自分の事を確認してみる。
さて、まず、周りの話を聞いた限り、私はこの世界に召喚をされたらしい。それでいて召喚されたショックで気を失い、記憶さえも曖昧になっている。
自分が何という名前だったのか。どういった生き方をしてきたのか。家族は誰がいたのか。そのあたりの自分についての事が分からない。日本に住んでいた事は何となくわかっている。というより、こんな地球ではない場所で日本と言う場所を知っているというだけでも私が日本にいたというのは証明できる気がする。
さて、周りの人間が言っていた事は本当なのか。
……私って疑い深い性格だったのかもしれない。無条件に人を信じられるような人間であるならば、まず、疑わないと思う。
ちなみに今、私はこの王宮に務めている侍女達が持ってきた食事を取っている。お腹が鳴ったら持ってきてくれたのだ。侍女達が食べさせてくれようとしたが、それは遠慮した。私もいい年だし……って、私って正確に何歳なんだろ。いい年と自然と感じているという事は、もう大人なのかな。
鏡を見せてもらったけれど、見た目的に言えばそんなに年はいっていないと思う。若く見積もって高校生ぐらい。いっていても、二十代前半ぐらいだと思う。胸はそんなにない。鉄壁というほどではないけれど……。
あとは、服。着ている服は日本のものとは言えない。召喚された時のままというのならば、学生なら学生服、社会人ならスーツで召喚されるのがオーソドックスだと思う。だというのに、明らかに日本製ではない。私、侍女か誰かに着替えさせられたのだろうか。となると、何で着替えさせなければならなかったのか。やっぱり、話の全てを鵜呑みにするのはやるべきではない。
「あの、聞きたいんですけどいいですか?」
「何でしょう、聖女様」
「この服って、もしかして誰かが着替えさせましたか?」
「ええ。僭越ながら私めが聖女様のお召替えをさせていただきました」
部屋の中にいた年配の侍女が言う。私の質問に悩む素振りも、間も置かずに答えた。
「着替える前の服は?」
「こちらにやってくる際に破損が多くみられたために、処分させていただきました。ご希望でしたら申し訳ありません。陛下達の指示でしたので……」
破損、破損ね。
異世界に転移する際に破損するってどういう状況なのだろうか。というか、処分しなければならないほどの破損となると、やってきた時私は露出が激しかったりするのだろうか。それにしても、勝手に捨てるものなのか。私って、結構色々考えてしまう性格なのかな。今までの自分が分からないから、前からなのかこういう状況だからこそ沢山考えてしまっているのか分からない。
「そう、ありがとう」
もっと踏み込んで聞いてみるべきか、考えて一旦それ以上質問するのはやめた。まず、この周りにいる侍女達が私の味方であるかどうかが分からない。言っている事が本当であるのかも分からない。周りに誰か信頼出来そうな人でもいればいいのだけど。……誰一人そういう人がいない場合もあるから、最悪の場合の事も考えないと。
食事を終えて、ベッドに横になる。
目が覚めたばかりで疲れているから、と告げればほとんどの侍女達は部屋を後にしてくれる。私が聖女という立場だからか、一人は侍女が此処に残っているけれど。布団をかぶって、眠ったふりをする。そうやって体を動かしていれば、じゃりっという音がした。当たり前のように身に着けていたから気にしていなかったけれど、首からペンダントが下げられている。そっと、それを手に取って視界に映す。
模様? みたいなのが刻まれている。文字にも見える気もする。……それについて考えようとすると、頭が痛くなってきた。なので、一旦保留にする。ただ、これは外すべきではないだろうと、何となく感じた。何だろう直感というべきなのかな。そういう自分の直感を信じるべきだと私は思っているらしい。
周りが信じられるか分からないのだから、自分の事ぐらいはきちんと信じよう。私について分からない事ばかりだけれども、私は私自身の事だけは信じて行動しよう。
着ていた衣服さえもない。荷物は、確認するの忘れてた。でも、持ち物ももしかしたら処分されているか、それとも何も持たずに此処に来たのか。もし持ち物があるのならば、言ってくれる気もするのだけど。
もしなかったとして、私の持ち物はこのペンダントだけなのだろうか。
そう考えるとより一層大切にしなければと感じる。
私の名前、分からない。聖女らしい。年齢は若くて高校生、行っていても二十代前半。胸はそんなに大きくない。髪は白銀で、長く伸びてる。目の色は黒だった。
衣服。着ていたものは破損していたらしく、今着ているのは与えられたもの。
持ち物。確認できているのはペンダントだけ。
王子達と一緒に浄化の旅に出るらしい。私は瘴気を浄化できる。
……自分について確認してみても、分かっている事、これだけとか少なすぎる気がする。
どうしたものか。私が寝ていると思い込んで何か情報を溢してくれないかなと期待したけれど、部屋に残った侍女は何一つ情報を溢してくれなかった。