プロローグ 大事な教え
「怪我をしたらすぐに治療するんだよ。手遅れになるからな」
「はい。おじい様」
「困っているものがいれば助けてあげるんだよ。助け合いを忘れてはいけないよ」
「はい。おじい様」
「約束は守るんだよ。不誠実なことは決してしてはいけないよ」
「はい。おじい様。いつものお約束の確認ね。もう覚えたよ。また冒険に出かけるの?」
「世界は広い。貴族の務めは果たしたからな」
「メアも行きたい」
「お前を連れて行ったら怒られるよ。次に帰ってくるまでに宿題を出そう。冒険するには強さがいるからな。でも目の前に広がる世界にもたくさんの冒険が広がっているよ。探してごらん」
広大な草原に輝かしい銀髪を持つ青年と幼い少女が白い雲がたなびく青空を見上げて座っていた。
精悍な顔立ちを持つ青年にしか見えない老人は目を輝かせる孫の頭を優しく撫でる。
好奇心旺盛で感情豊かな自分に一番懐いている孫は貴族らしくない。
老人は文官一族の伯爵家に生まれた。文官を育てあげたい両親の期待に反し剣に魅入られ一族の反対を押し切り家を飛び出した過去を持つ。気付くと国で一番の剣の使い手と呼ばれ、公爵家に婿入りさせられていた。
「貴方は好きになさって。私と後継さえ作ってくだされば剣に夢中で構いません」と気の強い妻に求婚というなの婚姻証明書にサインを強引にさせられたが理解のある妻のおかげで貴族としては好きに過ごしていた。
空をニコニコと見上げる孫が幸せになれるように自分にできるのは武術と生き方を教えることだった。
祖父と同じ銀髪と緑の瞳を持つ幼い少女は素直に頷く。
少女の幸せ探しの冒険は始まったばかりである。
空を自由に飛ぶ鳥に憧れを抱く少女は祖父の心配など気付かずに目の前に広がる世界の冒険探しに夢中だった。