らなくて放置された結果こうなるっていう、因果」

「わあ」


 心を読んで考えを察したのだろう心声が口角を上げただけの笑みで言う。


「こじつけスッゲェー」

「因果の能力って要するにこじつけなんだから、どうしてこうなっているのか、を考えて理由をでっち上げられそうならそれでいけると思うのよねー」


 天恵はその笑みを獣生へと向けた。


「違う?」

「いや確かに俺の能力だけどそう言われても知らねーよ?」

「出来ると思うわ」


 そう言ったのは、名も知らぬボインチンピラを背負っている地狐だ。

 名も知らぬというか一部名が発覚している気もするが、自己紹介してもらった上でしっかりと知りたいので暫定その呼び名で良いだろう。


「どうしてそうなるのか、を考えたら全てが因果で繋がってるもの。あとはその因果関係を狂わせれば、事実は無くなるわ」

「なあ、それ俺物凄くヤベェヤツって事になるんじゃねえか?」

「そんな事を言ったらそこの発案者なんて切り札でしかないわよ」

「切り札兼日常生活用の能力って感じよねー私」


 切り札なのに日常生活用というのは矛盾がある気がするが、津波と台風の応用で洗濯機的な感じに出来ないだろうかと考えていた天恵だと思うと、間違ってはいない気もするから不思議なものだ。


「……結局どういう事なんだ」

「まあ、つまりは汚れてるって事実を無くしてもらうって事だよね」


 掃潔の言葉に応えたのは、口舌だった。


「放置されたから汚れた。これは因果だ。あとは放置されたから汚れた、の部分を狂わせてもらえば良い。そう、例えば放置されたから綺麗に保たれているとか、放置されても汚れはしないとか、そういう風に」

