託児所
職場の薬師館には、今日も怪我をした兵士が運び込まれる。
いつもの様に動こうとしたら「オカン、頼むから座っていてくれ!」
と血相を変えた兵士に止められた。
仕事をするのも潮時かなあ。
薬師長と迎えに来たアレックスに相談する。
明日から仕事を休む、仕事の再開時期についてアレックスと薬師長の間でもめていた。
「女手がふたりもいるのだから良いだろうに」
「近いうちに独立するから」
「隣に家をたてると聞いているぞ。頼れば良いじゃないか」
「託児所が有れば良いのに」
と一言言ったらはたっ!と二人の動きが止まった。
次の日、いつも通りの薬師館に出勤し、第一回託児所設置会議が開かれた。
参加者は真理、女官長、近々出産予定の女官2名、義母、義姉、産婆、薬師長、アレックス。
義母と義姉は常識を知らない真理のフォロー役である。
女の世界は怖いのだ。
薬師長が最初に説明する。
託児所の設置については表向き、第一王女が手掛けた仕事となる。
要するに失敗が許されない仕事。
その為各セクションの責任者が、設置委員となる事。
薬師長の話を聞き、それまで不満顔だった女官長の表情が引き締まった。
託児所の設置場所については、アレックスと薬師長の意見で薬師館の隣になった。
王宮の一番外れの位置。医者が近くにおり、兵士の訓練場も近い。
薬草や毒草を子供が間違って食べるのではと女官達が心配した。
薬草畑、特に毒草の栽培については厳重に管理を行う事となった。
託児所を利用する時期はある程度授乳が落ちついた時期。
昼食前の1回と午後3時ごろの2回に母親が授乳に来れば足りるようになってから。
王宮と託児所の間の馬車は兵士が出す事が決まった。
幼い時期の子供は何かと病気に掛かることが多い。
母親の休みを取りやすくする必要があると子育て経験者の義母が発言した。
女官長が一瞬困った顔をしたが
「一人前に育て上げた女官達が出産で辞めるよりはマシ」と苦笑しつつ承諾した。
会議の後、女官達を送っていったのはなぜかイケメン薬師だった。
「あれで考えを変えてくれると良いんですけどねえ」とアレックスが薬師長に話す。
「頑固だからなあ。誰に似たのか」と薬師長が呟く。