館へ戻る半ば 1
それから街を歩きながら、沢山の人の話を聞いた。あの意見を言ってきた若い男のように私に対して、「どうしてもっとはやく来てくれなかったのだ」などといった言葉を投げかけてくる人は他にはいなかった。
騎士団長と魔術師がそういう輩が近づいてこないように目を光らせていたからもあるだろう。そもそも聖女って特別な立場だし、あんなふうに意見を言ってくる存在の方が珍しいのだろうけれども。
ただやっぱり街に出てきて良かったと思うのは、少なからずの収穫があったからだ。思っていた以上に騎士団長と魔術師の二人が私の周りを固めていて、自由にすることは出来なかった。それでも聖女に対する疑問を深めることが出来たのは良いことだと思っている。
過去に現れた聖女のことを調べれば私が知りたいことを、少しでも知っていける気がした。
それに見知った顔をずっと見続けるよりも、こうして街に出て気晴らしを出来る方が断然良かった。王子たちとだけしか関わらない日常なんて息が詰まる。私を聖女と呼び、同じような思考を持っている人たち。
そこにあるのは、私を聖女としてみる目だ。……まぁ、私の名前を知らないようだし、私も思い出せないし、名前で呼ばれないのは仕方がないけれども。ただなんというかこう、色々分からない状況と言うのはやはり気分が良いものではない。
買い物もできた。お金を払ったのは騎士団長たちだけれども、この世界の硬貨を把握する事が出来た。もちろん、全てが把握できているわけではないけれど、それでも少しはこれがあのくらいの値段かとか、そういうことを推測は出来た。
何気ない買い物をしながら、そうして情報を集めることに徹していた。
聖女らしくない服は、おしゃれがしたいのと言いくるめてなんとか買ってもらえた。とはいえ、この世界の女性はあまりズボンをはかずにスカートばかりらしいので、スカートになったが。出来たら動きやすいパンツスタイルの服が欲しかった。特にこの国だと女性はスカートばかりらしい。
騎士団長と魔術師も、女性は女性らしい服装をすべき! 聖女は聖女らしくあるべき! って思想らしい。というか、敢えてそんな風に私に押し付けている感がひしひしと感じられる。何か理由があるのだろうか。今は分からない。
あと今いるこの国について詳しく知りたいのでさりげなく話を聞いた。
隣国の話が出そうになる度に、騎士団長と魔術師が悪い印象を押し付けようとばかりに色々と話していた。街の住民たちもそれに同調する者の方が多いようだ。それも国の上に立つものがそういう事を高らかに言っているからだろう。
それにしてもこんなに高らかに隣国のことを悪く言って、戦争でもするつもりなのだろうか。戦争なんてしたら国は大変だろうに。そもそも聖女と言う存在が浄化の旅をしている中で戦争まで起こしたら大変じゃない? ただでさえ聖女が浄化の旅という大きな出来事を起こしているのに。
どういう意図をもってそういうことを言っているのだろうか。
ただ嫌っているからこんなことをいっているのか。それとも何か目的があってそんな風に告げているのか。
やっぱり情報が足りない。
「聖女、そろそろ戻らないか? 街はある程度見られただろう?」
「……そうですね」
本当はもっと街に居たい。領主の館に滞在ではなく、街の宿に滞在したほうが沢山の情報が集められそうなのに、とても残念だ。
これから他の街に滞在したとしても街の宿には泊まれないのだろうか。領主の館などを転々とするとなると、情報収集のためにも動きにくい。
「では聖女様帰りましょう。殿下もお待ちですから」
魔術師はにこやかにそんな風に微笑み、私に向かって手を伸ばした。
本当に残念だ。それでも、今、この手を振り払ったとしてもやりようがない。聖女として動きながらもひそかに情報収集をしなければならないだろう。
そんなことを考えながら魔術師の手を取った。
そして私は左右に騎士団長と魔術師を侍らせながら領主館へと向かうのだった。
領主館へ向かう間、騎士団長や魔術師は話しかけてくる。街は疲れただろうから始まり、聖女は本当に優しいなどといった誉め言葉や買った服を着て是非見せてくださいといった言葉なのだ。
そして、そんな風に会話を交わしながら領主館に向かって歩いていると、突然、目の前に一人の男が現れた。
足音はしなかった。目と口元以外の部分を覆った仮面をつけている。白い仮面を身に着けたその長身の男は、私の前に現れた。
騎士団長と魔術師が警戒するように、前に出る。
男はそれに怯える素振りはない。
「――聖女様と見受けられます。どうか、聖女様の浄化の旅に私を連れて行ってもらえませんか?」
その男は、ただそう言った。