「ああ、まあ、確かに猛毒オオカミを解体する時、俺の能力で制服が汚れたりしねーようにはしたから、そういう事なんだろうとは思うけどさ……」


 はぁ、と獣生が溜め息を吐く。





 獣生としては、頭使わせてくんなぁこの能力、という感じだった。

 物凄い応用が利く能力だし、大概の事に使えそうで凄いとは思うが、いちいち因果だの何だのを考えないといけないのが面倒だ。

 これいちいち因果についてを考えた上で狂わせたりしないと駄目なんだろうか。

 まあ、その場合はクラスの誰かが方法を考えてくれるだろうから良いが。


「んじゃ、とりあえず汚れるっつー因果を否定して、綺麗になるっつー方向に狂わせっか」


 イメージしてみたら出来た。





 再無は綺麗になった、けれどボロボロさは大して変わらなかった診療所に入り、置いてあるベッドに寝かされたチンピラ達を治していく。


 ……表面部分は見れば怪我があるってわかるから治せるし、早送りみたいに治っていくのはある意味面白い気もするなあ。


 不謹慎極まりない思考だが、今後色んな怪我人を相手にして治していくのだろうと思うとこのくらいのメンタルの方が良い気がする。

 いちいち傷を見て具合を悪くするのは面倒だし、こっちが体調を崩してしまう。

 傷を見せたら具合を悪くさせてしまったという怪我人側もダメージを負う気がするが、まあこれはどうでも良い。

 再無にとって、クラスの皆以外の人間はその他大勢枠であり、田んぼで揺れてる稲穂と大して変わらない。

 何かいっぱい居るなあ、区別つかないなあ、わざわざ話すも何も無いなあ、という感じ。


「…………」

「どした?」


 再無としては、あんまり喋りたくない。

 それは単純に喋るのがあまり得意ではないからだ。


 ……だから僕、チャットとかは問題無いんだよね。


 実際に喋るのが得意じゃないだけで。

 他人の場合、面白がって何か喋って喋ってと言ってくるので本当に嫌だ。

 なので他人の前では徹底的に喋らない事にしている。


 ……元々喋る気も無いし、喋らなくても支障無いし。


 関わる気も無いからそんなもん。

 関わる必要がある時は、大体クラスの誰かが一緒に居るので、クラスの誰かに耳打ちをすればそれでいい。

 そんなわけで、手招きをすれば来てくれた犬穴に耳打ちをする。


「…………外側、見えるから再生出来た……けど、多分これ……骨折とかまで、治せてない……と思う……」

「あー……」


 納得したらしく、犬穴が何度か頷いた。


「おい、宝」

「何だ、犬穴」

「お前コイツらの怪我状態とか見えてんだろ。再無じゃどこ骨折してるかとかまでは見れねえみたいだから、お前が目ぇやれ。治ったかどうかの確認作業」

「あ、これそういう事か」


 犬穴の言葉に、宝が腑に落ちたような声で言う。


「さっきから表面の傷は治すのに骨折とか放置だなあ、何か考えがあるのかなあ、骨折系はTP消費が激しいとかで後回しなのかもなあ、でもまだ能力使ってないからそれは現状不明だよなあ、って思ってたんだが」

「単純に見えねぇからわかってねぇだけだ」

「確かに、骨折って基本的にレントゲン要るしな」


 わかったわかった、と宝が頷いた。


「じゃあとりあえずそこの第一絡み人だが」


 わかりやすいけどその呼称はどうかと思う。





 宝のフォローもあってチンピラ全員の怪我をTP使い切ってどうにか治しきった再無が安堵の息を吐くのを、心声は見ていた。


「しかし、この後はどうする?」

「どうするってどういう感じに?」

「時間が時間だからそろそろ帰るべきだろうが、コイツらと話したい事があるようならコイツらが起きるまで待つ事になるだろう。かといっていつ起きるかは不明だ。しかし置いて行けば明日来ても既に居ない可能性がある」

「あー、それは大丈夫だと思うよん」


 飛天に説明する群光の言葉に挙手してそう言う。


「どういう意味だ、心声」

「そこのチンピラ達、全員起きてるもん」

「ああ、さっきから起きてるぞ」

「そうね」


 己の言葉に、宝と幽良が賛成した。


「気絶時と起きている時だと結構違うのが見てわかる」

「音も思ったより違うというか、意識が覚醒して色々把握しようとしてる時って言うのかしら?」


 幽良が首を傾げる。


「あの時息を潜めたりとかしてて、その後違和感を抱かせないようにって感じの呼吸音になったけど、それでもぎこちなさはあったもの」

「ああ、意識的に体を動かさないようにしている筋肉の動きなんかも見えたからな。わかりやすかった」

「心声の場合はがっつり心の声が聞こえちゃってるから、意識が覚醒した後色々考えてるのも全部聞こえちゃってたりっていうね」

「…………通販の勇者はその辺まったく理解出来てない子だったんだけど、時代なのかねぇ……」


 溜め息と共にそう言って起き上がったのは、老人チンピラだ。

 騎士イチョウやその他チンピラから聞こえる心の声からするに、サザンカとかいう名前らしい。

 興味が無いので覚える気は特に無いが。


「それとも数かな?まあ、勇者がこれだけの数居たら、その分だけ能力がバラエティに富む、ってのは当然か」


 頭をガシガシと掻きながら、老人チンピラは諦めを含んだような溜め息を吐く。


 ……んー、心の声を聞いてる感じ、バトッて暴れて色々叫んでスッキリしてるのも事実だし、負けたのも事実だから協力してくれる気はあるっぽい?


 老人チンピラだけじゃなく、他のチンピラ達もわりとそういう気分らしい。

 遊ぶのは好きでもバトルタイプでは無い自分からするとサッパリだが、戦って分かり合うという昔ながらの少年漫画みたいな心の通わせ方、というのはあるのかもしれない。

 まあ体刀としては体育会系のノリだったのだろうけれど。


「で、俺達はどうなる?」

「私に聞くな」


 老人チンピラの問いに、これまで黙って見ていた騎士イチョウがそう返した。


「お前達が喧嘩を売り、そしてその喧嘩を買ったのは肉体の勇者であり、私では無い。私の管轄外である事に私が口を出せると思うか」

「ああ、お前さん、通販の勇者の時は全部が管轄()だったからなぁ。その結果勇者の鬱憤が溜まって魔王の呪いの威力が増したんじゃないか説を思うと、見える範囲には居て貰いつつ自由にさせる、って方針になるか」

