榊守という男の話
…私の知り合いに榊守という男がいた。
彼とは数年前、東里市のとある発掘現場の調査報告会で一緒になった。
彼は地方テレビ局の記者として取材をしており、私はといえば珍し物好きの野次馬だった。
珍しい名前だと思ったが実際にその名前をニュースで見たかと言われると記憶はなかったが、報告会の後、榊が研究員や考古学の教授とのインタビューをしている際に気になったことがあった。
「今回の出土品の年代推定ですが…、この辺りですと過去の地震や災害の関係から多少のズレと言うのも考慮に入れての推定なのでしょうか?」
あまりに突拍子もない質問に教授や調査員が眉をひそめていたが。
「あくまでも発掘時の推定なので一概に言えません。今後の研究でハッキリすると思います。」
「この今回発見された地層というのは大体千年から四百年前という地層ではないかと思われますが、そこから更に二千年以上前の古い物が見つかるというのはよくあることですか?」
一瞬教授の顔が変わったと思ったが、すぐに落ち着いた顔になった。
「……そのことに関しても、今後の調査になると思いますよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
礼を言った榊の顔は腑に落ちない顔をしていたが、すぐにニコリとして他の人にインタビューを向けた。丁度そこにいた私もその対象となった。
「出土品を見てどう思われましたか?」
少しどぎまぎしたが、「この辺りでも古い物が見つかるというのは少し浪漫がありますね」と返した。
インタビューを終えて「ありがとうございました」と礼をもらうときに訊いてみた。
「さっきの教授に何故あんな事を訊いたのですか?」
榊は逆にインタビューされたことについて驚きもしなかった。
「特に意味はありません。前に別の取材でこの地域の地質についてかじっていたので、…聞かれちゃいましたか」
「そういうことでしたか。何か知っているかのような感じがしたので」
「それはまるで…、当時その場で見ていたかのようですか?」
その記者の突拍子もない返しに、私が今度は驚いた。
「冗談です。失礼しました。では次がありますので…」
榊は取材スタッフと共にその場を離れた。
「面白い人だ…」と言うのが最初のイメージだったが、その榊守という人間が奇妙に感じたのはその数日後、出土品の物質年代測定が榊の言っていた時代にピタリと当たったのである。
最初は単なるまぐれと思ってはいたモノの、その後も狭い街あって、何かことある事に野次馬していると自然と榊に会うことが多くなった。そしてその時ごとに的確な質問をしては否定されても、後日その質問が肯定されるという現象が起こっていた。
『その場で見ていたかのようですか?』
という言葉が常に気になった。そんなある日、私は市内の飲み屋で偶然榊に会うことが出来た。
「ああ、あの時の……」
榊もおぼろげながらに覚えていたらしく、あの後のことは一応ビックリはしていたと言っていた。
とはいえ以降も神がかり的に当てる能力についても私は驚いていると言ったがそれについては、
「そこは秘密です。」
としか言わなかった。私は何としてもその秘密が聞きたいと思い酒を奢ると告げた。
榊はじっと私を見ていると「まぁ、いいか」と言って私は酒を奢ることになった。
少し高めなウイスキーの水割りを一口飲んだ彼は私に静かに言った。
「実はね…、訊いたんですよ。」
「訊いたというのは…、詳しい人に」
「詳しいのは詳しいんですけど……、」
榊は一息置いてからこう言った。
「人ではなくて、神に訊きました」
「神…ですか?」
「はい、神様です」
酔っ払いの戯言を私は告げられたようなので、その話に乗っかってみた。
しかし私は冗談半分に聞いていた榊の話が、どんどん冗談ではなく本当に神様という存在に訊いたと信じざるを得なかった。
「まぁ、そんなわけです。この事は内密にして下さいね。おいしかったです、水割り」
「あの、一つ」
「何か?」
「そこまで喋ろうと…?」
「あなたは約束を必ず守る人なので」
「どうして守ると?」
「それも、訊いたからです。」
榊はニコリとして店を去った。
その後もニュースや飲み屋で見かけては色々と話をしていたが、その後に起こった東日本大震災以降は記者を離れ、局内の別の仕事に従事していると噂で訊いた。
これから書く話は、そんな榊の話を訊いた私が色々と空想を混ぜた話である。
※もちろんここまでのこともかなり空想を混ぜているのでその点はご理解いただきたい。
序章の前章と言う事で、紹介がてらのこの物語の簡単な筋書きみたいなモノを書いてみました。まだあらすじのような内容に至ってはいませんがこの辺りは今後わかってくると思います。もしかしたら変更もあるかもしれません。あしからず。






