更に乙女ゲームに巻き込まれたらしい。
この小説は「乙女ゲームに巻き込まれたらしい」の続編となっています。
前略 過去のあたしへ
何故、あたしはこのような場所にいるのでしょうか。
私立春風東高等学校東校舎2階、生徒会室にて私こと蘭兎はただいま捕獲されています。
「蘭、お茶」
人の名前を勝手に短縮させた挙げ句、お茶をせがんでいるのはメンズィの専属モデルこと緑河 蓮である。
「なんのお茶がいいですか?雑巾色のお茶とマグマのように赤いお茶……あとは澄み切った空のように青いお茶もありますよ」
まあ、あんたに入れる茶なんぞ雑巾入りの茶で十分だがな。
にっこり笑って返せば緑河 蓮も多少引きつってはいるが笑って返してくる。
笑顔がなってないなー、専属モデルさんなのに。
二人で笑いあっていると、ガチャリと重そうな生徒会室のドアが開いた。
ドアの方を見ると、私達のような邪悪の笑みではなく聖人君子のような柔らかい笑みを浮かべた白銀 理人がそれはまた優雅に部屋に入り、その後ろからは木野 桃花があたしの幼馴染みである三橋 黄平と無駄にでかい佐野 隆青に囲まれるかのように付いてきていた。
「お待たせ。二人ともそんなに仲良くなって羨ましいな」
朗らかに笑ったまま白銀 理人はゆっくりと会長の席へと座る。
前から思ってはいたけど白銀 理人の感性はネジが抜け落ちて不安定なんじゃなかろうか。
そんなことを思いながら白銀 理人を見ているとその視線に気づいたのかこちらを見てきた。そしてにっこりと微笑む。
「蘭兎ちゃん、俺マグマのように赤いお茶飲んでみたいな」
……うん。
この人の頭のネジは元からなかったのかもしれない。
というか、その話聞いてたのか。
「おい、蘭!りーにそんなもん飲ましたら太陽拝めなくしてやるからな」
「飲ませんよ。飲ますとしたら緑河先輩か黄平のどちらかですよ」
「おい、なんで俺まで入ってんだよ!」
桃花ちゃんの隣にいた黄平がこちらを睨んでくる。
いや、だってねー。
あんな笑顔で欲しいと言われても困るし、佐野先輩も無害だから別に飲ませたくないし、桃花ちゃんはマイエンジェルだから論外だし。
飲ますといったら緑河先輩と黄平くらいしかいないでしょ。
言わなくともわかるでしょうに。
「あははー、何ででしょうねー」
怒る黄平を適当に誤魔化して扉の方に目を向ける。そこには佐野先輩の背中から少し顔を覗かせ、こちらを窺う桃花ちゃんがいた。
今日はふわふわとした髪を下の方で二つ結んでおり、髪を結ぶヘアゴムには小さなお花がついている。可愛らしい雰囲気が桃花ちゃんにとても似合っていた。
うん。流石マイエンジェル。
そこに白いフリルのワンピースと花冠があれば妖精として捕まえられてしまいそうなくらい可愛い!
「こんにちは桃花ちゃん」
今朝、クラスでも会ったけどその時は話せなかったからね。
「こ、こんにちは蘭兎ちゃん!」
「ーーっ、」
顔を少し赤らめ近づく桃花ちゃんを抱きしめなかった私を誰か褒めてほしい。
桃花ちゃんが可愛すぎて身悶えてしまうし、思わず手が出そうになる。
理性よ、よくぞ耐えた。
「蘭兎、桃花が怖がるだろ」
これでも我慢して最良を尽くしたというのに黄平が呆れたようにこちらをみて、そして一つため息をついた。
まあ、手を力一杯握り歯を食いしばっていれば、そうも言われるか。
いけない、いけない。これから関わっていくなかで怖がらせてしまったら愛でることが出来なくなっちゃうじゃんか。
「蘭、早くお茶」
そんなことを考えていると空気が読めない自己中男こと緑河蓮がこちらを睨んできた。
「よくそれで女の子のファンなくしませんね」
「まあ、ケバいだけのお前よりは表の俺は愛想もいいからな」
椅子にふんぞりかえり机を小さく叩く。
きっとお茶の催促の態度なんだろうけど……。
「子供じゃないんだから机叩くのやめてもらえませんか」
大体、表の俺って……。そのクソガキのようなその裏の顔を知ったときに傷付くのは乙女なんだぞ。
まあ、それを慰めて横取り出来るならこちらとしては万々歳だけ……ど。
……こんな腐った考えしか出来ない自分が悲しいわ。
特に緑河蓮といるとこんなのばっかだし。
「……ああ、そうか緑河。貴様が元凶か」
わかった。私が駄目になったのはこのダメ人間のせいだ。
「はあ?いきなり何を言うかと思えば呼び捨ての上に悪口とか何様だよ!」
「蘭兎様じゃ、ばーか!」
あー、思えばこのダメ人間が私を巻き込みやがったんだ。
「なっ、お前馬鹿って先輩に使っていい言葉かよ!つーか、蘭兎様ってダサいな」
「本当に仲がいいね、……羨ましいな」
緑河 蓮はギャンギャンうるさいし、白銀 理人はわけわからないこと言っているし、ここの生徒会は本当に生徒を引っ張っていけてるわけ?