「………………」


 ……わー、スッゲーくらいビンゴ当てて来るねあのジジイ。


 己としてはちょっとビックリ。

 騎士イチョウの内心を読んだのかと思うようなピッタリ具合だが、しかし老人チンピラの心の声も聞こえているこちらとしては、諸々から推測して判断したのがわかっている。

 ただまあその結果内心を当て過ぎていて、騎士イチョウは物凄く微妙な顔で無言を返す事になっているが。


 ……心声達勇者が居る前で肯定も否定も出来ないよねん。


 自分が居るので無言だろうと内心は読めているのだが、騎士イチョウとしてはそういった建前と、申し訳なさからくる罪滅ぼし的な感情がある為、内心の方もどっちつかずといった感じ。

 内心自体が肯定も否定も出来ていないからこうして無言を返しているのだろう。


「……ま、良いや」


 騎士イチョウの様子からそれを察した老人チンピラは、笑むようにしながら息を吐いた。


「で、そうなると俺達の諸々を決めるのは肉体の勇者様かな?」

「私は知らん。これから色々と改善していく際、手が必要だろうなと思っただけだ。丁度良い人足として期待している」

「……確かに冒険者ってのは、依頼料さえ払って貰えれば雑用とかもやる何でも屋みたいなもんだからね。建て直したり耕したりとかするだろう勇者様のこれからを思うと、働き手を捕まえておきたいってのには納得」


