プロローグ 騒がしい朝
乗っていたバスが目的のバス停に到着した。すぐさま席を立つと、すでに手に持っていた小銭と切符を運賃箱の中へと放り込み、急いでバスを降りた。
林ユウキは左腕につけた黒い腕時計へと目をやり、思わず眉をひそめた。時計の針は午前8時7分を指していた。入学式は午前9時からなので少し早めに着いてしまったようだ。やれやれと心の中で思いつつ、ユウキはゆっくりと歩き始めた。
しばらく道路沿いの道を歩いていくと、ようやくお目当ての学校の校門前に到着した。県立宜ノ山第一高等学校。今年からユウキは新年生として合格が決まり、今日その学校の入学式だったのだ。
しかし、本来ならば初めて会うクラスメイトや新生活に期待や不安を持つものだが、今のユウキの心には期待や不安などみじんも無かった。と言うのも、今年の新入生はユウキと同じ中学出身の者が約8割以上を占めていた。顔見知りがほとんどなので、新鮮味なんて感じれる訳がない。
そもそもユウキ自身あまりおしゃべりをするタイプの人では無いので、正直新生活というより中学生の延長と言った方が心情的に近い。せいぜい変わった所といえば、制服のズボンがワンタックからノータックに変わったくらいだろうか。
「お~い!ユウキィ!」
ふと後ろから、ユウキの名前を呼ぶ叫び声が聴こえ思わず振り返った。
声をかけてきたのはユウキと同じ学校の制服を着た女の子だった。髪はセミロング程の長さで色はこげ茶、体型はスラっとしており、肌は少し日焼けている。パッチリとした瞳はいかにも活発そうな雰囲気を醸し出していた。
「お、おう」
「何よすっとボケた顔して、ボクだよ、忘れた?記憶喪失?」ユウキの頭を少々強めにパシパシと叩きながら女の子は言う。
「痛ッ!おい何だよ!」ユウキは叩いている女の子の手を払った。そう、この女の子はユウキの知り合いだ。
この女の子の名は竜田ナミ(たつだなみ)。ユウキと同じ中学出身で、中学の時にユウキと知り合った。自分のことをボクといい、当時周りから不思議呼ばわりされていたがユウキ自身は特に気にしていない。
そしてユウキはナミと同じ部活に所属していた。その部活とは、
「ねえユウキ、ここの吹部に入ろうと思わない?」
「・・・さあ、考えてない」パシンッ!、ナミは怒った表情になり、またユウキの頭を引っ叩く。
「痛ッ!」
「はあ!?考えてない!?、高校で部活に入らないとかありえない!外道!暇人!おたんこなす!」
「意味わかんねーよ、別にいいじゃん、俺の勝手だろ」
「ダメ!ボクは入って楽器の技術を極めるけど、ライバルのアンタが居なかったら勝負にならないでしょ!」
「・・・勝手にライバル扱いされても困るんだが、それに俺とナミとじゃ楽器が違うだろ、勝負にならねえよ、ナミはトランペットで俺は」パシンッ!言い終わる前にまた叩く。
「楽器の種類なんて関係ない!それにせっかく中学でやってたんだから高校でもやらないと勿体ないでしょ~!!!」またペシペシ頭を叩いた。
「っんなあぁぁもう叩くのやめろ!分かったよ!」
すると、ナミは叩くのをやめた。
「・・・・・・はぁ、入るよ」
「うん、よし」ナミは先ほど怒った表情からにこっとした笑顔に変わった。
「じゃあ後でね!」そう言うと、ナミはユウキを残して先に体育館へと行ってしまった。
ナミが居なくなると、場は一気に静かな空間へと変貌した。はぁっとユウキは大きなため息をつく。
何でまだ入学式始まってないのになんで俺こんな疲れなきゃならないんだ、はあしんどい。そんなこと考えながらユウキは入学式場である体育館へと向かった。
初めまして、蟲島代助と申します。小説を読んでくださった方、本当にありがとうございます。
この小説が今回初めての投稿となります。なので、誤字や脱字、又はつまらない、と思った方もいると思います。小説家を目指してる身としてまだまだですが、なにとぞよろしくお願いします。
できれば感想やレビューなどを書いていただけると幸いです。