噂に聞く先代勇者
約二名がスタートからダウン状態だったが、それ以外は特に問題無く女子会が開催となった。
時平は着慣れたスカートに違和感も無く、いつも通りに寝転がる。
「情陶寝るの早い、よ」
「ぐえ」
寝転がりついでに寝落ちしていた情陶の背に圧し掛かれば、潰れたような声がした。
流石に全身での圧し掛かりはしてないのに。
「だいじょぶ?」
「だいじょぶですけど眠さ優先です……」
「大丈夫だけど今は眠気が勝ってるって言いたいの?」
「それ……」
「わあ、本気で眠気とバトルしてる」
最早ワードが微妙に合っていない。
伝わるっちゃ伝わるけれど、という感じだ。
「……で、何か用ですかー……?」
「うわあ」
目を擦りながら情陶がのそりと起きた為、横向きになって背に上半身を預けていた己はそのまま情陶の足元方向に転がり落ちた。
これは中々のアスレチック。
思ったよりも転がった。
「ちなみにだが情陶、寝落ちている間に私達が何を話していたかについては」
「まったく聞いてないのでちょっとまってくださいねー絆愛……」
くああ、と欠伸を零しながら情陶はホログラムを表示する。
複数のホログラムが出ては消えを繰り返し、数秒で一枚へと纏まった。
「……ああ、成る程、クエストの進捗ですかー……」
「ああ」
絆愛が頷く。
「アレはこの世界が致命傷を負わないよう、そして魔王が復活しない為に何をすれば良いか、という指南書染みた部分がある」
が、
「最初は最初過ぎて、とにかく出来る事からやるしかない、となっていただろう?」
「諸々は完全に後回しだったからな」
「碌に確認すらしてないもんねえ」
掃潔の言葉に、口舌がへらりとした笑みでそう返した。
二人もまた女装姿だが、それなりに違和感が無いのは着慣れているからだろうか。
定期的に女子会開いてたし。
……男子会も開いてたから、今度はそっちかなあ。
まあ服装を変えるだけであって話の内容とかは一切変化無いのだが。
「実際、ゲームとかも最初はとにかく流れでやって感覚掴んで途中からクエストに集中し始める、ってとこあるからね」
「能力も使い慣れて来たしィ、応用もある程度出来るようになった今ぐらいが丁度良いと思うんだよねェ。TP的な問題も殆どないようなものだしさァ」
優信と心声の言葉に、そういえばそうだったな、と思い出す。
「最初はTPが初期レベルのMPくらいしか無かったもんね」
「今は大分余裕出来たから良いけど、実際最初はすぐにTP切れ起こしてたっけ」
己の言葉に、飛天があははと笑いながらシャーベットを頬張る。
アレは既に五つ目だったはずだがお腹大丈夫なんだろうか。
飛天だから大丈夫なんだろうな。
「それじゃあクエスト確認しましょうかあ……くああ」
欠伸を零しつつ、情陶はクエストについてが書かれたホログラムを表示する。
「あれ?」
至近距離だった為、見えた内容に思わず声が漏れた。
「……何か、閲覧可能になってね?」
そう、獣生の言う通り。
クエスト欄が見えるようになっていた。
否、クエストは元々確認可能だったが、クエストをクリアしていないと一覧からはクエスト内容が確認出来ない、となっていたのだ。
……ハテナ状態になってるとこをタップすればクエストの内容が確認出来る仕様だったけど……。
「つまりこの辺りはクリア出来てるって事か?」
「いつも通りに俺はもうその辺に関する知識を忘れたが、そうなのか犬穴」
「おう。確かクリアしてたらタップ無しで読めるようになる仕様だったが……スクロールしてもずっと表示状態になってんぞコレ」
「クリアしている、という事かしら」
地狐が情陶の頭に胸を置いてホログラムを覗き込んだ。
ずしり、という擬音が聞こえそうな胸を頭に置かれた情陶は、ぐえ、と零す。
あれ結構な重量ありそうだけど情陶の首は大丈夫だろうか。
そう思っていたら情陶はゆっくり伏せの姿勢になって匍匐後退して抜け出たので、多分大丈夫じゃ無かったのだろう。
実際アレは相当に重いだろうし。
「ふむ……」
絆愛がホログラムを覗き込む。
「病人を五十人回復させた、百人回復させた、二百人回復させた……他にも色々と読めるようになっている辺り、既にクリアしたんだろうな」
「ア、漁業復活ってクエストあるよん」
「こっちのはギルドの復活とあるが、私達は冒険者と戦ったくらいなのに換算されて良いのだろうか……。ギルドとしての復活を成し遂げたのはあの老人冒険者だろう」
「サザンカね、サザンカ。体刀も冒険者と結構交流するようになったんだから覚えようか」
「口舌が覚えていれば問題あるまい」
「荒事組の殆どがそう言って冒険者の事覚えようとしないんだもんなあ……」
