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旅立ち

 今日は瘴気浄化の旅の旅立ちの日だ。

 私が聖女という立場なのもあって、盛大にお見送りをされるそうだ。

 荷物は《アイテムボックス》というものがあるため、そこに入れられているらしい。

 旅立ちに共に向かうのは王子、騎士、魔術師、神官、そして共についてくる事になった一人の侍女だけだ。

 王子達の名前は知っているものの、心の中では王子呼びをしている。信用出来るかどうか定かではないし、職業で呼んだ方がしっくりくる。現状、私に近づいてくる彼らに心を許す気は私はない。

 私が今着ている服は、真っ白な修道服のようなものだ。いかにも、神に仕えているといったその服装は、正直言ってひらひらしていて、動きにくいという感想を持つ。旅に出かけたら、もっと動きやすい服を買ったり出来ないだろうかとさえ思っている。こういう服は何だか落ち着かない。いかにも聖女様といった服装なんて私は自分から着たいとは思わなかった。

 そういえば、旅立ちまでの間に私が会えた人間は共に浄化の旅に出かける面子やお世話をしてくれる侍女達だけだった。王様とは一度謁見して以来会っていない。

 こういうのって、聖女様だという事で貴族とかが会いに来るものなのかと思っていたが、そんなことはなかった。

 いざ、旅立ちに向かうという前日になって、聖女として貴族達の前に立った。

 その際には、私の周りを旅に共に向かう男たちが囲んでいて、やってきた貴族達から情報収集をすることが出来なくて残念だった。貴族達の中には、私をキラキラした目で見ていないものもいた。どちらかというと訝し気に見ている男とは正直話したかった。

 異世界から呼び出された聖女に対して、良い感情以外を抱いているものがいるのも当然だ。でもだからこそ、そういう感情を抱いている人とこそ話したかった。

 この国の侯爵位を持っている男性らしいので、機会があったら接触したいと思った。聖女と言う存在が本当に浄化をしてくれる存在だとして、訝し気な目を向けられる理由は何故だろうか。それも考えなければならない。

 とりあえず旅に出たら王子達や侍女以外の仲間を無理にでも増やしたい。いっそ、聖女の事を嫌っている人物でもいい。そういう視点から見た私を知りたい。分からない事が多いため、もっと私は色んな事を知らなければならないと思うのだ。

 そう思っている私は、旅立ちの時に私をお見送りするという王都の人達をじっくり見て見る事にした。そういう視点で、私の事を見てくれる人がいないだろうかとそう期待しているから。



 ―—そんなことを考えながら、お見送りの本番が来た。



 大勢の人間達が集まっている。

 というか、王城を出るのは初めてなので王都はこのような賑わいなのだなと思いながらじっくりあたりを見渡す。

 聖女などが実在するファンタジー世界なのもあって、建物の作りなのも中世のヨーロッパのような雰囲気だ。人間だけではなくて、動物の耳や尻尾を持つ獣人や尖った耳を持つエルフのような人の姿も見えた。ただこの国は基本的に人間が主な人種なのか一人か二人しか確認できなかったが。

 私達、浄化の旅に行く面々を見つめる目は大体が尊敬などを抱いた目だ。聖女や王子といった尊い方々を信じ切って、見つめている眼。

 聖女様聖女様と、声をあげている。

 聖女とはそれだけ特別な立ち位置なのだろう。

 自分が聖女であるという事実は受け入れ難いが、此処で変な対応をするわけにもいかないので王子達真似をして手を振った。

 不思議と、これだけ多くの人々に見つめられているというのに緊張はしていなかった。

 私は平常心でこの場にいる。

 記憶を失う前の私は、もしかしたら大勢に見つめられるというのに慣れてういたのかもしれない。地球で学級委員をしていたとかそういう事があるのかもしれない。

 そんなことを思いながら手を振る中で、視線に気づいた。

 じっと、私の事を見つめている視線。

 王子達を一瞥する事なく、私だけを見据えている者に気づいた。

 ちらりとそちらに視線を送る。

 フードを被った者がいる。背が高いのもあって、おそらく男性だろうと分かる。

 睨みつけるように、私の事を凝視している目。

 ……私が視線を向けても、その人は目をそらさなかった。王子達に不信を向けられても困るので、私がそちらを向いたのは一瞬だけだったが、確かに目があった。

 他の人々の、聖女様を一心に信じているようなそんな妄信的な視線ではなかった。

 気になりはしたものの、此処で話しかけにいくことも出来ないのでそのまま私は大勢の王国民に見送られて、王都を出るのだった。


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