過去 隊長視点 命の記憶
最後の浄化の土地、火山から一番近い村であった場所の浄化も終わった。
噴火は収まったとはいえ、周囲には生の気配は感じられない。灰と黒い岩だらけの死の世界。
聖女を寝台に放り込む役目を終えたマリがうろうろしているのに気付いた。
近づくと「火山の噴火の影響で、新しい湖が出来たんですね」と言う。
彼女の指さす先に、広くて大きな湖があった。
彼女が木魔法を唱えると、3m四方にぺんぺん草が生えた。
「ぺんぺん草…しょぼっ」と項垂れる彼女を見ていたら笑いが止まらなくなった。
完全な死の世界から生きた植物が芽生えたのだ。たとえそれがぺんぺん草でも。
あーでもない、こーでもないとむきになり、ぺんぺん草畑を量産した挙句に魔力切れを起こして動けなくなった彼女を抱えて馬車に戻りパンを与える。
彼女は冷たいパンは嫌だとパンを魔法で温めた。
せっかく復活した魔力がまた切れて動けなくなったようだ。
手ずからパンを食べさせてやり、寝台に放り込む。
頭をポンポン叩いてやったら、最初は睨んでいたけど、すぐに眠り込んだ。
王都への戻りの旅は時間を要した。
途中の村を訪問し必要な救援資材を確認しながらの帰還だ。
道中、彼女は諦めずに魔力切れ寸前まで木魔法を続けてぺんぺん草畑を量産していた。
ある時、「サツマイモが出来た!」と歓声を上げた。
火山灰の影響を受けた土地でも育ちやすいサツマイモという甘い芋のお陰で、村の食糧事情が改善した。
焼いたサツマイモを満足そうに食べる彼女の姿は、野生の猿みたいで可愛かった。
彼女を見ているうちに、ずっと一緒にいたいと思うようになった。
元の世界に帰さない方法を必死に考えていた。
初めて勝算の無い戦いに挑んだ。
今までにないくらい女の子に対して頑張った。
そばにいる時間をむりやり増やした、暇さえあれば口説きまくった。
旅の間に捕まえないと、彼女を永遠に失ってしまう。必死だった。
「アレックス、薔薇が咲きました」と彼女が笑っている。
庭に薔薇の木が、薔薇が1輪咲いていた。
旅の時にはレベル3のぺんぺん草だったが、レベル8は薔薇なのか。
頭をヨシヨシとしたら、誇らしそうにニコニコ笑っていた。