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国王陛下への挨拶

 国王陛下への挨拶は、私が目を覚ましてから二日後に行われることになった。いきなり一般人を王族と謁見させるのかと少し驚いた。

 とはいえ、私は私の事を知るためにも、これからどのように生きていくか決意するためにも動きが欲しかった。この二日間、ずっと誰が味方か分からないまま、思考し続けるだけだった。

 王子達も私の様子を見に何度もやってきていたが、スキンシップを取ろうとしてきたり、何だかあまり近づきたくないと思ってしまう。ただ、彼らの態度を見ている限り、彼らは私に近づきたいと思っているようだ。もしかしたら聖女である私との血筋を残す事を望んでいる可能性もある。この二日間でも聖女が特別だというのは理解できた。そのうえで、私はちゃんとそれを理解して動いた方がいいだろう。

 この二日間で分かったのだが、どうやら私は王子達と身の回りの世話をしてくれる侍女と共に瘴気を浄化する旅に出かけるらしい。城から出る事が出来れば、私が知りたい情報を知る事が出来るようになるだろうか。あと、私は召喚されたらしいが、帰還については何一つ説明されていない。

 日本から召喚をされたとして、日本に帰れない可能性もあるのではないか……と正直周りの様子を見ているとそんな可能性が頭をよぎる。ただ、なんというか、記憶が曖昧だからなのか、別の理由があるのか分からないが、私は日本に帰りたいという強い思いがないように感じられた。もし帰れなかったとしても、構わないと思っている。

 あとやはり私の持ち物はこのペンダントだけらしい。それが本当であるかどうか知る術は私には現状ない。着ていた衣服のように処分されてしまったのだろうか。

 そのあたりも、多分、私を知っていく事が出来れば分かるのではないかと思う。

「聖女、父上も貴方の事情はきちんと知っている。緊張しなくてもいい」

 私が黙っているのを緊張していると勘違いしたらしい王子がそんなことを言う。

 手を差し伸べられて、手を取らないのもどうかと思って手を重ねた。目が覚めたばかりの時は思わず避けてしまったが、あまり避けるのも不自然だろう。

 それにしても王子達は信頼出来るか分からない。となると、今から会う国王陛下も信頼出来るか分からない。

 頑張らないと……、そう決意をして私は謁見の場に王子に手を引かれて向かった。




「お初におめにかかります。聖女として呼び出された者です」

「ああ。俺はディル王国の王、ダリード・ディルという。聖女よ、よくぞ、呼びかけに答えてくれた。名前が思い出せないという話なので、ひとまず聖女と呼ばせてもらうが、良いか?」

「はい。聖女とお呼びください」

 聖女。

 それが私のここでの立場。

 名前が分からない現状、仮の名前をつけるのもありだろうが……、いつか自分の名前を思い出した時の事を考えると聖女呼びの方がいいかもしれないと思った。

 それにしても、やっぱり、私が聖女というのは違和感がある。

「聖女には、体の調子が良くなり次第、浄化の旅に出かけてもらう。旅の支度などは、こちらで全て行うので聖女は体を休める事を優先してほしい」

「了解しました。陛下のご意志のままに」

 拒否権はないのだろうか、とか突っ込みどころは幾つかあったが此処で諍いを起こすと後々面倒だと思うので、ひとまず大人しく了承の言葉を口にする。

 それにしても、問答無用で浄化の旅に行かされるわけか。

 異世界から召喚したとして、それに対する謝罪なども一度もないのはやっぱり何とも言えない気分になる。

 この国はディル王国。

 この王国内の瘴気を浄化する旅に、私はこれから出る事になる。

 正直言って体を休めるようにと言われたが、私の体は丈夫なのかすっかり本調子になっていると思う。すぐに出るのと、少し時間を稼いで情報収集をすべきだろうか。

 どちらの方が良いのか。それも自分の頭で思考しなければならない。

「聖女、父上との謁見は緊張しただろう? 目が覚めたばかりなのだからゆっくり休むといい。部屋までエスコートしよう」

 ……また手を差し出されたので、大人しく手を引かれる事にする。

 それにしても、国王陛下との謁見はそこまで緊張をしなかった。寧ろ、私は落ち着いていた。日本だったら王族と会う事などまずない。だから緊張する方が自然な気がする。それでも緊張していないのは、私がまだ自分が聖女であるという現実を受け入れられてないのか、それとも受け入れた上でこれだけ落ち着いているのか。

 目が覚めて二日じゃいまいち分からない。

 そもそも、私が何なのか。私が誰なのか。

 そのあたりが分からないのだから、色々と分からないのも当然なのだろう。

「では、聖女よ。こちらで旅立ちの準備は進めておく。聖女もどうか体を休めてくれ」

「はい。ありがとうございます」

 私は王子の言葉にそう言って、部屋の中に戻るのだった。



 さて、旅立ちまでの間、どうしようか。





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