移動
瘴気があふれている場所は、事前に調べられているそうだ。なので、その場所に向かって瘴気を浄化していくことが私の役割である。移動は馬車での移動だ。
盛大に王都での見送りを終えた後、馬車に乗り込んだ。御者の男が一人いる。それ以外は、私と王子達と侍女だけだ。王子もいるのにこれだけの人数でいいのだろうか、この国はそれで大丈夫なのだろうかと正直正気を疑いそうになった。というか、御者の人は必要最低限しゃべらない。共に旅に出かけるメンバーとして紹介もされなかった。首には首輪がつけられている。主人に逆らえない立場の奴隷らしく、メンバーとして王子達には含まれてないらしい。それに王子達は自分の実力に大層自信があるらしく、「聖女の事は必ず守るよ」とキラキラした目で言われた。いやいや、一般市民の私より王子の方が守られる立場なんじゃなかろうか。狙われるだろうしと思ったが、聖女も同じぐらい狙われる対象か。
でもそれだったらより一層、安全のために騎士団一小隊ぐらいつけるべきだと思う。それにも関わらずこれだけの人数で向かわせる意味って何があるんだろうか。それかあれだろうか。これだけの少人数で旅に出かけたと思わせて、実は護衛がついているとか。考えてみればそちらの方がしっくりくる気もする。
「聖女様、ご不安ですか?」
馬車に揺られながら考え事をしていたら、魔術師に声をかけられた。
浄化の旅に向かうという事もあって、私が不安がっているように見えたらしい。それにしても馬車が一つなのは、何か意味があるんだろうか。ちなみに私の右に王子、左に侍女、向かいに騎士団長、魔術師、神官と座っている。全員、馬車の中である。馬車の警護とか大丈夫なんだろうか。やはり気づかれないように護衛している人がいる気がする。
そういえば馬車は思ったよりも揺れなかった。もっと揺れるものかと思っていたが、これだけの揺れで済んで私は安堵している。これは魔術によるものらしい。
「少しだけ。私は本当に浄化が出来るのでしょうかと」
「君なら出来るよ、聖女」
王子は何でそんな自信満々なのか。……私が聖女としての浄化を使える事を確信しているといった顔。私は目を覚ましてから浄化というのを一度もしていない。それにも関わらず、見てもないので私が浄化を出来ると信じ切っている。まるで私が浄化をしたのを見た事があるみたいな信頼感。
「これから向かうのは数時間でつく街だ。その街の南にある森で瘴気が発生しているのだ。今はそこに向かっている。聖女、不安なんて必要はない。魔物が出ても俺が守ってやる」
なんか騎士団長は、そんなことを言っている。顔面偏差値が高いから様になっている。多分、私がもう少し女の子らしさとか持っていたら守ってやると言われて、安心して惚れたりするのかもしれない。
「そうですよ。聖女様、私達が万全のサポートをしますから」
神官も安心させるように声をかけてくる。この人達って、皆が皆驚くほどの美形だ。と考えると、この面子の意味って、私を囲い込むためだろうか。
正直、私なんかを囲んでどうすると思わなくもないが、今の私は信じられないことに聖女なのだ。浄化の力を持つ聖女を国に留めたいというのも当たり前の感情と言えるだろう。そうなると既成事実を立てられる事は気を付けないといけない。現状、無理やり私を物にしようという動きはないし、もしかしたら囲い込もうと考えているのも勘違いかもしれないが、警戒するのに越したことはない。
無理やり囲い込むよりも、心を掌握して囲い込む方が後々楽であろうことは貴族社会で生きている王子達には分かっているだろうし。
「ありがとうございます。精一杯聖女として頑張ります」
浄化に対する不安は感じていないが、一先ずそう口にした。
浄化の旅に対して不安がっていると思われた方が動きやすい気がしたからだ。
浄化の旅では、国内の瘴気があふれている場所を巡っていく。旅の間で、私が自ら囲い込まれるように動こうとしているのだろうか。
正直全く囲い込まれようという気持ちはない。
しかしいくら笑顔を向けられてもとくにトキメキは感じない。好きな人と以外結婚なんてしたくもないし、この国に囲い込まれるのも嫌だ。この国から最終的に抜け出して、普通に生きていくというのを目標に定めよう。やはり、そのためには情報がいる。この国の事、他国の事を知らなければならない。そして頃合いを見て逃げ出す。
ただ……瘴気に関しては浄化したいとは思ってる。瘴気があふれているというのは、その地に住む人にとって大変な事だと思うから。しかしそうなると聖女としての職務は全うしなきゃいけない。……やっぱり、情報が足らなすぎる。
そんな事を考えながら、私は馬車に揺られた。