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夕 好きです! 赤色

 五 赤色


 空を見上げると宇宙が広がり、星が弱々しくもポツポツと光っていた。はぁと息を吐くと、白い息が一瞬空中を漂う。


「寒いね」


 辺りには雪が積もっていた。昼過ぎまで降っていたものが道路脇と道端に少々残っている。そんなに広くはない、車が一台通れるくらいの道を彼と二人で歩いていく。


 隣にいる彼の顔を伺ってみる。返事が来ないのは知っている。粗野なのだ、彼は。


「俺のダンス、見ててどう」


 目が丸くなる。突拍子の無い話もそうだが、滅多に喋らない彼。そんな彼の口元が動いて、自分に問いをかけている。


「格好良いよ」


 すぐさま笑顔になってそう答えた。お世辞ではなく本当に格好良い。毎週見ているが、全然飽きないし、毎回人が集まってくる。


「テレビ、出れるかな」


 今度は目が飛び出そうになった。彼の話を注意深く集中して聞く。


「出てもおかしくないと思うよ。上手いもん」


 彼がふっと振り向く。じっと目を覗き込んでくる。彼の目は大きく開かれて、少し揺れてるように感じられた。


 今日は感動ばかりだ。


「この前、スカウトされたんだ」


 彼は前に向き直ってそう言った。私の口はパクパクした。


「ほん、と」


 ほとんど言葉になってなかったが、かすれながらも言葉を紡ぐ。


「うん」


 こんなときどんなことを言えばいいのだろう。褒めるのはさっき言ったし、拍手するのはわざとらしくなってしまう気がする。胸が踊るのを感じながら、そんなことを考える。


「良かったね」


 ついて出てきた言葉は月並みで、もっともっと上手い言葉がなかったかなぁと少し後悔する。それでも、言いながら向けた笑顔は自然なもので、偽りのないものである自信はあった。


「うん。この前、プロデューサーの人にどうかって」


「そうなんだ」


 やっぱり上手い言葉は見つからない。代わりに大きな笑顔で言葉に飾りをつける。その笑顔に惹きつけられたのか、彼は振り向いてにっと笑い返してくれた。


 そして、唐突にそれは起こった。


 ブロンブロン


 彼が笑いながら何かを言った。いつぶりかに見る彼の心からの笑顔に、言葉に、夢中だった。しかし、その言葉はバイクの大きな音でかき消される。一言か二言だったと思う。バイクの音に驚いてしまってよくわからない。というより、突然のことにびっくりし過ぎて、足元の雪に足を滑らせて転びそうになる。運が悪く道路側に身体が傾いていく。彼は咄嗟に私の身体を支えるために、ジャンプして私の倒れる方向に回り込む。しかし、自身も雪に足を滑らせ踏ん張りがきかない。私を反対側になんとか突き飛ばし、受身を取る。しかし受身の反動で道路中央まで身体が飛び出る。突然道路中央に現れた人に先程大きな音を鳴らしていたバイクがバランスを崩す。


 キーー


 彼は腕で顔を覆う。バイクは大きくよろめき、彼の身体にぶつかる直前に右の電柱へと進路を変える。ドライバーは電柱にぶつかる直前にジャンプして、道端に受身を取る。バイクが電柱にぶつかった。


 ドーン


 破片が勢いよく飛び散る。私は飛んでくる破片から身を守るため顔を腕で覆った。


 静寂が訪れる。


 繁華街の外れの路地。星は煌めき、月と共に路地に残った雪を静かに照らす。暗い光だ。刺さるような、ヒリヒリするような、ジリジリするような、暗い光。路地脇にはヘルメットを被った人が倒れており、反対側の脇には私が倒れていた。そして、私の近くには膝立ちになっている男性が一人。


 耳元に少し荒い息遣いが聞こえてくる。自身を覆っていた腕を解く。すると、彼が私を庇うようにそこにいた。


「大丈夫」


 彼は、弱々しく私に問いかける。小さく頷いて、彼の顔をじっと見た。彼の顔が青いのがよくわかる。私は少しずつ彼の身体の方に目を移していく、と……。息が詰まった。自分はなんともない。けど、彼は、彼の身体は。お腹と足から赤い塊が飛び出ている。自然と彼の状態が、息遣いが自分のもののように共鳴する。


「よかった」


 それだけ言って、彼は倒れ込んだ。


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