新しい友達
春休み中、私は中学の準備をしながら美香と遊んだ。しかし、美香とはそんなにたくさんは遊べなかった。そして、忙しかった春休みは一瞬で終わった。始めての中学生活。私は僅かなさみしさと大きな期待を胸に登校した。たまたま同じ学校に受かった同じ小学校の友達と一緒に行くことになった。大川春と中野麻由だ。二人とは仲は悪くなくむしろ良かった方なので少し安心していた。
「おはようっ。制服似合うねぇ。二人とも。」
待ち合わせ場所に着くなり私は二人に声をかけた。
「ありがとう。でも、楓はあんまり似合ってないね。」
冗談ぽく春が言ったので軽く叩いた。
「なんだよぉ。」
少しふてくされた仕草をしてからみんなで歩き始めた。今頃、美香はどうしているんだろう。そう思いながら笑顔で始めての中学生活の幕開けを喜んだ。そして、校門をくぐり学校に入った。もう、美香はいない。自分一人で友達を作って、楽しい学校生活にするんだ。そう心に誓った。そして、五つあるクラスのC組に私は入った。登校を一緒にした二人とは見事にクラスが分かれた。教室を案内され中に入った。すると、ほとんどの人が席についていた。開けた瞬間とても目立った。なんとなく恥ずかしかった。誰のことも分からない。席に座り周りを見渡すと教室全体が白かった。ここは女子校の為何となくおしとやかな感じがした。しばらくすると担任の先生であろう先生が入ってきた。男の先生の隣に女の先生が入ってきた。
「今日からみなさんの担任をする空橋です。そして、副担任をしてくださる南川先生です。今日から宜しくお願いします。」
男の先生が挨拶をした。年齢は30代後半ぐらいだろうか、とても優しそうな先生だ。すこし安心した。新しい学校生活の幕開け、入学式に私は向かった。入学式は盛大につまらなかった。それをふと美香に言おうとして周りを見渡した。そこではっとした。美香はもういない。さっきまで決心していたのに急にさみしさが勝ってきた。そのあとの事はあまり覚えていない。はやく、はやく学校が終わって欲しかった。やっと帰れる時間になり肩の力が一気に抜けた。二人を見つけ、一緒に短い帰り道を帰った。近所の私立だったので本当に楽なのだ。家に着くなり美香にメールを送った。
ー今日の入学式ちょーつまんなかった。なんか、この先ちょっと不安だよ。美香はどんな感じだった?ー
メールを打ちおわり送信するとすぐに返事が帰ってきた。
ーそうだったんだぁ。頑張れぇ。こっちはね、小学校の頃同じだった人が3分の1くらいで後は知らない人達ばっかだったよ。でもね、なんか知ってる顔がいたからそんなに緊張もしなかったよ。ー
文章をみて美香が少し羨ましかった。こんなの本末転倒な話だ。私立に行きたくて受験したのに公立に行った美香の事ばかり羨ましく思うなんておかしいと思った。とにかくメールを美香に返信しようと思いメールを打った。
ーふぅん。そっか。お互い頑張って行こうね。明日は何があるの。ー
そして、私と美香は一日中メールのやりとりをした。まだまだ、美香から離れて学校生活をおくって行くのは厳しそうだ。私は入学式から毎日美香にメールを送った。美香はメールの返信がいつも早かった。小学校の頃からメールの返信は異常に早かった美香だったから知っていることなのに、返信が早かったことに私はとても救われていた。新しい友達がなかなかできず、シャイな性格から余計にできなかった私は美香とのメールで心を落ち着けていた。そんなある日、美香からこんなメールが来た。
ー楓。早くお友達作りなさい。こっちが心配になってきたよ。うちはもうかなりの新しい友達ができたよ。ー
少し悲しかった。美香は新しい友達を作って私の事を忘れてしまうのではないかと不安になった。でも、美香が私の事を心配してくれているのはよくわかった。このままじゃダメだ。とにかく誰かに話しかけよう。そう思った。
