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神還師【かみかえし】  作者: 秀中道夫
第五章 生と死の認識
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4 境目の綻び

「榊先輩、頼まれてた資料出してますよ。」

榊が海原うなばらテレビの報道ルームに向かうと勤務の井川いがわトオルが資料をテーブルにおいて待っていた。


「ありがとう」

過去1年間の新聞の地方欄で、特に事故を扱っている記事の検索結果のみを出してもらう。

「しかし何を調べたいんですか?」

過去一年間の案件を調べてほしいという展開上、膨大な資料を忙しい夕方に作業させてきた為、井川は若干、疲労困憊ひろうこんぱいだった。

「死亡事故、特に子供。幼稚園から小学校、俊という名前の子」

榊は喋りながらコンビニ袋の包みを井川に渡す。中身は栄養ドリンクが何本か入っていた。

そして、榊の言葉と同時に榊の目の前に取材テープが置かれた。

「…それならこれですね。」井川が袋から栄養ドリンクを一本飲む。


榊はテープの項目を確認した。報道の取材テープはいろいろな取材が詰まっている。必ずテープケースにはタイムコードと共に表記を入れている。

「早いな。なんで?」

「私が担当した内容だったんで。」

表記の中に、『交通死亡事故』の項目があった記事の日付は2ヶ月ほど前だった。

近くで空いていた編集機でテープを再生する。内容は本編内容をまとめた物で一通り文字スーパーも入っている。

内容を確認しながら井川に尋ねる。

「この子の情報って解るか?」

「その名前だけですね。一過性の物でしたので。」

榊は手帳に名前を書き留める。

「解った。ありがとう」

「もう良いんですか?」

「ああ、こっから先は別件だから。」

腐る井川を残して榊は会社を出るとまた携帯に電話を掛けた。


「佐山か?」

『何でしょうか?』

「2ヶ月前の交通事件の詳細を聞きたい。」

『瀬川さんの件ですね』

「見てたのか?」

『もちろんです』

淡々と佐山は答える。

「調べはどれくらいで?」

『折り返します』

ここで佐山は電話を切った。


榊が電話を切って3秒と経たずに電話が入った。

『佐山です。交通事故の件ですが…』

佐山は事故の説明をはじめた。榊は情報を手帳に書き留める。


榊が気にしていた予想に対して、佐山の回答はほぼ思っていた通りだった。淡々と語る佐山の情報収集力の高さと正確さに関しては、過去にも実績があり、まさに『折り紙つき』である。


榊のミステリーハンターたる所以――事有るごとに榊は佐山の情報収集能力に頼っていた。


しかし、榊の相談からわずか3秒程度で情報を返す人間離れした佐山は何者かがわかりづらくなると思う。神楽の思った何を言っているか解らない男という表現は佐山が誰もが普通に見えているとは限らないのだ。

 それはなぜか?話が長くなるので本題に戻ろう。榊は佐山から情報を聞き終えていた。佐山が榊に尋ねた。


『以上になります。ところで守様…』

「なんだ?」

『どうやってあの子を引き離すのですか?』

「方法ならある」

榊は佐山からの電話を切った。


榊は手帳の番号に電話を掛ける。

「わたくし海原テレビ報道記者の榊と申しますが…」


――一時間後、榊は瀬川邸に戻ってきた。神楽一人を残した上に、少年の父親も戻っており、状況が混沌としている。とりあえず状況は確認できたようだ。

神楽に関しては瀬川によって父親には情報がもたらされているようで、榊を見ても何も反応はしなかった。

「榊、どうしたの厳しい顔して?」

神楽は榊の表情が若干曇っていることを判断した。何かを掴んだような顔ではあるが、その内面が若干闇のように見えている。

「すいません、ちょっと皆さん一緒にあるところに行ってもらっても良いですか?」

「え?」神楽は榊の言葉にまた戸惑った。

「何かわかったのですか?」

「ええ、一応。とりあえず、お父さんは残ってください。」


榊は用意した車に神楽・瀬川母子を乗せると車を走らせた。

神楽は榊が何も言わない為か、車内は沈黙が続いていた。


沈黙から榊が口を開いた。

「神楽、死霊が迷い神になることがあるのか?」


「基本的に有り得ない。死人には何も残らないし宿り先が無い。」

「その答えは過去の経験からか?」

「怨念と呼ばれるものも幻想だったりするものよ」

神楽は榊を見る。榊は神楽の方を見ようとするが、運転中なので動かせない。

ただ、神楽はすぐに視線を戻すが、その表情には疑いが見て取れる。

「形見であってもか?」

「形見や霊の概念は、遺された人の幻想に過ぎないわ。遺品に対して故人を偲ぶ。ただそれだけの為に有るんだから。」

神楽は淡々と答えるが、その回答の口調にはどこかしら苛立ちも感じられる。

「骨董屋で軸移しに使う物も形見ではないのか?」

「その価値は第三者にとってはガラクタにすぎないわ。人の霊がそこに乗り移るなんてこともないし。」

「だったら『アレ』は何なんだろうね。」

「……」

神楽は黙った。


榊は大工町から少し離れた市内の一角のとある家に車を止めた。

「ここは?」瀬川と神楽が榊を見る。

榊は呼び鈴を鳴らした。

「どちら様ですか。」

「先ほど電話しました榊です。お連れしました。」

「少々お待ちください…」

インターホンが切れると、

玄関のドアが開くと中から一人の女性が出てきた。

「榊です。こちらが先ほどお話ししました瀬川さんです。こっちはスタッフの神楽です。」

「ではこちらへどうぞ…。」

女性はか細い声で、中にはいるよう、促す。

4人は家の中へ入った。


暗い廊下を歩いていると少年の動きが変わった。

「あれ?俊君?俊君は……。」


「榊……、これ…」

「神楽」


榊が神楽の質問を遮る。


「『二人』から眼を離すな。」


榊は神楽を見ずに言った。その言葉には厳しさがあった。

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