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これからよろしくネー



 とりあえず幽霊に話を聞いたところ、こういう事だった。

 曰く、仕留められてすぐあの世へ逝った。

 曰く、戦って死ぬ事出来たしちょっと戦い以外の事も見ようかなと思った。

 曰く、どうせ転生するまで時間あるし成仏済みだから現世行っても淀みなどの悪影響が無い。

 曰く、だから勇者達の気配が色濃く染みついてるとこに行ったらあの世とこの世で時間の流れに差があるのかまだ帰って無かった。

 曰く、そのまま普通に孤児院メンバーに挨拶して暫定的に害は無いようだし護衛代わりにもなるしという事で滞在していた。





 宝はガンガン痛む頭を掃潔の肩に擦り付けた。

 察したのだろう、掃潔は能力でささっとこちらの頭痛を治す。

 頭痛とはつまり病気みたいなものなのだ。

 少なくとも怪我による頭痛では無いし。


 ……まあ、原因がある以上再発はするが、それでも一瞬頭痛が収まるだけマシか……。


 しかし語られた経緯はどうにも頭が痛くなる。



「……まず、ジャスミン達はこんな明らか怪しい化け物が来て、浄化済みで話も通じるとはいえ、完全にアウトでしかない戦闘民族をどうしてあっさり受け入れたんだ……?」


「異世界人よりはまだ常識寄りだもの」



 それを言われると何とも言えない。

 実際、現地の幽霊と異世界人の勇者で比べた場合、前者の方があり得そうな話だ。

 改めて考えると後者が荒唐無稽過ぎてよくまあ当然のように受け入れられてんなあと思うレベル。



「えーと……正直聞きたくないっていうかこれ以上関わる気もあんまり無いんだけど……キミの方は本気で何が目的なわけ?」


「俺からしたら食事とか不要だったシー、今もやっぱり不要だけドー、でも死んだ上で色々終わらせる事出来たから色々知りたくなったんだヨー。戦い以外からも戦う術見つけられるだろうシー、あの世って結局殺されたり死んだりしたヤツしか居ないからネー」



 優信の問いに、まだ殺されてない上で強いヤツと戦うくらいしてないとあの世での転生待機時間長過ぎるヨー、と幽霊はぼやく。



「てなわけでよろしく頼むヨー! 留守番とか多分出来るから任せてネー! 不審者を殺せば良いなら俺でも出来るヨー!」


「殺すな殺すな」


「あと室内で剣は振り回さないで欲しいかな」



 元気にブンブンと剣を振り回す幽霊に、真顔の群光と苦笑する時平がそう言った。

 確かに振り回されると普通に危ない。

 天井高めに作ってあって本当に良かった。


 ……しかし何故腕と剣がそのままなんだ……?


