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第1章 ―船舶総司令部―

「センセン!チンチン!」


 [我、敵潜水艦の攻撃を受く]を意味するこの電文が、陸軍船舶師団総司令部に打電され、輸送船「日進丸」船内は慌ただしい様相を呈していた。


「空母『摩周』から入電!船団の方位左三十、距離二○○に敵潜水艦らしき物見ゆ!」


 私は田口嘉雄、陸軍少佐で「日進丸」の警備司令部付参謀だ。

 陸軍士官学校を卒業した自分は、しばらく満州の工兵部隊においてスコップとツルハシ、そして時には小型舟艇を用いた作業に就いていたのだが、大東亜戦争が始まり少し過ぎた頃、思いもよらぬ場所に配属された。

 陸軍船舶総司令部―突如として陸海軍の再編が行われ新部隊が設立されたうち、この「陸軍船舶総司令部」もその一つだ。

 もともと、「船舶輸送司令部」として徴用船舶の運用管理等を行っていたが、昭和十七年に帝国海軍の「海上護衛総隊」が設立されると同時に、組織を大幅に改編、ここに「陸軍船舶総司令部」が設立された。

 陸軍船舶総司令部は、揚陸師団・海上輸送師団・海上戦闘師団・海上飛行師団・船舶教導本部を傘下に持ち、各師団には次の様な部隊があった。


・第一師団(上陸師団)

揚陸大隊、強行補給大隊

・第二師団(海上輸送師団)

輸送大隊、船舶砲兵大隊、防空大隊、船舶工作大隊、病院船舶班

・第三師団(海上戦闘師団)

海上戦闘大隊、沿岸戦闘大隊、潜水戦闘大隊(後廃止、海上護衛大隊へ)

・第四師団(海上飛行師団)

飛行母船大隊、海上飛行大隊

・船舶教導本部

航海部(宇品)、砲兵部(宇品)、飛行部(鈴鹿)、潜水部(愛媛、後廃止)


 それぞれの仕事は簡潔に言ってしまうとこうだ。


・上陸師団

敵地への強行上陸を行う部隊

・海上輸送師団

帝国の各地へ物資を輸送する部隊

・海上戦闘師団

戦闘艦艇により、揚陸部隊や船団の護衛、沿岸や河川の警備を行う部隊

・海上飛行師団

航空母船を持って、揚陸部隊や船団の護衛、偵察や哨戒を行う部隊

・船舶教導本部

各師団へ配属される船舶兵の教育隊


 陸軍船舶総司令部の設立経緯と歴史については、後日詳細を述べるとしよう。


 私は突如、大陸の工兵部隊から船舶総司令部 海上輸送師団に配属され、今こうして新型輸送船の警備司令部員として乗船しているのである。

 警備司令部員の仕事は、乗船している輸送船の指揮を取り、船員に対し司令部からの指示を出すというだけだ。

 この船には他に、通信兵や砲兵が乗船し、それぞれが持ち場についている。

今回の輸送任務は、帝国海軍の海上護衛総隊と協同して、南洋のラバウル基地まで兵員や物資を輸送するというものであった。

 海軍の最新式駆逐艦と小型空母に護衛された我々は、内地を出航し途中補給を行うトラック基地に向け、時速30kmという高速で航行していた。


 そんな折、護衛の空母「摩周丸」から「敵潜水艦発見」の一報が入ったのである。

夜間だと言うのに、海軍の護衛隊は最新式の電波警戒機(電探、レーダーの事)を装備しているのか、これまでの海上輸送では考えられないほどの早さで敵潜水艦を発見し、周囲の駆逐艦が全速力で発見した方向へ航行して行った。

 我々も船団指揮官であり、かつ「日進丸」の警備司令官でもある古谷大佐の号令一下、すぐさま回避行動を開始した。

 しばらくすると、遠くで発砲炎が見え、続けて爆音が聞こえてきた。

 敵潜水艦に攻撃を加えているのだろう。


 

 

 戦闘はあっと言う間に終了した。


 護衛の駆逐艦が戻ってきて、船団は何も無かったかの様に毅然と隊列を組み直し、一路トラック基地へ向かった。

 船団はこの後、一度も会敵すること無くラバウルに到着し、今度は海上戦闘大隊の大型砲艇に護衛された我が「日進丸」は、内地への帰路に着いた。


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