一話
区切りのいいところで分けて投稿していきますので、一話一話の文章量はバラバラです。
平和を愛するナウラル国の王都ロビリィから森を挟んだところに、ひっそりと存在する名前なき集落がある。その住人たちが暮らすところより少し離れた場所にある小さな家で、トウィンカは朝からお腹を盛大に鳴らせていた。
「お腹がすいた……」
質素ではあるが、動きやすい薄いピンクのワンピースを身につけ、机に伏せていた。
「この机食べれるかなあ」
人間、極限までお腹がすくと食べられないと思っているものでも、不思議と美味しそうに見えてくる。ためしに、机の端をかじってみた。
「硬い、まずい」
木でできているから当たり前なのだが、こんなことをしている自分が空しくなってくる。
「雨の変わりに食べ物がふってこればいいのに。パン、魚、肉……あぁ、考えてただけでもよだれが」
トウィンカは口からたれてくるよだれを袖でふきながら、最後に食べたのはいつかと思い出す。
「たしか、二日前にスープを飲んだっけ」
アリアが息を引き取ってから、一カ月。最初はアリアが残していった少しのお金があったのだが、それはすぐに底をついてしまった。
村で働くことも考え、雇ってもらえないかと頼みにいくが門前払い。村の人たちはアリアを恐れているから、この反応は予想していたことだった。
しかし、働き口がなければ、お金が稼げず、食べ物が買えなくなるのは時間の問題だった。
「はぁー、本当にどうしよう。このままじゃお母さんにすぐに会いにいけちゃうよ」
それは全力で避けたい。会ったら、笑顔で説教を何時間もされそうで怖い。
窓から外を見てみると、鳥たちが楽しそうに空を飛んでいた。近くにある森から木々の葉が風で揺れている。
「鳥、美味しそう。森は……あ!」
森、という単語を頭で反復していると、ある良い考えに辿りついた。
「そうじゃない。買えないなら、自分でとってこればいいのよ」
幸い森は自然豊かで、動物が棲んでいると聞いたことがある。
「よし、そう思えば行動あるのみ。なんか武器になるものは……」
家の中をごそごそと探し、古びたナイフとフライパンを見つけるとさっそく森へ向かった。もちろん、調味料も忘れずにポケットにつっこんで。