同業者だから覚えた方がやり取りスムーズなんだけど、と口舌は苦笑する。
苦笑しながらも仕方がないというような表情なので、あまり本気で言っているわけでも無いだろう。
口舌はアレで結構気に入った相手をでろでろに甘やかすタイプだし。
「覗き見した感ジー、結果的にクリア出来てれば良いって事なのかナー?」
宙に浮いて逆さ状態でホログラムを見ていた幽霊が言う。
幽霊は戦闘特化だったので時代が違って文字読めないしそもそも文字の読み書き出来ないし、という状態だったらしいが、アスチルベやシラーの勉強会を見学しているお陰か普通に読めたらしい。
「俺戦闘以外よくわかんないけドー、だからこそ洗濯とかそういうノー? 誰がやっても別に構わないんだヨー。誰がやったって洗濯出来た事実は変わらないしネー」
「あー……成る程」
その言葉に、優信が納得したように頷いた。
・
ヒノキの言葉も一理ある、と優信は納得した。
「つまりこのクエストは、この世界で魔王が復活しないようにする為の手回し。だからこそ、僕達が直にやらなくても、結果的にそうなればオッケーっていうわけだ」
「成る程、つまりどういう事かわかりません!」
「不崩……」
凄い元気に挙手するのは良いが、成る程って言ったのは何だったんだ。
「良いですか、不崩」
憶水が人差し指をピンと立てる。
「まずこの世界は、人々の不満が一定を超えると魔王が誕生し、世界を崩壊へと導きます。要するにノアの箱舟のような状態ですね。アウト判定を下されたら世界が大洪水で洗い流されるのと同様、魔王が誕生して世界を滅ぼしに来るわけです」
「つまり既定の条件クリア出来ないまま時間経過するとバッドエンドっていうゲームでよくあるアレ」
「成る程、今度は理解出来ました」
憶水と口舌の説明に、ふむふむ、と不崩が頷く。
群光などの一部も頷いているが、まあここで理解出来たなら良いか。
「……実際、魔王の原材料となるのは人々の不満だ。そう考えると不思議でも無いのか」
「話を聞いている限り、人々の不満が薄まれば勇者様方の抱いている問題は解決する、という事でしょうか?」
「だろうな」
顎に手を当てていた掃潔は、女装したスイバに付き添っているアスチルベの言葉に頷きを返した。
スイバは未だにダウン中だ。
己からすれば遠い過去だが、十代前半かつ子供から大人になろうとしている思春期真っ最中な少年に女装は少々きつかったらしい。
……僕としてはもう慣れちゃったしなー。
最初だって余興みたいなもんだし、と普通に着たので若い子のそういう感情はわからん。
正直言って仕事仲間で集まった際の余興で見世物扱いされるなら絶対にお断りだが、今はそういう感じでも無いわけだし。
「僕達がやったのは、例えるなら水車の修繕と動くかの確認」
天恵が持って来てくれた温かいココアを飲みつつ、己は告げる。
「それが終わったら後は流れに任せる感じだけど、それで作業が楽になれば人々の不満はかなり減る。あとはその後も自分達でメンテナンスしてくれるのを願うばかりかな」
「僕達が死んでいる畑を整えたようなものね」
獣生の背を背もたれにしながら、地狐が言う。
「畑が復活すれば作物が出来て、人は飢えずに済む。飢えは人の心を殺伐とさせるわ」
「わかるわ」
「うん、わかるわかる」
ジャスミンとシラーが頷いた。
スイバはまだ復活出来ていないが、シラーは女装姿に関して割り切ったらしい。
いや、目が死んでいる事を思うと現実逃避してるんだろうか。
「飢えから離れれば不満は減る。更に作物が市場に並べば人は飢えないし仕事も出来る。食べ物があれば人も集まる。人が集まれば当然色んな施設が必要になって、仕事も増える。仕事が増えれば今後も飢えずに済むわね」
「この町もそんな感じの動きだよねェ」
「あー確かに!」
心声の言葉に飛天が反応する。
「最初はギルドで炊き出しやってたけど、アレって食べ物あっても買うお金が無い人用の食事って今ならわかるよ! そこで食べれたら動けるようになって仕事出来て稼げるし、冒険者達は真っ当になりましたアピールが出来るもんね!」
「そうだな」
掃潔が頷いた。
「そしてそうやって安定すれば、後はそれが維持されれば不満はそうそう湧かないだろう。安定した状態に慣れると現代日本のような飽食と退屈が溢れかねんが、しばらくは持つはずだ」
「うっわ嫌な例え……」
「納得しちゃうのがまた困る、よね」
掃潔の言葉に衛琉と時平が表情を引きつらせたが、否定出来ないのが困りもの。
実際、安定が続くとそれはそれで退屈だと不満が湧くのだ。
不安定なら不安定で地雷だらけだが。
……いや、もしかすると安定してると思い込んでるだけで実は安定してないから不満が湧くのかな?
