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八話

少し長かったので二つにわけました。

ドラゴンの住まう部屋は王城と別にあるらしい。

昨日の夜通ってきた道をそのまま逆に辿り外に出ると、同じように森に辿りついた。昨日の夜とは全く違う景色に見えて、本当にここを通ってきたのかと少しだけ疑ってしまう。

けれど小さな湖や、硬くなった大地。小さな山や、その向こうに広がる森が真実だと告げていた。王都の、しかも王城の中だというのに森の中と同じように空気がおいしいし、緊張を幾ばくかほぐしてくれる。自然にできた場所ではなく、人工で作られたものだとしても、耳を澄ませば鳥のさえずりや、風が緩やかに吹く音が聴こえた。


「ウィン、こっちよ」


手招きをするアリエに続いて、山のある方向へ進んでいく。あと数メートルで山に到達するというところで、ピリと電気が走るような感覚がすると同時に強い風が吹き荒れる。目を開けることができなくてを瞑ってしまうが、すぐに風はやんだ。なんだったのだろうと思い、目を開けると不思議なことが起こっていた。先程まで見えなかった建物がいきなり目の前に現れたのだ。


「……え?」


「びっくりしたでしょ?」


口をぱくぱくしながらアリエを見ると、アリエはいたずらが成功したかのようにくすくす笑っていた。


「ドラゴンって魔法を使えるでしょ? これは風の魔法を使って目を錯覚してるんですって」


「ドラゴンってこんなことも出来るんだ……」


怖いという思いは全く出てこず、興味や感嘆といったものが心の大半を占める。自分には到底できないことだからなのか、憧れの気持ちさえでてきた。

城の半分ほどの大きさしかないが、それでも大きいことには変わりない。ドラゴンの存在が重要だということを現しているのだろう。

しばらく眺めていると、肩をふいに叩かれた。アリエだと思い、振り返ってみるとそこには見知らぬ男性と昨夜の失礼な男が立っていた。ウェーブの少しかかった栗色の髪に引き込まれそうになるくらい綺麗な緑色の瞳。その瞳は少し吊り上っていて、見かけではトウィンカよりも年上なのは明らかなのに、少し子どもっぽさを感じさせる。失礼な男は無視することを心の中で決定し、その男性に問いかけてみた。


「あの、どうかなさいましたか?」


服装はラフな格好であるに関わらず、質がいいことはわかる。この国の貴族か何かなのかもしれない。

男性は振り返ったトウィンカを自分が肩を叩いたのにも関わらずトウィンカの顔をみて驚いていた。髪と目の色に驚いているのかと思ったがそうではないらしい。怯えた表情ではなく、純粋に驚いているからだ。


「あの……?」


「あ、いや。あまりにも知っている人に似ていたから」


「そうなんですか」


「うん。まあ違うのはわかってるんだけどね」


そういう男性の瞳はどこか悲しみをおびていた。


「えと……」


何を言ったらいいのかわからず、男性の顔を見ていると男性はくすくと笑いだした。


「君は人の顔をじっと眺めるのが好きなのかな」


「……はい!?」


瞳はもう悲しみをおびてはおらず、いつの間にかいたずらな光を放っていた。


「うん、君はやっぱり彼女とは違う。俺はアル。君は?」


「トウィンカ・ミルキークォーツ」


しまいには声を上げて笑う男性にむっとするが、どうもこの表情は目の前にいる男性、アルには逆効果らしい。嬉しそうに目を細めている。


(絶対こいついたずらっ子だわ、そうに違いない!)


トウィンカは勝手に心の中でそう断言した。


「君って本当からかいがいがあって楽しいよ」


腕を頷きながらわざとらしくうんうんと頷いている。


「ちょっと、あんたねぇ……」


もはや敬語を使う気にもなれずに、呆れていると、アルはトウィンカの少し後ろにいたアリエと自分の後ろにいる失礼な男を呼び寄せる。アリエはどこか緊張をしているのか行動が少しぎこちなかった。反対に失礼な男はそこに自分がいるのが当たり前、とでもいうように堂々とした立ち振る舞いをしている。


「さて、ここで会ったのも何かの縁。トウィンカ、君は昨日からここに配属された子なんだよね?」


「そうだけど?」


「そっか、じゃあこれからよろしく! 俺はドラゴンじゃないけどここに来ることが多いからさ」


「ええと、はい」


ドラゴンではないのに、ここによくいるという意味がいまいちわからなかったがとりあえず頷いておく。しかしその態度がお気に召さなかったのか、口をとがらせ、すねていた。アルの吐息がトウィンカにかかるくらい近寄ってくると頬を両手でがっしりと持たれる。いきなりのことに混乱し、アルの胸を空いている手で押しのけようとするが、びくともしなかった。アルは口角を上げ、目を細めるとトウィンカの耳元に唇を寄せる。


「よろしくしくれないと、その可愛い唇にキスしちゃうよ?」


(これは、悪戯だ、これは悪戯だ)


何よりの証拠がアルの表情である。しかしそうは思っていても、異性とここまで近く顔を寄せたのは初めてで、分かってはいても、頬が赤くなっていくのを感じた。


「可愛いやつ」


「うるさいっ」


話さなければ、見目麗しく、王子に見えるだろう。しかし口を開けば、いたずらっ子な本性が出て来る。詐欺だ、と思いながらトウィンカは手にもっと力をこめた。


「おっと危ないなぁ」


顔の拘束は先程の抵抗が空しくなるほどあっさりと離れ、アルは手を上げていた。初対面でここまで人をからかえるアルはある意味天才だ。

赤くなった頬を両手で包みこみ、アルを睨む。しかし効果は全くなく、逆ににこりとされてしまった。アルは手を差出し、トウィンカに手を差し出すように仕向ける。

トウィンカは竜騎士メイドで、アルはどこかの貴族に間違いないだろう。立場からして、敬語の件はおいておいたとしても、アルに恥をかかす訳にはいかない。ここにはアリエや失礼な男性もいるのだから。

トウィンカは頬に当てていた手を外しアルの手に重ねた。


「これからよろしくね」


「よろしく、です」

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