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魔界より  作者: 空木
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まだまだ子供、ついでに精神も

 

 人気のない森の中には真っ赤な屋根の家が一軒建っている。廊下や部屋の天井は高く照明にはシャンデリア、扉には尖頭アーチが採用され、西洋風な作りでありながらどこか教会を思わせる不思議な家。

 そんな不思議な家のリビングでは夫婦のやり取りとしては甘すぎる、付き合いたての恋人のような出来事が起こっていたーーはい、それ私の両親です。


「はい、貴方。あーん」

「うむ、アリシア大変嬉しいのだが……」


 父さまの隣に座っていた母さまは嬉しそうに、口元へスプーンを差し出す。その上には美味しそうな料理ーーではなく”巨大な目玉”が乗っている。そう、我が家では”夕飯”の最中なのです。

 私といえば両親の仲睦まじい様子を気にすることもなく、自分の目の前に置かれている料理たちを見て固まっていた。茶色の魚の丸焼きに、暖色系と寒色系が混合しているサラダ、マグマのようにブクブクと噴き上がる紫のスープ。


「もう貴方ったら……夫を立てるのは妻の役目、つまりお食事のお世話も妻の役目なのです!さ、遠慮なさらず食べてくださいな」

「む?そうなのか?では、頂こう」


 母さまそれ何か違います。父さまも納得しないで下さい。でも、モグモグしている姿は可愛いです。

 あ、いけない。両親のあまりの天然っぷりに話がそれた。


 母さまの料理の腕が下手でこのような惨事が起きたのではない”素材”に問題があるのだ。魚には沢山の目玉がついており、その一つが今まさに父さまの口元に運ばれた。色こそ奇抜だが形は前世で見た野菜にそっくりなサラダたち。スープはーー煮込んだ物による影響でそうなったのだろう、うん、そうであってほしい。


 転んで前世を思い出した私だが、思い出し方に問題があったのか自分の記憶が変になっていた。例えば前世の両親を思い出そうとすると今の両親と混濁して区別がつかない思い出がちらほらあったり、かと思えば遊んでいた覚えはあるのに内容が抜け落ちていたり……。


――そして今は、後者に該当している。()()()()()()()()()()()()


 昨日までの私であれば何の疑問もなく食していただろう。しかし味がわからずゲテモノ料理にしか見えない料理が目の前に出された場合、自ら進んで食べれる人はどれだけいるだろう?あ、私人間じゃない。

 ともかく今日からの私にも同じことが出来るかと言われたら『少し考えさせてほしい』と言うのが正直なところ。つまり今の私の硬直がそうである。


「ありがとうアリシア、とても美味しい。だが、ニーナの食が進んでいないように見えるのだが……」


 ぎくっ

 言葉にするならまさにそれ、子供の変化にいち早く気づく父さま素敵です。でも今は気づいてほしくなかったです!だって、その言葉で気づいた母さまがこちらを向いてしまったから!


「ニーナどうしたのです?どこか具合が悪いのですか?」

「あ……えっと……」

「あ、わかりました!今日はお肉がないから気が乗らないのですね。でもダメですよ、ちゃんとお魚もお野菜も食べないと大きくなれませんよ?母が貴女にも食べさせてあげます。はい、お口を開けて……」


 どうやら私は肉が好物だったらしい。

 そんな事を考えていたらいつの間にか目の前にスプーンがあった。どうやら母さまが目の前に座っていた私にも届くようテーブルから身を乗り出しスプーンを差し出していたのである。さらにそのスプーンには先ほど父さまにも食べさせた魚の目玉が乗っている。

 差し迫る危機を回避したくても目の前にいるのは完全な好意によって差し出ている母さま、さらに隣には微笑ましそうに見守る父さま……あ、退路ないです。詰みです、コレ。


「はい、あーん」

「あ、あーん!」

 

 もうどうにでもなれ!と自棄を起こし料理を食べ咀嚼すること数秒、ふと気づく。よくよく思えば前世にだって魚の目玉食べる人はいた、ただ好みの問題なだけで。そして私の場合は……。


「……っ!これ……美味しい」

「ふふっ、よく噛んで食べてね?」


 私が食べたことに安堵した母さまも自分の食事を取り始めた。しかしながら母さまの食べた物がどうなっているのか謎である。着ているドレスに漏れている様子はないので消化されているのだと思う、と考えていたら母さまと目が合った。首をかしげて「どうしたの?」と聞かれたが、慌ててスープを流し込むことで誤魔化した。あ、野菜入ってる。


 結論としては見た目に問題があるだけの美味しいご飯だった。食べ終わったあと口周りが汚れるハプニングが起こったが母さまが拭いてくれた。さらに追い打ちをかけるように父さまからは残さず完食したことに対して褒められた。ちょっぴり顔が赤くなったのは内緒である。


 食事のあと母さまと一緒にお風呂に入ったのはいいけれど父さまが一人しょんぼりしてた。ごめんなさい、これからは一緒に入りたくないです。少し早い反抗期です。

 そして自室に送ってもらいベットに寝かしつけられた。因みにベットには可愛らしい天蓋が付いていてお姫様気分を味わえる。


 優しい両親に囲まれ、見た目に問題があるが美味しいご飯、そして夜はふかふかのベッドでお姫様、前世より快適過ぎて駄目になりそう……あ、そういえば自分の種族について聞くの忘れてたまた今度でいいや……。



 ――しかし、私は気づいていなかった。なぜ人気のない森の奥で家族三人で暮らしているのか、父さまが毎日何処に出掛けているのか、そして何よりも未だに”両親以外の誰か”を見たことがないと言う異常に――。

 

 この時の私は知る由もなかった。


アンコウ辺りの魚にたくさん目玉が付いてると思ってください。

あと世の中には紫カレーなるものがホントにあるそうですよ?

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