薄氷の上を歩いていると無意識にでも察していれば、そりゃあピリピリもするだろう。
そこが安全を確保された道の上であれば、気兼ねなく鼻歌でも歌いながら散歩出来そうなものなのに。
つまり現代日本は薄氷の上みたいなもんなのだろうか。
何となく嫌な事に気付いてしまった感があるが、今は異世界なので良いや。
既に己は無関係状態なので現代日本に居る人達が頑張れば良い。
大事なクラスの皆も一緒にこっちに来ているので、あっちはあっちで見知らぬ誰かに任せておこう。
「しかし、安定しているのは事実だ」
絆愛が笑う。
「出来る事をやってきた結果、良い方向へと向かっている。実際ここが動く事で、連鎖的に他も動いているのだろう?」
「ふむ……歯車は一つ動かなくなれば全てが駄目になるように、一つ動けば全てが動く。それと同様、他の町……というより、国々か。他の国々もある程度情勢が安定し始めている、というのは私も聞いたな」
「体刀に同じく」
獣生が挙手した。
「魔物退治とかしに町の外出ると、町にやってくるヤツと話したりする機会もあんだよ。時々護衛を兼ねて一緒に街道から町まで付き添うんだけど、そういう時に他国の話とか聞けるんだ。んで聞くと、この町が品物を買ったり、逆に作物なんかを物流に乗せてくれるお陰であちこちが動き始めた、ってさ」
「他国の物流も動けば、そっちでもお金が動く。お金は血液みたいなものだから、古いものを溜め込んでても腐るだけだ。血の動きが止まった箇所は腐って壊死するようにね。じゃんじゃん流せとは言わないけど、循環させる必要はある」
だから出たり入ったりで動くのは良い事だよ、と口舌は絆愛にもたれるようにして肩を組みながら言う。
「そして物が動くようになれば、他のところも改善の為に動けるようになる。仮死状態から復活したようなものだ」
「俺は死んでても動いて戦えたから良いけドー、死に際はまったく動けなくて気分最悪だったヨー。正直死ぬよりそっちの方が辛かったからネー。お前が言ってるのってそゆこトー?」
「ヒノキ……結構直感で正解当てるよね」
「戦い系以外の言い方されると褒め言葉かどうかもわかんないヨー?」
「褒め言葉褒め言葉」
口舌は雑にそうあしらった。
「ま、ヒノキの言った通り。意識がある仮死状態なんて、生き地獄でしかない。動きたくても動けないようなものだから、不満は鬼のように蓄積されるよね」
「籠った気とかも淀みになるから換気って大事なのよね」
ハァ、と幽良が溜め息を吐く。
「埃が溜まるように、嫌な気とかも溜まったりするから。時間が死んだ時から動かない幽霊を思うと、停滞がどれだけ恐ろしいか……想像するだけでやんなっちゃうわ」
「それ俺のこトー?」
「アンタも含めてるけど幽霊全般よ! あとあんま視界入ってくんな! しっしっ!」
「ひどーイ!」
チェー、と呟きながらヒノキはふよふよと天井近くまで浮いた。
戦闘民族だし最初がアレだったので心配だったが、アレで意外と話は通じるので良い事だ。
話が通じるというか、本人自体が戦闘以外を知る為にわざわざ現世へ来ているから、という気もするが。
まあ害が無いなら理由は何でも良いか。
「総合すると、あちこちが改善された結果連鎖的に他のところも改善して不満が減ってきている、という事です」
「クエスト自体、神が具体的にどうすれば魔王復活を阻止する為に人々の不満を除去出来るかの方法を伝える為に用意してくれたものだからな」
「成る程」
憶水と絆愛の説明に、群光がふむふむと頷く。
「だが」
情陶がひたすらスクロールし続けているホログラムを覗き込み、宝は口を開いた。
「これだけクエストをクリアしていると言うなら、まだクリアしていないクエストは一体何だ?」
「ボスモンスターの討伐クエストクリアしてたり、もう一方のボスモンスターを仲間にするっていうクエストもクリア扱いになってるのって……つまりそういう事ですよねー」
ホログラムを見ながら苦笑する情陶の言葉に、宙に浮いているヒノキは剣を持ったままの前右手の骨の指で自身を指差し、カタリと頭蓋骨を傾ける。
