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9. 俺は無双した


 「と、トートさん! やっぱりこんなの悪いです!」

 

 日も沈みかけた頃、あれから急いでメルの家に戻り装備を整えた俺は今まさに出発のときを迎えようとしていた。

 

 しかしメルは納得しきれていないようで、ここまで来てもまだ俺を止めようとしてくる。

 

 「いいんだよメル。 メルにはお世話になったし、こういう形でお返しできるなら俺も嬉しいんだ」

 

 「たった一晩泊めただけで五万カトラス立て替えてもらうなんて聞いたことありませんよ!

 それにトートさんは知らないかもしれませんがマイティスネークの成体は幼体よりももっともっと強いんです! そんなの、いくらトートさんでも危険ですよ!」

 

 「なら幼体の方を五匹狩ってくるなり考えればいいさ。 大丈夫、メルが貸してくれた剣があれば負けないよ」

 

 「でも…… それなら、私も連れていって下さい! 私なら素材を持ち運ぶのを手伝うことも出来ますから!」

 

 「……いや、ダメだ。 ただでさえ君は俺のせいで今日一日剣を打てずにいる。三日も工房から離れればそれこそ腕が鈍るだろう。 君はとにかく鍛治に集中すればいいんだ」

 

 半ば強引に彼女を突き放して俺は工房を後にした。

 

 こうしたのは何もあの神父に脅されたからとかそういうわけではない。 あくまでも俺の意思、彼女の力になりたいと俺が選んだだけのことだ。

 

 俺は渡された地図を頼りにあのジャングルへと向かった。夜道の中モンスターに遭遇することもあったがメルが貸してくれたロングソードがあればどれも敵ではなかった。

 

 きっとこれらのモンスターから取れる素材も金になることだろう。時間に支障が出ない程度に倒していこう。

 

 ちなみに剥ぎ取りにも特別な知識と技術が必要になりそうなものだが、どうやら俺の【千剣君主】は万能で剥ぎ取り用のナイフを持てばそれら全てを補ってくれた。

 

 この要領ならばプロ料理人並みの包丁捌きも可能になることだろう。この力が決して魔法ではないと言うのだから驚きだ。

 

 「さて、そろそろだな……」

 

 川を辿って南下していくと、気候や周囲の植物の生体が急激に変化するのを理解した。

 今はもう完全なジャングル地帯。メル曰くここら辺の環境は特別で、なぜこんなところに熱帯地域が存在しているのかは解明されていないそうだ。

 

 まあ、そんなことは今はどうでもいい。

 

 マイティスネークは昼間日光を避けるために洞窟の中や木陰にいることが多いらしく俺はそういったところを重点的に探した。

 

 結果半日で幼体を三匹、成体を一匹倒すことが出来た。

 メルが言ったとおり成体は幼体など比べ物にならないほど手強く、毒を吐いてきたりもしたが決して勝てない相手ではなかった。

 

 ちなみにマイティスネークは主に牙と皮が売り物になるらしく、毒も上手いこと生成器官の内臓ごと取り出せれば高値で売ることが出来るらしい。

 

 でもまだ時間が余っていることだし、今月分だけじゃなく来月再来月分の金が用意できても問題はないのだからもう少し狩っていってもいいかもしれない。

 

 そうと決まれば探索探索。なんだ、メルはやたらに心配していたが武器さえあればどうとでもなるじゃん。

 

 そんなふうに少し気を緩めてモンスターを探していると、俺が見た中で最大サイズのマイティスネークを発見する。

 

 これはかなりの大物だ。素材を売れば間違いなく組合費二ヶ月分の金になるだろう。

 

 息を潜め草木の陰から陰へと移っていき慎重に距離を詰めていく。そうして限界まで近づいて、俺は意を決して飛び込もうとした。

 

 しかしそのとき、つんざくような鋭い鳴き声と共に遥か上空から現れる一羽の巨大鳥形モンスター。

 

 そいつは真っ直ぐにマイティスネークに襲いにかかって、それに気がついたマイティスネークも激しく威嚇しては臨戦体勢に入った。

 

 そうして両雄の身体が絡み合って激しい戦闘が繰り広げられる。

 俺は物陰に隠れてその様子を観察するが、そのときとあることに気がついた。

 

 その鳥型モンスターは明らかに他のそれとは異質。翼は人工物かと見間違うような鋭い金属の刃で出来ていた。

 

 ……って、こいつむちゃくちゃに切りつけて蛇の皮を傷つけてんじゃねえか! このままだと売り物にならねえ!