 魂だけというなら、生前につけたのだろう後付けの後ろ腕は取れるんじゃないんだろうか。

 まあそれは悪霊時でもそうだったので、幽霊自身がそれも自分の腕だと強く認識していた云々、みたいな事かもしれない。

 が、それはそれとして仕留める際には地狐が地面を操作して腕を埋めて封印状態にしていたはず。


 ……そりゃまあ、仕留められる事で満足した幽霊が成仏する時、一緒に地中の腕なんかも成仏したわけだが……。


 魂レベルで染みついているんだろうか、その戦闘用の後付け腕と武器は。



「……私も聞きたいんだけど、アンタは何で普通に皆に見えてるっぽい状態なの?」


「見えるように調整したからだヨー? 見る側を見えるようにするのは人数多いし面倒だけドー、俺を見えるようにするだけなら魔法の力で簡単に出来るヨー」



 幽霊の返答に、幽良は疲れたように額に手を当てて絆愛の胸を枕にしてもたれ掛かった。



「生きてた時代が時代だから、魔法が普通に使えるってわけ……」


「っていうか自分の魔力で軽く覆ってるだけだヨー。魂宿って動く鎧とカー、もしくは魚拓とかと変わんないヨー?」



 成る程、魔力で可視化させているわけか。

 透明だろうと色塗っちまえば輪郭までハッキリ見えるぜ、みたいなアレだ。



「こうしちゃえばもっと色んな事知れると思ってやってみたんだヨー!」



 幽霊は四つ腕を腰の骨にあて、えっへんと胸骨を張る。

 強さや生き様に異様な程貪欲、というか強い執着があっただけはあり、興味のある分野に関してだけやたら凄いポテンシャルを発揮するのだろう。

 敵になるとめちゃくちゃ厄介なタイプ、によく居るヤツだ。



「そういうわけだからこれからよろしくネー」


「私としてはいくら浄化済みとはいえよろしくし難いんだけど……」



 担当になるだろう孤児院組の意見は? と幽良が絆愛の胸に頭をもたれ掛からせたまま問うた。



「私は別に、害が無いならそれで良いわ。理科室の模型と変わらない見た目だし、食費掛からないなら飾ってある造花と大して変わんないし」


「天恵、それはつまり存在を無視しても問題が無く手間もかからずひたすら放置でも大丈夫な存在という意味だな?」


「体刀、事実だけどそこまで明け透けに言わなくて良いのよ。まあ個人的にはお風呂くらい用意してくれると凄い助かるんだけど」


「やった方が良いならやるヨー! やり方知らないけどネー!」



 はいはいと元気に剣を持ったままの手を挙げて言う幽霊に、地狐が首を傾げる。



「ちなみに生前どうしてたかの記憶ってあるのかしら」


「普通に襲撃して集落潰してとっ捕まえた奴隷に用意させてたヨー?」


「おっとぉ……」



 思わず低い声が漏れてしまった。


 ……そうか、異世界という事で覚悟はしていたがリアルで奴隷があった感じか……。


 しかも捕まえて使役する側が目の前に居るという事実。

 ヤバい戦闘ジャンキーな戦闘国家でのし上がった王だった幽霊、という肩書きよりもよっぽど重い。


 ……道徳を教わらず、暴力でどうにかする以外の方法を知らない人間はこうなるんだろうな……。


 道徳の授業の大事さがよくわかる。



「……本当にお前達はどうしてこんな危険幽霊と数日一緒に居る事が出来たんだ?」


「いやまあこっちに害が無いのであれば実質問題は無いでありますし……」


「あと最悪の場合、僕が居るからなあ」



 掃潔の言葉にストケシアが視線を逸らし、シラーが胡坐を掻きながらケラケラ笑った。



「攻撃されても僕の場合すぐに回復すっから、僕を盾にして避難、って感じで。僕って首落とされた! って思っても次の瞬間には繋がってたりすっからどうなってんだろうなあアレ」


「俺は既にちゃんと死ねたしお前あんま強そうじゃないから戦う気とか無いけドー、試したいなら試スー?」


「いや既に実体験してるから遠慮しとく。何回かそゆ事あっても一瞬で治るんだよなー。まあそのお陰で僕もこうして生きてるわけだけど」


「それについては俺達も初耳だったぞシラー」


「……とりあえず、今後は愛の勇者様だけじゃなくてシラーの事も心配して見ておく事にするわ」


「ですね」



 孤児達が仲良しのようでなによりだ。

 こっちとしてはクラスの皆以外に意識とかを割くような余裕は無いので、というかクラスの皆に全力を注ぎたいので、そっちはそっちで頑張って欲しい。



「で、天恵以外の孤児院組の意見としてはどうだ?」


「害が無いなら私も問題無いですよ。成仏前だと、宝の視界を共有した時に見えた、淀み? って言うんですかね? ああいうのを纏ったままなら体調悪くしそうなのでお断りでしたけど、今はそうでも無さそうですし。え、無さそうですよね?」



