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十二話

一つ一つが可愛らしく、食べやすい大きさのせいか、サンドウィッチが瞬く間に無くなる。お腹が膨れたところで、紅茶を飲みながら昼からの仕事の話に入った。


「昼からは少し買いだしに行ってくれるかしら?」


そう言いだしたのはフラリスで、メイド服のポケットからお金の入った袋を取り出す。


「え、でも、お昼からも玄関の掃除しないと」


アリエが不思議そうな表情でフラリスを見ると、フラリスはその袋をアリエの手に握らせた。そしてトウィンカを一瞥すると、視線をアリエへ戻す。


「二階は昨日から掃除してたから、もう全部終わったのよ。あとは玄関だけだし私がやっておくから」


「フラリス一人じゃ……」


「あ、もちろん今日一日で終わらないから明日は三人でやるわよ」


今度はアリエからトウィンカに視線を移してにっこりとほほ笑む。アリエから手を放すと、イスから立ち上がって正面に座っていたトウィンカの元まで歩いてくる。つられるようにトウィンカも立ち上がると、トウィンカの両手を温かいその手で包み込んでくれた。


「トウィンカ、この街は初めてなんでしょう? ちゃんと街のこと覚えないと、一人で街に行くとき迷って大変よ。だから、いってらっしゃい」


まるで買い物をお願いする母のように、その声は柔らかくて、優しくて。集落にいたときは、母以外トウィンカに優しく接する人はいなかった。でもここは違う。今まで会った人たちはトウィンカの髪や目の色を気にして避ける人はいなくて。ちゃんとトウィンカ自身を見て、普通の人たちと同じように会話をしてくれる。

涙もろいわけではない。けれど目が熱くなって、視界が滲んでいくのがわかった。

アリエに出会ってから嬉しいことが起こりすぎて泣いてばかりだ。


「ウィン? ちょっと、どうしたのよ!?」


アリエの慌てた声が耳に入る。慌てて立ち上がったのか、イスが床に倒れる音が響く。滲んだ視界には、アリエが心配そうに覗き込む姿が映った。

涙となって零れる前に、手でそれを拭い取り笑って見せる。


「ううん、なんでもないの。ちょっと目にゴミが入っちゃって。フラリス、ありがとうございます!」


「お礼を言われることは何もしてないわよ。私は仕事として買い出しを頼んでいるだけだから。ほら、早くしないと日がくれちゃうわよ?」


「はい! アリエ、行こう!」


「え、あ、うん!」


アリエの腕を引っ張って扉の方へ向かう。フラリスにいってきますと言いながら振り返れば、フラリスは手を振ってくれた。

竜騎士の建物の外に出て、昨日通った道をゆっくりと歩いていく。

森の中を歩いているような気分になりながら、アリエとたわいもない話をしながら進んでいけば、すぐに大きな門の前にたどり着いた。

竜騎士メイドの服は通行証のような役割をはたしているのか、すんなりと通ることができた。昨日はアリエが何か手続きをしていたが、今回はしなくてもいいらしい。

街に出ると、夜に見たときとは違う光景に感嘆の声をもらす。

人々が行き交い、活気づいた通りにいくつもの店が並んでいる。声を出しながら客を集める姿はいきいきとしていて、見ているだけで元気をもらっている感じがした。


「こんなに人がいて、賑わっているところを見るなんてはじめてよ!」


「そっか。でも、ロビリィはこれが当たり前なのよ。なれてくると反対に人がいない自然豊かなところが恋しくなっちゃうくらい」


ロビリィにとっては当たり前なことでも、トウィンカにとっては初めてでどこを見ても胸がドキドキするばかりだ。自然と笑顔になる光景に足を止めていると、アリエがトウィンカの手をとって歩き出す。


「立ち止まってないで、行くわよ? 買い出しなんだから」


「ちなみに何を買うの?」


「ちょっと待って、っと」


アリエはフラリスから預かったお金の入った袋を取り出し、その中から紙を取り出した。


「んーと、竜騎士に頼まれた本が数冊と手荒れに効くハンドクリームだって。ハンドクリームってこれ、フラリスがいつも使ってるやつじゃない」


覗き込めば、本のタイトルとハンドクリームと書いてある横に数が三つと書いてある。


「私たちの分もってこと?」


「多分ね。フラリスらしいわ」


「フラリスって本当優しいよね。今日初めて会ったけど、なんかお姉さんって感じがする」


「あ、私もそう思っていたの。ああいう女性になりたいってつくづく思うわ」


「確かに」


「ま、ウィンには無理だと思うけれど」


意地の悪い笑みとともに返ってきた言葉に頬を膨らませれば、それを指でつつかれる。


「なんでよ」


「フラリスはそうやって子供っぽくすねたりしないから」


「うっ……」


「……ふふ」


「あはは、そうかも」


トウィンカたちはお互いの顔を見るなり笑いあった。

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