視線を向けられたアスチルベはコクコクと頷きを返していた。
尚スイバはまだ羞恥に死んでいる。
下手に恥ずかしがる方が自分の中での羞恥心を増幅させるだけなので、開き直った方が心の傷浅めで済むと思うのだが。
まあ思春期少年には厳しいか。
「あ、ようやくクリアしてないクエストが……って、えっ!?」
「どうしたの?」
「ちょ、しょ、従人、これ、これ!」
「んー?」
情陶の動揺に反応してのそりと近付いた従人は、示されるままにホログラムを覗き込む。
一緒にホログラムを見ていた宝ですら停止している内容を確認した従人は、一瞬普通に流しかけてから二度見して目を見開いた。
「え、未クリアのクエストってラスト一つなの!?」
「そうなんですよ!」
その言葉に驚愕する。
町の人々の会話やテンションを見ていれば相当不満が無くなっているという事実はソッコーでわかるが、それでもまさかクエストがラス一レベルで改善されていたとは。
地道に出来る事をこなしていくのがどれだけ大事かよくわかる。
・
絆愛は情陶を後ろから抱きかかえるようにして、ホログラムを覗き込んだ。
「私達はクエストを全部クリアしてもここで生活するのは決定事項になっているが……一体どんなクエストなんだ?」
「今確認します」
こちらに身を預けたまま、情陶は疑問符で隠された唯一のクエスト部分をタップした。
表示されたクエストクリアの条件は、
「…………違う代の勇者と会話する?」
「これクリアしたところで人々の不満量が減るとは思えないんだが……完全に個人的な部分だろう」
「ですよねー」
「まあゲームって考えれば前作の主人公と会話みたいなクエストはお楽しみ要素としてありがちだけど、実際クエストの定義からすると意味無いよねコレ」
ホログラムを覗き込んでいた四人でそう零す。
己は首を傾げる程度だったが、他三人は呆れたような半目だった。
「そもそも難易度が地味に高くねえか? コレ」
「ってゆーとォ?」
心声に促され、犬穴が頬杖をついて言う。
「他の勇者ってんなら俺らはこっち来た瞬間からクリアしてっけど、違う代ってなると厳しいだろ。先代死んでっし、こっちの世界にゃ居ねーし」
「うわー! 確かにそうだよ!」
えらいこっちゃだよ! と飛天が騒ぐ。
「だって私達こっち来てからとっくに半年経過っていうか、そろそろ一年回りそうなくらいでしょ!? なのに他の勇者なんて噂すら聞かないよ!?」
「私の耳にも入らないわね」
「私の視界にも入った事が無いな」
「心声が読み取った中にも無いよォー」
「ぎゃー! 本当にえらいこっちゃだよコレ!」
「とりあえずアンタは何か食ってなさいやかましい」
「んむがっ」
騒いでいた飛天はキッチンへ行っていた天恵によって口の中に冷凍バナナを突っ込まれて大人しくなった。
チョコバナナのように竹串を刺して冷凍していたらしいソレを飛天はあっという間に噛み砕いて食べ切るも、天恵はそれをわかりきっていたのか、ビールジョッキの中に詰められた冷凍バナナを追加でテーブルへと置く。
「お見事」
思わず拍手したらまばらな拍手が発生した。
いや本当今のは実にお見事だ。
「ううん……しかし困ったな」
情陶を抱き締め唸ってしまう。
「別の代の勇者と会話した人、であれば居るんだ。サザンカやイチョウ、ブナ王辺りがそうだな。ツガも話した事はあるかもしれない」
が、
「他の代の勇者と会話か……」
「ちなみに絆愛?」
優信がこちらへと問う。
「一応聞くけど、絆愛の知り合いの中に他の代の勇者って」
「クリア出来ていない時点でお察しの通り、流石に居ない。私の知り合いの中に現存する他の代の勇者を知っている、という存在も居ない。そもそも他の代の勇者は現存していないだろう。幽霊として存在するかも微妙なくらいだ」
そのレベルで噂すら聞かない。
劇や本の中で逸話が語られたりもするけれど、先祖から聞いたという勇者の話とかも聞くけれど、やはり現存というか生存している他の代の勇者についてはサッパリだ。
