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七話

「……ィン。ウィン、起きてったら」


「んー、まだ眠い……」


誰かがトウィンカを呼ぶ声が聞こえる。しかしまどろみの中にいるトウィンカにとっては騒音でしかなかった。布団を頭までかぶり、音を遮断する。


(よし、これでゆっくりと眠れる……)


もう一眠り、とゆっくり息をはく。暖かい布団が眠気を誘う、はずだった。

ばさり、という音とともに布団の重みがなくなる。部屋の中はどういう仕組みなのかちょうどいい温度だが、いきなりのことに目がぱっちりと開いてしまった。


「ウィン、ようやく起きた」


「あれ、アリエ」


「おはよう」


「あ、うん。おはよう」


なぜここにアリエがいるのだろう、と首を傾げているとアリエは困ったように眉をよせて苦笑していた。


「今日から働くんでしょ?」


「あっ!」


窓から外を見ると、太陽はすでに昇っており、雲一つない晴天が広がっていた。


「ほら、早くこれに着替えて。お仕事にいきましょう?」


「うん」


トウィンカはアリエから差し出されたメイド服に急いで袖を通した。

ドアの外で待ってくれているアリエのためにも手早く身支度をすませ、部屋にあった化粧台の鏡を覗き込む。

白の長い髪を邪魔にならないよう高い位置で結び、爪のマニキュアがはがれていないかの確認する。身にまとうメイド服はスカートなのに動きやすく、藍色を基調とした可愛らしいデザインでこれからこの服をきて仕事なのかと思うと少しわくわくする。唯一、この髪と目で何か言われるかもしれないと思ったが、これはトウィンカの自慢の髪と目だと思い直す。アリアやアリエが綺麗だといってくれた白髪に、顔は知らないが父親譲りの赤い目。ここで隠そうとするものなら、そう言ってくれた人たちに失礼な気がした。


「よし、大丈夫!」


柔らかな絨毯の上を用意された新しい靴で踏み歩く。

ドアを開ければ、同じ服を着たアリエが笑顔で待っていた。


「うん、やっぱりメイド服に白い髪が映えていてとっても可愛い!」


「ありがとう」


真正面から可愛いと言われ、頬が少し熱くなる。


「じゃあ仕事に向かいましょう」


「はい。よろしくお願いします、先輩っ?」


敬礼をしながら冗談まじりに言うと、アリエも敬礼を笑いながら返してくれた。

メイドの仕事はトウィンカが思っていたより大変なものではなかった。


「それだけでいいの?」


それしか言葉が出てこない。


「でも、本当よ? 竜騎士のメイドはメイドの中でも特別なの」


「特別?」


「そう、メイドであってメイドでないってことかしらね?」


理解不能な言葉に首を傾げていると言葉を柔らかくして教えてくれた。


「この王城には王族メイドと竜騎士メイドとおおまかにメイドは二つに別れているの。王族メイドは多岐に渡って、洗濯や掃除など様々な仕事をするわ。竜騎士メイドはドラゴンのみんなに頼まれたこと以外やらなくていい決まりになっているのよ」


「どうして?」


「ドラゴンは条約によってここに棲んでもらっている。要はお客様みたいなものね。だからメイドはつける。けれど彼らは自分らのことは自分でやる、という習慣や部屋に信用したものしか入れないから」


「そういうこと」


ドラゴンは昔も今も大多数が自然の中で暮らしている。人に何かをされるということや、自分のテリトリーに知らない誰かを入れるということが嫌なのだろう。本来警戒心のとても強い種族だというドラゴン。王都に棲んでいるということ自体が奇跡に近いのだ。


「だから私たちは、自分の身の回りをきちんとして、たまに頼まれることをこなせばいいの」


「あれ? でもそれだと人は足りてるんじゃない?」


「それがそうでもないの。今年、三人も色々な所用でやめてしまって。今いる人数ではいざというときに困るのよ。同時に頼まれごとした場合とか」


「ふうん」


「ちなみに今何人か知ってる?」


「……十人くらい?」


仕事が少ない上に、竜騎士は二十七人しかいない。けれど。仕事が少ないといっても頼まれごとのほかに、やはり竜騎士の建物の掃除も最低限やらなくてはならいないだろう。

予想した人数を口にするとアリエにぶっぶーと言われてしまった。


「正解はウィン含めて三人よ」


「少なっ」


「でしょ? 五人でも、たまに忙しかったのに、二人になったときはどうしようかと思ったわよ。竜騎士メイドは確かに見目麗しい彼らによく会えるから希望は立たないわ。でも、その中の人から選ぶことはまずないの」


アリエは眉を寄せて表情を暗くさせる。トウィンカはその姿と先程の話を思い返してみて察した。


「もしかして、部屋に勝手に入ったり、とか?」


暑いわけでもないのに、汗が背中を伝う。

アリエはそれに頷いてみせた。

それは自殺行為に等しい。相手がドラゴンなだけであって、武器も何も持たずに野生の肉食獣のテリトリーに入っていくようなものだ。


「もちろん彼らは殺しはしなかったわ。野生の獣と違って、一応理性あるもの」


一応、という言葉に多少ひっかかりはするがトウィンカは素直に頷いておいた。


「とりあえず彼らの使っている部屋まで案内するわね。そこを知らないと話にならないし」


さあ、いきますか、と重い空気を振り払うように明るく笑うアリエに合わせてトウィンカも笑顔で頷いた。

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