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魔界より  作者: 空木
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かくして物語は始まった

 

 はじめまして!わたしのなまえはニーナ、ことしで五才になりました!


 ちょっぴりお顔の怖いヴィルヘルム父さまと白くて綺麗なアリシア母さまの三人で森の中にある、真っ赤な屋根のお家で暮らしてます!今は夕飯が出来るまでお外で遊んでいたところです!でも石につまずいて転んでしまいました。おでこが痛いです……でも、泣きません!だって私は――


「……思い出した」


 うつ伏せに倒れた体を起こし、服に付いた土汚れを払おうとして視界に映った自分の手を見つめる。幼児の体に見合った紅葉のような手。開いて閉じて、動作を確認する。これが今の私の手……。

 手に付いた土汚れも気になったが、それよりも先ほどから体のあちこちに感じる違和感の方が気になり確認を優先する。

 頭を触ると先がくるりと曲がった角が耳の上にそれぞれ二本存在していた。次に背中が気になり後ろを振り返る。着ていた白いワンピースは背中が大きく空いており、その背中からはコウモリのような羽が折りたたまれている。さらに下を覗くと、スカートからは黒くて長い尻尾がゆらめいている。


 別にコスプレしているわけではない、これらすべては私から()()()()()のだ。


 話が変わりますが、ある女の子の話をしたいと思います。

 女の子は学校の帰り道、石につまずいて顔面から物凄い速さで地面におでこを強打しました。人通りが多い場所で転んだので、その醜態を多くの人に目撃されながら緩やかにブラックアウト――するはずでした。

 しかし薄れゆく意識の中で「恥ずかしい!こんな醜態さらすなんて、もうお嫁にいけない!というか誰か手を差し伸べてよ!何が『渡る世間に鬼はない』だ!鬼ばかりじゃないか!もしかして鬼の方が優しいのでは?もう来世は鬼でいい!!」と思いながら今度こそ完全に意識を失いました。以上、脱線おわり。


 これが()()での()の最後の記憶である。そして言葉の通り()()()()()()に生まれ変わってしまったのだ。『いや、そこは鬼だろう』と思うが鬼に丸まった角、コウモリの羽、長い尻尾は生えてない。前世で得た情報で現状を表すなら悪魔がぴったりなのである。しかし実際はちょっと違うのである。なぜならば今生の両親が――


「あら、あらあら?今日も転んでしまったの?大丈夫?痛くない?」

「……!母さま!」


 いつの間にか私を上から覗き込んでいた母さまに視線を合わせる。母さまのお顔はちょうど夕日を背に受けていたので暗くて見えない。しかし綺麗な水色のドレスと父さまから贈られた花嫁を連想させる白いヴェールにより母さまだと判る。


「うふふ、今日は何をして遊んでいたの?」


 ドレスが汚れるのも気にせず私の視線に合わせるようにしゃがみ、何処からか取り出したシルクのハンカチで私の汚れを優しく落としていく。


「あの!えっと……そう!土遊びしていたの!」


 『前世のことを思い出した』など言える筈もなく、何かないかと探していたところ服に付いた土汚れを見てとっさに嘘をついた。しかしその言葉を聞いた母さまはキラキラさせてこちらを向いた。うん、実際夕日を浴びているから比喩ではなく事実である。


「まあ!もう土遊びができるようになったのですね!でも、母は一度もやったことがないからわからないの……もし……もし!ニーナが良ければ母さまに教えてくださらない?」


 子供に話かけるにはあまりにも丁寧な口調、しかしこれには訳がある。母さまはいいところのお嬢様なのである……多分。と言うのも両親はあまり私の前で昔の話をしていない。それは私を育てることに忙しく余裕がないからしないのか、はたまた何か事情があるのかーー兎に角、詳しくは知らないのである。


 そんな世間知らずであろう母さまの、ささいな願いを無下にできるだろうか?

 ーーいや、できない!


「うん!いいよ!母さまも一緒に遊ぼう!」

「うれしい……ニーナありがとう」


 こうなったら全力で母さまに土遊びを伝授するぞ!と意気込み、早速説明を開始する。そんな私に嫌な顔一つもせず、時には絶妙なタイミングで相槌を打ち、ほどよく褒める。調子に乗った私は時間も気にせず土遊びに夢中になった。だが、母さまの白くて細い綺麗な手が汚れているのを見てようやく作業を中止した。


「母さま、手が!それにもう、あたりまっくら……」

「あら?……まあ大変!貴女が風邪を引いてしまう前に!さあ、母さまと一緒に……あっ」


 母さまは私に伸ばしかけていた手に気づき、引っ込めてしまう。手が泥だらけなのはお互い様だし今更だろう。私は気にせず母さまの手を握った。


「私、母さまと手を繋ぎたい!……一緒に帰ろ?」

「~〜っつ!ええ、母さまも貴女と手を繋いで帰りたいのです!」


 私の言葉に観念した母さまは嬉しそうに私の手を握り返してくれた。

白くて細くて優しい暖かい綺麗な手――例えその手に皮膚も筋肉もなく骨がむき出しだろうと。

 

 今度こそ母さまの顔が見れた。月明かりが照らし光輝く”が少しだけ照れているように思えた。


 前を見ずに歩いていたせいか、何かにぶつかってしまった。慌てて上を見上げる。そこには怖い顔があった。筋肉隆々の赤い肌の巨体、背中には体を包めそうなほど大きな黒い羽、腰辺りからは爬虫類のようにトゲトゲした大きな尻尾。さらに頭からは天に向かって伸びた大きな角が二本。間違いない、これは……


「おかえりなさい!()()()!」

「あぁ、ただいま。ニーナ、アリシア」


 あ、言い忘れました、私今生では…

 ()()()()()の母と()()()()の父の間に生まれた魔族だったりします。 

 

練習を兼ねた初投稿です。不定期更新となりますが生暖かい目で見守ってくださると助かります。

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