「とにかく!私は生徒会に関わりたくないんです」
そう。生徒会と関わらなければ女の子に睨まれることはなくなるし、あばよくはお友達スタートを切れるかもしれないのになんで男だらけの生徒会に居なくちゃいけないのだ。
「……蘭兎ちゃん」
白銀 理人が寂しそうにこちらを見てくるが私には関係ないこと。
大体女の子がやったなら可愛いが男がやったところで、こちとら気持ち悪さしか湧かないんだよ。
私がそのまま顔を背けると小さなため息が聞こえた。
「なら、しょうがないね」
白銀 理人はくつりと喉の奥で笑うとゆっくりと私に近づいてきた。
その笑顔はいつもみる聖人君子が浮かべるような笑みではなくて肉食獣が獲物を囲んでいく時のような邪悪な笑みに見えた。
「白銀先輩?」
後ずさる私の腕を掴み、白銀理人はその辺にあったパイプ椅子に私を座らせる。
「本当は普通にここにいて欲しかったんだけどね」
捕らえられた私は助けを求めて部屋を見渡したが、哀れとでも言うような視線をこちらに向ける男どもと、この雰囲気に怖がり出した桃花ちゃんが涙を浮かべながらこちらを見ているだけだった。
「それを拒否するなら少々荒てになっても仕方ないよね」
「いや……、それはどうかと思いますよ」
最早逃げ道などないが、ここで折れたら高校3年間を生徒会で過ごさなくてはならなくなってしまう。
それは避けたい。絶対に避けたい。桃花ちゃんの傍には居たいが生徒会とは別に関わりたくないし。
「うーん、でももう生徒会から逃げられないのは決定事項だから」
全然考える素振りも見せない白銀理人に私は若干引きつりながらも笑みをかえす。
「白銀先輩?私は言葉が理解出来ないのですが決定事項とは何ですか。別に私は生徒会とは無関係なはずですが」
「ああ、黄平はまだ伝えてなかったんだね」
眉を寄せて後ずさる私に白銀 理人は一人納得したように手を叩いた。
黄平は黙ったまま私の視界から外れ、そして黄平の代わりに私の視界一面にうつったのは白銀 理人だった。
「ごめんね蘭兎ちゃん。君は僕の権限で生徒会に入ったんだよ。元から人数がギリギリだったし、蓮はモデルの仕事があると集まれないからね。蘭兎ちゃんと桃花ちゃんには補佐として加わってもらったんだ」
白銀 理人は胸ポケットから一枚折り込まれた紙を出すとゆっくりと開いて私へと見せてきた。
そこに書かれていたのは生徒会会長 白銀 理人の推薦により私と桃花ちゃんを補佐へ認定する。と書いてあり、終わりには校長の印鑑が押されていた。
「なんで……」
こんなものが許可降りたのか。
大体にして本人の意見が全然入って無いじゃない。
納得いかない私は白銀理人を睨んだがいつもの笑みを返されるだけだった。
「ああ、言い忘れてた。月、水、金曜日は生徒会会議があるから4時にはここに集合してね。何か用事があるなら連絡して……もしサボったら、お仕置きだから」
にこにこといつものように笑う白銀理人に私は諦め、肩を落とす。
「……はい」
こうして私は完璧に巻き込まれることになったのだった。
前回感想を下さっためのち様、青 雪音様
そして、お気に入りに登録して下さった方、本当にありがとうございます。
遅くなってしまいましたが、続編が出来たので楽しんでいただけたら光栄です。