 

 焦った俺は剣を抜き出しその戦いに割り込んだ。

 

 「ピィィィィィィィ!!!!!!」

 

 謎の乱入者を前に鳥型モンスターが邪魔をするなと言わんばかりに威嚇する。

 

 だが俺は怯まず、木を利用して相手が滞空する高さまで跳んで剣を向けた。

 

 「なっ!?」

 

 しかしそのとき相手は驚きの対応を見せてくる。その金属で出来た刃翼で俺の剣撃を防いできたのだ。

 

 それは本来自然界のモンスターを相手にしているときには絶対に起きない現象。

 こいつは剣を自身にダメージを与えかねない危険なものであると認識しているのだ。

 しかも刃と剣を打ち合わせたときの感覚は俺が剣道時代に感じたものと良く似ている。まるで人と戦っているような、本能だけではない確かな剣の技術を俺は今感じ取ったのだ。

 

 「なんなんだコイツは!?」

 

 こんなモンスターがいるなんてメルからは聞いていない。間違いなくマイティスネークなんかよりもずっと強敵だ。続けて何度も攻撃を試みるが、そのどれももう少しのところで防御されるか回避されるかで無力化されてしまう。

 

 「クァルルルル……」

 

 いつの間にかマイティスネークはこの戦いの場から逃げ出そうとしていた。きっと野生特有の生存本能がそうさせたのだろう。考えるまでもなくこの中で一番弱いのはあいつだ。

 

 ならばこの一対一のタイマン勝負。この鳥型モンスターを倒しその素材を手に入れて俺が勝つ!

 

 「うおおおおお!!!」

 

 闘志を高めようと唸り声を上げて襲いかかった。しかし結果は先程と同じ、攻撃は見切られその鋭い刃翼で防がれてしまう。

 

 「ピィア!」

 

 「ぐっ!」

 

 鳥型モンスターの武器はその翼だけではない。カウンターで繰り出される健脚を用いた猛烈な蹴り。

 

 俺は剣を構えて防御するものの、あまりのバカ力に押し出され背後の大木に背中から激突してしまう。

 

 少しだけ骨が軋むような感覚。 折れてこそいないが同じ攻撃をもう一度受けるのはあまり得策とは言えない。

 

 なら次で確実に倒すまでだ。

 

 俺は決死の覚悟で三度挑みかかり、剣を上段に構えて振り降ろす。

 

 当然鳥型モンスターは先読みして防御に回ろうとするが、俺はさらにその先を読んでフェイントを仕掛けていた。

 

 立ち向かってくる刃翼を寸手のところで躱して返す刀で逆袈裟を放つ。

 

 「鳥風情が、人間舐めんじゃねぇ!!!」

 

 俺の渾身の一撃は相手の右目を縦に切り裂いた。

 

 「ィィィィィィィ!!!!」

 

 絶叫する鳥型モンスター。

 

 奴は勝てないと判断したのか高く飛び上がっては何処かへと去っていく。

 

 そのとき奴の翼からキラリと光る何かが舞い落ちてきた。何かと思い拾ってみると、それはとてつもなく薄く軽い金属の羽。

 

 少し疑問にはなっていた、金属の翼なんかで飛ぶことが出来るのかと。しかしこれだけ軽い羽で構成されているならそれも不可能ではないのだと分かる。

 

 いったいこれは幾らで売れるのだろうか。急いで帰って業者に見てもらおう。

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