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夕 好きです! 緑色

三 緑色


 あれからというもの、私は毎週金曜日になると必ずあの広場に出かけていた。群衆の先頭に立って、彼のダンスを見つめる。終わり際には必ず感想を言いに彼に駆け寄る。そんな日々が続いた。


「いつもありがとう」


 ある日のダンスの終わり、感想を言っていつものように去ろうとした時に、彼はそう言った。いつもは感想を言うと彼の言葉を待たずに背を向け、その場を去ってしまう。感想を言うのが精一杯で頭が真っ白になってしまう。出来る事といったら、感想をしっかり長く言うことくらいだった。でも、この日はそれだけでは終わらなかった。


 彼のしっかりと引き止めるような強い声。身体がびくっとする。心臓の音が急に大きく感じられ、すごい勢いで収縮する。身体中に熱い血が流れていくのがわかった。


「お名前、教えてくれる」


 不測の出来事だった。いや、不測といってもいつかはと夢見ていた出来事。なかなか自分からは言い出せなくて、帰ったあとに後悔する。今日もそのはずだった。そうなってしまう流れだった。それでも今日は、いつしか聞いたきりになっていた彼の言葉が強く抱きとめてくれた。強ばった身体が彼の温もりに解される。そして、今まで感じたことないような感覚が流れ出す。嬉しいような、合格したような、何か達成したような、笑ってしまいそうな、開放されるような、心から溢れ出る温かい感覚。


 そんな感覚を身に感じながらゆっくり振り返る。目の前にいる彼との距離はほんの一、二歩。こんなに近くで、こんなにしっかり見たのもあの日以来だ。


 自分の名前を告げる。


「君、大学生」


 小さく頷く。


「俺もなんだ」


 笑顔になる。


「一緒にお茶しない」

 

 少し息を呑んで、大きく頷く。


「君のこと、色々聞かせて」


「あ、貴方のことも」


 少し見つめたあと、二人でふっと笑って並んで歩く。彼は道中、ずっと自分のことを話していた。自分が何故毎週ここでダンスをしているのか、普段何をしているのか。私は隣で彼のことを見つめ、ただただ笑顔で聞いていた。空に浮かぶ夕陽は一際に赤く輝いて、私達二人を赤く染め上げていく。


「好きです!」


 そんな言葉がついと出た。話の途中で、彼はびっくりした。でも、びっくりしたのは、たぶんそれだけじゃない。立ち止まって、私の顔を見つめ、目を丸くしている。私はと言うと、夕陽の光を顔に浴びて、少し俯いていた。でも、後悔はしてない。ここで言わなかったら、大切なものがどっか飛んでいきそうだったから。


「俺も……そうかも。付き合わない」


 少し間をおいてそう応える彼の言葉は、とても自然で。とても嬉しそうだった。


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