 問い掛けたらそのまま問い掛けられたので、今は問題無いぞ、と答えておく。

 成仏前か成仏後か、というのは本当にわかりやすいのでこれは断言出来る。

 毎日風呂入ってるヤツと生まれてから一切風呂に入った事無いヤツ、というレベルで違うのだ。

 文字通りに一目瞭然。



「私としても問題は無いな。彼一人が増えた分、私は嬉しい。幽良の気持ちを思うと多少アレだが」


「私はまあ、孤児院組が良いなら良いけど……成仏済んでるし」


「じゃあ俺ここに居ても良いって事だよネー! やッター!」



 わあい、と剣をぶんぶん振り回して喜ぶ幽霊に、天井に傷付けたら追い出すからね! と天恵が叱る。

 あっという間に孤児院メンバー入りと認識したのか、怒り方が一瞬にしておかあちゃんだ。



「でもそうなると、幽霊呼びのままっていうのも変かな?」


「そうでもないと思うよ、時平」


「口舌の言う通りね。だって他にも幽霊が居るなら識別する為の名前が必要だけれど、彼一体しか幽霊が居ないならそのまま幽霊と呼んでも良いと思うわ」



 首を傾げる時平に口舌が笑い、地狐が細かい解説を付け足した。

 成る程確かにその通りだ。


 ……一匹の猫を飼ってるお家に行った場合、あの猫は? って聞けば一発でわかるだろうしね。


 識別するまでもなく、その個体しか居ないのだから。



「アー、それだけど俺ネー、名前思い出したヨー」


「そうなのか?」


「思い出したっていうか生前からあんま覚えてなかったけドー、あの世に逝ったら俺の事覚えてるヤツが結構居たんだヨー」



 絆愛の問いに、生前殺した相手がうじゃうじゃいたからネー、と幽霊は世間話くらいのテンションで軽く答える。



「名乗る前に殺す事が多かったけドー、相手って結構人の名前とか気にするんだネー。ようやく来たなとか色々言われて挑まれたヨー。相変わらず弱いままだシー、殺しても殺しても復活してきてうざったいからあんま楽しくないけどネー」



 ……ああ、ようやく来たな〇〇! みたいな感じで名前呼ばれて思い出したって感じかな……。


 現代では幽霊である彼の名を知る存在などほぼ居ないだろうが、あの世ならそりゃ居るだろう。

 なにせ現役で存在してた頃の顔見知りばかりなのだろうから。

 まあ顔見知りと言っても顔を見る前に殺してそうだが、この幽霊。



「では、名前を聞かせてもらえるか?」



 話を聞く辺りからそれぞれ座っていた中、絆愛がそう言って立ち上がり、浮いている幽霊に視線を合わせる。

 そのまま手を差し出して、意味がわからんとばかりに首を傾げている幽霊の手を、剣を握ったままの骨でしかない前右手を取る。

 それと同時、幽霊がどんな動きをしても良いようにか、荒事組がいつでも動けるよう僅かに体勢を整えたのが見えた。



「私は是非とも、キミの名を呼びたい」


「俺としては相変わらずあんまり意味あるかわかんないけドー、全然良いヨー!」



 成仏する前のやり取りを思うと、息をするように攻撃して殺しにかかるような生き方をしていたらしい幽霊。

 しかし今はそういう雰囲気も無く、笑っているような声色と雰囲気で答える。



「俺はヒノキって言うんだヨー! 戦い関係なら出来るから任せてネー! 他は知らないから教えてくれると嬉しいヨー!」



 あと時々で良いからまた殺し合いたいヨー、と明るく朗らかに言う幽霊、ではなくヒノキに、彼と戦闘したメンバーが嫌そうに顔を顰める。



「はは、残念ながら私は非戦闘員だから、そのお相手は出来ないな。相手をして欲しいと言うなら拒絶する理由も無いが、私のような非力な者が相手では、ヒノキの心は満たせまい」



 絆愛は絆愛で笑顔を浮かべてそう答えたが、そういうところが危ういんだお前は。



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