ーうーん。そうだよね。じゃあ明日頑張って新しい友達に話かけてくる。明日報告するね。ー
送信すると一瞬でまた返信がきた。
ーうん。頑張れ。楽しみに待ってる。ー
次の日学校に行き座席表を見つめた。誰に話しかけようと考えたのだ。そして、二つ後ろの席の人に声を掛けることにした。一つ後ろの人はなんとなく怖そうで話しかけにくかった。
「あの、神川楓っていいます。名前、聞いてもいいですか。」
恥ずかしくて顔が赤くなっているのが自分でも分かった。
「斎藤瀬里奈だよ。宜しく。」
その日瀬里奈にメールアドレスを教えてもらい私はすぐに家に帰ってメールを送った。そしてそのことを美香にもメールを送った。すると先に美香からメールがきた。
ーおっ。頑張ったじゃん。えらいえらい。その子と友達になんな。ー
その言葉に一瞬心にチクりと何かが刺さった。このまま友達になっていけば、美香とはどんどん離れて行ってしまうだろう。綺麗事はいくらでも言える。そんなことないよ、とは。でも、実際はそうはならないと私も子どもじゃないから分かっている。でも、今のまま学校に友達がいない状態で過ごすのは辛い。もう、美香とは学校が違うんだ。そんな思いに無理やり自分をした。
ーうん。ありがとう。美香も友達もっとたくさん作ってね。ー
メールを返信した後、僅かな涙がこぼれた。卒業式では耐えられた涙が今は耐えられなかった。すぐに涙を拭いて息を吐き出した。
「自分の道をもう進んでいるんだから、我慢しなきゃ。」
自分に言い聞かせるように言った。その声は、部屋に吸い込まれ聞こえなくなったが私の心にはしっかり染み込んだ。しばらくして、瀬里奈からメールが届いた。
ーこちらこそよろしく。ねぇ、明日から一緒にご飯食べようよ。一人じゃ味気ないし。ー
ーうん。いいよ。明日からが楽しみだよ。ー
そう返信した時私の心はワクワクしていた。新しい友達。どんな子かもわからないけど、仲良くやっていけそうな気がした。次の日から私と瀬里奈は仲良くなって親友になっていった。そうして、私は瀬里奈の事を少しずつ知っていった。瀬里奈は少し美香に似ていた。受験を経験しているから、美香ほど先生に反抗はしないがクラスの中ではかなり反抗心が強い方だ。私は、性格が逆の人と仲良くなるのかもしれない。そう思った。美香にしても瀬里奈にしてもそうだった。瀬里奈に聞いた私の第一印象は不良だろうと思っただった。私が小学校の頃の話をするととても驚いたように目を見開いた。
「絶対不良だと思った。だって髪型が明らかに不良ですって感じじゃん。」
「そんなことないもん。すんごい真面目に生きてましたぁ。」
まぁ、心当たりはあるのは間違いではない。美香と一緒にいたのが一番の理由だろう。やはり、人は周りの環境に左右されるんだなと思った。
「そういえば、楓は部活なに入るの?私は決めてないんだけど。」
「もちろん硬式テニスだよっ。だって、テニス大好きだもん。」
笑顔で答えるとそりゃそうか、聞いたのが間違いだったと瀬里奈は言った。
「そうだよ。」
その時、ふと心から自分が笑っているのに気がついた。あぁ。これでやっと卒業できたかな。私は瀬里奈に微笑んだ。
「なにその急なにやけ顔。」
瀬里奈が言うのに
「なんでもないよぉ。」
となんとなく返した。そうして、ふと見た目の先に一人ぽつんと座っている女の子が見えた。なんとなく座席表を見て名前を確認した。香川咲。そう書いてあった。
「どうしたの。あの子が気になるの。」
瀬里奈が今度は不思議そうに聞いてきた。
「うん。あの子、一人なのかな。」
「さぁ。わかんない。」
てきとうに帰ってきた返事にまたてきとうに返事をしてその話題は終わった。そして、その一目だけ見た香川咲とはこれから長い長い付き合いになっていくのなんて私は想像もしていなかった。