村での浄化 4
ふぅ、と一息をついて私は命を失った蛇を見る。
こんな巨大な蛇を私が殺すことが出来たんだと思うと、不思議な気分だ。けど、なんだろう、私は落ち着いている。寧ろ私が剣で切断したと同時に、蛇の体液があたりに広がり、それを見て騎士たちが顔色を悪くしていた。……マイケルは何かに使えるのか、体液を回収したり、蛇を解体していた。というか、解体の手際がよすぎる。普段からよくやっているのだろう。
「聖女!! 君はなんて無茶を!!」
「聖女様、貴方は聖女様なのですよ。だというのに剣を振り回すなんて――」
「すみません。私がやった方が速いと思ったので……」
それにしてもこの貸してもらった長剣は本当に使い心地が良い。私の手にしっくりくるし、このまま返したくないぐらいだ。とはいえ、これはマイケルの知り合いからの預かりものらしいので、このまま借りっぱなしと言うわけでも行かず、返しておく。
解体作業を黙々と続け居たマイケルは、長剣を受け取りながらなぜか私をじっとみる。
「……なんですか」
「なんでもないです」
いや、何か言いたいって顔だっただろ。と思いながらも追及しても、王子たちが居る状況では聞いてもややこしいことになるのでひとまず置いておく。
「聖女――」
「すみません。お叱りは後から聞くでいいですか? 今は蛇も退治出来たわけですし、浄化をすませてしまいます」
さっさと瘴気の浄化をして、川全体から瘴気を抜きたいものだ。……とはいえ、これだけ広範囲に広がっているのならばそんなに簡単に浄化は出来ないかもしれない。川という上流から下流に向かって流れている。瘴気の発生源が川の中だったから、川の流れと共に下流にまで広がっているのだ。これは時間がかかりそうだ。
王子達にその旨を告げて、浄化に入るのだった。
まだ川の中に魔物が潜んでいる可能性はあるので危険だが、あの巨大な蛇以上の魔物はそうそういないだろう。そういうわけで「聖女っ」と声をあげる王子たちに「大丈夫です」と告げて、川に手を付ける。
うん、川に手を入れてからの方が効果がよさそう。それにしても王子たちは煩いなぁ。折角あれだけ巨大な魔物を久しぶりに剣で倒せて気持ち良いのに。ん? 久しぶり? なんだか、ふわふわした気持ちになる。
熱に浮かされたような気分。そしてやっぱり頭痛はしだす。けれど、なんだろう、頭の痛みと武器を振るった興奮が私の中でせめぎあっていて、何かがカチリとはまりそうな感覚。だけれど、はまりそうだと思えば、ちゃんとはまってはくれない。何かがそれを阻んでいるかのように、頭痛が増す。
ああ、駄目だ。ひとまず目の前の浄化に集中しないと。それにしてもなんだろう。武器を使ったら、私は何だかしっくりして、こんなに気分が高まって。おおよそ、聖女としてはふさわしくないことだけれども私は剣を振るいたいと思う。体を動かしたいし、思いっきり走りたいし。
浄化のために祈りをささげる。
その最中に体を動かしたいとか、走りたいとか思っている私はやっぱり聖女には相応しくないと思う。もっと聖女に相応しい子がいるだろうに、どうして私が聖女なのだろうか。——神が聖女を遣わすと言われているらしいけど、何で、私? って思う。浄化の祈りってまどろっこしいことせずに、剣で叩き切った方が絶対に楽なのに。
……っていうか、あとなんか思ったよりは此処の瘴気酷くない? っていうか、先ほど倒した蛇の周辺もキラキラしているし、あの魔物、瘴気に侵されて真っ黒だったはずなのに今は全然そんな気配ない。死んだからかな?
聖女の力って謎。マイケルに聖女の話は聞いたけど、それだけでは分からないことも多いし。逃亡出来たら瘴気の浄化をしながら聖女について調べて、なおかつ自分の身を守ろう。……まずは王子達から逃亡出来るかが問題だけど。それはなんとかする。
……やっぱり瘴気の浄化なんて神聖な行動を発動させているはずなのに、国が望み、神が遣わした聖女がその呼びだした国から逃げ出そうって不思議だ。そもそも神は何で聖女なんて世界にとって特別な存在を、問題のある国に遣わしたのか。神はおろかなのか。それとも万能ではないのか。——神にそんな不敬なことを考えている。
私は自分の信じたいものを信じている。私が信じているのは私自身と、私が大切にしている人たち。神なんて不確かな存在ではない。神を信仰し、神のために行動を起こす。そういうのが聖女として相応しいと思う。つか、万能の神だったら私がこんな不敬な信仰していたら天罰を下せたりとかはするだろうし、神は万能というのでは全くないだろう。そもそも、神がいるとこの世界ではされていても神が直接世界に干渉することはないらしいし。聖女のことだけは別らしいけど。
いるけど、手を出せない誓約でもあるのかもしれない。まぁ、どうでもいいけど。
思考し続ける中でも、私の中から魔力があふれ出て、徐々に黒いモヤが支配していたその場を澄んだ空気の場所へと変えていく。
――浄化を完全に終えた頃には数時間経過していた。
私たちはそれから村へと戻るのだった。