 先程までの目が笑っていない笑みを消した老人チンピラは、仕方がない、と言わんばかりの笑みを浮かべる。

 内心を聞いている感じ、処遇が人道的なら良い、という感じらしい。


「んじゃ、全員もう起き上がって良いよ。とりあえず有料のつもりではあるけど、肉体の勇者様に負けた身として、ある程度なら従うからさ」


 老人チンピラの言葉に、ずっと寝たふりを続けていた他のチンピラ達も起き上がった。





 まあこの勇者達は大丈夫かな、とサザンカは思う。

 これは思いたいと、そう信じたいだけかもしれないが、裏切られようとその時はその時だ。

 その時は世界が終わる時だろうから構いやしない。

 世界が好転すれば、期待に応えてもらえたという事なのだから、それだけの話。


「あ、でも一応言っておくけど、あんまり非人道的なのはお断りだからね」


 ……酒に溺れて人に絡んで、って人道から外れたような事ばっかしてた上、そういう道に引きずり落としてた俺が言うのも何だけど。


 他に道が無かったし、そっちの道に引きずり込まなきゃ死んでた可能性が高かったから、というのは言い訳だろうか。

 自分からすれば事実だが、主観だのが入ると難しい問題だから面倒臭い。


「……というか俺は完全に従う気で、そういうつもりで返事したけど、皆としてはそれで良い?」

「俺は気にしねぇよ」


 一番酷く荒れていてカリカリしていたはずのユーカリは、色々と吐き出した上でボコられたからか、憑き物が落ちたような様子でそう言った。

 ベッドにあぐらを掻きながら、気にしていない、と手をヒラリと振っている。


「元々喧嘩売ったの俺だし、負けたのだって事実だ。金が入るのはありがてぇし、仕事があるってのもありがてぇしな」

「何だ、知能が低くて喧嘩売るしかねぇ馬鹿かと思ったら普通に考えるだけの頭があったのかテメェ」

「喧嘩売ってんのか!?ァア!?」

「こらこら」


 きょとんとした、心底不思議ですと言わんばかりの穴の勇者の言葉にユーカリがキレたので、その頭を押さえつけて落ち着かせる。

 隣のベッドという事で手が届く距離だったのが幸いだ。


 ……というかユーカリって結構キレやすいから、あんまり刺激して欲しくないんだけどねぇ……。


 にしても穴の勇者って何だろう。

 どういう能力なのかもわからないし、どうやって役立たせるかもまったく想像出来ないのだが大丈夫なんだろうか。


 ……まあでも通販の勇者と知り合った時も、最初は通販って何だろうなって感じだったし、そういうもんかな。


 年食ってる分、酒に浸っていようとある程度の知識はあるが、異世界文化は流石に知らん。


「ちなみに他は?」

「俺は構いませんよ!あれだけ強いなら多分どうにかなります!多分ですけど!でもその多分でどうにか出来ると思うんです!」

「うん、お前はいつも元気だね」


 真っ直ぐ過ぎるが故に考え込み過ぎて弱っていたカキツバタだが、ボコられた事で色々感情がスッキリしたようでなによりだ。

 スッキリというか、本来のカキツバタらしさが出た、という感じかもしれないが。


「……自分も、まあ、構いませんよ」


 ぽつりとそう言うのは、一番若いクロッカスだ。


「食っていく事が出来るんなら、自分はそれで」

「そっか」


 ……クロッカスからしたら、食えるかどうかがデカいんだろうねぇ。


 食い扶持を減らす為に自ら家出したクロッカスだと思うと、その考え方もさもありなん。


「アタシも構やしないよ」


 姉御のような頼もしさを持ちながらもクロッカスの次に若いアルストロメリアが笑う。


「どうせだらだら生きて酒に酔いながら生きるよりは、仕事用意してくれるってんだから、仕事をこなして汗水流して金貰って、その金で酒買って、疲れた体に染み渡らせるのが一番だろうさ」

「達観してるねえ」

「金が無いせいで家族ごと村が散り散りになりゃ、誰だって達観するさ」


 その言葉で騎士イチョウが物凄く気まずそうに顔を逸らしたが、まあ良いか。


「お前さんはどうだい?」

「私も良いですよ、別に」


 大分年は離れているものの、サザンカの次にこのメンバー内で年長であるタチアオイがそう言って笑う。


「仕事が無くてやっていけない、っていうのは私もよくわかってますからね。治してもらったとはいえ、あれだけボコボコにされておいてまだ燻ぶってるわけにもいきませんし」


 ……ま、そりゃそうか。


 ふ、と笑い、勇者達を見据える。


「んじゃ、自己紹介と行こう。そっちの事はこっちなりの呼び方で呼ばせてもらうから良いけど、呼び名が無いと面倒でしょ」

「別に適当に呼ぶよ?」

「俺が嫌なんだよ、追従の勇者様」


 ……老年冒険者って、事実とはいえあんまり呼ばれたくないし。





 絆愛は、老人チンピラが挙手したのを見た。


「まず、俺はサザンカ。長年冒険者やってるし、ボコられた身で言うのも何だけどある程度なら戦えるよ。とはいえ大分衰えてるから、魔物との戦闘でそこまで活躍も出来ない気がするけど」

「ユーカリだ」


 チンピラ壱がそれに続く。


「病知らずでここまで生きてきてっから……生き延びてっからよ、病気関係でちょっと見回ったりとか治療のサポート要員とか、そういう系統なら出来ると思うぜ。応対は期待すんな」

「カキツバタです!」


 敬礼しながら元気にそう言ったのはチンピラ弐だ。


「俺はそういう得意分野とか特に無いですけど、頑張ります!あ!あと走るのとか結構得意です!」

「クロッカス」


 カキツバタの声にかき消されそうな小声で呟いたのは、チンピラ参。


「隠れてやり過ごしたり、魔物の気配を察知したりが得意だが、それだけだ」

「アタシはアルストロメリアさ」


 続いたのは、自分が抱きかかえて運んだエキゾチックチンピラ。


「馬鹿やるヤツのケツを蹴っ飛ばすくらいしか出来ないけど、よろしく頼むさ」

「タチアオイです」


 笑みを浮かべて挙手をするのはボインチンピラだ。


「知識がある程度で実践は微妙ですけど、農業系なら多少は力になれると思いますよ」


 ……成る程、サザンカ、ユーカリ、カキツバタ、クロッカス、アルストロメリア、タチアオイ……か。


 気付いてはいたがどうもこの世界、植物系の名前が普通らしい。

 華やかさがあって良い事だ。


「……でもさ」


 自己紹介が終わって早々に、サザンカが言う。


「俺達はこれからキミ達に協力する、というか依頼料さえ用意してもらえれば協力する気満々なわけだけど、これからを思うと六人じゃ足りないよね?」

「…………まあ確かに、僕達が地盤を整えたとして、そしてその後を預けたとして、六人じゃ手が回らないのは当然ね」

「うん、地面の勇者はその辺り賢くて良いね」

「当然の事を言われても嬉しくはないわ」


 ……ううん、やっぱり地狐、クラスの皆以外にはピシャリとクールだな。


 クラスの誰かが言ったなら、当然よ、と嬉しそうに微笑むくらいはするのだが。


「ただし、俺達は色々鬱憤をぶちまけたり思いっきりボコられたりでスッキリしたから良いけど、他の冒険者達はそうじゃない」


 サザンカが言う。


「俺達が従ってる姿を見てもそれについて来たりはせず、今までの俺達のように馬鹿にして、そこでやり取り終了。ボコられる前に俺が言ったように、ついて行こうって思えるようなメンタルじゃないのさ、今の皆は」

