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神還師【かみかえし】  作者: 秀中道夫
第三章 榊の初陣
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1 神還師という生業(なりわい)


「…つまり、榊君の見えている神様というのは土地神様ってことか。」

「らしいですね。そういう認識はありませんでしたけど」


私は久しぶりに会った榊守さかきまもると東里市内のとある個室居酒屋で飲んでいた。榊は東里とうり横断道路の工事現場で起こった事故の取材を行った仕事終わりで珍しく時間が合ったのである。

この榊という男はあまりしゃべらないというのも記者としてどうかと思うが、そのあたりは「仕事スイッチ」等と榊は言っているがあまり信じない。

そして、『神様』の類が見えるという『神還師かみかえし』なるものが存在するらしく、更に訳のわからない集団に能力を買われているというのだ。


「しかし、その神還師というのは、初めて聴く名前ですな。そんな職業があるとは」

「私も調べてはみたんですが、ほとんど都市伝説のようなものですね。」

榊は注文で来たウイスキーの水割りを飲みながら話していた。多少酔っているのかあらぬ方を見ながらしゃべっている。


「聞いているだけだと、ファンタジーな話ですね、いい意味では」

「悪い意味では?」

すかさず榊がかぶせてくる。

「…頭おかしいんじゃないの?」

「……、言えてますね」


私と榊が会う時は、大概私から話題を振ることが多い。寡黙なのか何を考えているかわからない榊は薄いウイスキーの水割りを飲みながら話を進める。

「聴いていて面白いとは思うんですよね…。普通この手のネタって戦うというのが標準デフォルトで存在して、人間も傷つきながら迷い神を封じ込めるって言うのがパターンでしょ?ところがそうでもない…。」

「といいますと?」

「迷い神も神還師も平穏を望んでいる。平穏を望む彼らの前には無益な争いというのは嫌いで……」

言い回しがくどい榊の話の内容をここに書き表せば相応な尺になる。この本編までくどくなるのは些か嫌なので私自身が聞いた話でまとめると、神還師は交渉という方法で、すべてを丸く収めようとする。もちろん迷い神は不満から生まれたものなので、交渉は骨を折る作業ではあるが、平和に何もなかったように事を収めたいのである。


「そこまでして丸く収めてしまいたい理由ってなんだい?いざとなれば力でねじ伏せるんだろう?」

「いや、そうでもなくてですね、あいつらの場合……、


『ものを壊すと弁償しないといけない。だから交渉で費用を抑えている』


って言っているんですよ。」


ケチなのか貧乏なのかよくわからないが、至極単純明快な理由ではあった。確かに平穏に事を収めたいのなら交渉は必須だと思うが、そういうのは何か特殊な部隊によって瞬時に復旧するとかいうこともないのだろうか?という疑問はぬぐえない。訊けば損傷等の修復並びに保全は神還師の資格管理を行う『審議会』と呼ばれる組織内に一応存在はするが、任意保険的なもので月の定額払い他、物品によって数割負担が発生するとのことだ。その費用も相応に高額で、寺社によって潤沢に檀家・お布施などからうまく支払い、その分『ド派手』に説得を行う例もあれば、費用も乏しく、個別依頼で動くフリーランスではなるべく費用を抑えたい意思が働く。


「昔はかなり暴れたりすることが多かったらしいが、あの寺もそんなに費用があるわけでもなく、さらに最近は騒動が起こればすぐにインターネットに拡散されたりするから大変ですって。」


……訊いていて非常に現実的でもあれば庶民的でもある。そのあたりの話も気になって榊との飲みの後で私自身も調べてみた。この神還師という言葉も半分都市伝説らしいので正しい定義もないが…。


まとめた歴史をひも解くとその存在は古代までさかのぼる。


古代から人は自然や自然現象、物に対して神々しい何かを感じおそれて暮らしていた。俗にいう八百万の神というのも含まれているらしい。古来から神に対して様々な形で語りかけ、聞こえるかもわからない『声』を聴き、その声を民衆に伝え神と共に生活を送っていたという。

しかし神の声は誰にでも聞けるというものではなく、その力を持つ者は稀だったという。

ここまでだと神官やシャーマンといった類の系統とも似ているが、その横で人間が農耕によって決まった場所で生活するようになると、土地がもたらす災いを更に受けやすくなった。この災いは天変地異で片づけられるものの、自己解決できる手段はなく、その土地の神様にご用立てできないかという考えが生まれた。

この辺りは安全祈願祭や地鎮祭といった表現になる。形式的なものではあるが、中には先に話した神の声を聴くことができる稀なもの達によって本物の神様にご用立てを行う所業が始まった。これが神還師のはじまりだということだ。


この考え方は中世あたりまで続いていたらしいのだが、このあたりの資料は眉唾物が多かったため正確なところはない。霊媒れいばいと呼ばれる神還師とは真逆の存在もあるがこれに関しても話すと長くなるので別の機会としよう。


ただし確実に言えるのは現代でもその神還師という組織は形やシステムをかえてひっそりと存在しているということだ。ただ、ほぼ科学万能の現在においてはその存在に関しては異物扱いになるのは、人がその何かを畏れなくなったという点であろう。とはいえ、彼らはその存在を失うことはなく普通に存在して見えていないという状況なのである。更にごく一部の人にはその存在を常に気にしてやまない、というわけで、現在ではこの手の職種にちょうどいいのが寺社関係ということである。もちろん特殊な例であってすべてに当てはまるわけではない。


友人との飲みの後、榊は一人寺町の帰り道を歩いていた。


「あまりお勧めできませんね…」


目の前には銀髪の似合う紳士佐山が立っていた。


「見てたんだろ?やり取りを」

「ええ、とりあえずは。」


榊はそのまま歩いていくと、後ろから佐山がついて歩く。


「あの手の人とつきあう機会があるとは思いませんでした。」

「成り行きだ。それで何かが変わるとは全く思わん。」

「少なからず希望していたのでは?」


「……。」


榊は黙った。


「過去の記憶を思い出したいという気持ちはわかります。ただいつも言っていますが、その記憶は悲惨なものでしかありません。」

「そこまでヤキモキさせておいて思い出すなと言うのは矛盾しているだろうが?」

「まぁ、思い出されることはもう引き留めはしません。でも一つだけ。」


「なんだ?」


「その『傷』にはあまりよろしくはありません。場合によってはかなりショックなことになると思います。」


「それは何なんだ?佐山?」


佐山に対して鋭い視線を向ける。

しかしそこには佐山の姿はなかった。


「相変わらずの秘密主義め…」


榊は玄条寺へ向かった。

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