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神還師【かみかえし】  作者: 秀中道夫
第二章 神還師(かみかえし)
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2 不動産屋の娘

 それ以降、何の話もなく一ヶ月が経過していた。

 その少女が今電話口に出たと思えば、脈略もない展開で話を進めている訳なので全く噛み合っていない。


「…で名刺だけ渡されてもね、とりあえず何か?」


「あなた、変な物が見えるわね」

「は?」


「更に聞こえる…、うらやましい」


「もしもーし…」

「今日名刺の場所で会えない?」

「は?」


「…18時に」

 そのまま電話が切れた。

 …なんなんだ一体と思いながら榊は受話器を戻した。若いせいなのか唐突すぎる展開にため息をつく。手帳をめくって一ヶ月前のエチゼンクラゲを調べると、非関係者の項目から名前を見つけた。


「『神楽かぐら』…ね。」


引き出しの名刺ケースから神楽の名前が入った名刺を探す。珍しい名前だったので調べるのは早かった。


神楽不動産かぐらふどうさん 特別交渉担当 神楽ミキ』


 特別交渉担当って何だ?見た目に関して言えばただの女子高生だったが、あれがコスプレで実際はもう二十代とか…?


…変なのと関わったか。嫌な能力に憑かれたもんだ。


 榊はまたため息をついた。そして不幸にも彼女の指定した時間はニュースに引っ掛かる時間だったが、午後からは勤務上休みなのだ。


 軽い残件を片付けた榊は、名刺の住所に向かうことした。

 東里とうり市の中心街別名旧市街、元々城下町だった東里市は新旧二つの川によって城下を含めた地域―旧市街と更に裾の地域―新市街に分かれる。平成の町村合併以降行政区画の拡大とともにさらに大きな町にはなったが、住所に書いてある地域は古くからの寺社がひしめき合う場所でもある。


 住所の指す場所は玄条げんじょう寺の近所だった。以前郷土史関係の取材で聞いたことのある寺だった。


「でかいな……」


 玄条寺は特にその中でも一番の勢力を誇っていた寺社だった。幕末近代と時代の流れとともにその力は衰えている。

 しかし不動産屋はどこだ?


 辺りを見回してみるとちょうど玄条寺の境内で箒を掃いている住職を見つけた。

「あの、すいません。」

「何かご用ですかな?」

 袈裟けさ着たいかにも普通の住職だ。


「このあたりに神楽不動産ってありませんか?」

「不動産ですか」


 住職はじろじろと榊を見る。

「この住所ってこのあたりでしょ?」名刺を見せる。


 住職の目の色が変わった。榊はこの瞬間を見逃さなかった。

「…あなた、なにか良からぬ物でもみたのですか」

 住職は聞き返した。その目の色は鋭いままだ。


「みているかも」


 榊は表情変えずにかえした。


「……裏です」


「え?」


「神楽不動産はこの寺の裏にありますよ。一旦ここを出てもらって路地裏をぐるっと回ってください」

「ありがとうございます」

 …嫌な予感がした。あの名刺を見せた途端に顔色を変えたと言うことは、何か裏がありそうだ。


「…一つ」


「はい?」住職が榊に訊いてきた。


「今の自分は好きか?」

 同じようなことを誰かに訊かれた気がする。


「なぜそんなことを?」

「いえ、特に気にしないでください」


 寺の裏手に回ると、不動産の建物を見つけた。小さなプレハブ小屋に毛筆の字で『神楽不動産』という看板が立てられている。


「不動産にしてはずいぶん小さいな……」

 不動産業はメインでもなさそうだ。とするとこれはただの世を忍ぶ仮の姿なのかもしれない。


 プレハブの扉を開けるとそこには、中年の男性がパソコンに向かって書類を作成しているところだった。

「いらっしゃい。何かお探しですか?」


「ミキさんにお会いしたいのですが。」

「娘に何か?」

「知り合いです。彼女から呼ばれたのですが。」

「まだ学校です。」


 あの制服はコスプレではなかったと言う事か。

 よくよく考えてみれば嫁がいるのに女子高生からの電話で呼ばれたと言う状況はよく考えれば不自然きわまりない。

「…授業中か参ったな。」

「待たれても邪魔ですが。」

 男性は野暮ったい表情を浮かべている。


「18時とは言われていたのですが、では出直します。ところで、あなたは…ミキさんの?」

「父親ですが何か?」

 確かにうざったい表情もわかる。どう見てもただのオッサンが年相応の娘に会いに来たと言う状況はやはり不自然だ。


「彼女何か変わったものが見えたりするのですか?」

「…帰ってきたら電話するよう伝えます。」


「羨ましいと言われましてね…」

 父親の前に神楽ミキが渡した名刺を置く。男の腕が止まり、榊を見た。


「別に興味本意できたわけではありません。特別交渉担当などという言葉も関係ない。良からぬモノが見えて、聞こえると言うことに対して羨ましいと言われたのは初めてです。この能力に良い思い出もないもので」


 神楽の父親は榊を見る。榊は左腕を擦りながら話している。


「…あなた、物の怪の類いは信じていますか?」

「ウザいです。信じる信じない以前に」


 神楽の父親は編集中の書類の画面を閉じるとそばにあったたばこを持って、立ち上がった。


「少し話しますか。」

 その目は鋭かった。

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