「それも余裕を無くして、自ら下に落ちるかそこでの停滞を望んでいる冒険者達は、って感じかな?」

「流石は心の勇者だけあって、読んでくるねぇ」


 心声の言葉に嫌味なく笑ったサザンカは、その通り、と告げた。


「その辺り、どうする?俺は重鎮扱いだけど、かといってボスじゃないからね。俺が言ってもついては来ないよ」

「なら私がまたボコるとするか」


 ……体刀、さらっと言うなー……。


 卵無いからちょっとコンビニ行ってくる、くらいのテンションで言う事だろうか。

 まあ、あれだけ能力を使いこなしていたところを見ると、可能だろうが。


「体刀ってば、またやるんですか?」

「しかも一人で?」

「む」


 不崩と時平の言葉に、体刀が顎に手をやり少し思案する様子を見せた。





 体刀は少しばかり考えてみる。

 恐らくギルド内は二桁のチンピラが居ると思って良いだろう。

 今回の手ごたえ的に、まあどうにかなるだろうとは思っていたが、


「……TPの問題上、明日以降のつもりではあったが……確かに一人では心許ないかもしれんな」


 どの口が?という目を冒険者達に向けられた。


「うんうん、どの口が?と言わんばかりの表情というのも、また素敵な一面を知る事が出来て私はとても幸いだ。私はキミ達という魅力的な存在に対しての理解がまだ低いから、こうして少しずつ色々な事を知っていけるというのは嬉しい事だよ」


 ……げっ。


 視線を向ければ、絆愛がとても嬉しそうなはにかみ笑顔で冒険者達に近付いていた。


「もっと様々な事を知りたいと思うが、けれど今はどちらかというと、キミ達からの体刀への理解を深める方が優先かな」


 絆愛は微笑む。


「どの口が?という顔をしていたが、体刀とて一人の人間。たった一人でキミ達を思いっきりボコボコにしていたが、一人の人間。それも女の子。一人では心細い、というのも当然あるものだ。心細いという感情は老若男女問わず、誰にでもあるもの。そうだろう?」


 そう、と絆愛は膝をついた。


「キミ達にだって、心細い時はあったはずだ。体刀が心細いならば私たちが共に居る。そしてそうだな、もしキミ達が心細さを感じるのであれば、勿論もしキミ達が良ければだが、是非私がキミ達の心細さを無く」

「こらこらこら」

「口説くな口説くな」

「絆愛、一旦ストップ」

「一旦戻って。というか下がって」

「油断も隙も無いなお前は」


 絆愛の怒涛の口説きに、宝と優信と飛天と幽良と掃潔が待ったを掛けて後ろへと下がらせる。

 いきなり過ぎて理解出来ていないのだろう冒険者達は完全に虚を突かれた顔をしているし、理解出来ているのだろう騎士イチョウは現実逃避なのか遠い目で外を見ていた。


「というか心許ないと心細いは違う意味じゃないんですかねー」

「明らかに違うわね」

「実際私としても手が足りないのではという不安であって、寂しさを感じていたわけではないからな」


 情陶と地狐のやり取りに、己は首を傾げながらそう告げた。

 何故心許ないが心細いに変換されたんだろう。


 ……絆愛からすると、不安イコール寂しさという式なのかもしれないな。


 真摯な口説き魔である絆愛だが、あれでかなりの寂しがり屋なので、そういう思考に至ったのだろう。

 まあ、多分だが。


 ……とりあえず明日ソッコで、というわけにもいかんだろうから、明日以降タイミングを見計らいつつ誰かに付き添いをしてもらいながらギルド破りでもしてみるか。


 道場破りのノリだが、多分合ってる。

 回復の為に再無と宝の存在は必須だが、戦闘面での補佐としては誰が一番ベストだろうか。



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