パンダ、異世界転移する
ジャイアントパンダチートモノです。よろしくお願いいたします。
某国の山奥で一頭のジャイアントパンダが煙草を吸いながら夜空を眺めていた。
「やあ、いい月だね、リンリン」
そのパンダ、リンリンにもう一頭のジャイアントパンダが近寄り、前足を軽く上げた。
「やらねーぞ、レンレン」
レンレンと呼ばれたパンダは唇を尖らせた。
「ケチ」
「欲しけりゃ自分でとってこいよ」
「どうせ明日から吸えなくなるんだしさ、僕に一本くらい分けてくれても罰はあたらないんじゃない?」
「煙草も禁止だなんて、人間は随分と心が狭いらしい」
リンリンが皮肉気に口元を歪めて、加えたままの煙草の赤い灰が足元に零れ落ちた。
「明日のこの時間には、僕達はニホンに居るんだね」
「ああ、クソみてぇな檻の中に閉じ込められて見世物にされるんだ」
「でもご飯もきちんと貰えるらしいし、悪い処じゃないよ、きっと」
リンリンは鼻で嗤った。
「馬鹿だな、人間の奴らは外交の道具として生かすために俺達をメンテナンスしているに過ぎないんだよ」
「ガイコウノドウグって何?」
「人間の国際調和の為に――人間達がうまくやっていくために利用されるってことさ」
レンレンは軽く首を傾げた。
「僕達が美味しいご飯を貰えて、人間達が仲良くするのにも役立つなら、お互いにWIN―WINなんじゃないの?」
リンリンは眉に皺を寄せながら吐き捨てるように言い放つ。
「俺は嫌だ。人間達の道具として狭い檻の中で一生を終えるなど――真っ平ごめんだ」
「確かに……窮屈かもしれないけど、もう寝床とか食べ物の心配しなくていいんだよ」
「俺は安寧な不自由よりも困難な自由が欲しい」
そう言うと、すっかり短くなった煙草を地面に落とし、足で土を掛けた。
「何処に行くのさ」
「さあな」
レンレンは、リンリンの背に声を投げかけた。
「――ねえ、この辺りは夜になるとよく動物が消えるらしいよ」
「消える? 大型の鳥でもいるのか?」
「いいや、その――異次元に連れて行かれる、らしいんだ」
リンリンは思いきり吹き出して遠慮なく笑った。
「何だそりゃ、まさか信じてねぇだろ、そんな与太話!」
「うん、まあ、突拍子もないのは確かだね、けど……痛っ」
デコピンをくらったレンレンは小さく声をあげた。
「どうした。らしくねぇな。日本に行くのが不安か? ん?」
「そうじゃなくて、危ないから僕も君と一緒にっ」
「お前は日本に行け、レンレン」
「やっぱり君はこのまま逃げるつもりなんだね」
リンリンは肩を竦めてみせた。
「ああ、言っただろ、檻の中で一生を終えるなんてごめんだからな」
「僕も君と一緒に」
レンレンの言葉はリンリンに遮られた。
「お前は檻の中でも生きていける」
「それ、馬鹿にしてる?」
「違ぇよ、順応力が高いって褒めてるんだ。お前は強い。俺の自慢の親友だ」
「強いって言うなら君の方がずっと強いだろ」
思わず零れそうになる涙をレンレンは俯いて堪えた。
「力の強さじゃなくて――」
リンリンの言葉が急に途切れた。
不審に思ったレンレンは顔を上げる。
目の前にリンリンはいなかった。
「――リンリン?」
急に眩暈がしてリンリンの視界が白く染まった。
五感が刹那消えた。
まず初めに感じたのは熱風だった。
目を開けると、火を吐く巨大な蜥蜴が目の前にいた。
リンリンは、ここのところ笹しか食べておらず、肉を食べていなかった。
「随分食べ応えがありそうだなぁ、オイ」
大きな犬歯を見せてリンリンは嗤った。
ジャイアントパンダは雑食である。
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