「現地人であるジャスミン達は何か知ってたりしませんか?」
「知ってたら聞かれる前に発言してるわよ」
不崩の言葉に、ジャスミンはスパッと切れ味よくそう答える。
「少なくとも私は知らないわ。そんな話を聞いた事も無い。情報が隠蔽でもされていない限り、通販の勇者以降に呼ばれたのは今居る勇者様方だけよ」
他国含めてもね、とジャスミンは言った。
「僕もあちこちうろついて美女に貢いだりしてたけどよ、そういう話は聞いてねえぜい」
「自分もです。自分はそう移動していたわけではありませんが、そういった噂は聞いていません」
「スイバ、アナタはどう?」
「俺を見るな……」
「見たってどうも思やしないわよ。良いから答えなさい」
「行商人や両親から聞いた事は無いし、両親の死後に誰かと関わった事も無いから噂があっても知るはずがないだろう……」
「らしいわ」
「俺も知らないヨー。噂聞く前に噂の出元殺してたしネー」
「まあ、色んなトコから来た新入り含めて知り合いだらけな絆愛が知らないってんなら、そりゃ知らねえよなあ……」
衛琉がうんうんと頷くが、それ程だろうか。
話題に上がっていないだけという可能性もあるが……いや、多分無いな。
それは何となくわかる。
「……まさかとは思うけど、僕達詰んでる?」
「パズルの最後のピースが行方不明みたいな感じだね……」
口舌の言葉に時平が続くも、その言葉は絶望的だ。
それは悲惨。
「え、あの、でも」
「ん?」
声に視線を向ければ、アスチルベが手を挙げていた。
「あの、情報の勇者様の能力でしたら、最善の方法や最有力の情報を表示出来るのですよね? でしたら、まずそちらで無理かどうかを確認する、というのは……」
「それだあ!」
「アスチルベってばナイスアイディアー!」
「今すぐ表示します!」
アスチルベの案に獣生と従人が指差しで叫び、情陶が慌てて新しいホログラムを表示する。
大量に表示されたそのホログラムは、数秒で一枚に纏まった。
・
憶水はどうなるかを見守っていた。
情陶の能力によって導かれた答えは、獣生によって因果を歪めてもらう、というものだった。
……身内のチートを完全に忘れていましたね……。
多分真っ当に生きているからチート活用の方法が浮かばなかったのだろう。健全な証拠で良い事だ。
さておき、因果を歪めると言っても異世界への道を下手に繋げるわけにもいかない。
万が一があっては困るのだ。
という事で、歪められたのは優信の能力だった。
通信能力の範囲を獣生による因果ブーストで増強する事で、異世界に居るかもしれない勇者に繋げる、というものである。
……異世界というのはあの世も含まれていますから、最低でも一人は確実に引っかかるでしょう。
地球に帰ってようが別の異世界にまたもや転移してようが普通に死んであの世へ逝っていようが異世界は異世界。
あとは、再無の能力を同時に繋げる事でテレビ電話状態になっているこのホログラムが相手を映し出すかどうか、だ。
ラジオの電波を拾うような微妙な調整がされているらしく、聞こえる音声はノイズが走ったり違う声が聞こえたり。
……チャンネルが安定しないのでしょうか。
そう思いながら見守っていると、ホログラムに表示される映像が急にパチリと鮮明になった。
『ギャアッ!? エッ何々いきなり何ィ!? 何かいきなりホログラム出現したし何か可愛い女の子とゴツくて雑な女装した男共が映ってるとか何この世の闇鍋か何か!? それとも新たな魔物ォ!?』
表示されたホログラムの向こうに映ったのは、霊体とわかる透けた体の持ち主。
スタートから異様に喧しいその男には霊体でもクッキリしている茶色のメッシュがあり、その両目には文字が浮かんでいる。
向かって左から読むと、通販、と読める文字が。
『っていうかマジでいきなり何なワケ!? せめて喋ってくれないとコミュニケーション取れないじゃん!? 何!? 売店利用者ならそう言ってくんない!? 違うなら帰って!? 俺戦闘系じゃ無いんだからさあ!』
通信が繋がったのは、噂に聞く先代勇者だった。